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そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。(取材/文=石原行雄)




<第三章② 最期の晩餐>


■ジャンキーらしく自殺するんだ


 もう死ぬしかない。

 でも、今度は気持ち良く死にたいと思った。

 あたしはサービスエリアを出た。しばらく走って、高速バスの停留所のある、高速道路の路肩にクルマを停めた。

「ここなら人目がないから、安心してできる」

 そう思って、ボストンバッグの底の方から、パケと注射器を取り出した。

 持ち出した覚醒剤を注射するつもりだった。

 ありったけの覚醒剤を射って、過剰摂取で死のうと思った。そうすれば、いい気持ちで死ねると思った。

 最期の晩餐だ。

 サービスエリアで買ったミネラルウォーターで結晶を溶いた。
 いつもより少し濃いめの水溶液を大量に作り、シリンダーに吸い上げ、針を静脈に刺し、ピストンを押し込んだ。

 スーッと涼しいような感覚が背筋を駆け抜け、それを追いかけるように全身にぞわぞわと快感が広がった。シャブの快感に弾かれたように、怠さや寒気、悲しさや絶望感といった、ついさっきまであたしを苛んでいたものがきれいに吹き飛んだ。

 こんなに酷いときでも、射った分だけちゃんとあたしを気持ち良くしてくれる。

 シャブだけはあたしを裏切らない。

 覚醒剤の快感に浸りながら、あたしはそう感じた。
 身も心も、完全に覚醒剤の虜になっていた証拠だ。

 快感の波がピークを過ぎると、効果はまだ続いているのに、すぐに次の一発を射った。鼓動が胸苦しいほどに高まり、汗が吹き出した。

 運転席の背もたれを倒し、そこに寝転ぶようにして、続けざまに三発目を注射した。心臓の筋肉が破けるかと思うほど強く脈動していた。

 このまま心臓がおかしくなって死ぬんだ。

 激しい動悸を左胸やノドやこめかみで感じながら、死を思った。

 覚醒剤のもたらす目眩と快感に包まれたまま、倒したシートの上で目を閉じた。





 でも、あたしは目を覚ました。

 またしても、あたしは死にきれなかった。

 目を開いた先のフロントガラスから、これでもかというほど日の光が降り注いでいて、ものすごく眩しくて目をしばたきながら呆然としていた。

 外が騒がしかった。
 それで目を覚ましたのだろう。

 眩しさに目が馴れてくると、数人の男がクルマを取り囲んでいるのが見えた。

 リクライニングしたシートの上で上半身を起こすと、すぐそばにも顔があって驚いた。

 中年の男がサイドウインドウに顔を張りつけるようにして、なにかをわめいていた。

 紺色だか黒だかのナイロンジャンパーを羽織った中年男が、口をぱくぱくと動かしながら、ガラス窓を拳でコツコツと叩いていた。


(つづく)

取材/文=石原行雄
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/



オーバードーズで死ねるならそれも私らしいだろう...
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