そのラーメン店は開店と同時に長蛇の列が出来る。やっと順番が来る。高まる動悸を鎮め、男は財布から小銭を取り出し、券売機へ投入する。背後から無言の圧を感じながら。乾いた音が響き、釣り銭の受け口へ次々と小銭が吐き出される。
全部、一円玉だった。
焦って財布の小銭入れを確認する。一円玉しか入っていない。男は踵を返し、逃げるように走り去った…
ーそんな夢で男は目を覚ました。どんよりした曇り空、開け放った窓から風が吹き抜けた。Tシャツ一枚では肌寒かった。勿論、隣りに知らない女は寝ていなかった。人肌よりも、無性にラーメンが恋しかった。
鳥栖市真木町、通称5号線沿い「一味ラーメン 鳥栖店」さんへ辿り着いたのは午後15時過ぎ、行列は出来ていないし、ここには券売機も存在しない。財布に札が入っていることも確認した。これは夢ではない。現実なのだ。
暖簾をくぐり、入り口の扉を左にスライドさせ入店する。その時点で、既に注文は決めていた。
メニュー表を見たのは単に値段を確認しただけだ。
「もやしラーメン520円」、それが男の選択だった。チャーシュー入りませんけど大丈夫ですか?との店員氏の言葉に少なからぬ動揺を覚えたものの、初期衝動を貫いた。
短く、太い。田舎足風のもやしがキュートだ。それに葱と赤い薬味、地味だが清楚だ。場末のブロンド女とは大違いだ。
スープは塩気が強いが、飲み口はあっさりしており十分飲み干せる。薬味を溶かしていくと、丁度良いピリ辛スープになり、味に飽きない。
半替玉80円を追加注文した。麺は極細だ。ベビースターラーメンみたいだ。
金を支払い、出口から店を後にする。能年ちゃんと目が合った。
(…夢で逢いましょう)
男は呟いた。もすっ!
http://tabelog.com/rvwr/002224433/