国民食ともいえる「牛丼」のチェーン店に、また変化が訪れています。



「吉野屋」が長年守った首位から凋落し、代わりに「すき家」がナンバーワン(店舗数)になったのは2008年のこと。
2000年初頭に、初めて吉野家の安部社長と会食をしたとき「海外出店を成功させるためにも、国内で更に発展するためにも、メニューのバリエーションを増やされては如何?」と生意気にもご提案させて頂いたことがあります。
当時は牛丼に徹底的に拘る路線を堅持していた為、私の提案を受け入れるのは難しかったようですが、最近はかなり積極的にメニュー開発をしているのが分かります。
例えば、国会の吉野家に特別メニューとして導入され、話題となった「和牛牛重」。
以前、ブログで「すき焼き重のよう・・・」「吉野家も、この話題から多店舗展開となれば・・・」とご紹介させて頂きましたが 、フリーパブリシティをしっかり活用して、「牛すき鍋膳」という新商品を出してきました。結果、発売から2か月で700万食を売る大ヒットとなり、その他の高付加価値新商品などの効果もあって、既存店売上が回復基調にあります。



また、「なか卯」では1974年から続けて来た「牛丼」の販売を昨日の午前11時に終了し、
一杯350円の「牛すき丼」に移行しました。並みサイズで60円の価格UPです。思い切ったメニュー変更に取り組んだのは、高価格帯の親子丼やカツ丼の売上比率が上がってきたからだそうです。



反面、破竹の勢いで出店してきた「東京チカラめし」は、半年で39店を閉鎖するなど、計画の見直しを迫られています。2011年6月に1号店を出してから、たった2年で130店舗も出した事を考えると、ジェットコースターのようなスクラップアンドビルドとなります。



なぜ、勢力図にこのような変化が起きているのか。
私は原価率・サービス・提供スピードなどをギリギリまで切り詰めてきた牛丼チェーンは、他の外食よりも、景気のちょっとした変化や外部環境などによって、大きく左右される業態だと思っています。原材料の大半を占める牛肉は、(輸入している場合は)その国の為替動向によって大きく変わってきます。つまり、円高になれば収益力は一気に上がりますし、円安になれば一気に下がります。
そして、大きな固定費となる出店条件も景気動向によって大きく変わります。特に東京チカラめしが集中出店してきた都市部では、2012年以降の不動産・家賃の値上がりが顕著です。地方やロードサイドよりも圧倒的に早く坪単価が上昇するため、店舗当たりの売上が比較的高い最初の10~20店舗を基準に借りてしまうと、1年後には青ざめる結果になってしまいます。また、公共投資の急増によって招かれた現在の外装・内装・機材コストの値上がりは相当厳しいことになっています。
つまり、昨今は、薄利多売のビジネスモデルを推し進めるには、決して良い環境ではないのです。



逆に、景気と消費者心理の変化を読み取り、高付加価値の商品を必死に開発し、基本となる主力商品のブラッシュアップをするべき時期です。そういう意味では、吉野家の高価格帯メニューの導入はタイミングが良かったと思いますし、国会マーケティング(?)も功を奏しました。



そして、大変興味深いのが、その後を追うなか卯がどうなるかです。
消費増税のタイミングを見計らって290円→350円という判断も働いたと思いますが、内閣府が3日前に発表した街角景気判断指数(三か月ぶりのマイナス)に表れ始めているように、個人の景気が一気に冷え込むような事になれば、経営判断ミスになってしまう可能性があります。



経済のちょっとした変化に、敏感に正しく反応するかしないかで、大きくプラスにもマイナスにもなる牛丼業界。生き馬の目を抜くような世界で勝ち残るのはどのチェーンになるのでしょうか。