『「ただいま」 ~僕の知らなかった言葉~』 | わたぼうし 松谷幸亮 Official blog

川沿いの道 大きな庭のある家

小さな頃から 僕はそこに暮らしていた

誰もが羨む お城みたいなその家

一人ぼっちの 寂しさを隠しながら

取り残された夜 ギターを弾いては
本を開いて 言葉を探し続けた
僕の心を映す それを

メロディーに乗せて歌う


月日は流れ 大人になった僕は

信じ合える人と ここで暮らし始めた

僕は変わらず ギターを弾いては
難しい言葉 並べ続けている
不意に そこへ響く足音

そして ドアを開ける音


「ただいま」って飛び込んだ

その声 ただ眺めていた

「ねぇ何か言ってよ」と彼女は

笑いながら僕に言う

慌てて探すけど どこにも見当たらなくて

戸惑う僕を見て 教えてくれた「おかえり」



季節は廻り 寂しさの消えた部屋で

ひとつひとつと そこに増えていくもの

僕は心を 君に伝えようと
いくつもの言葉 ひねり出したけれど
君の前で歌えば また

その無意味さに気づく

「ただいま」ってドアを開けて

聞こえてきた その声に

まだ少し ほんの少し

照れくさいけれど「おかえり」

僕には歌えない 言葉で繋がる心

伝えるためじゃなく

伝え合うためにあるもの


微笑みながら 君が教えてくれた言葉は

独りじゃ歌えない歌


「いただきます」そう言って

二人で食べるスープは

温かくて美味しくて まるで魔法の言葉

「ただいま」「おかえり」

「ありがとう」「ごめんね」

「好きだよ」「愛してる」

誰かに言える幸せ

「おはよう」「おやすみ」

「いただきます」「ごちそうさま」

君が僕にくれた それは

独りじゃ言えない言葉

独りじゃ歌えない歌

僕の知らなかった言葉


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