【軍師の言葉】 彦根の「ひこにゃん」の仕掛け人・荒川深冊さん | 週刊『広告三国志』

【軍師の言葉】 彦根の「ひこにゃん」の仕掛け人・荒川深冊さん


 日本全国に1000以上も生息する
 ゆるキャラRたちのカリスマ的存在、
 それが滋賀県彦根市の“ひこにゃん”だ。
 今回は“ひこにゃん”の仲間達の生みの親であり、
 2008年から彦根市でおこなわれている
 『ゆるキャラRまつり』の仕掛け人でもある、
 「ゆるキャラRさみっと協会」代表理事の
 荒川深冊さんにお話をうかがいました。


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 ※ゆるキャラR3カ条
 「ゆるキャラR」の提唱者である、みうらじゅん氏は、
 あるキャラクターが「ゆるキャラR」として認められるための
 条件として、以下の3条件を挙げている。
  1)郷土愛に満ち溢れた、強いメッセージ性があること。
  2)立ち居振る舞いが不安定、かつユニークであること。
  3)愛すべき「ゆるさ」を持ち合わせていること。


 三国志 保守的なイメージが強い滋賀県と、
      ゆるキャラRという組み合わせが驚きでした。
      滋賀県のイメージが変わったというか、
      若返ったというか。

 荒川  滋賀県は間違いなく保守的かも知れませんね。
      「新しいことしなくてええやん。
      今のままでええやん」という土地柄です。

 三国志 そんな滋賀県で、ひこにゃん誕生のきっかけは?

 荒川  国宝である彦根城の築城400年を
      記念するキャラクターとして、
      彦根市が2006年に誕生させました。
      なにせ保守的な町なので。
      若い私たちが何かやらないと、
      キャラクターをつくってお茶を濁して
      適当に終わってしまうと思い、
      「ひこにゃんを人気者にすれば、彦根に人が来る」
      という目標をたてたんです。

 三国志 じゃあ、最初からブームを仕掛けようという狙いが?

 荒川  まあ、狙いというか、思いですね。


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 三国志 まず、何をされたんですか?

 荒川  とりあえず、ぬいぐるみを作ろう、と。
      仲間に声をかけて「お前いくらある」
      「俺はこれだけある。ぬいぐるみ作ろう!」って言って、
      ぬいぐるみを作って。
      それをインターネットで売り始めたんです。
      広告するようなお金は当然ないので、
      こつこつ仲間とミクシィとかブログとかの、
      いわゆるSNSに書き込んで噂を流したんです。
      「ひこにゃんってかわいい」とか
      「ぬいぐるみ売ってるらしいよ」とか。
      基本的に、町おこしってお金ないから。
      町おこしせなあかんような街に、
      一千万も二千万も予算があるはずないでしょ?(笑)

 三国志 なるほど(笑)。

 荒川  そしたら、火がついたら早いもんで、
      すぐに売れ切れて在庫がなくなったんですわ。
      で、儲かったお金で増産して、
      そしたら、また売り切れて、という状態で。
      結局、築城400年祭が始まる頃には、
      400年祭よりひこにゃんが有名になっちゃってて。

 三国志 うれしい誤算ですね。

 荒川  もう、みんな、お城よりひこにゃんを
      見に来るっていう感じになって。

 三国志 「ひこにゃんがキテる!」っていう手ごたえは、
      どんな瞬間に?

 荒川  人気が出てきてグッズが売り切れたりすると、
      おのずとテレビや新聞が取り上げてくれるんで。
      そういう番組や記事を見て、「これはキタな!」と。

 三国志 日本には現在1000以上のゆるキャラRがいる
      と言われてますが、ひこにゃんは、なぜ、
      こんなに人気者になれたんでしょう?

 荒川  いちばん先頭を走ったもん勝ち、
      なんじゃないですかね、こういうのは。

 三国志 そこには、じゃあ作戦とかは。

 荒川  ないですね、作戦とか。

 三国志 ないんですね。(笑)

 荒川  人気が出たもん勝ちというか、
      「人気があるよ」と言ったもん勝ち、というか。
      先頭を走るものには勝手にカリスマ性が生まれて。
      そいつがまたブームを煽って、
      「目指せ、ひこにゃん」て感じでご当地キャラが
      また生まれて、という好循環ですよね。
      ですから、『ゆるキャラRまつり』を思いついたのも、
      そういう、ひこにゃんを人気者にしてくれた
      全国各地のゆるキャラRたちに恩返ししたい、
      というのがそもそもの思いなんです。

 三国志 にゃんこの恩返し。

 荒川  そう。

 三国志 しかし、実現まではかなり反対もあったんじゃないですか?
      なにせ、歴史ある城下町でゆるキャラRまつりですからね。

 荒川  反対というより変な目で見られました。
      最初に市や商店街連盟に企画書を出したんですけど。
      「全国各地からゆるキャラRを集めて
      物産展をやりたい」って書いたら、
      「ゆるキャラRが来て、それで?」って。
      「いや、それだけです」
      「え、それだけ?」って・・・。
      イメージが沸かないんですよね、たぶん。
      やったことないことやから。絵が浮かばない。
      僕だけが企画書を描きながら想像してニコニコしてるという。

 三国志 そこを説得されて。

 荒川  もう、でも、最後は期限も迫ってくるし、
      「そこまで言うんなら、お前ぜんぶやれ」って感じで。

 三国志 個人プレー。

 荒川  いや、でも友達とか知り合いには
      ずいぶん助けてもらいましたねえ。
      ありがたかったです。結局、
      商店街の賛同も得られたし、市からも
      ボランティアで職員さんが出てくれて。

 三国志 で、フタを開けてみると大成功。



 ※ゆるキャラRまつり
 2008年に開催された第1回には、全国から47のゆるキャラRが参加。
 初日には2万4000人ものゆるキャラR愛好者が彦根市に駆け付けた。
 つづく第2回は2009年に開催され、前年の3倍にあたる約130もの
 ゆるキャラRが登場。来場者も7万人を超えた。「ゆるキャラR音頭」
 を歌う橋幸夫さんや、ゆるキャラRの命名者であるイラストレーター
 みうらじゅんさんも駆けつけ、大盛況のうちに幕を閉じた。



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 三国志 1年目の成功があって、いよいよ
      「ゆるキャラRさみっと協会」設立に至るわけですね。

 荒川  そうですね。1回目が終わった直後から、
      いろんな地方自治体さんからゆるキャラRにまつわる
      相談事が持ち込まれるようになりまして。
      商標のこととか、イベントの盛り上げ方とか。
      それが私個人にいっぺんに来て、
      私も本業があるんでどうにも対応できなくて、
      じゃあ、組織化しようということになりました。

 三国志 「ゆるキャラRさみっと協会」の仕事は、
      ひとことで言うと何ですか?

 荒川  ゆるキャラRで町おこしをする人のお手伝いです。
      あとは、ゆるキャラRのネットワーク化ですね。
      この2月には、「関西ゆるキャラRオールスターズ」
      を率いて、香港で関西のPRパレードをやってきます。

 三国志 香港!海外進出ですか。

 荒川  香港政府観光局から招かれまして。
      関西広域機構や関経連や
      日本政府観光局に協力いただいて、
      関西のPRをゆるキャラRでやろう、
      という趣旨です。

 三国志 ゆるキャラRって関西地方に多く生息してるんですか?

 荒川  そうですね。個人的な推論なんですけど、
      関西って寺社仏閣が多いでしょ。
      だから、昔から「偶像崇拝」というか、
      人の姿に似たものに手を合わせるための、
      仏像とかを作ってきた歴史があるんだと思うんですよ。
      それとゆるキャラRとが似てるんじゃないかと。
      神仏のヒーローを作るのと、
      わが街のヒーローを作るのと。

 三国志 なるほど、説得力あります。
      ところで中国にも、ゆるキャラRはいるんですか?

 荒川  いますよ、万博のマスコットキャラとか。
      でも、ちょっと洗練されてる。

 三国志 ゆるさが足りない(笑)

 荒川  足りない(笑)

 三国志 あの、一時、せんとくんが
      バーンと話題になりましたけど、
      ひこにゃん的に危機感はありましたか?

 荒川  うーん、それはなかったですね。
      やっぱり、2番手、3番手というのは
      難しいだろうなと思ってました。
      でも、健闘してますね。NHKの紅白に出たりとか。


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 三国志 ちょっと荒川さんご自身のことも
      伺いたいんですけど。毎日お忙しい
      と思うんですが、どんな生活ですか?

 荒川  午前中は本業である理化学機器を売る仕事をやって、
      午後から夜にかけてゆるキャラR関係の仕事をやりつつ、
      彦根市内にある四番町スクエアの
      キャラクターショップ運営をやってます。

 三国志 大変そうですねえ。本業の方は、
      午前中だけで大丈夫なんですか?

 荒川  ダメですよ(笑)
      時間の合間をみつけてやってます、夜とか。

 三国志 寝ておられます?

 荒川  寝てますよ、7時間。

 三国志 じゃあ、効率よく。

 荒川  効率よくなのか、ほったらかしにしとくのか(笑)

 三国志 お話をうかがってると、発想が柔軟というか、
      非常にクリエイティブだなと思うんですけど。

 荒川  ひとことで言うと、アホなんですね。

 三国志 (爆笑)

 荒川  関西弁の「アホ」。

 三国志 いい意味の。

 荒川  いい意味か、悪い意味かわからんけど、
      迷惑かけてる人はたくさんいますね、
      このアホのせいで。
      でも、性分なんでね。
      あと、けっこう期待してくれてる人もいるんで、
      やめれないんです、アホが。
      本当は農家をやりたいんですけど。

 三国志 農家ですか?

 荒川  いいじゃないですか、晴耕雨読で。
      最終的にはね、村を作りたいんですよ。
      僕みたいなアホが集まる、
      アホしか住めない「アホ村」を。

 三国志 (爆笑)。
      関西人、滋賀県人でよかったことはありますか?

 荒川  やっぱり、ひこにゃんに出会えたことですね。
      地方から中央へ発信できるってことが、
      証明できたんで。
      東京とかに出て行く必要がなくなったという。
      メディアもあっちから来てくれますから、
      フジテレビもテレビ朝日も。
      来るんや。
      なんか起こせば、来るんやっていう。

 三国志 今後の野望は?

 荒川  ゆるキャラRまつりを秋の風物詩にしたいですね。
      祇園祭みたいに。秋になったし、
      そろそろゆるキャラRやね、ていうレベルまで。

 三国志 では、今年も期待しております。

 荒川  ええ、ご期待ください。
      今年はテーマが「原点回帰」ですから。

 三国志 3年目にして、もう。

 荒川  そう。へへへ。
      またアホなこと考えてますから。


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 滋賀県といえば「びわこ」「ふなずし」。
 あとは何かあるの?という感じでしたが、
 ひこにゃんの登場であきらかに風が変わったような気がします。
 若返ったというか、おもしろく見えてきたというか。
 まさに、ひこにゃんは滋賀県というブランドを
 再構築したのではないでしょうか、あんなカワイイ顔で。
 日本でこれから人口が増えるのは滋賀県だけという説もあり、
 ますます元気になっていくこの県とひこにゃんを、
 広告三国志はこれからも勝手に「広告」してきたいと思います。

 荒川さん、ありがとうございました!



 一週間のはじまりは「広告三国志」とともに。
 次回も3月8日、月曜日の更新予定です。