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2011-07-07 13:44:45

『ヴァンパイアハンター・リンカーン』

テーマ:ホラー

ヴァンパイアものというと、なぜか古くさいイメージがあるような反面、実はいろいろな作家が、斬新なものをめざしているサブジャンルであると思う。
その点、狼男やフランケンシュタインなどの追随を許さない。
たとえば、かの『ドラキュラ』にしたとkろおで、それまではレ・ファニュの『女吸血鬼カーミラ』に代表されるような、女性の吸血鬼というイメージを刷新して、男の吸血鬼を主人公にした斬新なものとして世に打って出ている。

まあ、このドラキュラがあまりにも人口に膾炙してしまったため、正装した貴族(男)で、蝙蝠に変身したりするという、ホラー映画のドラキュラのイメージが強く定着してしまうわけなのだけれど。

その後も、颯爽とバイクを狩る『夜明けのヴァンパイア』が登場したり、スプラッタパンクの〈ソーニャ・ブルー〉シリーズが出たりしている。

さて、それでは本作はどういう話かというと、やはりまず第一のインパクトは、「あの」アメリカ大統領リンカーンが実はヴァンパイアハンターだったのでーす!
という、ここだろう。
もちろん、作品世界はむしろ我々の並行世界というべきで、この世界には、かなり大手を振って、ヴァンパイアが地上を闊歩している事になっている。

といっても、我々の歴史に比較しての話で、ヨーロッパに居づらくなったヴァンパイアが新大陸に渡ってきて、パワーゲームの水面下で暗躍しているという設定。
これが、リンカーン自身の生い立ちにも大きく影響し、彼がなぜ、どのようにして、ヴァンパイアハンターという裏の顔を持つに至ったかというつじつまを、うまいことあわせてある。

このつじつまあわせが、並行歴史みのを読む醍醐味なのだが、その点、期待を裏切られる事はない。
まあ、それをいうなら、そもそも作者を名高くした『高慢と偏見とゾンビ』、あれがなんともうまくつじつまをあわせた怪作であった事を思うと、想像がつくだろう。

また、面白いのは、ハンターだからといってリンカーンが凄く万能なスーパーヒーローではなく、全貌tをつかみきれぬ裏事情に振り回されたり、吸血鬼も一枚岩ではなく、ある意味でリンカーンに与するものがあったり、ことが南北戦争にからむにいたって、アメリカの国政に大きな影響が出たりと、リンカーンの人間的な弱みもあれば、陰謀劇的な面白さもあって、読み応えがある。


ヴァンパイアハンター・リンカーン/セス・グレアム=スミス
2011年6月15日初版
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2011-02-23 11:02:21

『世界怪奇実話集』

テーマ:ホラー
怪奇実話ってなんだろうといえば、そうだな。
日本でいうなら、「お岩さん」にまつわる話だろうか。
お参りしないと芝居などを上演した時にたたりがある。実際、役者の誰それがこれこれいう目にあった、と実名入りで紹介される、ほんとにあった怖い話というやつね。
本書は、その海外版といっていい。

海外で幽霊屋敷といえば、やはりイギリスがなんといっても有名だし、幽霊船の話というのもいろいろあるそうだ。
といっても、あまり日本語でその実例を読む事がない。
海外ホラーのファンなどで、そういう不満をもし抱いている人がいるなら、本書はおすすめといえるだろう。
(出版社がもうないので、古書店で探さないといけないけれど)。

幽霊屋敷や幽霊船、そして初期の飛行機に出没した幽霊、また、しばしば幽霊となって出現することで有名な、支配者たちの幽霊まで、ほぼ網羅しているからだ。

日本のものとはどこらへんが共通で、また、どこらへんが違うのか、比較するのも面白いかもしれない。


世界怪奇実話集 (現代教養文庫―ワールド・グレーティスト・シリーズ)/N. ブランデル
1988年11月30日初版
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2011-01-26 20:17:34

『妖魔夜行』 あるいは妖怪が求められる時代

テーマ:ホラー

ここ数年、乱立してきた感のあるPBW(Play By Web の頭文字。ブラウザさえあればできるタイプのゲーム)を見ていると、剣と魔法のファンタジイと同じくらい、現代を舞台にしたホラーアクション的な設定のものがあるように思う。

そういった世界の嚆矢となるのが、この『妖魔夜行』シリーズではないかと思うわけだ。
TRPGと同時展開したライトノベルだが、現代日本で、人間にいりまじり、妖怪たちが存在するという設定で、妖怪たちの間にネットワークがあったり、事件を引き起こして人間との共存を危うくさせるような妖怪に対処したり、そういう物語。
たとえば濡れ女のように、日本古来の妖怪もいれば、格闘ゲームの中に誕生したポリゴンベースの新しい妖怪も登場した。

ふと思うに、かつてアメリカでは植民者たちが「(植民者の)アメリカ独自の神話や英雄」を持たなかったがために、ヒロイックファンタジイのようなものが隆盛したと言われるように、あまりにも現代日本が一見不夜城のような明るさを保ちながら、その実鬱屈したものをどこかに抱えていて、それをうまく言い表す新しい妖怪が、求められていたのではなかろうか。

世界で一番怖いのは、人間(の心)だという。
しかし、人間そのものが怖いとするならば、まわりじゅうに人間がいる事はとても恐ろしい。恐ろしすぎる。
であればこそ、人間とか、人間社会を「恐ろしいもの」にする「なにか」がほしくなるのではないか。

たとえば、路上でいきなり無差別殺人が行われるのは、「通り魔」のせいなのだ……!

そういえば、「通り魔」は江戸時代の『耳嚢』に、幾つか語られていて、胆力とか心得がありさえすれば、通り魔にはとりつかれずにすむ。
そのような対処ができなかった者が、これにとりつかれて惨劇を起こすのだ、と説明されている。


妖魔夜行 幻の巻―シェアード・ワールド・ノベルズ (角川スニーカー文庫)/山本 弘
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2011-01-25 20:47:05

『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』

テーマ:ホラー

デッドマンズ・チェストとは、要するに「しびとの箱」(より具体的にはシーチェストすなわち船員が身の回りの品を入れる箱で、いわゆる海賊の宝箱でもある)であり、かの有名な『宝島』でうたわれる不気味な歌の歌詞にある、あれだ。
『宝島』では、宝にかかわる海賊が殺されたというような状況を暗示しているわけだけれども、本作では文字通り、死人(ただしアンデッド)とふか~い関係があるという事になっている。

その他に、クラーケンだのデイヴィ・ジョーンズといった、英米の海の伝説では超有名な化け物が登場するので、うん、ここらへん、まさしくエンタテイメントだよなあ、と思う。
映画の方でみると、クラーケンはあきらかに大蛸だけど、頭足類らしいというだけでクラーケンの正体はあまりわかっていない。
デイヴィ・ジョーンズは、海底にいる悪魔の事だけれど、映画での造形は烏賊男!
烏賊も蛸も日本では人気のある食べ物なんだが、英米では基本的に海の嫌われ者という立場を、踏襲している感じ。(知ってのとおり、クトゥルー神話でも頭足類は悪の人気者だ)。

しかし、海のエンタテイメントという他に、もうひとつ、本作は、ゾンビの物語という一面も持っている。
もともと、ゾンビが有名になったのは、ロメロの映画によるとされているわけで、やはりゾンビは映画と相性がいいのだろうか。なんつってもあの醜悪さにはグロテスクな魅力があるのだろう。
とはいえ多くのゾンビ好きを作ったことはいなめず、ホラー小説にもたくさんのゾンビものがあるし、ゾンビもののアンソロジーだって幾つも出ているほどだ。
その中でもやはり、海のゾンビものというのは異彩を放っているように思う。

本書はある意味、映画のかなり忠実なノヴェライズなので、小説のみで読んだ時には随所に不満が残るのだが、映画を補完する立ち位置としては充分だろうと思う。
まあ、また、それだけディズニーの実写映画がすばらしいというのもあるのだが。
特にアクションなどは学ぶべき部分が実に多い。
あれをうまく文章にできたら凄いのだが、なまじ映画での演出と動きがいいだけに、文章であれに匹敵する演出をするのはなかなか難しそうだ。(本書で不満に思うのも、そういうところが多い)。

しかしそのあたりを踏まえた上で、やはり、海のゾンビものというめずらしいホラーには数えておきたいのだ。


パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト (竹書房文庫)/テッド エリオット
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2010-09-17 22:50:42

『黄衣の王』

テーマ:ホラー

先日、ふとしたはずみで、『クトゥルフ・ダイス』なるものを購入した。
スティーブ・ジャクソン考案のダイスゲームで、といえばその筋の人は想像がつくかもしれないのだが、ダイスを振って手を決め、その結果恐怖点がたまっていって先に発狂するとかした方が負けという、いかにもクトゥルフなゲームだ(2名以上のプレイヤーが必要)。

そんな矢先に、本書がようやく手元に来たのだった。

『黄衣の王』は、クトゥルーのファンの間でささやかれてきた作品だ。
読めば呪われるという『黄衣の王』という書物(戯曲)をめぐる連作短編だという事がわかっているだけだったのだが、このたびようやく邦訳が出たというわけだ。

結論から言うと、本作はいわゆるクトゥルー神話ではない。
しかし、ラヴクラフトと作者チェイムバーズの間に交流があり、そのため、『黄衣の王』に登場するいくつかの固有名詞が、逆にクトゥルー神話に流入しているようだ。
ちなみにそれはクトゥルー神話だけではなく、おそらくマリオン・ジマー・ブラッドリーのダーコーヴァ年代記も同様ではないかと思う。
具体的な名前は、ハスター(そしてカッシルデ)、そして不思議な湖ハリだ。
あるいは、クトゥルー神話において、旧神と関わりのある地にチベットが含まれているのも、チェイムバーズが一役かっているのかもしれない。

とはいえ、『黄衣の王』そのものは、まさしくその呪わしい戯曲をめぐって起こる不思議な事件についての物語で、いくばくかの狂気に彩られながら、並行世界のアメリカ合衆国を襲う恐怖についてじわりじわりと描いていくのだ。

本巻は、後半にもうひとつの作品、中編『魂を屠る者』を収録している。
実は、こちらの方が素直に面白かった。
合衆国がいささかヒステリックにパージした共産主義者を、邪悪な宗教結社と結びつける事で、より大きな脅威となっている。
しかし、合衆国情報部はその手のオカルト的な能力を全く持たなかったため、当の結社に幼い頃からとらわれ、邪神の巫女として育ち、このたびようやく脱出を果たして帰国した、ある女性に協力をあおぐこととなる。

仕立てはホラーというより、オカルト・サスペンスといった展開だ。ホラーではないというところは、あやしい魔術やエキゾティックな呪術が登場するにもかかわらず、「人間がついに勝利する事ができないという図式とは異なり、むしろ最後はハッピーエンドよりであるし、なんと恐ろしくもファンタスティックな、そしてサスペンスフルな展開と同時に、ロマンスも進行してしまうという筋立てであって、エンタテイメントとしては、『黄衣の王』よりもすぐれているかもしれないからだ。(もtろん、好みの問題はある)。

しかし、最近はやりの「ダーク・ファンタジイ」として考えるならば、やはり仕掛けは『黄衣の王』が数倍凝っていると言えるだろう。
連作短編として進行するその恐怖は、いわく言い難いものがあるからだ。


黄衣の王 (創元推理文庫)/ロバート・W・チェイムバーズ
2010年7月23日初版

クトゥルフ・ダイス (Cthulhu Dice)/Steve Jackson Games
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2010-08-20 20:03:18

『京都宵』〈異形コレクション41〉Part3

テーマ:ホラー

京都といえば今でも人気の観光地であり、本来の王城なのだが、なんといっても貴族社会の中心地なのであり、従って、武士が台頭してくる「前」までが、この都は華の時代だった、と言えるんじゃないかな。
その割に、本巻では平安時代を舞台とした物語がほとんどない。
その平安ものは、いずれも、この最終部に含まれている。

「陰陽師 鏡童子」が、まずそのひとつめ。タイトルでもわかるとおり、夢枕獏の人気シリーズに属する短編だ。
仕掛けは難しくない、というか、タイトルがほとんど、そのものずばりだ。
鏡の魔性というか、迷境が舞台となるが、それを打ち破るかのような楽の音が、文章とはいえ、清冽ですばらしい。

続く朝松健も一休ものでくるかと思いきや、「『西の京』戀幻戯」は、なんと、京という地に代々恋をした西国大名の家系を主人公に据えている。
これは面白い。個人が主人公ではなく、家系が主人公なのだ。しかも恋の相手が人間ではなく、土地なのだ。
そうであるのに、人間同士の恋でもなかなかこうはいかない、と思えるほど、心うたれるロマンスだ。

さて、私は残念ながら京都に修学旅行という経験はないのだが(関東あたりの学校なら定番の行き先であるにもかかわらず!)、修学旅行でもパックツアーでも、京都と奈良ってわりとセットになっているよな。
「常夜往く」は、まさしくその二つの都をつなぐ二都物語だと編者が紹介している。
しかし、それよりも読んでいて目をひくのは、古い家を見守る精霊たちがなんともいえず、良い。

そしてもうひとつの平安ものは「夢ちがえの姫君」。
平安文学にはしばしば登場するような、わけありの姫君にまつわる不思議と恐怖を、現代語訳の説話集もかくやという雰囲気で描き出す。
良い意味で、少女漫画風だと思う。

一気に時代を飛び越え、「宵の外套」は都市伝説を思わせるような、ある魔物の物語。
タイトルに外套とあるように、マントの怪人が登場するが、ここでも触れられる「赤マント」の話は、松谷みよ子の現代民話集にもとりあげられている。
しかし、しかし。マントを羽織った魔物といえば、非常にメジャーな、別の名前も思い浮かぶかもしれない。

「魔道の夜」は独特の雰囲気を持った不気味な物語だが、これが京都っぽいのかどうか、私にはよくわからない。
京都でなくてもいいかもなあ、とは思う。
とはいえ、実在の建物や人物が出てくる事を思えば、ロケーション的なつながりが濃いのだとは言えるのかもしれない。
それにしても、シルクロードと絡む妖しい雰囲気を考えると、平安京もそれなりに、海外文化を取り入れた中心地であったのだよな、と思い当たる。

ラストを飾る「水翁よ」は、今昔物語集にも登場したある魔物をよみがえらせている。
この魔物、水と非常に関係が深いのだが、東京に劣らず、京都もまた、往時より水面が少なくなってしまったのだろうか。だとするなら、かつての水魔たちは、今、棲むところをなくして、どこへ姿を隠してしまっただろう。
あるいは、どこに潜んでいるのだろう。


京都宵―異形コレクション (光文社文庫)/著者不明
2008年9月20日初版
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2010-08-19 20:33:22

『京都宵』〈異形コレクション41〉Part2

テーマ:ホラー

京都は、日本でも有数の古い都だ。
そして注目すべきは、唐の長安にならって、というようなお手本はあったにせよ、都市計画にそって作られた都であるというのが凄い。
しかし、それは、権力によって作られた町だという事でもあるわけで、その分、自然にできた大集落とは異なる闇が積もるという事でもあるよな。

「朱雀の池」はまさしく、京都のそういう面に触れた物語だ。
もちろん、京都が四神相応に作られているというのは有名なわけで、京都がテーマでタイトルに朱雀が入っているといえば、当然そういう話と連想する。
しかし、なんとこれに太平洋戦争がからみ、舞台はアメリカにまで広がっていく。

とはいえ、京都というとやはりいろいろな「情緒」と縁が深いのだろうか。
そして情緒といえば、祇園をはずすことはできないだろう。
そのわりに、このアンソロジーには、祇園が舞台となった物語、この「襟替」しかないのだが。
物語の中心は、もしかすると、花街ならどこにでもありそうな話かもしれないけれど、そこに介在するあるものは、これまた京都ならでは。

さて、京都の祭りといえば祇園祭だけれど、これは疫病をはらうお祭りだという話。
日本全国で同じように夏のお祭りが行われるが、こえrが田園地帯で「虫送り」となる場合は、もちろん、豊作祈願が主体となる。
「はだかむし」はまさしく、その豊作祈願がテーマで、場所も京都の郊外になるのだが、原初的な祭りに絡む原初的な情緒は、やはりどこかで、京都の闇ともつながっているのか。

京都と闇といえば、もうひとつ思い出すのは、鬼と変じる女性の話。
『今昔物語集』などにも幾つも載せられているが、そこに「呪う」という行為がまつわるなら、最も有名なのは貴船神社であるらしい。
「京都K船の裏の裏 丑覗きの会とはなにか」、長いタイトルだが、K船としてあってもこれはばればれ。
作者は本来漫画家であるそうだ。
しかし、ここによせられたのは絵物語であり、独特の文体と、絵柄が、ぴったりマッチして、なんとも不思議な物語空間をつむぎだしている。しかも着想が面白い。

ところで、情念というと、ソープドラマ的ながら、不倫という二文字が浮かんでくる。
まあなんというか、恋するというものは、自分ではどうにもならないところもある、と思う。それゆえ大きな葛藤があちこちに生じて、興味深い人間ドラマになると思うのだが、心霊的なものが、かりに、強い情緒的反応と深く結びついているのなら、確かに、不倫という事象の周辺にも、容易に発生するだろう。
文学作品ならば、古くは『源氏物語』にもそういうのがあったよね。
しかし、「父の恋人」は、はたして京都的なのか。そこがちょっと私にはわからないところだ。

そして、「夜想曲」。
京都という、日本の精神世界におけるひとつのコアである場所を、桜のイメージに仮託して、なんともシュールに描き出した物語。
スプラッタ的な怖さは一切ないが、ううん、これはやはり、サイコホラーと呼ぶべきか。


京都宵―異形コレクション (光文社文庫)/著者不明
2008年9月20日初版
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2010-08-18 19:25:22

『京都宵』〈異形コレクション41〉Part1

テーマ:ホラー

日本の夏といえば怪談。
ぞっとする話は背中が寒くなるから、納涼などとも言われるが、実際には、ちょうど暑い盛りに「お盆」という、死んだ人の霊魂が家族のもとに帰ってくるという民間信仰があるためではないか……と、思う。
暑ければ疫病もはやるという事か、また作物に害虫がはびこる季節でもあるのか、虫送りとか夏の大祓とか、そういう行事もある……現代では影が薄いとはいえ。
祇園祭のように盛大なのもあるけどね。

そう、この祇園祭のイメージが強いのか、夏、ホラー、そして特定のどこかを結びつけるなら、京都という事になるかもしれない。
ただでさえ、魔都などと呼ばれる都でもある。
それが正鵠を射ているかどうかは別として。
まあ、人が多く、長く住んでいるところであればこそ、情念や怨念もたくさん溜まっていく道理で、そういうものが増えれば怪異は多く起こるだろうとも思われる。

夏。怪談。京都。
考えてみれば、とても魅力的な組み合わせなのかもしれない。

----------
「おくどさん」……菅 浩江
「テ・鉄輪」……入江敦彦
「くくり姫」……加門七海
「後ろ小路の町家」……三津田信三
「釘拾い」……藤田雅矢
「夜の鳥」……化野 燐

「朱雀の池」……小林泰三
「襟替」……森山 東
「はだかむし」……遠藤 徹
「京都K船の裏の裏 丑覗きの会とはなにか」……ひさうちみちお
「父の恋人」……竹河 聖
「夜想曲」……菊地秀行

「陰陽師 鏡童子」……夢枕 獏
「『西の京』戀幻戯」……朝松 健
「常夜往く」……五代ゆう
「夢ちがえの姫君」……速瀬れい
「宵の外套」……井上雅彦
「魔道の夜」……森真沙子
「水翁よ」……赤江 瀑
----------

「おくどさん」とは竈の事なのだそうだ。
竈の火の神といえば、遠くはローマのヘスティアに至るまで、人の暮らしと切ってもきれないものらしく、中国の説話集などにもいろいろ登場するが、日本でも広く民間で信仰されてきたそうだ。
まあ、ガスコンロだのIHなんたらになってしまった日本では、どうもぴんと来ないのだが。
今や火伏せのお札のかわりに火災報知器(なんか義務づけられてるし!)……味気ない。
(どうでもいいことだけど、火伏せを変換してくれなかったぜ、ATOK2010。だめじゃん!)
しかし、この物語を読むほどに、竈の神とはこういうものかとすんなり入ってくる。

ところで、面白いタイトルだよね。「テ・鉄輪」。
鉄輪は、かなわと読む。火の上に設置して鍋などを置き、煮炊きできるようにするための金属製の簡単な架台、漢字一文字ならば鼎という道具で、これも今は使われてないけれども、鉄輪と書くなら、謡曲のアレ。
怨みに燃えた女が鉄輪を頭に逆さまにかぶり、そこに蝋燭をたてて火を点し、髪を振り乱して口には櫛をくわえ、(特定の)神社で藁人形に五寸釘をカーンカーンと!
じゃあ、テは?
フランス語でお茶の事だ。
つまり、鉄輪の女に関係の深い京都の町家カフェが舞台なのだ。
出てくるお菓子が超うまそうだが、物語はどっぷりと、鉄輪。
なるほど、現代の鉄輪の女とはこういうものか。

白山神社はわりと全国にある神社で、祭神は菊理媛。
いわゆる日本神話というか、記紀神話ではぜ~んぜんマイナーな女神であり、どういう神なのかよくわかっていない。
登場シーンは唯一、イザナミの追っ手を逃れて地上に逃げ帰ったイザナギに、この媛神がなにかを囁き、そのためなんとか事がおさまる方向に動いたという、それ「だけ」。
本作の作者加門七海と、〈宗像教授〉シリーズの作者が、かつてこの女神について対談した事があるのだそうで、両者それぞれに作品を発表している。
加門七海の作品が本作というわけ。
私はどちらも好きだが、本作の美しくも妖しい空間は、まずその美で魅了し、最後に背筋をぞっとさせてくれる。

さて、本巻の第一部は町家を舞台にしたものが多い。
その中でも「後ろ小路の町家」は、実をいうとあまり京都らしくはない物語だと思う。
というか、日本のどの町であっても不思議ではない、特定の家と怪異にまつわる、実話系にありそうな話だ。
ところが、そのネタを作家がメタ小説として扱うという設定の枠物語にはめこむことで、別の恐怖感がわき起こる。
もっとも、結末はやっぱり実話系っぽいかな。

「釘拾い」とは面白いタイトルだと思った。
私は神仏は好きだが、信仰心は格別になく、お参りなどはした事がほとんどない。
痛みとかそういうものとはまだ日常的にかかえているわけではないから、お年寄りなどが、抱え込んだ痛みというのはまだ理解できない。想像することができるだけだ。
しかし、慢性的な痛みからなんとか逃れるために、神仏にすがるというのは、今もあるのだろうなあ。
人の苦痛を除くとして信仰されている神仏は日本のあちこちにあるそうだが、その光景がこれほど妖美なものになるとは。

ときに、鳥目という言葉があるとおり、フクロウなどの一部をのぞいて、普通、鳥は夜は活動しないという。
じじぶ登場する夜の鳥ももちろん尋常のものではなく、古典でも有名な、あの鵺なのだ。
うんうん、鵺という文字そのものが、夜の鳥だね。
しかし、今回の鵺は、最終的に、京都VS鵺という、壮大な図式を提示する。
鵺とは何なのか?
そして、京都とは。
この作品、凄いぞ。


京都宵―異形コレクション (光文社文庫)/著者不明
2008年9月20日初版
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2010-07-15 22:15:15

『地獄少女』

テーマ:ホラー

この漫画が初登場し、アニメになった時、正直にいうと、
「なんだ。魔太郎か~」
と、思ったのだ。
魔界の力を借りて非力なものが誰かに復讐する。
そこがちょっと似ている感じがしたんだな。

しかし、少年漫画と少女漫画という違いなのか、それとも時代の違いなのか。
この漫画、かなりうがった展開をしているようにも思う。
人はなぜ、地獄少女を求めるのか。
これは、なかなかすごい命題だ。

恨みというのは激しい感情のひとつだから、決して理性的なものではなく、むしろ理不尽ですらあるかもしれない。
その結果、地獄に流されんでもいい人が流されるという事も、この物語でなら、あり得る。
それは正しい事なのか?
正しくないとしたら、「なぜ許されるのか」。

こういう問いを発する事ができるというのは、なかなか名作なのではないかと思うのだ。


地獄少女R(1) (講談社コミックスなかよし)/永遠 幸

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2010-07-05 13:07:07

『怪談実話系4 書き下ろし怪談文芸競作集』

テーマ:ホラー

眉に唾をつける、略して眉唾という言葉がある。
ほんとかどうかわからないから、その真贋を定めるために眉に鍔をぬるという事で、いわれを説明した民話などもあるわけだけれど、こと怖い話に関してこの言葉を出すとしたら、それはきっと、こういう心理が働いているのだ。
「もしほんとにほんとだとしたら、あまりにも怖い。だから、ほんとじゃなかったという事にしておきたい」
……ねえ?
ホラーは、フィクションのうちが安心できるのだ。
そして、それだけ、実話ですと言われたら、背筋がぞっとするものだ。

さて、この「実話系」という微妙なタイトルはなんだろう。
「実話」ときっぱり断っているわけではない。
実話のようなもの、という事だろうと思う。
まさしく、眉唾の原理を追うようしているのだ。
実際、序文にも述べられている。
虚実とりまぜたもの、と。

つまり、ここに収録された作品は、書き手が自らの体験をある程度盛り込んで作っているのだろう、という事。
しかし、その事実がどのくらいの割合かは、読者には全くわからない。
判断する術がない。
うん、時jつとしたら凄く怖いかも。
でも、まあ、「実話系」だからね。

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工藤美代子……「霊感DNA」
中山市朗……「怪談BAR」
福澤徹三……数珠の糸」
安曇潤平……「隧道」
小池壮彦……「春紫苑の憂鬱」
伊藤三巳華……「姫達磨~伊藤三巳華の憑々草 出張篇2~」
加門七海……「浅草純喫茶」
松村進吉……「私の話」
牧野修……「これは怪談ではない」
岩井志麻子……「あの女のその後」
----------


怪談実話系 4―書き下ろし怪談文芸競作集 (MF文庫 ダ・ヴィンチ ゆ 1-4)/加門七海,福澤徹三,中山市朗,伊藤三巳華,小池壮彦,安曇潤平,松村進吉,牧野修,岩井志麻子 工...
2010年6月25日初版
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