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2011-12-07 10:05:55

『針いっぽん』〈鎌倉河岸捕物控19〉

テーマ:歴史・時代小説

佐伯泰英が執筆中の時代小説シリーズは何本もあるのだけれど、もっとも庶民よりの物語がこのシリーズだろう。
作者はよほど剣術家が好きとみえて、どのシリーズも、主人公は剣豪だ。
従って、表向きは商人だったりしても、本体は侍であり、武術、とくに剣の達人なわけだ。
ただ、このシリーズのみが、主人公はまっとうな町人なのだ。
まあ、それでも、剣術の道場に通っていて、剣の達人であることにかわりはないのがご愛敬だけれど、政次の前身は常々語られるとおり、老舗の呉服屋である松坂屋の手代であり、岡っ引きの親分となっても、その時につちかわれた気風は変わっていないとされている。
剣術はあくまでも余技。
市井の暮らしと、そこで起きる事件を扱うというのがテーマ菜わけだね。

そんななか、しほが子供を宿し、まもなく生まれようかというタイミングとなっている。
妊娠・出産となれば、誰がなんといおうと、女性の独壇場であって、男はちょっとはなれたところでうろうろするしかないが、まさしく本巻は、その前段階(笑)。
いまでも、女性が出産を控えれば、母親や女友達(あくまでも女性たち。父親や男の友人知人は、夫を先頭にほとんどなにもできない?)
彼女らが、産着を縫ったり(いまなら買って贈ったり)、準備を整えることになる。
そう、いまなら既製品を買う事の方が多いだろうけど、江戸時代はまさしく、時前で縫わないといけないんだね。

たとえば、『耳囊』にも、琴を習いたいと願った娘に、女主人が、まず裁縫などが立派にできるようになれ、とさとしたエピソードが載せられている。
もうともかく、この時代は、裁縫のひとつもできないでは女性はすまされなかったし、逆に、裁縫が上手ならば、女でひとつでもなんとか暮らしていく事が可能だったようだ。

しほが、まさしく、「針」をふるうことが必要な時期に、市井とは全く別の女の世界を重ねるという仕掛けをしているのが本巻の事件だけれど、女の世界とはいえ、一見まるで真逆のものを、「針」でつなげているところが面白いし、その「針」の意味も、多重なものがこめられている。
「針いっぽん」に象徴されることのうち、最も悪いものが、殺人事件に結びつけられ、同じ「針いっぽん」が間近に迫る出産という嬉しい出来事にも深く結びついていく。

構図としてわかりやすくもあり、真逆のものを結びつける面白さもあり、決して悲劇だけではなく、明るく楽しい要素も必ず盛り込んでくるのが佐伯作品で、本巻はその面目躍如と言えるだろう。


針いっぽん―鎌倉河岸捕物控〈19の巻〉 (時代小説文庫)/佐伯 泰英
2011年11月18日初版
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2011-11-19 10:15:35

『愛憎』〈吉原裏同心15〉

テーマ:歴史・時代小説

今回はまだ物語の節目にあたるのか、新たな敵がようやく姿を見せ始めた、そういうところだ。
したがって、いまだ正体はなんともわからないのだが、得体の知れない魑魅魍魎のようなものが登場したのは、これから先、どういう経緯なのかあかされていくのだろう。

新たな要素というと、江戸相撲がかかわってきていることか。
どうやら今シーズンでは相撲と力士の世界に交わっていく事が決定のもよう。
魑魅魍魎の他、薄墨太夫の前身とかかわりのある人間の敵も登場するが、これもまた、背後関係はほとんど明らかになっていない。
なにやら、長崎や異人も登場してくる気配だが、現時点では黒幕がさだかではない。
まあ、魑魅魍魎を含め、先の展開を楽しみにというあたり。

一方、仙右衛門が「いよいよ」年貢の納め時を迎えた。
佐伯泰英は祝言のような晴れがましい行事は演出はなやかに描いてくれるのだが、残念ながら、主人公ではないからか、その部分がちょっと抑えめだ。
とはいえ、常連キャラクターがまたひとり人生の節目を迎えたわけ。
また、吉原に憧れる少年も一人ではなくなって、ちょっとほほえましい。

さて、本巻では吉原と深川の対立が新たに浮き彫りになったのだけど、やはり吉原というのは、格別なのだなあ、と感じさせられる。
本巻では、深川情緒にも格別なものがあるという描写がなあsれているが、そこでも比較される、吉原が「塀に囲まれた特別な場所」であることは、江戸では他がまねできないことだ。
なぜなら、江戸の郊外に、塀でかこわれた場所を作ることで、日常とは全く切り離された世界を創り上げているからだ。
現代でいうと、たとえばディズニーランド。
料金を支払って入場する、かこわれた「ランド」の中では、日常とは全く違う、ディズニーの世界だけが展開されている、単なる遊園地ではなく、そこにいる間だけは、入場者が、ディズニーの住人になれる。
子供も入れる場所ではなく、男のためだけの遊里という違いはあるが、吉原もまさしく、日常とは全く異なる「吉原のことは吉原だけのこと」という、夢の世界を創り上げているのだ。

男にとってはそもそも謎めいている女の世界。
華やかであり、夢のようであり、また、その底には遊女たちが身売りされてきたものであるというような、暗さやはかなさを秘めている。
単なる華やかな世界というだけではないがための魅力。
だからこそ日常を忘れる事ができ、ひとときの夢にひたることもできるのかもしれない、そういう雰囲気と、そこへの憧れが、吉原の花魁にあこがれる少年のうえに見る事ができるのだと思われる。


愛憎: 吉原裏同心(十五) (光文社文庫)/佐伯 泰英
2011年10月20日初版
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2011-11-14 08:20:00

『橋の上』〈居眠り磐音江戸双紙 帰還準備号〉

テーマ:歴史・時代小説

本シリーズにて、いよいよ主人公一行が本拠地である江戸へ帰還するにあたり、まzぅ「準備号」として出版されたのが本巻。
1冊の半分を、短編「橋の上」が占めるが、これは磐音が佐々木道場に入門したての頃のエピソードとなっている。

したがって、道場主健在であるのはもちろん、鐘四郎のような、後々も登場する先輩が出てくる一方、おそらくはこの短編のみのキャラクターであろうかという登場人物もいる。
磐音自身、若々しさをはしばしににじませている。

だが、こうして、本シリーズで関わりのある周辺のキャラクターをほとんど排した状態で見ると、坂崎磐音の優等生ぶりがかなり目立つように感じられる。
剣術の才能があり、かつ、藩の住職にある父のもとで、すでに藩政のため活動を開始する、若きエリートとしての磐音だ。
このまま、本シリーズ冒頭のような事にならず、ひとりの藩士として成長していったなら、どのような活躍をしたのか、少し興味がわくところだが、単なる優秀な藩士、父の跡継ぎという枠を超えなかっただろうことも感じられる。

まあ、そういう人物が思わぬ運命の変転によって、人生の冒険を重ねていくといのが本シリーズの根幹であり、だからこそ面白いのだけれど、巻数を重ね、登場人物もそれぞれ成長しているところなだけに、改めて主人公の人となりの、根幹の部分に気付かされる。

一方、シリーズの最初の展開につながる要素もあちこちにちりばめられているのが楽しい。
「なるほど、ここからこうつながっていったのだな」
という想像がふくらむからだ。


橋の上-居眠り磐音江戸双紙帰着準備号 (双葉文庫)/佐伯 泰英
2011年10月16日初版
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2011-11-11 10:00:16

『混沌』〈交代寄合伊那衆異聞15〉

テーマ:歴史・時代小説

絶対的なラスボスは別として、そいつと対決する過程で、対立した相手が、次第に仲間となっていく。
このパターンでどうしても私が連想してしまうのは、週刊少年ジャンプだ。
主人公は主人公らしく強くてかっこいい、敵もそれに応じて強く、それが仲間となっていくことで、ストーリー上はより強大な敵へ立ち向かう力となり、読者にとっては、さまざまなキャラクターが増えるという魅力もアップする。
そういう仕組みがあるというわけ。

もちろん、佐伯泰英の作品自体にそういう傾向がそもそもあるのではないかと思うけれども、特に本シリーズに関しては、それが強く出ているように感じられる。
たとえば、他のシリーズでは、侍である主人公が町人衆(それも、豪商から裏長屋の十人まで)とも、深くかかわりをもっているのに比べ、本作にはそれがない。
いや、もちろん、長崎で玲奈の実家や、黄大人とのかかわりなどはあるし、本人自身が、交易会社の運営にシフトしていく気配なので、全く関わりがないとは言えないのだけれども、他シリーズに比べて、まず、「幕府に仕える侍、すなわち幕臣である」という性格が強い事が影響しているのではないだろうか。
これも、だんだんと薄れてきてはいても、いまだ、座光寺籐之助は旗本のままだ。

従って、基本的に籐之助の周辺には、侍か、そうでなければ「腕力を本分とする」者(しかもそれが兵士的な性格を帯びていく)が目立つように思う。

しかも、それがますます本巻で国際色豊かとなった。
国際色豊かでありながら、しかも、まだ、それは武闘的な集団であるという性格を持っている。

こうなると、そもそも「旗本である」という籐之助の背景にどれほどの影響が生じるかは興味のあるところ。
本巻はちょうど、その問題にも大きくかかわってきているようで、今まで放置されていた伊那衆がどう動くのか、そして籐之助は今後幕臣として幕府に仕え続けるのか、そろそろ決着をつけるべき頃合いらしい。
タイトルのとおり、物語のなかは混沌としているが、次あたりで大きく転換するような気配。


混沌 交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)/佐伯 泰英
2011年9月15日初版
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2011-10-26 19:10:30

『百年の呪い』〈新・古着屋総兵衛2〉

テーマ:歴史・時代小説

当代の総兵衛は、今風に言うと、日経ヴェトナム人であり、今回あらためて日本に帰化したということになる。
もちろん、日本人とヴェトナム人の両方の血が流れているのだけれど、写真などでヴェトナムの人々を見る限り、いわゆる、日本の「南方系」の顔立ちと、そう違っているとは思われない。
ゆえに、本巻で、襲名したばかりの総兵衛に、一部の人々が、どことなく異国の香りを感じるとしたら、それは彼が生まれ育った異国の文化の影響であろうかと思う。
長らく食べてきた異国の料理がかもしだす微妙なにおい、立ち居振る舞い、これらのために、観察眼の鋭い人などは、通常の日本人との違いを感じるのだろう。

そして、ヴェトナムから率いてきた一族には、一日もはやく日本人となる事を求めながらも、総兵衛、裏の顔を見せる時は、加齢な異国的ないでたちなのだ。
前シリーズでは、いさあか歌舞伎的な味わいがあったけれども、今回は同じけれん味でも、異国趣味がうまく塚wれてりう。
また、こういう派手な演出が、この作者は得意だ。
すがすがしく、かつ派手やか、ヒーローの名にふさわしい。

一方、彼がまず対決しなくてはならないものが、百年かけた呪いというのも、ちょっと面白い。
中国から伝わった風水をベースにした呪術のようだけれど、それをつきとめるのが、ヴェトナムの……というか、中華系下と名無人の占術師だ。
当然、こちらも風水などは心得ている人物だろうけれど、同じ中国系呪術を用いて、日本人とヴェトナム人が対決するという絵なのだ。
同じ源流であっても、発展方向は少しずつずれているだろう。
そういう違いが、おそらくこのシリーズでも、巧みな木細工を作っていくに違いない。

まさしく、時代小説でありながら、「国際的」。
江戸時代以前が舞台ならいざしらず、鎖国をしていた時代のものであるのに、国際色豊かというのも、ユニークだ。


百年の呪い―新・古着屋総兵衛〈第2巻〉 (新潮文庫)/佐伯 泰英
2011年10月1日初版
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2011-09-02 17:35:24

『楊令伝 三 盤紆の章』

テーマ:歴史・時代小説

中国、とひとくちに言っても、国号は順次変わってきている。
そして、隋以降がだいたい、今の国土の規模になっているとおおざっぱに言っていいのだろうと思われる。
もちろん、国境線はいろいろと移動しているだろう。
本巻の巻頭に付されている地図を見ても、だいたい、遼と金の一部が今の中国に含まれているようだし。
しかし、広いのだ。
ほんとうに広い。
津運設備といえば、烽火と宿駅くらいしかなかった時代である事を考えると、よくぞまがりなりにもひとつの国として機能していたものだな、と感心する。

そこを前提とすると、宋(青蓮寺)の、方臘の、呉用の、楊令の、視野の広さに舌を巻く。
広い国の南北それぞれ端っこにいながら、反対側の端を見据えて戦略を立てるなんて、よくできるよなあと。
今みたいに、いろいろな通信設備や衛星が利用できる状況とは全く違うのだ。

さて、いくつかの勢力のうち、もっともユニークで読みにくく、不気味なのはやはり方臘の宗教王国(未満)だろう。
「喫菜事魔」といって、菜食し、魔を祀る。
「度人」といって、人をこの世の苦しみから開放するために殺してやる。
うわ~。
度人というのは耳慣れない言葉だけれども、仏教用語で「度する」が「人を救う」という意味であるそうな(むしろ、「度しがたい」という使い方の方が一般的か)。
情景描写といい、かつて東京の地下鉄にテロをしかけた宗教集団を連想させるのだが、方臘というのが、決して船舶ではない、むしろ異様なほど奥の深い人物として描かれていて、大変興味深い。
はたして、その新編に潜入している呉用は、いろんな意味で無事にすむのか?
梁山泊の救出の手は及ぶのか?
非常に先の展開が気になる。

一方、方臘の乱が起こっている南部に比べ、北部は、宋と遼と金が梁山泊を加えて複雑な戦争外交を行っている。
どことどこが手を結び、実際には何をしようとしているのか?
各国各勢力の思惑が入り乱れて、こちらは戦略シミュレーション的な面白味もある。

そしてようやく、楊令が梁山泊の残存勢力と合流し、ようやく話が本格的に動き出しそうなところで、次の巻へ。


楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)/北方 謙三
2011年8月25日初版
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2011-08-31 19:34:44

『神楽坂迷い道殺人事件』〈耳囊秘帖10〉(だいわ文庫版)

テーマ:歴史・時代小説

江戸(そして今の東京)には、ほんとに坂が多い、というのは前巻でも触れられた。
今回も坂が舞台だが、神楽坂。
若者に人気なのかは知らない。
行きたいとか行ったとかいう話はあんまり聞かないから、雑誌が演出してるだけなんじゃないのという気もするが、今でもあのあたり、いきなり行くと、目的地を探すのがちょっと大変。
迷いやすいように思う。

さて、その迷いやすい神楽坂で、商売を盛り上げるため七福神巡りがこの界隈でできますよ、しかも判子を集めれば割引になりますなどという、なんか「江戸時代にそんなことしてたのかよ」な企画がある、というのが前段。
七福神自体は江戸時代おおいにもてはやされたそうだし、今と違って娯楽の少ない江戸時代のこと、寺社参詣はりっぱな「あそび」のひとつで、そのさいにも「七福神巡り」なんてのはけっこう人気があったらしい。
といっても、実際に、七福神をめぐるのはけっこう大変だから、同じ神楽坂界隈のみですぐまわれちゃうよ、というのがほんとにあったら、お手軽で喜ばれたかもしれない。

しかし、表向きは「商店会の街おこし」的なこのくわだてには、ちゃんと裏があって、それが事件につながっているという仕掛けなのだ。
筋立てとしてはまあ面白いが、正直なところ、前巻に比べると、ちょっと落ちるかなあ、と思う。

ともあれ、だいわ文庫版はこれが最終にあたり、続きとなる文春文庫版では根岸の手足となる同心が、栗田から別のキャラクターにバトンタッチするため、シリーズはここで一区切り、心機一転と言えるだろう。
だが、文春文庫版で活躍するユニークなキャラクターのひとり、女下っ引きのしめなどは、このあたりから活躍し始める。。
文春文庫から読み始めた場合も、チャンスがあればだいわ文庫版は読んでおいて損はない。


耳袋秘帖 神楽坂迷い道殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2009年11月15日初版
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2011-08-29 19:10:48

『人形町夕暮殺人事件』〈耳袋秘帖9〉(だいわ文庫版)

テーマ:歴史・時代小説

人形っていうのは、怖い。
太古の昔から、神事や呪術に使われてきた(たとえていうなら、仏像だって人形の一種だ)。
なんでかというと、それは人間に似ているように作られているからで、しかし作り物であるから本来は「たましい」がない。
入れ物だけあってたましいがないということは、たましいに類する何かが入り込むかもしれないし、または、入っているかもしれない。
だから、怖いわけなのだ。

さて、人形町という地名、人形師が住んでいたからかと思えば、なにやらあやしい伝説が秘められているらしい。
地中に埋まっている巨大な「ひとがた」。
ラスト、都市伝説めいたものにも作者がふれていて、今後、地下鉄などでそのあたりを通る時は、ちょっとぞわ~んとしそうだ。

まあ、そういう、いわくつきの土地で、人形を使った一種の見立て殺人が連続して発生するというのが本巻。
それも、三すくみになっている。
つまり、死体がそれぞれ、小さな「ひとがた」を持っている。
ひとがたには赤いしるしがあって、それぞれ、別の死体の殺され方を示しているわけだ。
これだけでも結構猟奇的だが、さて。
三すくみ、つまり死体が三つあり、それぞれの殺され方を示したひとがたを持っているとなると、そりゃ「不可能」になっちゃうよね。
いったいどうすれば、三すくみは成立するのか?

描かれる三角形の一点が毒殺なので、そこに鍵がありそうなのだが、仕掛けはけっこう、複雑になっている。

おどろおどろしさと、ミステリと、うまい具合に混ざり合っていて、本巻はなかなか面白い。
しかも、かなり人形づくしをめざしているなか、思いもかけぬ「人形」が関わるのもミステリとして良いところ。



耳袋秘帖 人形町夕暮殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2008年11月15日初版
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2011-08-28 09:42:51

『麻布暗闇坂殺人事件』〈耳袋秘帖8〉(だいわ文庫版)

テーマ:歴史・時代小説

日本列島ってだいたい山が多いんだから、大陸のように「地平線が見えます」な事はないわけだが、それにしても、江戸は坂が多い町であるらしい。
関東平野という名前はついていても、丘陵もあれば、台地もあって、細かな高低差がかなりある。
東京の地図を広げてみても、なんとか坂という地名はかなり多い。
しかし、なかでも麻布の坂の多さははんぱじゃないのだ、と語られる。
ううん、そうだったけ?
麻布界隈はあんまり歩いた事がないのでピンとはこないのだが、確かにこの物語の中では、麻布は坂だらけ。
平らな道というのがほとんどなさそうだ。

人生を坂道にたとえて有名なのは徳川家康だけれど、ここでも坂にたとえた人生観が登場する。
しかも、それがかなり生々しく、事件にも影響してくるところは面白い。
そして、意外な盲点にも気付かされる。
たしかに、「坂」というと、まず、登るところをイメージしがちだと思うのだが、登りがあれば当然下りもあるわけで。
つまり、「坂」には、
下から見上げる ・ 登る ・ 上から見下ろす ・ 下る
という4つの属性があるわけなんだよね。

この属性を全て余すところなく使ったのが本巻の物語なのだ。

しかも、登るにしろ下るにしろ、良いところもあれば悪いところというか、危険なところもある。
坂の上り下りは健康に良いが、体力があって簡単に上り下りできるからといってなめてかかると大変だよ、なんていう見方もあるようだ。
ちょっとばかり、人生の「ペーソス」というやつを感じさせる本巻。
随所に登場する幽霊の噂も、効果的で、読後感もなかなかだ。


耳袋秘帖 麻布暗闇坂殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2008年2月15日初版
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2011-08-28 09:20:15

『新宿魔族殺人事件』〈耳袋秘帖7〉(だいわ文庫版)

テーマ:歴史・時代小説

本巻、面白いのだが、タイトルのつけかたがちと無理矢理だなあ、と思う。
魔族というと、どうしても、妖怪とか魔物とかそっちを連想しちゃうよねえ。また、『耳囊』がそういう怪しげなものにまつわる噂について多く書かれているものということもある。

いったい江戸時代の新宿にどういう魔物が出たのか?
こういう先入観がわいてしまう。

しかし、「こんな魔物とか化け物が出て」というような話が出て来たりするのではなく、むしろ、魔物や化け物の噂関係なしに、連続殺人事件なので、足をすくわれちゃうんだな。

そして、そういう先入観を抜きにすると、とても面白いため、「このタイトルはちょっと」。

さて、それではどういう連続殺人事件かというと、江戸に近い宿場町である新宿で、やくざの抗争があるわけだ。
まあ、それ自体はありがちなのだが、新宿からのびているというと、甲州街道。
甲州は北条氏、武田氏と縁が深く、それ以外ではふたつの点で時代ものにはよく登場する。
まず、「金の産地」であった、ということ。
もうひとつは、風魔という忍者がいたということ。
本巻の物語も、実にこの2つに関係するのだ。
忍者、そして、金。
かなりわくわくしてくる。

江戸の西郊から甲州にかけて、大名の封地ではないというのも影響し、過去発生した一家惨殺事件が、やくざの抗争と結びつき、連続殺人事件に発展するという仕掛け。

しかし、このシリーズ、どの事件も、なにかしら、過去に別の事件がねっことして存在するという設定が多いようだ。これは、従来の捕物帖がシャーロック・ホームズばりの検証主義をとらないための方策なのかもしれないが。


耳袋秘帖 新宿魔族殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2007年12月15日初版
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