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2011-11-16 16:11:05

『ガリレオの苦悩』

テーマ:ミステリ

日本はまだまだ男権社会だと言われている。
もちろん、昔に比べれば、「女性の社会進出」はめざましいのだろうけれども、進出してもその後がない、という分析結果が出ているのだそうだ。
まあ大家に、結婚する、妊娠出産する、子育てする……ということが、社会的にサポートされているとは言えない。
そこに生じるさまざまな歪みをとりあげたのかと思えるのだ、
それぞれの短編に登場する女性たちは、個々にいろいろな悩みをかかえている。
誰が殺され、誰が殺したかというところも、もちろんストーリーの根幹ではあるけれど、むしろそこに関わる女性たちに焦点があてられている。
たとえば、第2編目は、奇抜なトリックや、昔ながらの本格推理そのままの複雑な家庭の事情にからむ犯罪という仕掛け、それが、ある女性を中心に展開する。
古いスタイルを踏襲する一方、それを刷新している。
そして、科学とミステリというそれだけで美味しいとりあわせに、もう一点、現代日本のさまざまな女性(の苦労)を挿入する事で、さらに興味深い物語にしているのだと思う。

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落下る(おちる)
操縦る(あやつる)
密室る(とじる)
指標す(しめす)
攪乱す(みだす)
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ガリレオの苦悩 (文春文庫)/東野 圭吾
2011年10月10日初版(文庫版)
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2011-08-02 18:50:06

『バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ』

テーマ:ミステリ

奇跡、まあ範囲を狭くして、キリスト教における奇跡とひとくちに言っても、内容はさまざまだ。
像が涙や血を流した、マリアや天使が姿を現した、病気などが治った、たぶん、ここらへんが定番ではあるだろう。
しかし、「死から蘇った」というと、ただごとではない。
作中、この奇跡は、イエス・キリストのみのもの、と語られている。
たしかに、聖書によると、新約はもちろん、旧約もふくめ、他人を死からよみがえらせた奇跡も、自らが復活した奇跡も、それはキリストの上だけに起こったものとなっている。
ならば、もしも、キリスト教者が死から蘇り、かつ、病人や不具者を癒し、水の上まで歩きましたと言われたら、どのように受け取ればいいのか?

ゆゆしき問題だ。

そして、ここに登場する問題の人物アントニアス14世は、「復活した」だけでなく、他者、それも主人公のかたわれを死からよみがえらせちゃうのだ。
冒頭、そのシーンから始まるこの物語、かなりスリリングだ。
また、そこへもってきて、悪魔崇拝者の影もちらついていたりするのだが……って、これは本シリーズでは定番だね。
ただ、敵のスタイルも、相手が違えば当然違ってくるので、そのあたりはうまくできている。

毎度の感想だが、これ、ホラー文庫に入ってはいるものの、やはりミステリだと思う。
悪魔崇拝者の正体など、手がかりとなる伏線があちこちに張ってあったりして、手法的には絶対にミステリ。
逆に、その分、ホラー文庫に入っていても、決して、怖くはない。

道具立ても凝っていて、今回の目玉は水圧オルガン(ヒュドラリス)だ。
うわあ凄いもん出した、と、そのセレクトにまず感動した。
なかなか思いつかないでしょう、この水圧オルガンは。
私は音楽史の書籍上でお目にかかった事しかないし、それだって大きく行数を割かれていたわけではない。
ちなみに、さらっと検索してみたところ、さすが。YAMAHAのサイト が一番詳しいようだ。
どんな音がするのか、切に聞いてみたい。
作中、ロベルトが、水圧オルガンの演奏方法がわかった、とうっとりしているシーンはとても共感する。

奇跡の種明かしなどもこのシリーズの醍醐味のひとつだが、正直、2巻~3巻より、本巻の方が仕掛けも面白く、ストーリー展開もわくわくさせられる。
まあ、仇敵となったかの人も、また登場してくるのだろうけど。


バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年7月25日初版
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2011-07-25 19:36:09

『宗像教授異考録 (15) 』

テーマ:ミステリ

〈宗像教授伝奇考〉に続く、いわば宗像教授もの第2シーズンは本巻で幕を閉じる。
そのラストを実質的に飾るのが、大英博物館をめぐる物語だ。
本来一話完結式であるこのシリーズ中では「長編」といってもいい。(収録巻は14~15巻)。
博物館としては世界最大級の大英博物館!
展示品を堪能しようと思えば、一週間あっても足りないなどと聞く。
しかし、その一方で、世界中から、「大英帝国が略奪してきたものを展示している」とそしられる事もある。

遺物や美術品は、それが生まれた土地で展示し、研究すべきではないのかというのは、納得のいく意見であるけれども、ここで、宗像教授はそのような考えに異論を示す。
民俗学的にいつも大胆なアプローチを示す教授ならではと言いたいが、その意見は傾聴に値するものだ。
すなわち、博物館の役割とは、多種多様なものを一カ所に集めることで、多角的な学問的アプローチを可能とするものだという見方だ。
たしかに、文化というものはひとつの土地だけにとどまるものではない。
別の土地との交流によって発展変化していくものなのだ。
だからこそ、宗像教授のこの見方は説得力がある。

物語そのものは、アクションを含むミステリ仕立てとなっており、シリーズ中でも白眉の面白さだ。
他の物語のように、特定の遺物がテーマではないが、大英博物館という「場」そのものをテーマとして、みごとに宗像教授ものとしているのが面白い。

それもそのはず、巻末に付された短文によると、この大英博物館篇は、なんと、大英博物館側からのオファーによって誕生したものだという。
えっ、あの題詠は区部tかんが漫画を?
いやいや大英博物館だからこそ、なのかも。

物語の終わりで、宗像教授は日本をはなれ、イギリスの大学からの招聘に応じる事を明らかにする。
シリーズそのものはしばらく休止となるもようだが、第3シーズンが始まるとするなら、それはヨーロッパを舞台にしてのことだろうかと、ちょっと期待している。


宗像教授異考録 15 (ビッグコミックススペシャル)/星野 之宣
2011年3月3日初版
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2011-05-25 20:10:41

『死をもちて赦されん』〈修道女フィデルマ6〉

テーマ:ミステリ


ようやくシリーズの第1巻が登場するはこびとなった。
なぜそのような経緯となったのかについてはあとがきで訳者が述べているけれども、なるほどね、と思う。
フィデルマとエイダルフのなれそめなどは、確かに1巻で語られているわけだけれど、この1巻の内容というのが、日本人にとっては全くメジャーではない、イギリスの古代史に相当するうえ、アイルランドのキリスト教と、ローマカトリックの対決という、これまたメジャーでないものが背景となっていて、異国の読者にはかなりとっつきにくい条件となってしまっているのだ。
実際、まるっきり最初にこの巻から紹介されていたとしたら、うまく作品世界に没入できるかどうか、かなり疑問だ。
幸いにして、他の巻ですでにある程度の知識が身についているなら、フィデルマとエイダルフというキャラクターの魅力もあって、面白く読めてしまう。
実際、物語そのものはミステリであり、べつだん、宗教や歴史の事情を前面に出しているわけではないからだ。あくまでも背景ですよ念のため。

さて、フィデルマのすばらしいところは、彼女自身の存在を含め、周囲の意表を突くというところにあり、まさしくそういった観察と観点が、事件を解決に導くところだ。
しかし、彼女とて万能ではなく、たとえば昨今のアメリカ映画のように、体力的にもスーパーウーマンというわけでは決して、ない。
そこのところは、かなりの部分、エイダルフに補ってもらっているわけだけれど、エイダルフ自身、べつに武闘派というわけではない。本来、彼もまたフィデルマとは切り口の違ったところから、学識ある僧侶なんだけど……。
それにしても体力もあるし? という部分については、今回かなり、彼の前歴や個人的背景が明らかになって、これまた納得のいくものを感じる。
実に、出会ったその時から、彼らはいいコンビを作っていて、今回の舞台となる修道院の院長や王国の主にも、そのように評されているところが面白い。

ところで、今回ははからずも、殺人事件の背景としておかれている、アイルランドのキリスト教とローマカトリックの対決だけれど、その結果どちらが優勢となったかは、歴史上明らかだ。
アイルランド式のものは、すたれていく運命にあるわけだ。
しかし、アイルランドそのものも、ローマカトリックの国となったはるか後世、小戸はプロテスタントの国となったイングランドから、アイルランドがどのような扱いを受けるに至ったかは、トレメインが『アイルランド幻想』で、連作短編として描いている。
ケルト文明というと、黄昏と結びつけられがちなのだが、単に滅び行くものの美しさではすまない、痛切ななにかを感じさせるのが、トレメインの文章であるように思う。

死をもちて赦されん (創元推理文庫)/ピーター・トレメイン
2011年1月28日初版
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2011-05-22 18:56:57

『バチカン奇跡調査官 (3) 闇の黄金』

テーマ:ミステリ

地底というやつ、なにか怖いような魅力があるものだと思う。
洞窟といえば「探検」という言葉と強くなじむものだし、井戸というと、古く洋の東西で神霊に結びつけられるものであり、また、死者を埋めるという発想からか、おぞましいイメージとも結びつく。
ヨーロッパでは、このほかに、地底の小人の言い伝えがあって、そこから連想されるものか、地底にもそこをすみかとする人、あるいは人に似たものの国があるとい連想が湧くようだ。
キリスト教においては言うまでもなく、悪魔が投げ込まれた(または投げ込まれる)穴であって、地獄の素材する場所だ。
本巻は、そんな地底の世界が背景にある。

さて、前巻、前々巻を通じて、本シリーズはミステリだと私は述べてきた。
実際ミステリなのだが、冒頭で、「これから舞台となる土地」と、事件い過革rの深い因縁を本編とは違う登場人物いよって語らせるという手法は、どちらかというと、ホラーの作法にのっとっているようにも思う。
まあ、これは、主人公たちの肩書きが奇跡調査官であり、なんらかの事件からよびおこされた現象が奇跡かもしれないという事で現地に行く、という手続きをとっているためなのだが、その事件がまた、ホラーの様相を帯びているわけだ。

まあ、ホラーというものが、人智をこえた恐怖を示すのであるならば、奇跡というものも人智を超えているわけだから、同様の手法を用いてもなんら不思議はないのだろう。
しかし、今回はハメルンの笛吹きの類話と思われる、首切り道化師の物語というものがまず最初に出て来て、これがなかなか、ホラーの雰囲気濃厚なのだな。
しかも、そのエピソードのからんで登場する若者たちが、その伝説をネタにホラー映画を作ろうなどと考えるというのが、芸が細かい。
かててくわえて、この「恐怖」がもしも人間の演出によるものだとするなら、それはいかなる理由によるものなのか?
(奇跡とかではないのなら、やっぱり人間が企んだりしたことかもしれないわけだよ)。

つまり、恐怖の演出をする理由というものも、本巻では大きな役割を果たしていて、そういう切り口からも、手が込んでいるなあ、と思わせられる。

筋立てに関してはいうまでもないだろう。
前巻のラストで逃亡を果たしたジュリア司祭が、表紙から察せられるとおり再登場を果たし、シリーズ通しての敵役の地位を得たかに思われる。(余計なことだが、ふたりの主人公も敵役もそれぞれタイプの違う美形というのはサーヴィス満点だね)。


バチカン奇跡調査官   闇の黄金   (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年2月25日初版
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2011-05-21 09:25:08

『バチカン奇跡調査官 (2) サタンの裁き』

テーマ:ミステリ

悪魔の誘惑というと、ごくごく普通の人が常に狙われやすいような錯覚があるように思うのだが、考えてみればこれは間違いなのだ。
イエスもシャカも悪魔に誘惑されている。
そう、高徳な人ほど、実は誘惑されるのだ。
そりゃあ、悪魔にしてみれば、そういう人ほど、落とし甲斐があるわけだよね。魂を手に入れるという場合だって、そういう魂の方が断然価値があるに決まっているし。

本巻には、複数の誘惑が登場しているけれども、はたして悪魔は、誰を最も狙いたかっただろうか?

さて、今回も仕掛けはなかなか複雑で、医療による伝道、中世の修道会の一部が、どのような事を追求していたのか、現代の予言ショー(欧米ではわりとあるらしい、日本の有名占い師などとある意味似たようなものなのだろうか)、悪魔だけでなく人間の陰謀も複雑にからみあっている。
それだけでミステリとして非常に面白いのだけれども、そこにご都合主義ではない宗教(しかも陰謀論ではない)を絡めているところが秀逸。

そう、宗教団体にいわば裏組織のようなものを絡めて、ミステリだのサスペンスだの冒険小説に仕立てるのはよくある話なのだが、このシリーズは、裏組織などを安易に持ち出さず、そこのところは真っ向勝負をしているのが実にいいのだ。


バチカン奇跡調査官 サタンの裁き (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年1月25日初版
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2011-05-10 19:28:11

『バチカン奇跡調査官 (1) 黒の学院』

テーマ:ミステリ

先日、文庫の最新刊(第3巻)が出たばかりの本シリーズ。
角川ホラー文庫に入っているのだけれど、むしろこれはミステリだ。
神の奇跡という意味でのミステリ、
歴史上の謎にせまるという意味でのミステリ、
そして連続殺人事件にかかわるというミステリ。

どの面からみても、大変面白いミステリなのだ。

そもそも、バチカンという場所そのものが、ミステリであるとも言える。
現世における(カトリックの)神の家であり、その昔からさまざまな文書や秘密が集積されているだけでなく、それらが厳重に門外不出のものとして、秘匿されているそうだ。
(公開されるのは、充分に消費期限が過ぎてからだ)。

また、その神聖さは、現世の権力に「触れてはならぬ」と強力に主張しているわけだ。
独立国なんだけど、まるごと、聖域というわけ。
にもかかわらず、組織であり、国家であるから、いくら神聖な神の家であるとしても、どうしたって生臭い部分も出てくる。
数々の修道会、信徒に含まれる数々の民族(かれらが属する国家)、そのためバチカンとて一枚岩ではない。
一枚岩ではないということは、それなりに権力闘争などもあるし、なにかしら暗い部分もある。

というか、秘密とされている部分が多ければ多いほど、バチカンならずとも、部外者に勘ぐられてしかたがないとお言える。
隠されていればいるほど、想像の余地があるということで、従ってフィクションのネタとしても、魅力的と言えるのだろう。

本シリーズは人種の異なるふたりの神父が主人公だ。
彼らの肩書きが奇跡調査官。
つまり、「これは神の奇跡だと思うんです!」というリポートを現地調査して、ほんとうに奇跡なのか判定する仕事をしている。まあ、報告した人に悪気はなくても、熱心な宗教心がこうじて、実は単なる自然現象であったものが、奇跡と報告される事はまま、あるらしい。
実際、本巻にもそのような事例が登場する。

奇跡なのかどうかというのを解き明かすだけでもなかなか面白いけれども、それはあくまでも脇の小ネタであって、彼らの肩書きを表看板に、もっと大きな、そして深刻な謎を解き明かすというのが本筋となっているのだ。

さきに述べた複数の「ミステリ」が実にうまくからみあっていて、
複数の登場人物の視点を比較的頻繁に切り替えて話を進めるという手法が、そこにぴったりとはまっている。

また、第1巻にあたる本巻の舞台が、僻地に設立された全寮制男子校であり、それが修道院の付属施設であるというのも、つかみとしてはばっちりだろう。

あー、ただ、バチカン、神父、全寮制男子校、オカルト、というミクスチュアが表紙の絵とあいまって、なんとな~くBL風味を感じさせられてしまい、私はしばらく避けていたというのはあるんだが、結果的にその心配はほとんどいらなかった、と言っておこう。
(うん、ほとんど。つまり、わずかながらそういう風味は、あると思う)。

コンビを組む二人も、意気投合しているようで、ちぐはぐとすら言えそうな部分もあり、この作者はほんと、いろいろなものを意外な形で組み合わせるのが得意なのだなあ、と感じた。
だからこそ、面白いんだな。


バチカン奇跡調査官 黒の学院 (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2009年12月25日初版
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2011-01-21 20:27:37

『十角館の殺人』〈館シリーズ1〉

テーマ:ミステリ

綾辻行人といえば、館シリーズという気がするが、その祈念すべき第一作にして、ヒットをとばしたのが、本巻、『十角館の殺人』であったかと思う。
言うまでもなく、これをもって、作者は新本格のベスト5くらいには、いきなり躍り出たと言っていいだろう。
うん。
綾辻行人と、十角館というと、どうしてもついてまわるのが、この「新本格」という言葉だ。
最初に聞いた時から、なんか釈然としないなあ、と思っていたのだ。
新本格って、どこらへんが「新」なのだろう?
「本格」ではいけないんでしょうかね。

さて、本格といえば、密室殺人。
どのゆに「密室」を造り上げるかというのが、作者の腕のみせどころだ。
しかし、逆に、「このタイプの密室でやろう!」というのもあって、そういうテーマのひとつが「嵐の山荘」というやつだ。
嵐なり、吹雪なりに降り籠められたへんぴな土地の建物に、複数、まあ10人前後だろうか、そのくらいの人々が居合わせて、その中で連続殺人が起こるというやつ。
ただし、日本を舞台とする時、地理的な条件からか、むしろ、孤島が使われる事の方が多いようで、本作もまさしく、そのような孤島が舞台となっている。
そうなると舞台として好適なのが、西日本の太平洋側という事になるのだろうか。
島が多いだけではなく、昔から人が住んでいたところも、いつのまにか住人がいなくなったところも、そもそもの無人島もありそうで、そのうえ、「絶海の孤島」ではない。
なかなか面白い条件が設定できそうだ。

本作はまさしくそういう地理的条件のところに、風変わりな建築家がたてた風変わりな建築物というのがからんでいて、それだけでも食指をそそってくれる。
難を言うなら、建築家がからくり仕掛けが好きだった、という設定なのに、期待するほどからくり仕掛けが出てこない事だろうか。
おそらくは、そういった仕掛けがたくさんしつらえられていただろうと想定される青屋敷が、物語の頃にはすでに焼失してしまっているというのもあわせて、残念なところ。
(もっとも、シリーズを追っておくと、本当にいろいろなしかけのある建築物は後から出てくるわけだけれども)。

あえて難を言うと、密室としての「孤島」の作り方がちょっと甘いなあ、と感じるのと、探偵役が曖昧であるという事。
まあ、探偵役については後の作品も同様のものが多いようなので、綾辻行人作品の特徴と考えるべきかもしれないのだが。


十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)/綾辻 行人
2007年10月16日新装改訂版第1刷
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2011-01-14 17:05:06

『時計館の殺人』〈館シリーズ5〉

テーマ:ミステリ

むかしむかし、西洋の時計には針が1本しかなかったという話を聞いた事がある。
つまり、分単位、秒単位などを使う必要はなかったという事だ。
それより前は、西洋とて不定時法が使われていたようす。
つか、キリスト教の聖職者が、決められた時刻にお祈りをする必要ができる前は、不定時法がおそらく便利だし、現実的だったんだろうね。

それというのも、考えてみればいい。
人間は生活のリズムを自然のリズムにあわせて生きていたはずだ。
太陽の出ている間に働き、夜は基本的に寝る。
最も良く時刻を指し示してくれるのは太陽なのだから、太陽の位置によって時刻を判断するのが当たり前だ。
ゆえに、不定時法こそが自然とも言う事ができる。
そして、不定時法というやつは、地球の地軸が傾いているせいで、季節によって1時間の長さが変わってしまう。

我々は、今でこそ、1時間の長さは全く同じものだと思っているけれど、実はそうとも限らないわけだね。

さて、このシリーズはある変わった建築家が設計した風変わりな館が事件の舞台になるというコンセプトであって、探偵役となる人は共通としても、その都度主な登場人物は変わるし、全体の雰囲気も微妙に違うと言えるだろうか。
(ここの部分をおさえておきさえすれば、シリーズのどこから、どれだけ読むのでも問題ない)。
雰囲気はおおむね、タイトルに示されている通り。
特に本作は、「時計」とあるように、最初から最後まで時計時計、さまざまな時計のオンパレードだ。
しかも、時計と、時計が計量する時間というものが、うまく使われていて、面白い。

但し、タイトルから想像されるほど、時計に関するうんちくはかたむけられていない。
むしろ、時計という道具そのものより、その機能に焦点があてられているからなのかもしれないけれど。
でもせっかく時計のコレクションが出てくるのだから、もう少し、うんちくがあっても良かったんじゃないかと思う。
そう、館の中に108個もあると語られる時計がどのようなラインナップなのかはほとんど紹介されないのだ。
わずかに、和時計を収集した部屋があるというのが出てくるくらいだろうか。
(ここで、不定時法についてもちょっと触れられている)。

読後の印象でいうと、犯人の動機付けがちょっと弱いのが気になる部分。
この人物の生活環境や事情から、まあわからなくはないかなあ、とも思うけれど、あくまでも探偵焼くの視点から犯人の事情が語られるために、いまひとつその動機に共感しにくいのだ。

そして、本筋にはまったく関わりがないけれども、読んでいてなんか気になった点がひとつ。
個人の屋敷、それも裕福な人がたてて一時は生活していたような屋敷で、紙ナプキンが出るものだろうか?
あれって多数の人が訪れるレストラン(しかも高級ではない)で、便宜的に使われるものだよね。
こういう雰囲気の館ならば、紙製ではない、普通の(というか上等のリネンの)ナプキンが使われるんじゃなかろうか?
ささいな事なんだけど、こういう点が雰囲気を壊してしまうので、実に残念。


時計館の殺人 (講談社文庫)/綾辻 行人
1995年6月15日初版
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2010-12-31 21:53:49

『モルフェウスの領域』

テーマ:ミステリ
時代は今よりほんのちょこっとだけ未来・
ちょいと顔見せする田口公平も、すでに五十がらみだが、白髪が多くなりながらも高階院長は健在、つまり東城大学病院の主な面々はだいたい健在ということのようだ。

物語は、病院そのものがメインの舞台ではないし、それを言うと、医療そのものがテーマとも言えないかもしれない。
というのは、これ、コールドスリープの問題を扱った物語なのだ。

微妙だよなあ!
コールドスリープというと、どうもSFのものと思われそうだし、SFファンにとってみれば、何をいまさら? なギミックでもある。
まあ、なんというか、SF的にはすごくあたりまえに扱われてしまうものなんだけど、現実の社会では「まだ実現とかしてないよね?」なもの。
まあ、でも、作者が海堂尊であるなら、やっぱ医療的に扱うのではないか?

いやいや、それは間違いだ。
たしかに、海堂尊作品は病院を舞台にしていて、医療におけるいろいろな問題点を浮き彫りにしてきてはいるけれど、まずエーアイをテーマにあげたように、医療に属する問題と、社会との関係が作品の根幹にあると考えるべきだ。
従って、この作品も、コールドスリープが社会的にどのように影響し、どのように社会から扱われるのか、という問題が中心となっている。
どうだ、面白くはないか?
そんな視点からコールドスリープを扱った作品は、多分、全くないと思うのだ。

海堂尊の物語の、複合性を見るならば、本作は、『ナイチンゲールの沈黙』の未来にあたる。
高階、田口、島津あたりはほぼかわらない様子と見えるが、一方、猫田・如月といった看護師たちにはいささかの変化が見られる。
東城大学病院はいろいろと試練にさらされてきているが、まあ、「今でも健在だ」という事だね。
そして、時の流れは、そんなところにも容赦なく流れているということ。
ただ、コールドスリープに入っている人物は……当然ながら、時の流れから切り離されていると言える。
それを言えば、社会からも切り離されているわけだ。
そう、ここが作品のキモ。

コールドスリープした人と社会の関係性。
そこを見る限り、今までSFが扱ってきたコールドスリープの問題より、ずっと深く掘り下げてあって(まあ、作者と作品の立ち位置がもとから違うというのはあるんだろうけど)、非常に面白い。
これはミステリファンというより、SFファンに一読を勧めてみたい。


モルフェウスの領域/海堂 尊
2010年12月15日初版
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