2011-12-10 13:00:43

[聖竜戦記 1~5]〈時の車輪2〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ


ロバート・ジョーダンという作家が、異世界の構築者として、そしてストーリーテラーとして実に巧みだと思ったのが、この第2巻(翻訳では第2部)であったかと思う。

まzぅ、異世界の構築力という部分。
人間にとってはどうしても、自分が生まれ育った文化圏の視点から離れる事が難しい。
たとえば、自分の国の事であってさえ、歴史上の人物や事件について、どうしても、「現代人の視点」で判断してしまいがちである事を考えてみればいいだろう。
もちろん、他の文化圏に対しても、お互いに同様の事をする。
その点、ジョーダンは極力それを避けているように思われる。

たとえば、この時点でのアミルリン位であるシウアン・サンチェという人物像は、その努力が顕著にあらわれている。
努力されすぎていていささか鼻につくほどなのだけれど、彼女は、漁民の娘であった、という設定があり、このためシウアンは、魚を常食とする暮らし、日常船にのっている者としての表現を多く使っている。
それだけでなく、決して、農民であったり、牧畜をする者がするような表現は使わないのだ。
思えば、トゥ・リバーズ出身の者たちも、山間の村で羊などを飼う農民であることを強くにおわせる表現を用いていた。「頭の中に羊毛がつまったような愚か者」などは、頻繁に出て来た事が思い出される。
もちろん、逆に、他の国出身のキャラクターは、そんな表現は使わない。
モイレリンにしろ、エレインにしろ、その人物が歩んできた「それまでの人生」がきっちりと設定されていて、それに応じた言動をきちんととっている事もわかる。

そして、重要なポイントは、そういった「裏設定」がくどくどと説明されていないというところだろう。
シウアンはどこそこの出身でどういう暮らしをしていたから、こういう風にふるまう、といったスタイルの説明はない。
むしろそのあたりは完結に、「こう一言書いておけばわかる」的なシンプルさで、だからこそ余計にリアリティが増す。
そう見ていくと、この物語の文章は、実に緻密に練られたものだと思う。

もちろん、完璧だというわけではない。
たとえば、誰も絶対力が使えないはずの安息の地で、ヴェリンは、治療の技らしきものを一瞬使ってしまっている。まあ、ときにそのくらいの穴があった方が、いいのかもしれない。

こういった緻密さは、もちろんいろいろな国々や民族の描写にもあらわれている。
この世界を構築するにあたって、ジョーダンは、従来のファンタジイで定番の、ケルトや古代ヨーロッパのモチーフの他に、ロシアや日本などのものも取り入れているという。
根気大きな役割を果たす境界地域のシエナール王国などは、かなり日本のモチーフが取り入れられているのではないかと感じる。
一種の髷を結っている戦士たち、片刃の剣(ということは、厳密には、剣ではなく刀)、などなど。
しかし、これもまた、露骨に日本風なわけではない。
うまいことそういった要素を用いる事で、オリジナリティを出しているところが、良い。

一方、ストーリーテリングとしてはどうだろう。
これは、単純な正邪対立の物語でも、若者たちの成長物語でもない。
後に、アル=ソアが、あるいはエグウェーンが疑心暗鬼に狩られるとおり、ごくごく普通の人たちや、時には周囲が認める立派な人々の中にさえ、「闇の信徒」が立ち混じっているという想定はなかなか怖い。
なかには、最初から闇の臭いがぷんぷんしているキャラクターもあり、「えええっ。マジで? この人がっ?」というような人物もある。
実際、ここでも、まさかこの人がというような人物が、闇と関わり合っていた事がわかる。
すなわち、闇の信徒にもさまざまなスタイルの者がいて、闇王との関わり合いかたも千差万別であるところが、登場人物だけでなく、読者をもうまく煙に巻き、複雑で魅力のあるストーリーにしているわけだ。
それが、シエナールのように、それぞれオリジナル性の豊かな国々を背景に展開するのだから、面白くないわけがない。

ショーンチャン人の、飼い主(スル=ダム)と女奴隷(ダマネ)の関係も面白い。
絶対力を使う事ができる女性を腐りにつないでしまい、その人権も無視するという背景には、ちゃんとこの世界の歴史が理由として存在しているのだけれど、ラストのところで、飼い主の実態が解明されると、その忌まわしさがさらに浮き彫りとなる。
この、多重構造を持つ設定も、ジョーダンお得意の仕掛けのようだ。


聖竜戦記〈1〉闇の予言―「時の車輪」シリーズ第2部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
聖竜戦記〈2〉異世界への扉―「時の車輪」シリーズ第2部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
聖竜戦記〈3〉異能者の都―「時の車輪」シリーズ第2部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
聖竜戦記〈4〉大いなる勝負―「時の車輪」シリーズ (ハヤカワ文庫FT)/著者不明
聖竜戦記〈5〉復活の角笛―「時の車輪」シリーズ第2部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
1998年7月~1999年3月
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