『熱海湯けむり』〈鎌倉河岸捕物控18〉 | 手当たり次第の本棚

『熱海湯けむり』〈鎌倉河岸捕物控18〉

しばしば、旅行記のような様相となる佐伯作品だが、今回も江戸時代の熱海の様子が存分に描かれている。
物語そのものは、江戸と熱海の二面展開なのだが、タイトルからしても、断然熱海に偏っていると思う。
だいぶ前から熱海は湯量が落ちているという話を聞いた事があるが、できることなら、ここに描かれている盛大な湯の噴出を見てみたいものだ。
江戸の人ならずとも、さぞや壮大な光景であったことだろう。

そんな温泉のパラダイスにもいろいろと事情があるということで、けっこう生臭い話に一行は巻き込まれてしまうのだが、旅行先でも事件にかかわらずにはいられない宗五郎、なんだか刑事物ドラマのスペシャル版のようだ。

一方、江戸での事件は意気消沈していた亮吉が意外な冴えをみせたり、これはこれで、ちゃんと見所がある。
それでもやっぱり、熱海の派手さというか、晴れ晴れした光景に比べて、地味な感触は否めないのだが。

とはいえ、宗五郎一行もようやく江戸へ帰着するので、次からは再び二世代そろっての物語となるのだろう。
どんな事件が起こるのか、ちょっと楽しみ。


熱海湯けむり (ハルキ文庫 さ 8-35 時代小説文庫 鎌倉河岸捕物控 18の巻)/佐伯 泰英
2011年5月8日初版