2010-03-10 23:12:15

『ナラベドラの鷹』〈ダーコーヴァ年代記・外伝〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ
手当たり次第の本棚-ナラベドラの鷹

翻訳に際して、ダーコーヴァの外伝と銘打たれた本作だが、はたしてそうだろうか。
実は、ダーコーヴァとの関連性は、アメリカのファンの中でも一部の人が関係性を認める(つまり、そういう説もある)という程度のもので、作者本人は、そもそもダーコーヴァものをシリーズと呼ばれる事を嫌ったという事情もあり、何もコメントしていないのだそうだ。

きっぱりと言ってしまえば、これはダーコーヴァと呼ぶにはあたらないと思う。
もうひとつ、外伝として紹介された『時空の扉を抜けて』は、同じ地球帝国が支配する宙域の閉鎖惑星という共通性があったけれども、本作ではそれがなく、ただ、単に、物語中の登場人物が、ザンドルやオルドーンといった、ダーコーヴァと同じ神々の名を口にするという、ただそれだけだ。

そして、名前については、MZB、あまり工夫をこらしていないという印象が私にはある。
たとえば、ダーコーヴァの中だけをとってみても、相互に関連性のない人物に、男性ならアンドリュー、女性ならマルガリータ、双方の変化系を含め、同じ名前が繰り返し使われている。
『禁断の搭』のアンドリュー・カーと、のちにケナード・オルトンの時代、筆頭コリドン(執事)としてつかえた地球人のアンドレスが、本来は同一の人物としたかったのではないかと思われるケースはまだしも、ほとんど時代的にはなれていないのに、ルー・オルトンの妻となったマージョリーと、地球帝国の現地調査員マグダ(マルガリ)などは、全く関係のない女性だ、という風に。
したがって、同じ神々の名前が使われているからといって、ナラベドラがダーコーヴァとなんらかの関係を持っているとは考えにくいのだ(むしろ、ナラベドラは、遠い遠い未来の北アメリカに位置するという示唆があり、そちらの方がしっくりとくる)。

あまりにもかけはなれている世界観のため、ダーコーヴァの外伝として読むには、違和感が非常に大きい。
むしろ、全く別個の作品として読んだ方がずっと楽しめる。

さて、舞台はあくまでも地上であって、宇宙空間は全く関係がないとはいえ、ある企みにより、遠い未来からの操作で、第二次大戦にも参加したことのある電気関係の研究者が、未来のとある権力者の肉体に宿らされてしまう。
このシチュエーションは、MZBが強く影響を受けたと思われるエドモント・ハミルトンの『スター・キング』を彷彿とさせる。

しかし、主人公が宿らされる人物は、決して単純に正義の味方となれるような人間ではなく、ある意味では裏切者だし、ある意味では邪悪な力の犠牲者でもあり、邪悪であるように見えて、実は善の種も持っているという、かなり複雑な人物なのだ。
ここに、むしろ単純な性格のアメリカ人が入り込む事で、状況は混沌としてしまう。

形もさまざまな異星人のかわりに、老いた僧侶を思わせるドリーマー(一種の魔法使い)や、常にヴェールに身を隠した謎めいた人物など、登場人物は充分にエキゾティックだ。
また、「飛ぶ」ということに常に魅惑されているMZBらしく、一種異様な羽衣によって、機械の鷹に精神をやどらせ、空を飛ぶ描写は、幻想的だし美しい。

また、『時空の扉を抜けて』に登場したトイメーカーのエヴァリンと同じプロフィールをもつ、トイメーカーのエヴァリンなる人物が登場するが、こちらのエヴァリンの方がより詳しく描かれている。
科学、あるいは疑似科学の技を使って、この人物がドリーマーを操る方法を考え出したとされているのだ。
また、そのために用いるのが、彼の作り出した魅惑的な小さいアイテムで、トイと呼ばれるものだ。

同じく、トイが、惑星ウルフにおいて、人間の精神を操るものとして登場していたが、それを言うなら、ダーコーヴァのマトリクスもまた、本来はチエリが幼い子に力の使い方を教えるためのおもちゃとして使われたものだ、とされていた。
おもちゃと、魔力。
つまりこの組み合わせ、MZB作品の中には繰り返し出てくるモチーフなのかもしれないんだけど、なぜ、その組み合わせを作者が思いついたのかはどうもわからない。

ともあれ、ナラベドラはダーコーヴァのようにサム過ぎもしなければ、ウルフのドライタウンのように暑すぎる場所でもなく、七色の魔法の搭を中心にした、色彩豊かな美しい場所だ。
SF味もあり、ファンタジイ色もある、むしろ「幻想譚」と呼びたくなるような佳品だと思う。


ナラベドラの鷹 (創元推理文庫―ダーコーヴァ年代記・外伝)/宇川 真実子
1987年4月24日初版
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