『陽炎』〈東京湾臨海署安積班〉 | 手当たり次第の本棚

『陽炎』〈東京湾臨海署安積班〉


安積警部補シリーズは、ここから第3部に入った、と言えるだろう。
最初のベイエリア分署、その後神南署に移ってからが第2部、そしてベイエリアに戻ってきて第3部という分け方になる。
このうち、神南署時代の物語が、ベイエリア分署当時とはスタンスもスタイルも違うという話をすでにしたが、ベイエリアに戻ってきたからといって、ベイエリア分署時代と同じスタイルに戻ったというわけではない。

たとえば、最初のベイエリア分署ものは3冊とも長編だったわけだが、ここでは、神南署時代と同様にオムニバスの体裁をとっていたりする。

さて、この安積警部補もの、作者がエド・マクベインの〈87分署〉を意識している事はあからさまと言っても良いほどで、そこに触れている解説は多い。

しかし、警察組織の違いだけでなく、そもそも、アメリカと日本では社会事情も文化も全く違う。
同じように警察小説を群像ドラマで描いたとしても、大きな違いが出てしまい、実は、喧伝されるほど87分署的ではない、と私は思う。
それは、オムニバスという形式でさらに強く浮き彫りにされている。

というのは、日本には、このような短篇を連ねた方式で組織が犯罪捜査をするシリーズが既に存在するからだ。
何をかくそう、池波正太郎の〈鬼平犯科帳〉だ。
表舞台である南北の江戸町奉行に対して、イレギュラーな火付盗賊改が主役であり、
鬼平を中心に、様々な同心や密偵たちの活躍を描いているところ、
これによっていろいろな「人間」を描いているところ。
どうだろう、かなり共通点があるように見えないだろうか?


陽炎 (ハルキ文庫―東京湾臨海署安積班 (こ3-16))/今野 敏
2006年1月18日初版