『ガーディアン・エンジェル』〈V・I・ウォーショースキー8〉 | 手当たり次第の本棚

『ガーディアン・エンジェル』〈V・I・ウォーショースキー8〉

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ヴィクは、時として……いや、しばしば、ヤマアラシのように付き合いにくい女性になってしまう。
ことに、誰かが(彼女にとっては過剰に)自分のことを心配してくれる時が、そうだ。
まあ、そうでなくとも、かなり自分本位なところのある彼女なのだが、このヤマアラシ的な反応が、余計にそう見せているという事もある。

しかし、彼女は相当にお人好しでもあり、今回は、そのお人好しさ加減が、ヴィクを重大な危機におとしいれるのだ。
とある工場で大立ち回りを演じたり、激しいカーチェイスのあげくトレーラーにひき殺されかけたり、まさしく、ヴィク版ダイ・ハードだ。

しかも、あれほど親密だったロティとの仲にヒビが入ったり、ミスタ・コントレーラスが驚くべき告白をしたり、ロティのところで働いていたキャロルがびっくりするような転身をしてみたり。
彼女が日頃親しくしている人々との関係に良くも悪くも波風がたち、さらにヴィクの前夫で、何かというと互いにいがみあっているディック・ヤーボローが、ヴィクの巻き込まれた事件に大きく関わっていくというおまけつきだ。

そんな中、ヴィクとミスタ・コントレーラスの愛犬、ペピが子犬を産み落としたり、
近所で嫌われものになっている犬好きの老婦人の面倒をヴィクが見ることになってしまったり、
微笑ましいような、呆れて笑っちゃうようなエピソードもはさまるのだが……。

なんと、その犬の話まで全てふくめて、最後はみごと、ひとつの大きな絵になるのだから、今回の筋立ては見事というほかない。
勿論、長いシリーズのこととて、幾つかの人間関係は、後へ尾を曳く事になるが、それはそれ。
全てがまるくおさまってしまったら、シリーズもこれで終了かと思ってしまうところだからね。
ちょうどいいのだろう。

メインとなる事件の骨組みは、債券飛ばしという手法を使ったもので、またまた、これまでにないタイプの問題となっている。
ここらへんも、二度と同じ金融事件にならないというのが、作者の腕のみせどころで、感心させられる。

こうまでうまくできた、シリーズ中でも指を折るにたる作品なのに、残念、現時点では手に入りにくい様子。
シリーズは今も訳出が続いているということなので、本巻も、すみやかに入手できるようになってもらいたいものだ。


『ガーディアン・エンジェル』(サラ・パレッキー作/山本やよい訳) ハヤカワ文庫HM104-10
1996年4月30日初版