2006-05-25 22:24:00

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』

テーマ:海外SF・ファンタジイ
ローリングは、実に、張った伏線を活用するのが巧みな作家に思える。
たとえば、3巻から登場し、5巻まで大いに活躍するシリウス・ブラックだが、今回改めて再読すると、1巻冒頭で、ハグリッドが駆っていたオートバイは「ブラック家のシリウスから借りた」事になっているではないか。
「お~」
「ほ~」
「ふぅ~ん」
というようなシーンは、他にもいろいろと、ある。

かように、断片をばらまき、再構成する事が巧みであるということは、おそらくミステリを書かせてもうまいだろうなあ、などと思いつつ(笑)。
最新巻は、その「分断と再構成」の力を存分に作者がふるった物語である。

それは、まず、かの闇の帝王が、魂を分割してさまざまなところに隠しているという仕掛けから始まる。
(実はそのうちのひとつは、すでに前の方の巻で物語られていたのだ!)

魂を自分の肉体から抜きだして別のところに隠し、そうする事で、一種の不死身性を持つという方法は、ヨーロッパ、とくにイギリスの民話にしばしば登場する。
たいていは、「悪い巨人」や、「邪悪な魔法使い」が、そのようにして自分の命を守っているのだ。
しかし、それらは、たいてい、ひとつの魂を一箇所に隠すんだよなあ。
容れ物を入れ子状態にしている事はあっても、隠すべき魂はひとつ。

しかし、ローリングはそれをちょっとひねって、魂をまさしく切り貼りさせてしまう。
そして、「それをやった」という推測につながる証拠として、ハリーはダンブルドアとともに、ヴォルデモートまたの名トム・マールヴォロ・リドルの生い立ちを、断片的に追いかけていく事となる。

ミステリを書かせてもうまいだろうと言ったが、この過程は、まさしく、ミステリで探偵が犯人の足跡を追うのと、ほとんど変わらない。
スリリングであり、サスペンスであり、また、不思議と、ヴォルデモート=トム・M・リドルを知るほどに、やるせなさも感じてしまう。

以前、ローリングは、物語が進むにつれてどんどん暗くなるという事をインタビューで述べているそうだが、まさしく、最終巻で実現されるであろう、ハリーとヴォルデモートの最後の対決に向けて、物語におけるハリーの周辺は、どんどん、暗く厳しいものになっていく。
ヴォルデモートの事を知るというのは、必要不可欠な、いわばハリーにとってのイニシエーション(成長儀式)なのだ。
今までハリーを陰から支えてきた大人たちが、ひとり、またひとり、ハリーから奪われていくだけでなく、
最後にハリー自身、ヴォルデモートとの対決に向けて、最も大切な人(人々)に、別れを告げなくてはならなくなる。

それは、ある意味で、かつてトム・リドル自身が言ったように、若き日のヴォルデモートと非常によく似たプロセスかもしれない。

しかし、ダンブルドアはハリーを導きながら、予言されている二人の対決について、繰り返し述べている。
それは、予言されたから成就するのではなく、あくまでも、人がみずからの選択の結果として、行わなくてはいけない、という事だ。
たとえ結果的に、それが予言の通りであったとしても、あくまでも、「個人の自由意志で成し遂げられた」という事が重要なのだ。

なぜだろう?

まず第一に、彼らが学び、日々研鑽している魔術というものは、「意志(精神)の力を原動力とする」というのが理由としてあげられるだろう。
実際、ハリーたちは6年生となって、呪文を口に出して唱えず、無言で魔術を行う訓練を開始する。これはまさしく、意志力で事を行っているというあらわれだ。
また「姿現し」の魔法の練習でも、まったく同じ事が説明されている。
「どうしても、どこへ、どうやって」の3Dの、トップに、「どうしても」というのがあるよな。
どうしても絶対、やらなくてはいけない、という意志力が、魔法の原動力なのです。

呪文があるから、
儀式があるから、
杖を定められたとおりに振っているから、
予言があるから。
それで魔法が成就するのではない。
まず何よりも、それを為そうとする「意志力」がなくてはならない。

そして、なにかを為そうとする意志力を強く持つことは、たとえ魔法使いでなくとも、人間として最も重要な事ではあるまいか。
また、それをなし得る事が、「独り立ちの大人になる」という一面なのだ。

ところで、そういうメインストーリーと絡むもうひとつの謎が、今回はタイトルとなっている。
すなわち、謎のプリンス(THE HALF-BLOOD PEINCE)。
ハリーがほんの偶然手に入れた、古い教科書の元の持ち主で、教科書にこの人物が細々書き込んだ事のおかげで、なんとハリーは、あの魔法薬学で、クラスのトップに躍り出てしまうのだ(笑)。
まあ、担当教師もスネイプではない、別の人になっているんだけどね。

しかし、いったい、プリンスとは何者なのか?
その手がかりが、全くないまま、ハーマイオニーはだんだんとプリンスへの反感をあらわにし、
ハリー自身はプリンスの記述にのめりこんでいってしまう。

ハーマイオニーによるプリンスの正体あばきも、なかなかミステリっぽくて面白いが、
何よりも、その正体そのものに、
「もしかしてあの人が……あの人が……あの人が……ああやっぱり!」
という、ミステリというより、むしろホラーに近い、スリリングさが潜む。

いつもながら、シリーズ全てを一本の糸で貫きとおす本筋の他に、各巻ごとの仕掛けがうまくサブストーリーとして絡んでいくところは、実にストーリーテリングとして巧みだと言うほかはない。


J. K. ローリング, J. K. Rowling, 松岡 佑子
ハリー・ポッターと謎のプリンス ハリー・ポッターシリーズ第六巻 上下巻2冊セット (6)
2006年5月17日新刊
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コメント

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16 ■こちらこそ

>新歌さん
読者登録ありがとうございました。
時々、絵本もとりあげてます(笑)。
今後ともどうぞよろしく。

15 ■ありがとうございます

TB失敗してしまっていたのですね。
お知らせに来ていただきありがとうございました^^
読者登録させていただきます♪
どうぞよろしくお願いいたします。

14 ■新歌さん、歓迎します

いらっしゃいませ。TB……おっと、残念ながら通っていないようです(汗)。最近のアメブロの状況を考えると、アメブロ側のせいである可能性がかなり高いです(他の方からもTBできなかったというリポートをいただいているので)。
絵本もいいですねえ。
買い出すときりがないのが、困ったところです(笑)。

13 ■はじめまして

ブログ「えほんのまいにち」の新歌と申します。
私もハリポタ6巻読了いたしました。
ネタばれせずに、記事を書くことの難しさを感じましたが
とらさんの記事は、とてもわかりやすく、なおかつ読みたくなる文章ですね^^
駄文ですがTBさせてください。

最近は絵本にとどまらず、私のぼちぼち読書もとりあげたりしております。
選書の参考にさせて頂きたいので、またちょくちょくお邪魔させてください。

お時間ありましたら私のブログへも遊びにいらしてください^^
どうぞよろしくお願いいたします。

12 ■最終巻のハリー

とむぼんさん、いらっしゃいませ。
6巻ラストでは、いよいよハリーは一人でヴォルデモートと対決する覚悟を決めるわけですが……。
しかし、ほんとうに単独で戦うという展開にはならないだろうと期待しています。
ガンダルフのように、「あの人(たち)」が華々しく復活してくれたら、もう最高ですね。

11 ■ハリーの成長

ハリーは大切な人々を失って、頼る支えもない身でヴォルデモートと戦わなくてはならないんですよね。
(心には友情も愛もあるんですけど。)
寒風にさらされるような立場に置くなんて
作者も酷な事をするなぁと思ってしまいました。
ガン爺のようにパワーアップして復活してくれないかなぁ・・・。

10 ■映画化どうするの!(笑)

明るい空さん、いらっしゃいませ。
実は私も、1巻が出た当時は、全く、かっていませんでした。
本を読まない子供でも手に取るようなすぐれたジュヴナイルならそれはそれでいいんじゃないのか、くらいに思っていたのです。
1巻だけ、ぱらぱら読んだ時にはいまひとつ心をそそられなかった、というのもでかい。
これは面白いかもな、と思い始めたのは、3巻くらいからですね。で、改めて1巻から携帯版で買ったのでした。

9 ■先が読みたくなる

つなさん、いらっしゃいませ。
トラ返ありがとーです。
いよいよあと1巻ですよ!
……どんな物語になるのだろう。
大筋は想像がつくような気がするし、いろいろ細かいところで予想もつかぬどんでん返しがある事も期待したいし(笑)。

8 ■ウィーズリー一族

喜八さん、いらっしゃいませ。
そういえば、ウィーズリー一族って、本来はポッター一家とは何の関係もないんですよね(笑)。
シリウスやルーピン、スネイプなどと違って。なのに、ほんの偶然の出会いから、思い切り巻き込まれた形になっています。
いったいあの一家は、どうなるのだろう。
パーシーの事もありますし、家族も、ジニーをはじめ、さりげなくひとりひとり、ヴォルデモート側の毒牙にかかっていますし……。
でも、この物語の中にあって、大変好きなキャラクター群です。とーくーにー、フレッドとジョージ(笑)。

7 ■騎士団のこと

ぴぐもんさん、いらっしゃいませ。
ほんとなら、騎士団についての本など紹介しつつ、もっとディープに書きたかったのですが、自分としては軽くはしょってしまいました(笑)。
でも、喜んでいただけたと聞いて、大変嬉しいです。
ローリングが、ハリポタの次に何を書くのか、今から気になりますね。

6 ■みゅーさん、歓迎します

■みゅー■さん、いらっしゃいませ。
またいつでもおいでください。
お好きな本の話題に参加していただければ幸いです。

5 ■良い意味で、だまされましてね

実はこのシリーズ最初はまぁお子ちゃま向けとしては御の字かなと思っていました。シリーズを追うごとに面白いかと言われれば、まぁ合格点。でも段々饒舌過ぎて映画どうするの?に変わり、この巻で、おぉそういう仕掛けだったからシリーズが終わらないうちに映画化の版権が売れたのね。と納得。最終巻がきっと一番面白いんでしょうね。

4 ■巧みなストーリーテリング

一巻ではそれ程思わなかったのですが、巻を重ねるにつれ、施された仕掛けなどに唸ってしまいました(シリウスのバイクも、一緒一緒!笑)。
どんどん重苦しくなっていくけれど、それが決してイヤなのではなく、また先がとっても気になる物語ですよね~。ああ、早く読みたい。笑
*トラバ、お返ししちゃいました。

3 ■無題

とらさん、こんばんは。

> ミステリというより、むしろホラーに近い、スリリングさが潜む。

うぅむ、興味をかきたてられます。

シリーズ全体を通したストーリーはやはりダンブルドア率いる善の軍団と、ヴォルデモート率いる悪の軍団のハルマゲドン的決戦へと収斂してゆくのでしょうね。

ところで私にはひとつ気になっていることがあります。
「ウィーズリー一族は誰と誰が生き残るのだろう」という「疑惑」です・・・。

2 ■ハリ・ポタの次に来るのは・・・?

こんばんわ。「謎のプリンス」の記事楽しく読ませていただきました。おっしゃるとおりハリ・ポタの魅力はミステリー仕立て、それにホラー的スパイスもきいてますね。ローリングスさんがハリーを完成させた後どういう方向に行くのか楽しみです。
 「騎士団」の記事も興味深く拝見させていただきました。とらさんのブログはいろんな豆知識が得られてちょっぴり得した気になります。

1 ■初めまして♪

とても気になって拝見させてもらってます。
ブログ見るのも書くのも好きです♪
また拝見させてもらいますね!

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