2005-10-31 20:06:00

『ペガーナの神々』そして『時と神々』

テーマ:海外SF・ファンタジイ
ダンセイニといえば、 打てば響くかのように、
『ハヤカワ文庫FT!の、ペガーナの神々!』
これが思い浮かぶ時代は、かなり長かったんじゃないか。
そう、荒俣宏訳の『ペガーナの神々』。
原本にあったシームの装画を使い、訳されていたあの本だが、じつは完訳ではなかったのだそうだ。

いや、正確に言うと、『ペガーナの神々』は良いのだが、
続編である『時と神々』が抄訳だったのです( ‥)/

それが、このたび河出文庫から完訳で出ました。
めでたい……!

そして、完訳を読みたいがために、私は河出文庫版も買うはめになったのであった(笑)。
(ダンセイニ短編集全てが、全4巻で河出文庫から出るのだそうな。今回はその第3冊目にあたる)。

さて。
ダンセイニの処女作である『ペガーナの神々』、そして続編である『時と神々』は、素晴らしく幻想的な、創り出された神話なのだ。
ダンセイニ(いや、ダンセイニ卿、と書くのが正しいな)は、アイルランド人。
アフリカに旅行したことがあり、アメリカの戯曲作家ベラスコによる、日本を舞台にした劇にも興味を持っていたんだそうな。
『ペガーナの神々』が1905年に世に出た事を思えば、まさしく、それは、ヨーロッパがアジアに目を向け、
かつ、アフリカの「探検」と「植民」が盛んに行われた時代なんだな。
ヨーロッパは、エキゾティシズムに沸いていた。
芸術家は、とくに、「東洋の文化」に対して、貪欲だったかもしれない。

しかるに、それらのエキゾティシズムを取り入れながらも、『ペガーナ』は基本的にアイルランドの、ケルト文化の色合いを濃厚に感じさせもする。
全体をいろどる寂寥感。
まぬがれえぬ、終末の予感。
そう、ペガーナをいろどるのは、夕暮れの空の、あの色彩だ。

そもそも、ダンセイニ卿のアイルランドというのは、どのような国なのか。
それは、プロテスタントのイングランドに抵抗し続けてきた国であり、それ以前から、キリスト教が深く根付いているにもかかわらず、ヨーロッパいち、「妖精民話」が多数残っている土地でもある。
すなわち、異教(pagan)が細々と、命ながらえた土地のひとつなのだ。

そういう背景のもとに、「小さな神々」の儚さ、
儚さから醸し出される美しさ、
キリスト教にはない宿命感、
それをダンセイニ卿は膚で感じ取ってきたのではないか。

そして、宿命だけが「現在」という「結果」の「原因」ではない、と考えるところに、
「偶然」と「宿命」による(チェスのような)ボードゲーム対決という構図、
しかも、
「宿命と偶然のどちらが勝ったのかは誰もわからない」
という謎が、描き出されたのではないか。

一方、全てを夢見ながら眠るマアナ・ユウド・スウシャイ(本書では、マーナ=ユード=スーシャーイ)は、荘子の、「蝶の夢のたとえ」のような、東洋的な思想も思わせる。

いわば、消えゆこうとしている「古い文化」への哀惜と、
微妙に姿かたちを変えながら、新しい世界にも残ってゆく「古いもの」への賞賛、
非キリスト教的なものへの興味と愛情から、『ペガーナの神々』が生まれたのかもしれない。


ロード・ダンセイニ, 中野 善夫, 中村 融, 安野 玲, 吉村 満美子
時と神々の物語
河出文庫
2005年9月20日新刊
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コメント

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2 ■神々の絵

つなさん、いらっしゃいませ。
表紙の絵、そう、これがペガーナの神々です。
原書にある挿絵がそのまま、本書でも用いられています。
ハニワのようなの、ちょっと画像だとわかりにくいのですが、じつは藍色の髪の毛がどばっとまわりにあるのです(笑)。
地色との区別がつけにくいですね。

1 ■表紙の絵が

幻想的で美しいですね。
これが「神々」の絵なのでしょうか。
左下の三つ目のじいさんと、左上の人差し指と中指立ててる、埴輪っぽい絵が気になります。
うーん、面白そうですねえ(てか、とらさんの書評が魅力的過ぎる)。

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