2005-09-22 09:29:29

『修道士ファルコ』 ミステリ風味の僧院の日常

テーマ:歴史・時代小説
『薔薇の名前』を見た後にこの作品を読むと、格別味わい深い。なんつっても、漫画は視覚的。映画の映像とあいまって、中世ヨーロッパの僧院っていう世界を、深く味わわせてくれる。

ところで、現在は2巻までとなっているこのシリーズ。
1巻と2巻の間が、すごくあいている。
なんと9年も。
もちろん、物語の中の時間の流れは、滞りないし、ジャンプしてもいないのだけれど、読者という立場でみると、1巻と2巻には明らかな違いがある。
それは、主人公ファルコを脇から支え、色づかせる重要な脇役が交代しているという事だ。

そもそも、主人公ファルコの悩みは、頭にステキな痣があって、トンスラ(修道士の、あのカッパみたいな髪型)にできない、という事の他に……ていうか、これはそもそも院長や副院長が気にしているのであって、本人はさほど悩んでいないはず。
彼の第一の悩みは、かつて名高い剣の使い手として知られていた、騎士だったという事。
経歴なんだから、どうしようもないのだが、「それゆえに」僧院になにか事件が起こった時、「元騎士」として院長たちに頼られてしまう(笑)。
いずれにせよ、修道士でありたいのに、純粋に修道士として行動する事を、妨げられているような形になるわけだ。

そんなファルコの行動を補助し、あるいは導くのが1巻では、兄弟オド。
かつて、ケルンの町で、治安維持を指揮する仕事についていたらしい(つまり、彼も元騎士らしい)。
現在は修道院で、施薬係をしていて、彼もまた、ファルコ同様、ひたすら霊的な生活を求めているにもかかわらず、その経歴から、いざというときは院長・副院長に頼られてしまうし、ケルンにはオドを「先輩」と慕う現役の後輩もいるわけだ。

とはいえ、ファルコが危機に陥ればやはり剣の腕前をみせてしまうように、オドも、犯罪を嗅ぎつけると、つい、探偵的な動きをしてしまう(笑)。
両者とも、やや方向性は違うけれども、似たような悩みを抱えているために、その微妙な凸凹ぶりが微笑ましく、面白いのだ。(私は兄弟オドというキャラが大好きだ)。

しかし、2巻になると、オドの活躍は、やや生彩が褪せる。

もちろん、シリーズが長くなってきたために、マンネリを避けたという事もあるのだろう。
青池保子の代表作、『エロイカより愛をこめて』では長年続いているにもかかわらず、メインキャラクターは変わらないけれど、あちらはなんといっても、そのつど舞台となる国が異なる。
その点、ファルコの方は、舞台を大幅に変更する事ができないから、同じキャラ・同じ舞台では、やや苦しいという見方なのだろう、と思う。

そこで、2巻から登場するのが、ケルンの娼婦フィリスだ。
ひょんなことからファルコに一目惚れしてしまったフィリス。
近郊の農家の出身で、生活を助けるためにケルンの娼館に売られたという前歴の彼女は、公営の娼館につとめる、いわば「お上に公認された」娼婦だ。
ところが、娼婦にしてはウブで純粋な感じが、かわいらしい。

時には、
「イエス様の女弟子、マグダラのマリアだって!」
と坊主につっかかるしたたかさを見せてはくれるし、後に聖アンナ尼僧院の見習修道尼となっても、それなりの「やんちゃ」さを見せてくれるが、彼女の「したたか」ぶりも、「やんちゃ」ぶりも、一途さの延長にあるわけで、その純粋さがかわいらしさを醸し出してるのだ。

聖アンナ尼僧院といえば、赤ん坊の頃から尼僧たちに育てられた純粋無垢な修道尼、マルティナがいるところだが、おそらくフィリスより年下であろう世間知らずのマルティナより、どう見てもフィリスの方が「こども」に見えるのが微笑ましい。

今後、このシリーズの新作が描かれるかどうかはまだわからないが、もし描かれるとするならば、新たな脇役が登場するより、むしろオドとフィリスがバランス良くファルコの周辺を彩っていくのではないかという気がする。

ところで、この2名ほどではないけれども重要な脇役に、自称芸術家の写字生、アルヌルフがいる。
アルヌルフ(実はファルコをリリエンタール修道院に迎えた修道僧がアルヌルフ!)、『エロイカより~』でいうと、ミスター・ロレンスのような、ユニークな変人ぶりを見せてくれるが、2巻で、優秀な写字生ならではの活躍を見せてくれるのが楽しい。
書類の偽造を見破り、かつ、自分も書類をみごとに偽造する手際、なかなか痛快なのだ(笑)。
自分の限界を知っていて、その範囲内でうまく生きているというイメージがあり、アルヌルフもなかなか魅力的なキャラクターだ。


青池 保子
修道士ファルコ
修道士ファルコ (2)  

コメント

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1 ■ほ~~~んとに。

面白かったです。
オドも、フィリスもかなりお気に入りですよ♪
そして、やっぱり「おっさんキャラ」。
青池先生の作品は「さすが!」と同時に、楽しんで描かれてるな~とこちらも楽しくなります。
執筆の苦労は良くわかるのだけれど、幸せな作家、作品だと思うのです。

2 ■フィリスとマルティナ

ぐるぐるさん、いらっしゃいませ。
2巻はだいぶ後に気づいて買ったので、再読度が1巻に比べるとだいぶ低いのですが、いやーなんど読み直しても面白い。
もし続きが書かれるとしたら、フィリスとマルティナのコンビも凸凹で、面白そうだなあ、などと想像してしまいます。
作者ですが、あとがきがわりの取材記録でも、
「私が描くのは娯楽作品」
と言い切っておられますよね。あのスタンスはすばらしいなあ、と思っています。日本人はどうしても芸術志向になりがちなので、きっぱり、娯楽作品をつくる、という人の方が少ない。また、そう言い切れるほど、クリエイターとして幸せな人なのだろうなあ、とは、私もいだいている気持ちです(笑)。

3 ■おおと。書忘れです。

「薔薇の名前」記事
に至ってませんが、見ました。
トンスラ頭の嵐より、強烈な俳優ばかりで目がテン。
クリスチャン・スレーターがやたらに可憐に見えて仕方ないです。(滝汗)
コネリー様のナチュラルな頭がなんともいえません。
皆さん、剃ったのですね~~~凄い。
という頓珍漢な感想です。
もう一回見てから記事に出来るかな。(苦笑)
以上、修道士つながりでした。

4 ■すいません。

また…。
「娯楽作品」と言い切る事ができるのは素晴らしいですよね。
日本はコメディの位置がちと低いのかも。
というか、上質の笑いが少ないとも思えます。
笑うのは幸せの元なんだけれどなぁ。

5 ■薔薇の名前の俳優陣

>ぐるぐるさん
うお、俳優陣。私はショーン・コネリーしかわかりません(笑)。
しかし、あの頭はみなさん気合が入ってますね。<もちろんコネリーは別
そして、日本のエンタテイメント。
娯楽という言葉を避けて、エンタテイメント、という事は最近わりとあるような気がします。
そこを、ことさら「娯楽作品」と言い切る姿勢が、青池保子は凄い! と思うのです。

6 ■ファルコいいですね

薔薇の名前手に入ったんですね。くうう。
私は未だにレンタル屋めぐりです。
どこにもないんだ・・・ビデオデッキはチラカシ氏が破壊したのでDVDのみで探しているんだけど、これは「買え」という神の啓示なんでしょーかね。泣
あ、薔薇の名前にスターウォーズのオビワンの衣装も出ているらしいです。オビワンはユアンの方じゃなく、アレックギネスの方の。

7 ■買い時といえば買い時

もとさん、いらっしゃいませ。
ううむ、レンタルではあまり出てないんですかね?
そういう意味では、何度も見る事が確定しているような作品は、DVDがセールしている時を狙うのがいいと思います。
おー、オビ・ワン(笑)。
私は、アレック・ギネスの方しか浮かんできません。どうしてもあっちのイメージのが強いのです。

8 ■おびわん

私もです。やっぱり若い頃より年とった方!ですよね。

ところで薔薇の名前はとらさんはDVD買われたのでしょうか?
DVDはセールでかなり値段変わるんで1500円以上のものは待機中心でする。
やっぱ見たいなあ。

9 ■DVD買いました

>もとさん
セールで出てたのですよ。
なので、確か1300円だかそこらだったかと。
私も、2000円超えちゃうと、DVDは待ちますねえ。まず、これは安くは出ないだろう、と思うものは買っちゃいますけどね(笑)。

10 ■ややや!!!なんですとっ

1300円!?!?

知らなかった。ショックです。
こりゃあ探してみます。

11 ■とりあえず検索です

>もとさん
楽天あたりでさかさかっと検索してみてはどうでしょう。
ジェイムズ君の御利益で、最安値のところが見つかるかもしれません。価格が比較できるサイトは、やはり活用しなくては(笑)。

12 ■ですな(にやり)

探してみます。
パソコン買ったときみたいに、またジェイムズ君スピリッツ全開で(笑)

13 ■ジェイムズ君と重なる

>もとさん
だんだん、もとさんが重なってきてる、ジェイムズ君と(笑)。
ねずみ使いにはなっちゃだめですよ~(笑)。

14 ■おほほほほほ

でもハムスター好きなんですよね。
チラカシ氏と猫がいるから諦めてますが。

ネズミ使いよりチラカシ氏使いの笛が欲しいです。
「片付けろ プヒィ~~」
で片付けるチラカシ氏・・いいなあ。

15 ■笛ってやつは

>もとさん
古来、人を操る魔法の道具として活躍しています。ハメルンの笛吹きはもとより、インドなどの蛇使いの笛、フィクションですが、キカイダーを狂わせるドクター・ギルの笛。ヨーロッパ民話では、人を踊らせてしまう笛が出てくる事も……。
ここは、もとさんも、笛を手に入れて名演奏家になりましょう! チラカシ君も操れるかも(笑)。

16 ■笛はあるんだけどね・・

キティちゃんの微妙なドレミファソラシドまで出る笛が(Byダイソーだったかキャンドゥだったか)。
あれをピロピロ鳴らしております。
その姿は殆どジェイムズ君だぜい。

17 ■それはぜひ

>もとさん
エリマキトカゲみたいな襟のあるシャツを着て( ‥)/
どうも、ジェイムズ君というと、あの姿が一番強烈です(笑)

18 ■確かに(笑)

あれは強烈でした。
思い切り時代も反映してましたよね。
初めて読んだ時そういえば腹を抱えて笑いました。
そして今はロレンスの円卓・・(笑)

19 ■エリマキトカゲ

>もとさん
考えてみたら、リアルタイムであのCMを知っていないと、ジェイムズ君のエリマキトカゲは笑えないんですよねえ。
ロレンスの円卓も死ぬほど笑いました(笑)。いやあ……あれは凄すぎる。青池さん、どこからあのアイデアを得たんだろう!

20 ■青池さんは天才ですよね。

もうかなりはやってたもんなあ。
まだ私は生まれてなかったけどw←オイ
下敷きとか持ってましたよう。

ロレンスの円卓・・誰が考えたんだろう。
青池さん?アシスタントさん?
どっちにしろアレをジェイムズ君ではなく、ロレンスに着せた事で更に素敵な物となりましたよね。

あ、そういえばアレをQも見たんですよね。まさか同じ職業の人とは思わなかったでしょう。うー、Qとロレンスの対決?シーン見てみたい。

21 ■一番怖いのは……

>もとさん
あの衣装が、
「実在のカタログを参考にしました」
だった場合だと思いませんか( ‥)/?
絶対お笑い系ですね。実在したとしたら(笑)。
しかし……そうだ、あれ、Qも見ていたんだ。同じ職業だとは思ってないだろうなあ。思いたくもないことでしょう(笑)。

22 ■確かに

実在して欲しいかもしれない。
現物を是非見たいです。とらさんが着てるところで(笑)

あとQ、あの時ニヒルな苦笑で済ませて爆笑するのを抑えていたかも。

うう・・Qがロレンスによって素を見せるのをとても見てみたい。
なんなら心理学研究所にQを入れて・・とか。

23 ■私は無理(笑)

もう、人のカワをかぶっているので、その上にああいうのは無理ですって(笑)。
店主もロレンス限定って考えてたじゃないですか(笑)。

24 ■店主もきっと

アレを見た瞬間ロレンスさんにと思ったんだろうな。それであんなの取り寄せたと(笑)

だけど本当誰があれを考えてデザインしたかが気になる。なんとなく青池さん本人ぽいような気もするけど。
だってあのイブの息子たちを生み出した人ですもん。

あと最近イブの記事を書いた方がおられるぞよ。
なんか嬉しかった~~

25 ■イブの息子たち

>もとさん
人気、不滅ですねえ!
私が、『イブの息子たち』を記事にした時にも、懐かしがられたり喜ばれたりして、びっくりしました。

26 ■やっぱり

名作は永遠に不滅ってことでしょう(ふっ・・決まった)

27 ■Q.E.D.?

以上、証明終わり、でしょうか(笑)>もとさん

28 ■わかりません




ふっ

29 ■おっと>Q.E.D

証明終わり、を表す略語。もとはラテン語です。
中学で、数学の時間に習ったのです。
ミステリでも登場する事があり、気に入っています。最近使ってなかったなあ、そういえば。

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  • 1 ブログタイトル:元漫画少女の雑記帳~少女漫画に愛をこめて
  • 記事タイトル:修道士ファルコ/青池保子
  • 記事概要:  青池さんは唇がお好き♪ とらさんの所で「密偵ファルコ」という本の書評 を読んでいたら とても青池ワールドな話に感じました。 そして当然?この作品が脳裏に浮かびました。 こっちのファルコは14世紀の坊さんです。 彼はナバーラという現在のスペインに

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