2012-02-05 14:37:54

『幻竜秘録 1~5』〈時の車輪10〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ


ショーンチャン人が使う、エイ=ダムという道具と、飼い主(スル=ダム)、そして女奴隷(ダマネ)の関係。
最もはやく真相に気付いたのはナイニーヴであり、次にエギアニンが気付いているのだが、そこに関わり合った飼い主と、一時期女奴隷にされた異能者(アエズ・セダーイ)の両方をかかえこんだマットの立場は、察するにあまりある。
しかし、物語の設定として、絶対力を使える女性を一方的に束縛し、道具にする飼い主が、実は、潜在的に絶対力を使える女性であるというのは、凄くおいしい。
この事実が知られれば、女奴隷を大きな戦力とするショーンチャン帝国は大きな打撃を受けてしまう。
いや、それどころではなく、次代の女帝であるトゥオンは、彼女自身、飼い主の資格と技量を持っていることになっている。
つまり、全ての飼い主が実は絶対力を使う力を秘めているとすると、帝国のトップに立つ女性自身が、本来、家畜同然に扱われる野放し女奴隷(マラス・ダマネ)であるという、衝撃的な結果になるわけだ。

ショーンチャン帝国が、これほど絶対力を使う女性をおそれ、束縛する理由は、国を興した鷹羽王アートゥルが、異能者嫌いであったことに起因するようだ。
また、その原因になったのは、男性源(サイデイン)が闇王に汚されたことで、竜王テラモンを初めとする多数の男性異能者が狂喜に陥り、全界を崩壊させたせいなのだろう。

しかし、絶対力の試験を受けて、女奴隷にされるまで、その女性(まあ、若いうちに試験されるらしいので、少女)は、他の少女となんらかわることのない普通の人間として扱われ、人格を尊重されていたはず。
なのに、絶対力を使う力があるとわかると、その人格を否定され、分別どころか、判断力も責任能力もない存在とみなされるというのは、非常におそろしい。
海をこえて渡ってきたところで、少女どころか、成人女性をつかまえて、同じように女奴隷とする、さほどに簡単に、相手の人格を否定できる体制が、ショーンチャン人を不気味に見せる大きな要因になっているのだろう。

そして、「祖先(何千年も前!)の王国があったところだから、そこの土地と主権は自分たちのもん」とみなすショーンチャン帝国の姿勢も、同じところに通じているんだろう。
彼らがその土地を去ってから、おそらく彼らがそこに王国を築いていた時間よりはるかに長い時間、人々がそこで暮らし、生計を立て、土地を(海も)有効利用し、支配していたという事実を、簡単に無視できる精神構造は、なかなか凄い。もちろん、悪い方の意味で。

マットらと行動をともにする間、アナン夫人とつきあうことで、いささかはトゥオンも啓蒙されたのかもしれないが、はたしてそういう、不自然な事実にトゥオンが気付き、変わっていけるかは、大きなテーマになるだろう。
もちろん、残念ながらそうあっさりトゥオンの意識やショーンチャン帝国が変わるわけではないのだけれども。

実は、ショーンチャン人にかぎらず、「人を導くとはどういうことか」というのは、この物語のテーマのひとつになっているようで、シャイドー・アイールにとらわれたファイールが、全く別の切り口から、そこに挑んでいくのが物語のこのあたりだ。
有力な貴族としての立場から、人を指導する教育を受け、それをペリンにも伝え、トゥ・リバーズのたてなおしに大きな力となったファイールが、全く新たな視点から、そこを学び直す事になるのが面白い。
決して、それまでのファイールのやりかたが、間違いではないだけに、興味深いと言える。

勿論、同じように、人を指導するとはどのようなことなのかを学んでいくのはペリンも同じで、もはや自分が一介の鍛冶屋ではなく、なるべくして人を指導する立場になったことを、日々自覚していかなくてはならない。
もちろん、ランド・アル=ソアやマットと同じく、彼の悩みはそれだけではない。
狼との交感能力についてもそうだ。
ホッパーにたびたび指摘されるとおり、夢の中で狼と化しても、ペリンは常に人間としての意識から逃れられない。
どの程度まで、自分が狼となる事を許すのか、それがペリンの悩みどころだろう。
狼には独自の価値観があり、時にそれは人間の価値観より高潔に見えたりするが、完全に狼の基準に従うなら、ペリンはやはり、人間ではない存在となってしまうはずだからだ。

狼は、人間とは別に、闇王と戦うものたちであるらしく、ペリンの立ち位置というのは、最後の戦い(ターモン・ガイ=ドン)の時、人間ではない狼というグループを、ランド・アル=ソアに結びつける役割をするのかもしれないが、そこのところもまだ曖昧模糊としているようだ。


幻竜秘録〈1〉エバウ・ダー脱出―「時の車輪」シリーズ第10部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
幻竜秘録〈2〉闇の狩猟―「時の車輪」シリーズ第10部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
幻竜秘録〈3〉王国の盟主―「時の車輪」シリーズ第10部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
幻竜秘録4 二つの〈塔〉の策謀 (ハヤカワFT)/ロバート・ジョーダン
幻竜秘録5 黄昏の十字路 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
2004年12月~2005年4月
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2012-02-05 14:09:23

『闘竜戴天 1~5』〈時の車輪9〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ


この物語は、前提として、「世界の終焉が間近に迫っている」事になっている。
人類にとっての大敵は、闇王と呼ばれる存在で、三千年以上も封印されていたそやつの牢獄は、次々に封印が解けており、全界に闇王の影響が刻々と強まっている段階にあるわけだ。

従って、ともに封印されていた闇セダーイの活躍が活発になっているし、諸王国にはそれぞれ、闇セダーイが入り込んでいる状態。
(王国だけでなく、ショーンチャン帝国や白い塔も例外ではないし、黒い塔も、光の子も、ともかく権力やパワーと関係のあるところには闇の信徒が深く浸透している)。
なんと物語のこの部分では、エレインも、ランド・アル=ソアも、暗殺されかかる。
特に、ランド・アル=ソアの方は深刻で、ますます彼の人間不信を強めてしまう。

一方、エレインはアンドール王国に戻り、混迷している王国で、母の王位を無事に継承すべく、奮闘をする事になる。
アミルリン位としてめざましく成長を遂げていくエグウェーンにくらべると、エレインの歩みはもどかしいところもあるが、妊娠という女性の重荷をにないながら、王位継承者であり、かつ異能者(アエズ・セダーイであるという立場を上手に利用して立ち回る彼女の活躍も、目をはなせないものがある。

ところで、初読した時、このあたりでかなりげんなりしていたのは、主人公であるランド・アル=ソアがどんどん人間不信に陥り、とげとげしく、そして孤独に、冷酷になっていくのを見るのがしんどかったからかと思う。
その状況を改善するために、カドスアンやナイニーヴが活動するのdが、後に、ミンが、「結局はそのふたりも含め、誰もがランド・アル=ソアを思うがままに動かそう(ランド視点では、操ろうというところ)としているのが間違いだ」と看破するとおり、なかなかうまくはいかない。
いやもう、一人で何もかもやろうとして破綻するパターンそのままだ。

も・っ・と・ま・わ・り・を・た・よ・れ・よ!

と、読んでいても凄くやきもきするのだ。
だからこそ、余計に、助言を受けるところは受け入れ、自分の考えを通すところは通す、エグウェーンやエレインの活躍に共感を覚えてしまうのだろう。
特に、エレインの場合、妊娠しているという状態のため、周囲から制約されるところが実に人間らしく、ほほえましくもある。まわりは香料入りのワインを楽しんでいるのに、自分はお湯も同然の薄いお茶しか飲めない(蜂蜜も入っていない!)など。しかも、うまいこと、アビエンダがその「窮地」を救ってくれたり、ビルギッテが絆のためにお酒を制限せざるをえないなど、ほんとに、エグウェーンよりもさらにエレインのまわりは、読者にとって等身大のキャラクターに映る。

また、若者三人に目を向けると、やはり最も面白いのはマットで、ティリン女王との関係もさることながら、いよいよここで、予言の女性である、九つの月の姫君が登場する。
マットとの結婚を運命づけられている女性だというのに……マットが、ティリン女王のツバメであるところに登場するというのは、どうなのか。
これは、あまりにも、ヒドイ。
マット以外の男なら、もう逃げ出してしまうだろうと思えるのだけど、さすがマット。
そのシチュエーションを脱そうと苦闘しつつも、なぜか苦労を感じさせない。


闘竜戴天1・黒アジャ捜索 <時の車輪第9部> (ハヤカワ文庫 FT)/ロバート・ジョーダン
闘竜戴天2・偽りの英雄・ (〈時の車輪第9部〉)/ロバート・ジョーダン
<時の車輪第9部〉 闘竜戴天3 -九つの月の予言- (ハヤカワ文庫 FT)/ロバート・ジョーダン
闘竜戴天4 -消えた聖竜士 〈時の車輪第9部〉 (ハヤカワ文庫 FT)/ロバート・ジョーダン
闘竜戴天5 -シャダー・ロゴス崩壊― 〈時の車輪第9部〉 (ハヤカワ文庫 FT)/ロバート・ジョーダン
2004年4月~2004年8月
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