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2011-05-31 21:14:50

『マルドゥック・フラグメンツ』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

名作『マルドゥック・スクランブル』と、それに続く『マルドゥック・ヴェロシティ』。
ヒロインであるバロットも、その相棒となるウフコックも、大変魅力的なキャラクターなのだが、私が終始心惹かれたのは、ボイルドだ。
舞台となる都市マルドゥックは、「天国への階段」だとされている。
バロットは、彼女なりの意味でその階段を登った少女として描かれている。
いわば、その影にあたるのがボイルドであり、影にふさわしく、彼は爆心地にむかって墜落した。
しかし、なぜ彼がそこへ加速していったのか、本編では語り尽くされていない部分があったようなのだ。
また、バロットとボイルドをつなぐ存在であるウフコックについても、運命のさわだまったネズミという体に拘束されている彼が、バロットと共に歩み抜けるのかどうかという問題が未決のままとなっていた。

物語というものは、一定の収束を求めるものであるから、あまり細部を広げていったり、寄り道しまくる事ができない。
本巻は、短編という形で描きだされなかったそれらの断片を補完する役割を果たしており、バロット、ボイルド、ウフコックはもとより、それ以外のキャラクターや、マルドゥック市そのものについても、より深く掘り下げる手段となっている。
発表された時期はばらばらだし、初出の媒体も同一ではないため、まさしくちらばった断片だったものが、一巻にまとめられた事により、その効果がより高いものになっていると思う。

また、断片であるがために、世界観そのものは、むしろ長編であった本編よりも明確に描き出されているようにも思う。
しかし、マルドゥックの名を冠した3作のうちで、本巻から手をつけるのは、短編集といってもやはり冒険にすぎる。
あくまでも、順番通り、スクランブル→ヴェロシティ→フラグメンツと進むのが良いだろう。
もっとも、本巻を読了すると、再びスクランブルに手を出したくなるかもしれないけれど。

マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11)/冲方 丁
2011年5月15日初版
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2011-05-30 20:09:10

『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

この物語、1巻でまず状況がバーンと出て来て、それ以降、かの地を創り上げた重要なグループのなりがちについて語っているというスタイルをとっている。
第2巻で疫病である冥王斑とそのキャリアとなった人々と、彼らとかかわる事になった医師グループについて。
第3巻でアウレーリア一統について。
大変わかりやすい。両方とも、確かに、非常に重要な要素である事が言われなくてもわかる。

それだけに、本巻でとりあげられたのが「恋人たち」であった事に、少し意表を突かれた。
確かにユニークな存在だけれど、そこまで重要なグループであったとは、正直思っていなかったからだ。
そして、意表を突かれるだけに面白い。
なるほど、恋人たち(ラヴァーズ)のなりたちってそういう事だったのかと。
また、前出の2グループとの関わりも、予想以上に大きいものだったというわけだ。

また、そういう背景的な部分を別にしても、本巻のみで、一人の少年の精神的な成長を見事に描ききっていて、本巻単独でも充分楽しめるんじゃないかと思う。
中心が「恋人たち」なのだから、最初から最後まで、セックスがらみのようでいて、実はその向こう側にあるものを「恋人たち」も本巻の主人公も、求めているのだ。
なにやら、仏教などにおける「悟り」のようにも感じられるが、それとはまた色合いが異なるし、一面、同じでもあるように思う。
つきつめていけば、ある「境地」というものは、全てなんらかの共通部分があるのかもしれないけど。

天冥の標Ⅳ: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)/小川 一水
2011年5月25日初版
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2011-05-26 14:34:47

『アバタールチューナー II 〈煉獄〉後篇』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

ゲームの方では、ソリッドの本拠地を攻め落とした後、サーフたちは見捨てられた遊園地での奇妙な経験を経て、ブルーティッシュの本拠地へおもむき、大佐と対決する事になる。
しかし、小説ではこのあたりから様相が変わってくる。
なし崩しにエンブリオンを中心に固まっていく者たちと、これに対抗する残りの精力だが、対向車の方には、教会に干渉するかにみえる「エンジェル」とその手先であるらしい「アバター」と名乗る者がバックにつき、一方、本らにお、教会の中立性と支配・媒介機関としての機能は失われていく。
かれらのたくらみがわからぬまま、サーフたちは教会内部にまて侵入していくことになるが、その一方で、ハウンズを壊滅させた黒い不定形の「もの」が、いろいろなところに出没し始めるのだ。
親シリーズである「女神転生」でも定番の、「外道」の最下位種族スライムを連想させるが、ずっとたちが悪い。
いや、そのスライムとコンセプトは同じなのかもしれないけれども、規模や能力からして、スーパーすら医務とでも言うべきものだ。
不定形生物が敵役であるB級ホラーSF映画は、前世紀の中頃までアメリカで幾つも作られているけれども、知性のない「饑え」だえに支配されているもの、そして不定形なだけに、どんな隙間からでも浸入してくるという恐怖感は、やはり並々ならぬ者があると思う。
また、こいつが量的にとんでもないものに成長した姿は、押し寄せてくる姿とあいまって、(そして日本がこうむった最近の災害とあいまって)、津波を連想させる不気味さでもある。
正直、圧巻だ。

一方、前巻の終わりに登場した小説版のyから、ルーパが、実に魅力的に描かれているのだけれど、セラが教えるところの「父」に似た存在である彼。
所属していたトライブがハウンズ、すなわち犬であり、名前がルーパ、すなわち狼 Lupa であろうと思われる彼は、いわば当然のごとく、アートマがケルベロスだ。
これまた、「女神転生」でも、主人公を導く存在として登場した印象的なモンスターであって、実に感慨深い。
というか、この世界観におけるケルベロスのイメージはこれだねっ。
惚れます。

ゲームでも主人公群として活躍するサーフ、ヒート、アルジラ、シエロ、そしてゲイルに加え、ジナーナnルーパ。敵役としても、実にいやらしくかつしぶとい二名があって、それぞれに魅力的なキャラクターを揃え、良い感じにまとまっているようにみえて、本巻ラストでは世界が崩壊するというカタストロフが到来する。
これは、かなり思い切りが良い。

来月刊行予定の次巻、辺土篇では、いよいよ、ジャンクヤード以前の物語が語られるということだが、余計にその部分への興味が増すようだ。


クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅡ (ハヤカワ文庫JA)/五代ゆう
2011年4月25日初版
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2011-05-25 20:10:41

『死をもちて赦されん』〈修道女フィデルマ6〉

テーマ:ミステリ


ようやくシリーズの第1巻が登場するはこびとなった。
なぜそのような経緯となったのかについてはあとがきで訳者が述べているけれども、なるほどね、と思う。
フィデルマとエイダルフのなれそめなどは、確かに1巻で語られているわけだけれど、この1巻の内容というのが、日本人にとっては全くメジャーではない、イギリスの古代史に相当するうえ、アイルランドのキリスト教と、ローマカトリックの対決という、これまたメジャーでないものが背景となっていて、異国の読者にはかなりとっつきにくい条件となってしまっているのだ。
実際、まるっきり最初にこの巻から紹介されていたとしたら、うまく作品世界に没入できるかどうか、かなり疑問だ。
幸いにして、他の巻ですでにある程度の知識が身についているなら、フィデルマとエイダルフというキャラクターの魅力もあって、面白く読めてしまう。
実際、物語そのものはミステリであり、べつだん、宗教や歴史の事情を前面に出しているわけではないからだ。あくまでも背景ですよ念のため。

さて、フィデルマのすばらしいところは、彼女自身の存在を含め、周囲の意表を突くというところにあり、まさしくそういった観察と観点が、事件を解決に導くところだ。
しかし、彼女とて万能ではなく、たとえば昨今のアメリカ映画のように、体力的にもスーパーウーマンというわけでは決して、ない。
そこのところは、かなりの部分、エイダルフに補ってもらっているわけだけれど、エイダルフ自身、べつに武闘派というわけではない。本来、彼もまたフィデルマとは切り口の違ったところから、学識ある僧侶なんだけど……。
それにしても体力もあるし? という部分については、今回かなり、彼の前歴や個人的背景が明らかになって、これまた納得のいくものを感じる。
実に、出会ったその時から、彼らはいいコンビを作っていて、今回の舞台となる修道院の院長や王国の主にも、そのように評されているところが面白い。

ところで、今回ははからずも、殺人事件の背景としておかれている、アイルランドのキリスト教とローマカトリックの対決だけれど、その結果どちらが優勢となったかは、歴史上明らかだ。
アイルランド式のものは、すたれていく運命にあるわけだ。
しかし、アイルランドそのものも、ローマカトリックの国となったはるか後世、小戸はプロテスタントの国となったイングランドから、アイルランドがどのような扱いを受けるに至ったかは、トレメインが『アイルランド幻想』で、連作短編として描いている。
ケルト文明というと、黄昏と結びつけられがちなのだが、単に滅び行くものの美しさではすまない、痛切ななにかを感じさせるのが、トレメインの文章であるように思う。

死をもちて赦されん (創元推理文庫)/ピーター・トレメイン
2011年1月28日初版
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2011-05-23 20:26:45

『熱海湯けむり』〈鎌倉河岸捕物控18〉

テーマ:歴史・時代小説
しばしば、旅行記のような様相となる佐伯作品だが、今回も江戸時代の熱海の様子が存分に描かれている。
物語そのものは、江戸と熱海の二面展開なのだが、タイトルからしても、断然熱海に偏っていると思う。
だいぶ前から熱海は湯量が落ちているという話を聞いた事があるが、できることなら、ここに描かれている盛大な湯の噴出を見てみたいものだ。
江戸の人ならずとも、さぞや壮大な光景であったことだろう。

そんな温泉のパラダイスにもいろいろと事情があるということで、けっこう生臭い話に一行は巻き込まれてしまうのだが、旅行先でも事件にかかわらずにはいられない宗五郎、なんだか刑事物ドラマのスペシャル版のようだ。

一方、江戸での事件は意気消沈していた亮吉が意外な冴えをみせたり、これはこれで、ちゃんと見所がある。
それでもやっぱり、熱海の派手さというか、晴れ晴れした光景に比べて、地味な感触は否めないのだが。

とはいえ、宗五郎一行もようやく江戸へ帰着するので、次からは再び二世代そろっての物語となるのだろう。
どんな事件が起こるのか、ちょっと楽しみ。


熱海湯けむり (ハルキ文庫 さ 8-35 時代小説文庫 鎌倉河岸捕物控 18の巻)/佐伯 泰英
2011年5月8日初版
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2011-05-22 18:56:57

『バチカン奇跡調査官 (3) 闇の黄金』

テーマ:ミステリ

地底というやつ、なにか怖いような魅力があるものだと思う。
洞窟といえば「探検」という言葉と強くなじむものだし、井戸というと、古く洋の東西で神霊に結びつけられるものであり、また、死者を埋めるという発想からか、おぞましいイメージとも結びつく。
ヨーロッパでは、このほかに、地底の小人の言い伝えがあって、そこから連想されるものか、地底にもそこをすみかとする人、あるいは人に似たものの国があるとい連想が湧くようだ。
キリスト教においては言うまでもなく、悪魔が投げ込まれた(または投げ込まれる)穴であって、地獄の素材する場所だ。
本巻は、そんな地底の世界が背景にある。

さて、前巻、前々巻を通じて、本シリーズはミステリだと私は述べてきた。
実際ミステリなのだが、冒頭で、「これから舞台となる土地」と、事件い過革rの深い因縁を本編とは違う登場人物いよって語らせるという手法は、どちらかというと、ホラーの作法にのっとっているようにも思う。
まあ、これは、主人公たちの肩書きが奇跡調査官であり、なんらかの事件からよびおこされた現象が奇跡かもしれないという事で現地に行く、という手続きをとっているためなのだが、その事件がまた、ホラーの様相を帯びているわけだ。

まあ、ホラーというものが、人智をこえた恐怖を示すのであるならば、奇跡というものも人智を超えているわけだから、同様の手法を用いてもなんら不思議はないのだろう。
しかし、今回はハメルンの笛吹きの類話と思われる、首切り道化師の物語というものがまず最初に出て来て、これがなかなか、ホラーの雰囲気濃厚なのだな。
しかも、そのエピソードのからんで登場する若者たちが、その伝説をネタにホラー映画を作ろうなどと考えるというのが、芸が細かい。
かててくわえて、この「恐怖」がもしも人間の演出によるものだとするなら、それはいかなる理由によるものなのか?
(奇跡とかではないのなら、やっぱり人間が企んだりしたことかもしれないわけだよ)。

つまり、恐怖の演出をする理由というものも、本巻では大きな役割を果たしていて、そういう切り口からも、手が込んでいるなあ、と思わせられる。

筋立てに関してはいうまでもないだろう。
前巻のラストで逃亡を果たしたジュリア司祭が、表紙から察せられるとおり再登場を果たし、シリーズ通しての敵役の地位を得たかに思われる。(余計なことだが、ふたりの主人公も敵役もそれぞれタイプの違う美形というのはサーヴィス満点だね)。


バチカン奇跡調査官   闇の黄金   (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年2月25日初版
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2011-05-21 09:25:08

『バチカン奇跡調査官 (2) サタンの裁き』

テーマ:ミステリ

悪魔の誘惑というと、ごくごく普通の人が常に狙われやすいような錯覚があるように思うのだが、考えてみればこれは間違いなのだ。
イエスもシャカも悪魔に誘惑されている。
そう、高徳な人ほど、実は誘惑されるのだ。
そりゃあ、悪魔にしてみれば、そういう人ほど、落とし甲斐があるわけだよね。魂を手に入れるという場合だって、そういう魂の方が断然価値があるに決まっているし。

本巻には、複数の誘惑が登場しているけれども、はたして悪魔は、誰を最も狙いたかっただろうか?

さて、今回も仕掛けはなかなか複雑で、医療による伝道、中世の修道会の一部が、どのような事を追求していたのか、現代の予言ショー(欧米ではわりとあるらしい、日本の有名占い師などとある意味似たようなものなのだろうか)、悪魔だけでなく人間の陰謀も複雑にからみあっている。
それだけでミステリとして非常に面白いのだけれども、そこにご都合主義ではない宗教(しかも陰謀論ではない)を絡めているところが秀逸。

そう、宗教団体にいわば裏組織のようなものを絡めて、ミステリだのサスペンスだの冒険小説に仕立てるのはよくある話なのだが、このシリーズは、裏組織などを安易に持ち出さず、そこのところは真っ向勝負をしているのが実にいいのだ。


バチカン奇跡調査官 サタンの裁き (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年1月25日初版
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2011-05-19 11:39:14

『夏至の森』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

マキリップといえば、正統派ファンタジイの作家というイメージがやはり強いだろうか。
そのマキリップにして、原題のアメリカを背景に、ファンタジイを書いたという事で本作は注目を集めているようだし、作者本人としても珍しい(初めての)一作となっているようだ。
一方、同じ創元推理文庫Fで先行している『冬の薔薇』の続編にあたるという点で注目している人もいるだろう。
まあ、時代が違うだけに登場人物も違うんだけれども。

しかし、私が最初に感慨深く思ったのは、アメリカ合衆国が、とうとう、精神的にも、「多数の国や地域から人が集まって創り上げたところ」としてまとまったんだなあ、という事だ。
どういうことかというと。
そもそも、R.E.ハワードのコナンシリーズなどのように、全くの異世界を舞台とするファンタジイがアメリカで隆盛したのは、彼らが「自国の神話をもたない」という事情があったからだ、という話があるわけだ。
もちろん、アメリカ原住民が持つ、神話や伝説というようなものはあるが、それは植民してきた人たちのものではないわけだよね。
北アメリカで生まれ育っていても、その精神文化はアメリカの大地に根付いていなかった。

しかし、今世紀になってみると、従来の異世界ものを凌駕する勢いで、原題のアメリカを舞台に、さまざまな神話や伝説の怪物が入り乱れる物語が多く出現している。
彼らはなんらかの形で、人間社会に溶け込んだり共存したりしているということになっている。
たしかに、彼らも、ルーツはヨーロッパだのアジアだの、他の地域にあるのかもしれないが、ヨーロッパやアジアから来た人々が「アメリカ人」になっているように、アメリカ化しているのだ。

本作にしても、舞台はアメリカであり、登場する妖精の世界は、ヨーロッパのものに酷似しているけれど、それは、その土地に住む人々がヨーロッパ起源だからこそ、土地の精霊世界が彼らの影響でヨーロッパ的な表現となったか、または、ヨーロッパから彼らの精神にひそんで渡ってきた妖精たちが、その地で独自の妖精社会を創り上げたかの、どちらかに見えるわけだ。

また、この妖精たちと対抗する地元の魔女グループ。
様々な』種類の裁縫をする女性のグループで、これはたとえば『赤毛のアン』などにも登場する、北アメリカの地元の婦人会(キルティングサークルとかいわれる、あれ)そのものだよね。
いかにも「アメリカ的」でありながら、糸を使う魔術というものが、ヨーロッパでも古代から連綿と伝わる技であるという側面もあって、とてもマキリップらしく、興味深いと思う。

すなわち、本作は、マキリップらしさも濃厚に出しながら、妖精というような、植民者のルーツの国や地域にあったものまでも、いまやアメリカ化した現代的なファンタジイという面も持つ、面白い物語なのだ。


夏至の森 (創元推理文庫)/パトリシア・A・マキリップ
2011年1月11日初版
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2011-05-10 19:28:11

『バチカン奇跡調査官 (1) 黒の学院』

テーマ:ミステリ

先日、文庫の最新刊(第3巻)が出たばかりの本シリーズ。
角川ホラー文庫に入っているのだけれど、むしろこれはミステリだ。
神の奇跡という意味でのミステリ、
歴史上の謎にせまるという意味でのミステリ、
そして連続殺人事件にかかわるというミステリ。

どの面からみても、大変面白いミステリなのだ。

そもそも、バチカンという場所そのものが、ミステリであるとも言える。
現世における(カトリックの)神の家であり、その昔からさまざまな文書や秘密が集積されているだけでなく、それらが厳重に門外不出のものとして、秘匿されているそうだ。
(公開されるのは、充分に消費期限が過ぎてからだ)。

また、その神聖さは、現世の権力に「触れてはならぬ」と強力に主張しているわけだ。
独立国なんだけど、まるごと、聖域というわけ。
にもかかわらず、組織であり、国家であるから、いくら神聖な神の家であるとしても、どうしたって生臭い部分も出てくる。
数々の修道会、信徒に含まれる数々の民族(かれらが属する国家)、そのためバチカンとて一枚岩ではない。
一枚岩ではないということは、それなりに権力闘争などもあるし、なにかしら暗い部分もある。

というか、秘密とされている部分が多ければ多いほど、バチカンならずとも、部外者に勘ぐられてしかたがないとお言える。
隠されていればいるほど、想像の余地があるということで、従ってフィクションのネタとしても、魅力的と言えるのだろう。

本シリーズは人種の異なるふたりの神父が主人公だ。
彼らの肩書きが奇跡調査官。
つまり、「これは神の奇跡だと思うんです!」というリポートを現地調査して、ほんとうに奇跡なのか判定する仕事をしている。まあ、報告した人に悪気はなくても、熱心な宗教心がこうじて、実は単なる自然現象であったものが、奇跡と報告される事はまま、あるらしい。
実際、本巻にもそのような事例が登場する。

奇跡なのかどうかというのを解き明かすだけでもなかなか面白いけれども、それはあくまでも脇の小ネタであって、彼らの肩書きを表看板に、もっと大きな、そして深刻な謎を解き明かすというのが本筋となっているのだ。

さきに述べた複数の「ミステリ」が実にうまくからみあっていて、
複数の登場人物の視点を比較的頻繁に切り替えて話を進めるという手法が、そこにぴったりとはまっている。

また、第1巻にあたる本巻の舞台が、僻地に設立された全寮制男子校であり、それが修道院の付属施設であるというのも、つかみとしてはばっちりだろう。

あー、ただ、バチカン、神父、全寮制男子校、オカルト、というミクスチュアが表紙の絵とあいまって、なんとな~くBL風味を感じさせられてしまい、私はしばらく避けていたというのはあるんだが、結果的にその心配はほとんどいらなかった、と言っておこう。
(うん、ほとんど。つまり、わずかながらそういう風味は、あると思う)。

コンビを組む二人も、意気投合しているようで、ちぐはぐとすら言えそうな部分もあり、この作者はほんと、いろいろなものを意外な形で組み合わせるのが得意なのだなあ、と感じた。
だからこそ、面白いんだな。


バチカン奇跡調査官 黒の学院 (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2009年12月25日初版
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2011-05-07 11:30:55

『永遠の女王』〈フェアリー・コート3〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

このシリーズ、妖精界というものを良くとらえているのが面白い。
本巻において、ハイコートが出てきたおかげで、サマーフェアリーVSウィンターフェアリーという水平ラインに加え、ダークフェアリーVSハイフェアリー(というのかな)という垂直ラインが明確となった。
つまりこれがクロスした状態になっているわけで、一般のフェアリーはこの2軸の間をゆらゆらと動いている感じだ。
垂直軸を、秩序-混沌とおきかえると、よりわかりやすいだろうか。
サマーガールなどのように、特定のものに強く結びつけられているものは別として、ダークキングとなったニールのように、これらの軸を中心とし、エリアを動くものも相当数いるのではなかろうか。

今回もうひとつ物語の焦点となったのが、人間が妖精になるというシチュエーション。
人間と妖精はあきらかに違う種族であるのに、妖精から人間へ、人間から妖精へなる物語がいくつも存在する。
また、妖精の血が人間に混入する事もある。
たとえば、妖精としての不死性を捨てて人間の高貴な家系に嫁する妖精の物語。
羽衣伝説のパターンなどで、人間と結ばれ、子供をなす妖精たち(そしてその子孫の物語)。
ヨーロッパで最も有名なのは、フランスのメリジェーヌの話だろうか。
逆に人間から妖精になる物語というと、各種の取り替え子もそうだが、これまた最も有名なのは詩人トマスの伝説だろう。
今回、セスがそこにあてはまるように、妖精を見る力(ヴィジョン)を持つ者は、妖精界に取り込まれる事があるようなのだ。

メリッサ・マールは、それを一歩進めて、妖精王や妖精女王が人間をフェアリーに変える時、どのような条件が必要となるかについて推考しており、これがなかなか面白く、物語の素敵なスパイスとなっている。
また、ハイコートの女王とセスの間に結ばれる関係についても、ここまでの物語にはないものとなっている。
もちろん、複雑な恋模様にこれ以上余計な恋愛関係を持ち込まないようにするという創作上の理由もあったのかもしれないが、ソルチャとセスの関係は、人間と妖精の絆のひとつ、「人間(の家系)を守護する妖精」に沿ったものとも考えられ、おそらく作者はそのあたりも深く考察しているおだろうなあ、と推察する。

妖精を登場させるハイ・ファンタジイと呼ばれるサブジャンルは、ある意味、『指輪物語』の影響をあまりにも深く受けてしまっており、数々のライトファンタジイもその呪いからなかなか免れる事ができない。
しかし、本作は、まさしく、そのくびきを逃れたハイ・ファンタジイだと言えるだろう。
複雑な恋愛模様とて、そもそも妖精譚にはつきものであるしね。


永遠の女王 (フェアリー・コート・シリーズ3) (創元推理文庫)/メリッサ・マール
2011年3月18日初版
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