2011-04-29 16:26:32

『紀伊ノ変』〈居眠り磐音江戸双紙36〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

磐音一行、というよりは、一子空也が生まれた事で、一家と呼んだ方が良さそうになった磐音たちは、どうやらしばらく姥捨ノ郷に腰を据える事となったようだ。
すると、江戸で今津屋やうなぎの宮戸川と深い結びつきができたように、こちらでは雑賀衆をはじめ、高野山とも深いつながりができていきそうだ。
ただ、ちょっと微妙なのは、いずれ磐音たちが江戸へ復帰する事が、おりにふれて予言されている事、しかしそれが間近な事ではなさそうだという事だろう。
姥捨ノ郷は文字通りの秘境であるから、ここを本拠としてなおかつ物語を展開させていくとなると、高野山の存在は大きくなるかなあ、と想像する。

一方、江戸では無事に柳次郎とお有の祝言があげられる手はずが整った。
仲人役を務められなくなった磐音夫婦だが、その代役に誰がたつかqという経緯が楽しいし、道化役の武左衞門をまじえ、ほほえましくも感動的なラストシーンをみる事ができるし、他にも着実に成長しつつある次の世代の描写など、相変わらず端々にまで手抜きなく登場人物の描写が行われているところはちょっと心憎いものがある。


紀伊の変-居眠り磐音江戸双紙(36) (双葉文庫)/佐伯 泰英
2011年4月17日初版
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2011-04-24 20:18:12

『帝都幻談 (下)』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

魔を招ぶ魔界の木槌に対抗するのは、からくり儀右衛門が精魂込めて創り上げた万年時計だった!
まさしく、下巻の中心はここである。
日本に訪れようとしている機械文明のさきがけとも言うべき、もの凄い時計だ。
定時法の西洋式時計と、不定時法の和時計を組み合わせ、そこにアストロラーベまで組み込んで、「一分の隙もなく」時を計るからくりなのだ。
というのも、魔物というのは、その「隙」をついてこの世に押し入ってくるからなので、「時の隙間」をふさいでしまえば、入ってくる事ができなくなるという道理。
実に、この時計の能力は凄まじく、クライマックスでは、まさしく時空を支配するからくりなのかとすら、思えてしまう。
まあ、からくり儀右衛門と、鉄砲の國友一族が共闘するというあたりからして、かなりわくわくものだ。

ところが、どういうわけか、その凄い仕掛けがかすんでしまうほど、本作は、愛情というものに重きが置かれている。それしも、異界からの侵略にそなえる、いわば善玉の平田一門が夫婦愛と父子愛をうたいあげているのに対して、魔人加藤の側は、歪んだ男女の愛が絆となっているので、うまく対比されているように思うが、それにしても、魔界の仕掛けに対するからくり仕掛けという対決の素晴らしさが、いささかこの「愛情対決」に押され気味なのは、残念だ。
『帝都物語』ってこんなに愛情が前面に出てたっけ?
そんな事はないように思うのだが。
もちろん、愛情の描写など、どうでもいいと言うつもりはないけど、ちょっと物足りなかったのは事実。
単純に、『帝都物語』と『帝都幻談』のボリューム差もあるのかもしれないが、少し期待はずれに終わった事は否めない。

まあ、いずれにしても、前日譚という扱いではあるんだけどね。


帝都幻談〈下〉 (文春文庫)/荒俣 宏
2011年4月10日初版
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2011-04-21 20:27:39

『帝都幻談 (上)』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

2007年に単行本として上梓された本作が、今この時に文庫化とはなんとも……という気がする。
なぜなら、これはかのベストセラー『帝都物語』の前日譚であるばかりではなく、東北と北海道の妖怪が江戸を襲い、日本をくつがえそうとする話だからだ。
妖怪と地震・津波という違いこそあれ、東日本が騒然としている中で読むと、背筋の冷たさが層倍となるようだ。

ともあれ、『帝都物語』より時代をさかのぼり、江戸時代。
もちろん、こちらも歴史上実在の人物がぞろぞろと登場するが、なかでも一般的に人気が高いのは遊び人の金さんこと遠山であるし、妖怪好きにとってこたえられないのは稻生武太夫と平田篤胤であろうし、事件の裏には平賀源内が見え隠れする。
そして、『帝都物語』の怪人加藤の影も、きっちりとさしている……どころではなく、加藤重兵衛なる「加藤」が登場しているのだ。
後年の加藤と同一人物であるという保証はないが、存分に「加藤」だ。
あの馬面。凄いめつき。日本人離れした長身。全て健在だ。
『帝都物語』に夢中になった人ならば、やはりこの人物は見逃すわけにはいかないと思う。

ただ、残念ながら、あまり「時代小説らしさ」というものはない。
良く言えば、ともかくも荒俣作品。
江戸という雰囲気や、武士だ、剣法だ、はたまた町人文化だ、というようなものは、二の次。
なにはともあれ、妖怪が主役だと考えればあたりだろう。


帝都幻談〈上〉 (文春文庫)/荒俣 宏
2011年4月10日初版
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2011-04-20 19:24:35

『シリンダー世界111』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

宇宙空間に浮かぶ巨大なシリンダー。底の方へ行くほど有毒な世界となり、人間のような生き物は跡形もなく溶かされてしまうほど。(たぶん)途中からジャングルのような世界になっていて、その最上層でなら、人間も暮らす事ができる。
但し、そこは、まさしく熱帯雨林の樹冠のような世界であり、ウデワタリというナマケモノに似た生物が、一生涯「上を向いて」過ごす。

たしかに、この世界観だけを見るなら、腰帯のあおり文句のように、ニーヴンの『リングワールド』を思い浮かべる事もできるだろう。
しかし、そうではないのだ。
実は、この世界観が示されているだけで、主人公を含む人々は、アッパーグロウスと呼ばれる樹冠世界のごく一部しか旅したり目にしたりする事がないし、それも詳細に描写されたりはしないのだ。

実は、本作は2009年ディック賞受賞作品であって、ここがポイント。
PLDの作品だってある程度アクションシーンが含まれるし、冒険的でもあるが、キモはそこにはないように、本作も風変わりな世界を舞台に、アクションもあれば、一部ミステリ仕立てでもあるけれども、キモはそこにはない。
非常に風変わりな育ち方を強いられた一人の女性が主人公だが、彼女がなぜそのような半生を強いられたかという「謎」を、樹冠世界アッパーグロウスを含む、シリンダー111で展開される連続殺人事件(?)を鍵に、解いていこうというものなのだ。

そこには、AI生命体という「目に見えず、かつどこにでもいる」存在が大きくからんでいるが、うん、そういえば、この、目に見えないがどこにでもいる存在というやつ、PLD作品の系譜に連なるといってもいい感じだ。

しかも、ストーリーの勘所は、それらによって変化していく主人公なのであり、社会的に虐待されてきた人格がいかに花開くかというところにあるので、もしも、「リングワールド」「ハードSF」というあおり文句で買おうと思うのなら、ちょっと考えた方が良いだろう。
PKD作品が好きな人には、同系統の物語として、きっと楽しむ事ができるだろうと思う。

ほんと、面白いんだけど、この宣伝文句はないよな>腰帯
相当な肩すかしになってしまって、初読時どうしてもがっかり感が出てしまうのだ。


シリンダー世界111 (ハヤカワ文庫SF)/アダム=トロイ カストロ
2011年3月15日初版
ディック賞(2009年)
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2011-04-13 17:13:44

『彷徨える艦隊 (6) 巡航戦艦ヴィクトリアス』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

海における戦闘を「海戦」と呼ぶ。
ならば、「海戦」が最も華々しかったのは、時代としていつくらいのことだろうか。
簡単なことだ。
華々しい活躍のあった時代が、最も多く、「海戦」をフィクションとして描きたい作家に好まれているはずだからだ。
一番作品の舞台となった頻度の高い時代をひろえばいい。
すると、それはフォレスターが世に送り出したホーンブロワーから、マクリーンらが描いた時代……第二次世界大戦までとなるだろう。

なぜ?
これまた、簡単な話だ。

一般的に、船というものは、水上を進むように作られている。
であるから、船が対処できるのは、基本的に、水上にいるものに限られる。
第二次大戦以降は、頭上に飛行機、眼下に潜水艦が登場してしまった。
もちろん、全く無抵抗でいることはできないから、それぞれ対抗手段は開発されているとしても、船の本領は発揮できない。そういうことだと思うのだ。

そして、近代的な軍隊という要素を入れると、モデルは基本的に第一次~第二次大戦当時のものになるんじゃないかな。

一方で帆船時代を思わせるグレープショットなどを登場させながら、ミリタリーSFとしては、世界大戦当時のものを下敷きにしているのが本作、そんな気がする。
このように世界観のモデルを決定する事によって、舞台こそ宇宙に移してはいるが、最も華々しい活躍を艦隊がはたせそうな状態にしているのだ。

かといって、宇宙空間で戦われるのだから、作戦行動が「「水平」に限定されないのも、いかにも宇宙空間での艦隊戦という雰囲気で、いい感じだ。
もちろんこれとて、すでに古くはE.E.スミスだって描写しているところだが、単に空間の問題だけではなく、きっちり、タイムラグが活用されているのが楽しい。
しかも、読者が面倒な計算とかシミュレーションを脳内でしなくても、
「ああ、タイムラグを作戦にもりこまないとだめなんだね」というのが、誰にでも納得しやすい描写となっているのがすばらしい。
ミリタリーSFの読者は、必ずしも、そういった計算を気にしないハードSFのファンではないわけだし。

これに限らず、テクニカルな部分、戦術的な部分を過度に説明し続ける事がなく、あくまでそれは背景の事として、エンタテイメントに徹しているのも本作がめっちゃくちゃ面白い、と思う理由だ。

さて、本巻は『彷徨える艦隊』の最終巻で、もちろん、それなりの結末がつけられている。
ネタバレを避ける意味合いで簡単に説明すると、アライアンスとシンディックは暫定的に終戦となるし、ギアリーのロマンス(!)も、相応の決着をみる。
特に後者は、エピローグの盛り上げ方が文句ないハッピーエンドでほほえましく、戦争や政治上の問題が残っているにしても、読者一安心ができる状態になっている。

そう、勿論、戦争は「暫定的」に終わっただけで、例の異星人の問題は全くといっていいほど片付いていないのだ!
続編はすでに本国では出されているということだから、是非とも続きを日本語でも読みたいところ。
ぜひ。ぜひ。ぜひ。


彷徨える艦隊〈6〉巡航戦艦ヴィクトリアス (ハヤカワ文庫SF)/ジャック キャンベル
2011年4月15日初版(発売中)

※ 画像は楽天ブックスから。書誌情報はAmazonから。
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2011-04-11 20:28:53

『耳袋の怪』

テーマ:神話・伝説・民話

『耳袋』といえば、江戸町奉行の養殖にあった武士が知人などから聞いた噂話などを書き留めたもので、かなりの大部だ。
一人でよくもまあ、と思うほど、凄い。
これを読み通すには、ちょこっと根性が必要かもしれない。

しかし、不思議な話のみをピックアップした抜粋版である本巻ならば、現代語訳にもされているし、気楽に読む事ができる。
あくまでも不思議な話であって、怖い話ではない。
そこを心配するには及ばない。

原題の都市伝説などもそうだと思うが、こういったものにはある程度はやり廃りがあり、それらを知る事で、その当時の(また、その国の)精神世界の片鱗が見られるところが面白い。
また、本編には、実際に江戸時代の都市伝説だったのではないかと思われる、「同じタイプの話」が重複しておさめられていたりもする。


耳袋の怪 (角川ソフィア文庫)/根岸 鎮衛
2002年7月25日初版
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2011-04-10 20:14:58

『闇の船』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

かつて、人類はすばらしい道具または召使いとするために、人間が通常備えている能力を超えるよう、バイオ改造をほどこした亜人間を作り出した。
彼らが繁殖して本来の人類を滅ぼす事がないように、ちょっとやそっとのバイオ技術では仲間の女性を作り出す事ができないよう、「繁殖不能な」種族として創り上げたのだ。
しかし、必然的に彼らは人類に対して叛乱を起こし、ついには「バイオ・ロード」として地球を支配した。
その後、忌まれる存在として放逐される事となり、どこともしれぬ宇宙の彼方へ去ってしまい……地球では伝説となった。
はずだった。

これが、本作の背景だ。
もちろん、実際にはその子孫がとある小惑星の内部に植民地を形成しており、どうしても自給できない資源を強奪しに、地球周辺に出没している。
主人公(女性)であるティーナは、地球の支配層に属する不良娘なのだが、父親の船で思いがけない叛乱に出くわし、そこから逃げ出す事によって、そのような強奪船に拾い上げられる事となるわけだ。

前述の事件について、地球人側からの視点と、逃げ出したバイオロード勢側の視点と、別々の「歴史」がぶつかりあうという序盤の面白さ、全く地球とは違う生活環境や文化の中でティーナが苦労しつつ、彼女を救い出したキットにまつわる謎めいた過去に接していく過程、そして終盤、ふたつの歴史がからみあうところで、とんでもない秘密が潜んでおり、それが暴露される過程、それぞれが起伏に富んだ面白いストーリーになっている。
しかも、アクション満載だ。
中盤、ティーナが小惑星エデンの日常生活を送っている部分ですら、「おっと~」というようなアクションがきちんと織り交ぜられている。

人付き合いの悪い青年と、やたら喧嘩っ早い娘という面白い取り合わせになっているうえ、ティーナの一人称で語られるストーリー、訳文の名調子もあるのだろうが、いかにも「いまどきの女の子だね!」というような端切れの良さで、爽快だ。

最近、ハヤカワ文庫SFではミリタリーものが多かっただけに、こういう、ミリタリーでない冒険活劇SFが刊行されたのは、とても嬉しい事だ。


闇の船 (ハヤカワ文庫 SF ホ 9-1)/サラ・A・ホイト
2011年3月25日初版
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2011-04-04 20:54:05

『生命の泉』(旧題『幻影の航海』)

テーマ:海外SF・ファンタジイ

カリブという名で、何を思い浮かべるだろうか。
海賊?
然り。
ディズニー製作の映画のおかげで、日本でもかなりなじみ深くなった。
カリブと言えば、海賊。
うんうん。

もうひとつ、ある。
ホラーやオカルトが好きな人なら、こちらを思い浮かべるだろう。
カリブといえば、ヴードゥー!
アフリカから奴隷として連れてこられた黒人達の呪術が、新大陸のものと混じり、さらにはキリスト教の影響をうけて、南北アメリカにはいくつかの呪術的宗教が誕生した。
それぞれ違う名前で呼ばれているなかで、最も有名なのが、このヴードゥーだろう。
これまた映画で有名になったゾンビを生み出したのも、ヴードゥー。

しかし、意外にも、このふたつをあわせた物語というのはあまり存在しなかったようだ。
え? ディズニーのあの映画?
あれはあれで面白いし興味深いが、実はあの映画よりこちらの作品の方がずっと早い。
日本でも同じハヤカワ文庫FTから『幻影の航海』というタイトルでかなり前に刊行されているけれども、今回、このタイトルで出されたのは映画と関連しての事なのか、ちょっと悩む。
ちなみに原題は ON STRANGER TIDE であるから、どちらかというと、旧題の方が原題に近いような気がする。

カリブ……。
思い浮かべてみるといい。
熱く蒸し蒸しした気候、だけれど暮らしやすい南国の島。
かつてスペインが島々に持ち込んだ家畜や、自生する果物(トロピカルフルーツ!)のおかげで食べ物に困らない。
ラム酒を飲みながら自堕落に暮らす事もできる。

そこには脈々と魔術が息づき、次第に押し寄せてくる西欧の秩序に、最後の抵抗を試みる(というほど整然とはしているわけもないが)海賊たちがいる。
血と裏切りと自由と。
船には呪術師も乗っているし、いや、呪術師でなくてすら、ただの水夫でもちょっとした呪術の攻撃ができる、そんな世界だ。

もっとも、魔法も海賊も、近々滅びる運命にあるのだけれども、その最後の花を咲かせるかのように、海賊の世界で強力な魔術合戦が行われるのだ。
だが、もちろん、海賊の世界であるからには魔術だけではなく、サーベルとカトラスがからみあい、先込め銃が火を噴き、嵐の翻弄される甲板の上で決闘が行われ……。
そう、アクションも満載だ。

パワーズの作品は、他にも幾つかハヤカワ文庫におさめられているけれど、本作が私のイチオシ。
帆船の好きな人、海賊の好きな人、南国の呪術とか歩く死人に興味のある人、ぜひぜひ。
そしてこれら全てが、「じきに滅びる運命」とされているのも、なんともいえない魅力の一因となっている。


生命の泉 (ハヤカワ文庫FT)/ティム・パワーズ Tim Powers
2011年3月15日初版(『幻影の航海』改題)
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2011-04-02 20:30:52

『宝島』

テーマ:古典・文学

海賊というと、なぜ、ロマンティックなものを感じるのだろうか。

現実は決して格好良くもなければ、ロマンティックでもない。
もちろん、世界の海のどのあたりの話であるかによっても、多少は変わるかもしれないが、基本のところは同じだろう。
海の犯罪人なのだ。

まあ、もちろんのこと、近代まで、どこの国でも、海賊と海軍が紙一重であった例はいくらだってあるが、そして有名な海賊も何人もいるのだが……。

それでも、海賊に対する「憧れ」を創り上げるのにあたって大きく寄与したのが、スティーヴンスンの『宝島』であることは言うまでもないと思う。
また、海賊を主人公なり、主人公に近いところに立つ脇役にした物語は、フィクションならば、しばしば『宝島』に影響を受けていると言っても良さそうだ。

ところが、改めて手にしてみると、どうだろうか。
この物語の登場する海賊といえば、最も有名なのがかのシルバーであるけれど、なんかなー。
大人の目で見ちゃうと、やっぱり海賊は海賊であって、それなりに、ずるくてヒキョ~だと思うんだよ。
なのに、なぜか、凄く魅力的に思えてしまう。

これは、もしかすると、シルバーなり、あるいは他の海賊もだが、決して絵空事のかっこよさをめざしているのではなくて、そのずるくてヒキョ~で残酷なところまで含めて、作者が目をそらさずにキャラクターの中に取り入れているからなのかもしれない。
つまり彼らの中には、単にかっこいい、まっさらのヒーローにはあり得ない、人間的な弱みを内包したかっこよさというべきものがあるのだ。

逆に言うと、そのような悪人であるからこそ、純然たる正義のヒーローより、人間味のあるものとして描きやすいという利点もありそうで、そう思って読めば、海賊が登場する物語って、たいてい、冷酷さのなかにある人間味というのが強調されているんじゃないかな。
冷静に考えると、彼らの人間味は、平凡な人間の人間味よりずっと少ないのかもしれないけど、悪党さが際立っているために、対照的に凄く人間らしく思えてしまうという仕組みなんじゃなかろうか。

そこへ、海そのものに感じる浪漫や、反体制というものに対する憧れがからむのだから、なるほど、海賊というのは、キャラクターとしてかなり最強に近いものなんだね。


宝島 (光文社古典新訳文庫)/スティーヴンスン
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2011-04-01 19:41:47

『上弦の月を喰べる獅子 (下)』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

物語の後半になると、単なる螺旋そのものではなく、ウロボロスという象徴が、より強く表に出てくるように感じられる。
作者は、ウロボロスもまた螺旋のひとつであるというが、何よりかにより、ウロボロスというのは、シンプルに、「自分のしっぽを食べる蛇」だ。
このため、一般的に、無限の象徴とか言われるのだけれど、この蛇が、かりに、どんどん、どんどん、しっぽを食べ続けていくとどうなるのか?
蛇、なくなっちゃうのだろうか?

物語の中で、頂(ちかく)にある真人の都が、如来の出現によってなくなってしまう(かもしれない)、という認識は、おそらく、ここにあるのだろう。
蛇が自分をどんどん食べてしまって、最後にはなくなっちゃうだろ、というところ。

勿論、なくなったりはしないのだし、そこのところが物語ではスリリングに、かつ、哲学的に面白く描かれているのだけれど、まあ、ウロボロスの無限性というのは、どんどん自分を食べていくと、それが脱皮するかのように一皮むけることになってしまって、元通りのところへおさまるという点にある。
脱皮する・食べる・生まれ変わる(再生する)。
この要素は、まさしく物語後半に色濃く表れてくる。

しかし、象徴的に考えると、これは、自分の内奥への旅そのものであり、旅路の終わりは、従って、存在しない。
終着点は、結局のところ、「自分」になってしまうのだから。
その内奥世界が「混沌」であるのならば、内奥に向かう事で、「人」(あるいは、内奥をのぞき、そこへ至るもの。アーガタ)は、何にでもなることができる。
時空の可変性というか、可塑性というか、そうだなー、内部へ向かう事で「自分=想念による無限の可能性」が達成されるとか、そういう道が示されているのかもしれない。

SFとしては非常にスペキュレイティヴな物語だと思うが、前世紀に「スペキュレイティヴなフィクション、すなわちSF」と唱えた欧米の作家の作品とくらべ、感覚的にしみこみやすいのは、ベースが仏教だからかな。
まあ、難しく考えなくても、面白い物語だと思う。
タイトルにインパクトをおぼえたら、手にとってみる、でも損はない。たぶん。

あむっ>上弦の月
え? とらは食べちゃだめ?


上弦の月を喰べる獅子 下 (ハヤカワ文庫 JA ユ 1-6)/夢枕 獏
2011年3月15日初版
第10回日本SF大賞
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