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2010-03-31 21:09:48

『EX! (10) 』

テーマ:冒険・アクション

表紙の少女は誰あろう、現ARESのトップ、シスター・ヘラである。
ウサギ(ぬいぐるみ)つき、なのである。
「信じてくれなくちゃ、やだZO」
なのである。

全盛期には、主人公一哉の母であるミスラと手をたずさえて女王として君臨していたらしいのだが、今は一見いたいけな少女になってしまっている!
ううむ。
これは、やはり「萌え」というやつなのだろうか。
うん、絶対それを狙っているのに違いない!

しかし、個人的に「萌え」より「燃え」に生きる私としては、やはり、一哉と零の共闘が一番の醍醐味だ。

いかに、聖クレス学園(の改造人間たち)がほんわかな日常を送っていようと(面白いけど)、
その学食でいかに美味しそうなデザートが出ていようとも(うまそうだけど)、
まだ記憶がちゃんと戻らない由良のおかげで、一哉の周辺が珍妙な「らう゛こめ」になっていようとも、

やっぱ、燃えるだろう!

誰が見てもイヤミなライヴァルが自分の学校に転校してくる、
そして、授業という授業で熾烈な戦いが展開され(しかも上手を取られ)、
そこへ、「真の敵」が姿を現したことにより、奇しくも共闘する事になるというこのシチュエーション!

泥臭いが、その泥臭さこそが、特撮ドラマの醍醐味なんじゃないか。
はっきり言って、おいしすぎる。
最後に、「この紋所が目に入らぬか」で大団円となる水戸黄門を見ているがごとき、予測のしやすさではあるが、それだけに得るカタルシスも大きいというわけだ。

おまえら、心に太陽当ててるか!
やけに寒い春先、こういうアツさは、いい感じ。
え? 季節も気温も関係ない?(しっぽゆら~ん)


EX!10 (GA文庫)/織田兄第
2010念3月31日初版
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2010-03-30 21:15:06

『微睡みのセフィロト』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

セフィロトとは、地界と天界をつなぐ生命の樹であり、魂はその階梯を昇る事で、神と合一される。
しかし、当然のことながら、それは単純な一本道ではなく、セフィロトをたどる魂はさまざまな苦難と遭遇しなくてはならない。

本作において、このセフィロトをたどろうとしているのは、何者でもない、人類そのものだ。
感覚者(サード)と呼ばれる一般人と、感応者(フォース)と呼ばれる、一種の超能力者。
感応者の設定は、前世紀の超能力者によくあるような、核爆弾やそれに類するものの産物ではないのだが、感覚者と感応者の確執は、かつての「超能力モノ」を踏襲したかのような関係にある。
まあ、確かに、出る杭は打たれるものなのだし、異形のものは社会からなんらかの形で押し出され、英雄だの悪魔だのアイドルだの犯罪者だのになるものなのだが、その「異形」がある程度の数的勢力を持てば、もちろん、生存のための闘争が始まると思ってさしつかえないのだろう。

え、そんなバカなっ?
今の人間はもうちょっと利口になっているのでは?

そうでしょうかね。
冷静に、客観的に考えてみよう。
自分よりデキる、と思った相手に、ちょっとでも、嫉妬の念がわかないか?
昨日までは自分と同列にいたやつが、突然、ある才能を発揮して、自分より一歩先に行ってしまった。
悔しくないか?
絶対に、嫉妬したり、悔しがったりしないと確信できるだろうか?

もちろん、そういった感情を抑制する事はできるだろう。
だが、一瞬であっても、そういう感情をいだかずにいられるという事は、多分、ないのだ。

ゆえに、このテーマを描くとしたら、闘争までは、デフォルト。
そのあとをどう描くのかというのが、問題になると思われる。
本作は、まさしく、そういった闘争というか、戦争の「あと」の世界を舞台とする事により、

どうしても抱いてしまうであろう嫉妬だの憎悪を悔やみ、あるいは抑制し(しようとし)、
平和を希求してやまない、もうひとつの欲求がきざしはじめた人類の姿を、描いている。

そこには、感応者が生まれた理由や意味などは、全く触れられていない。
ただ、戦争が終わったあとも、ちょっとやそっとでは鎮火する事のない憎しみや、それに対する反発から出た凶悪なテロを通じて、感覚者や感応者を全てふくめた人類がどこへ向かうのかを指し示す。
いわば、大いなる苦しみによる人類の錬成過程、セフィロトを一段階よじのぼるための苦闘が、本作なのだ。


微睡みのセフィロト (ハヤカワ文庫JA)/冲方 丁
2010年3月15日初版(2002年デュアル文庫版より改稿)
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2010-03-29 23:22:43

『ブラックペアン1988』

テーマ:ミステリ



続編『ブライトメス』はいつ頃単行本化されるのだろう、と思いながら、ふと、再読したくなったのが本作。
海堂尊作品は、作者が意図していたにせよ、いなかったにせよ、日本の医療にかかわる様々な問題が浮き彫りにされていて、良くも悪くも考えさせられてしまうという悪い点があるのだが、そこを無理矢理わきへどけてみれば、やはり、根本的には、エンタテイメントなのだ。

すると、巻末に収録された吉川晃司との談話で、作者本人が言明していた。
面白くないことはしない(意訳)。
なるほど。
面白いから小説を書いているわけで、ならばやはり、これはエンタテイメントで間違いないのだ。

さて、ではどこが一番面白いのかというと、やはりキャラクターの造形かなあ、と思う。
ややステレオタイプなところが出たり、あくの強いキャラがいたりするあたりは、そうだな、ちょっと田中芳樹に似たタイプかなあ。
本作は、大ヒットした『チーム・バチスタの栄光』からさかのぼること20年前の桜宮。
つまり、おなじみのキャラの若かりし頃(!) が見られるのがおいしいのだが、何よりかによりカッコイイのは、佐伯外科教室に君臨する神のごとき外科医、佐伯教授なのだ。

人間というのは、若い頃なら誰もがキラキラしていてあたりまえ。
いかに味のあるじいさんばあさんになれるかというのが、真の人間の価値というものじゃないかと思うのだが、それがフィクションとなれば、魅力的なじいさんばあさんを描ければ、キャラ造形のうまい作家だと思って間違いないと思うのだ。
そして、海堂尊のそうした造形力の真骨頂が、佐伯教授である。
後の高階院長など足下にもおよばない、エラくて、スゴみがあって、ひどのなだめどころもつかんでいて、かつ、いざという時はずばり的確に英雄的な所行ができるという、実にかっこいい「じじい」だ。
こういうじいさんと現実につきあうのは大変だが、面白くもあるぞ~。
幸か不幸か、なかなか、いませんがね。

そんなパワフルな佐伯教授の光と影が存分に描き出されている本作は、バチスタとは違う意味で、スリリングな医療ミステリでもある。
いや、バチスタが、ある意味、ふつ~に医療ミスを題材にしたミステリであった事を考えるなら、医療ミスと思われるケースを、まさに医者にしか思いつかないような、だいたんなどんでん返しで締めるという結末、凄すぎる。
うーん、正直に言うと、ドラマの展開はやはりバチスタの方に勢いがあるかもしれないんだけど、仕掛けの面白さは、倍以上。

『ブラックペアン1988』は、やっぱり面白い。


ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)/海堂 尊
ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)/海堂 尊
2009年12月15日初版(文庫版)
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2010-03-28 23:21:27

『ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

表紙のふたりが、誰あろう、ジョンとマリー。
ひとりは騎士養成学校の新卒(但し就職先未定)であり、
もうひとりは魔女養成学校の首席卒業者(しかも名門の嫡女)であって、
合同卒業式が行われた夜の謝恩会の席上、唐突に結婚してしまうのだった!
養成学校在籍の5年間、隣同士の校舎ではあっても、かたや男子校、かたや女子校。
塀ごしに何度か目をかわす程度のつきあいだったはずだが、もしかしてこれにはなにか魔法のしかけが?
……あったのだが、誰もが想像するのとは全く違うところにいろいろしかけられていた。

しかし、ふたりの愛情は本物なので、ご心配なく。

なんといっても、互いの身分があまりにも違うため、花嫁の両親がめちゃくちゃ反対するわけだが、そこで出された結婚のための難題(って、とってもファンタジイ的な民話式じゃん)を乗り越えるべく、手に手をとって敢然と立ち向かうのだ。

「結婚費用1億¥(ヤン)を用意する」という難題に。

そうそう、だからふたりは賞金稼ぎをすることになるんだけど、そこには王様はじめ、オトナたちのちょっとした企みも大いに絡んでいたのだった。
そこに、「花嫁の父」(おおーっ)がオマケによこした、プチ厄介な呪いのアイテムまであって、
普通ならへこたれてしまいそうなところ、世間知らずなだけにふてぶてしく、生真面目なだけにしたたかな、若いカップルはとってもがんばる。

彼らがシア所にゲットしようとする賞金(複数)もなかなかふるっていて、
トカゲのバリエーションである幻獣を用いた駅伝レースの開催地で起こった3つの事件と、
レースそのものにからむ、悪臭……というより、雌の発情ホルモン臭ぷんぷんのでかい企みにチャレンジ。

ものがレースなだけに、中盤から物語はどんどん加速し、スリリングになるのが心地よい。
どういう悪事が行われているかについては、わりと読み解きやすいけれども、むしろ、レースの途上、それをどう解決するかが面白いんだな。
もちろん、二人の結婚資金がどうなるかというのも、見どころであります。

いやもう、面白くて一気に読んでしまったんだけど、シリーズものになりそうな感じなのに、どこにも、シリーズタイトルとか、巻数の文字がない。(むむっ)
とはいえ、裏表紙のライナーには「結婚冒険ファンタジイ開幕!」とかあるので、ちょっと希望がもてるような。

ともかく、本巻ではかれらの初期目標はまったく達成されていないので、ぜひとも2巻目を出してもらいたいもの。
だって、ほんとに面白いんだからね。


ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ (ハヤカワ文庫JA)/桝田 省治
2010年2月25日初版
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2010-03-27 19:55:35

『オペレーション・アーク3』〈セーフホールド戦史〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

訳者あとがきで紹介されている作者の香草によると、本シリーズでは、セーフホールドの人類が再び宇宙へ進出するところまで、描くつもりがあるのだそうだ。
しかし、第1部(ハヤカワは分冊方式のため、原書ではこれがまるごとで第1巻)は、まず、作り物の教会による技術支配、というか抑圧を覆すところまで。

その火種となるチャリスは、かーなーり、イギリスを思わせる王国だったが、実際、今回はマーリンがセエレブ王子にヘンリー8世の面影をなんとなく見ていたりして、ますますイギリス臭くなった。
それは、華々しい艦隊決戦のせいも、あるかもしれない。

この作者はもともと艦隊戦を描くのが好きな人のようだけれど、やはりその醍醐味は、帆船の全盛期にあるのでしょうかね。
ちょうど、このチャリスで始められた新機軸は、人力で漕ぐガレー船から、風上にも自由に間切る事ができる帆船が出現し、新型の砲とあわせて、旧式の艦隊に圧倒的勝利を描いている。
英米の帆船小説は、だいたい、この時代を舞台として選んでいるしね。
だが、そういった、帆船小説にしても、ここまで圧倒的大勝利は誰も書いていない。
そりゃそうだ、ちょっと現実の歴史にはお目にかかれないようなものなんだから。
そこが、あえて「遠い未来、はるかなる宇宙の彼方」にある植民星で繰り広げる意味というものなのだろう。

しかも、単なる大勝利というのではない。
そこは帆船小説ファンならご推察のとおりと思うが、砲弾飛び、葡萄弾荒れ狂い、破砕された船材である木片が飛び散り、容赦なく人が死ぬ。
ウェーバーは無駄にキャラを殺す事はしないが、殺し惜しむ事もないので、そのこともあわせ、ドラマは凄い盛り上がりをみせる。

それにしても、ここから宇宙時代までとは、いったいどれくらいの時間をかけようというのだろうか。
シリーズ冒頭での悲惨な宇宙戦。
その戦場へどれくらいかけて戻ろうというのか。


オペレーション・アーク〈3〉―セーフホールド戦史 (ハヤカワ文庫SF)/デイヴィッド ウェーバー
2010年2月25日初版
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2010-03-26 22:31:38

『アタゴオルは猫の森 (15) 』

テーマ:日本SF・ファンタジイ

表紙の猫型かまくら。
なんとも入ってみたくなる感じだけれども、もしもヒデヨシが作ったものならきっとタコ型になるか、あるいはなんだかわけのわからん形になっていたんだろうね。
つまり、これは、一緒に入っているテンプラの作品とみた!

しかしまあ、とにもかくにも、ヒデヨシはタコが好き。
ソノラマ時代のアタゴオルでは、あまりに貧乏で魚が食べられないから安い酢ダコばかり食べているのだ、などと言われていたけれども、そういう経済的な事情をこえて、ヒデヨシはタコが好きなんだと思うね。
紅マグロはもちろん好物だし、黄金ウニは最高らしいが、結局はタコ。

そんなヒデヨシのアタゴオルには、タコの模様の服しか占い服屋があるそうだ。
その名もタコモン屋。
ここでヒデヨシが買った、どでかいTシャツみたいな服は、どーんとでっかくタコが描かれている。
そのタコ紋が不思議なことになるけれど、このタコ模様、意外とおしゃれなんじゃあるまいか。
Tシャツとかなら、ちょっと着てみたくなる。
実際、タコの形っていうのは面白いから、いくらでも、デザインできるような気がするね。

連載4回を費やした「ミンミン・フミンミン」はまたまた火山の噴火話。
作者は噴火する火山が大好きなのだそうだけど、確かにあれは、なにかこう、心を躁状態にさせるものがあると思う。
鳥霧山はじめ、ヨネザアドではひっきりなしにあちこちの火山が噴火しているけど、古代からヒデヨシの時代にいたるまで、どうも、噴火にはひとくせあるみたいだ。
しかし、今回のフミンミン山はアタゴオルにしてはちょっと暗い感じ。これがもうちょっとひねくいれると、逆に、初期のアタゴオルのような鋭さが出ていたのかもしれない。


アタゴオルは猫の森 15 (MFコミックス)/ますむら ひろし
2010年1月31日初版
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2010-03-25 14:01:27

『アタゴオルは猫の森 (14) 』

テーマ:日本SF・ファンタジイ



本巻は木意慕(キイボ)の話から始まる。
生きた木を思いのままに操る一種のロボット(ロボ)なわけだが、実はこの存在、初出が13巻のラストに収録されているエピソードに、チョイ役として出演してるのだ。
ヒデヨシが糠ノ目博士に言っているとおり、魚屋の腹倉親父がヒゲヨシ撃退のため、大枚はたいて糠ノ目博士に作ってもらった、というもの。
単行本は年に2回の発売だから
こうして間があいてしまうとちょっとわかりにくいな。連載ならちょうど続いていたんだろうけれども。

しかし、本巻の白眉は、ある意味「絵の具を買いに」と「痛読街道」で、いずれも夢をもとにしたものらしいが、かつて作者がマンガ少年に掲載したことのあるちょっと異風なアタゴオルに雰囲気が回帰していると思う。
そういえば、常に古風な水中ヘルメット(通底器式の)を装着している謎の潜水夫もそのころから変わらないキャラだ。
なんと当時から数えてアタゴオルも30年以上経過しているそうだから、その当時のキャラがいまだにこうして出てくるというのは、ある意味すごいことだ。
そして、そのうちの10年が、すでにフラッパーで連載継続というのもすごいよな。
マンガ少年がなくなった後は、どの出版社のどこにアタゴオルが移動しているのか、探すのが大変だったことを思えば。
まあ、今でも、書店の店頭にはなかなか置いていないんだけどね。残念。

そして昔のとおりといえば、今回、物語の中には関係ないけれども、表紙絵のヒデヨシも、そうかもしれない。
でっかいガラス瓶をせおっているやつね。
初期のアタゴオルでは、あれってたいてい、猫正宗の酒瓶で、その巨大な瓶を3本だか4本だか、ヒデヨシはまとめて背負ったことがあるのだ。
誰にもまねできない。
でも、このでっかいガラス瓶、子供のころはすごくいいなあ、と思っていた。
大人になって考えてみると、ガラスだけでも相当の重量のはず。
しかも、色や形からして、再生ガラスの厚みのある瓶みたいだからね。
そこに液体がなみなみと入っていたら、さぞや重かろう。
でも、蛇腹沼のような水面に水中、銀しぶき海のほか、こういう入物に入った水も、たしかにアタゴオルらしいところなのだ。
水と緑とキノコ、これがなければアタゴオルではない。


アタゴオルは猫の森 14 (MFコミックス)/ますむら ひろし
2009年6月30日初版

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2010-03-24 22:58:22

『クシエルの使徒 (2) 白鳥の女王』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

本作は、ファンタジイの衣を着た宮廷陰謀劇である。
ということは、「陰謀の裏に誰がいるのか」という要素を常に含んでいるわけで、ミステリとかなり近い楽しみ方ができるというわけだ。
実際、原書では第2巻にあたる『クシエルの矢』では、
「いったい、誰がメリザンド・シャーリゼを逃がしたのか」
という問題が、メリザンドの居場所ともども、要となる謎となっており、本巻で、とうとう、それが解かれる事となる。
しかも、フェードルが訪れたセレニッシマで、事前にちょっとしたヒントが幾つか与えられていくのだから、なんと、今回はミステリでも、いささか本格ものっぽい味わいが加味されていると言える。
フェードルが思いもよらぬ経緯から得た神託、「最後に探したその先に探し物は、ある」という、いかにも曖昧で、見ようによっては嘘くさい言葉が、実に巧妙な筋立てのもとに実現してしまうのも、なかなか面白い。

さて、表紙絵から推察されるとおり、フェードルは牢獄入りするはめになるのだが、この牢獄、波の荒い孤島にあるので、なんとなく巌窟王っぽい雰囲気がある。
諸国に名だたる美貌をもつテールダンジュ人のなかでも、神娼たる彼女は、そんな牢獄でどういう目にあうのだろう、と興味深いところだが、残念ながら、彼女の「アングィセット」としての能力は、スカルディアで奴隷にされていた時と同様、あまり発揮する機会がない。
もちろん、神娼なrではのシーンはあるのだけれども、「アングィセット」(天性のマゾヒスト)の技というのは、爛熟した文化の中でしか、うまく活用できないものなのかもしれない。

ところで、本作の魅力というと、特異なプロフィールを持つフェードルの活躍そのものとは別に、彼女が旅する諸国の風物や政治といった、ツーリスト的な楽しみもある。
本巻の前半では、当然、ヴェネツィアもかくやの、セレニッシマが、主にその上流社会、そしてちらりとかいま見えるスラムともども、楽しめる。
フェードルが参加する事になる大きな祭などは、いかにも春めいていて、これからの季節にぴったりだ。
満開のサンザシの花は、日本でいうと、桜のような風景になろうかと思う。

そして後半は、イリュリアの海賊の本拠地へ。
彼らの生活などを見ると、こちらはスラヴ系のにおいがする。
とはいっても、現実の地図に比定するなら、ロシア本土まではいかず、トルコやギリシアに近いあたりとなるんだろうか。
フェードルにとっても馴染みのない民族らしく、初めて、自分に全く理解のできない言語がまわりで使われていることにいらだつ様子がほほえましい。


クシエルの使徒〈2〉白鳥の女王 (ハヤカワ文庫FT)/ジャクリーン ケアリー
2010年2月25日初版
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2010-03-23 21:15:47

『再建』〈吉原裏同心12〉

テーマ:歴史・時代小説

佐伯泰英の時代物シリーズはいくつもあるが、そのうち、最も人情の機微をこまやかに描いているのが、もしかすると本シリーズではないかと思う。
それは、表舞台が、苦界とも称される吉原という場所であり、さらに、主人公がそのまた「裏」に生きるという設定だからだろう。
苦界であればこそ、表舞台にあたる光は強く華々しく、その影は暗いものだ。
そう考えると、このコントラストの強さは、作者がかつてなりわいとしていた写真の世界に通じるものがあるのかもしれない。

ところで、吉原という世界は、今でいえば芸能界にちょっと似ていると思うのだ。
プロダクションのかわりが妓楼であり、アイドルが遊女。
ファンのかわりに誘客が、遊女と恋の遊びをするわけなのだが、誘客に至っては、今のファンとどれほど替わりがあるだろうか、と思う。
芸能界と同様に、吉原もまた、人に夢を見させるための美しい幻を作り出し、それが暴かれないように手をつくして守ろうとする、その苦労こそが、本シリーズの醍醐味なのだろう。

それゆえ、佐伯作品のどれよりも、本シリーズは情景がファンタスティックで、特にそれは、花魁道中や紋日といった、吉原のイベントに強くあらわれるのだが、今回は「五百日に及ぶ仮宅営業が終わり、再建なった吉原に遊女三千人が還る」という、何十年に一度の大イベントが待っている。
いわば、佐伯泰英の腕の見せ所、その筆がひときわ冴え渡る場面だ。

そして、本シリーズの主人公も、磐音も体験したように、なぜか、主人公たちは、そのイベントを表立って見る事も、参加する事もならず、この素晴らしい幻を怖そうとする闇の手をはばむという役回りを与えられる。

なんだか、ここにも、華麗な世界を裏方から撮影していたかつての作者の立ち位置が投影されているように感じるのは、気のせいなのだろうか。


再建―吉原裏同心〈12〉 (光文社時代小説文庫)/佐伯 泰英
2010年3月20日初版
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2010-03-22 20:39:27

『逢初橋』〈深川鞘番所7〉

テーマ:歴史・時代小説

このシリーズは、言うまでもなく、深川という土地に密着した捕物の物語だ。
ということは、当然、深川という土地そのものが、重要な要素となる、という事なのだ。
これは洋の東西を問わず、警察小説とか、時代物でそれに相当する捕物帳などでは当然の事となる。
なぜかというと、犯罪を摘発する役人には、当然管轄区域というものがあって、その土地の人間と、切っても切れない活動をする事になるわけだからね。

さて、本巻は珍しくも、大名のお家騒動に、深川鞘番所が巻き込まれる、という展開になっている。
なぜ巻き込まれるのか、というのもとりあえず不自然ではないし、そこに、前巻で心に傷を負った溝口がうまくかかわってくるのもいい感じではある。
しかし、そのお家騒動が、単に「深川に焦点となるべき人物がやってきた」というところでしか、深川という土地に関わりを持たないため、いささか味気ないものになってしまっているのだ。
それはひとえに、事件が、深川という「土地柄」と一切関わりのないものであるからという点にある。

事件がもう少し、なんらかの形で、深川の「土地柄」や、その土地に住み暮らす人々と直接の関わりがあったなら、もうちょっと面白かっただろうと思うんだけどな。

そもそも、大名家というと、あありまえだが地方に領地を持っていて、江戸とその領地を、殿様がいたtりきたりしているわけだから、地方のどこかに大きなつながりを持っているという事になる。
江戸屋敷が関連するなら、まだ良い。
何世代も江戸に暮らしている藩士もいるだろうし、それなりに、土地とのつながりも生じているだろうからだ。

しかし、いわば番外地である深川には、地縁の持ちようがないではないか。

目の付け所は面白いところもあるんだけど、どうも本巻は失敗なんじゃないかな、と思う。


逢初橋 〔深川鞘番所〕 (祥伝社文庫)/吉田 雄亮
2010年3月20日初版
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