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2010-01-31 20:53:39

『異端の徒弟』〈修道士カドフェル16〉

テーマ:ミステリ

今の日本で、巡礼に出るという話はあまり聞かない。
江戸時代までは、お伊勢参りなどがあって、無一文で突発的に巡礼に出たとしても、沿道の人々の報謝によって巡礼が完遂できたのだそうだ。
巡礼を終えて帰ってきた時はどうだったのだろうか。
これについてはよくわからないが、元通り仕事先や家族に迎え入れてもらえたのではないかとうかがえる。
まあ、たぶん、だけれども。

では、ヨーロッパではどうだったのだろう。
キリスト教の巡礼者も、もちろんやり遂げた者は相応の尊敬を受けた事が、いろいろな作品からうかがえる。
しかし、なんといっても、距離があるだけに時間がかかった。
日本のお伊勢参りならば、列島内だけの事だから、出発地点や状況にもよるが、1年もかからないでやり遂げられそうだ。
しかし、ヨーロッパの場合、幾つもの国境をまたがなくてはならない。
数年がかりになる事も、まれではなかっただろう。
それに、全くの異国へ行くのであるから、やりげて帰ってきた時には、ものの見方などが大きく変わっていたかもしれない。

故郷に受け容れてもらえるのか。
あるいは、あとにしてきた日常に再びとけ込めるのか。

本巻で事件に巻き込まれる徒弟も、まさしくそういう状況に巻き込まれるのだが、なんとそこにはとんでもない落とし穴が待っていた。
巡礼の帰途、なくなった主人を、遺言通り修道院の教会に葬りたいと申し出るのだが、巡礼者とはいえただの俗人がそういう栄誉を得る事をこころよく思わない聖職者もいる。
そして、まことに都合の悪い事に、その巡礼者に異端の疑いがかけられた過去を思い抱いた者がいた。
もちろん、異端者は、教会内に葬る事などできるはずがない。

しかも、徒弟の周辺にいきなり殺人事件が発生してしまう!
(もちろん、そうでなくてはカドフェルの出番がない)。

もちろん、ここからが物語の面白くなるところだが、徒弟と、その主人が、異端であるかどうかについて、当然、問答が行われる。
このあたりは、『薔薇の名前』が面白かった人なら興味あるところだろう。
しかし、カドフェルや、カドフェルと親しい修道士たちは、学僧というわけではないから、言葉や説明がもっと平易だ。
そして、素人がひっかかりがちな罠にやっぱりひっかかってしまう徒弟が、アウグストゥスの著作にある矛盾について疑問をいだくと、カドフェルがその実際的な論理で彼の迷妄を解き明かそうとするという、心温まるおまけがある。

実際のところ、殺人事件のような実態がないだけに、宗教論議というものは、たやすく「迷妄」に陥りやすいのではないだろうか。
抽象的な論争は、楽しい時には楽しいのだが……。
しかし、カドフェルやポールのような、実際の人間を愛する考え方の方が、やはり親しみがもてる。


異端の徒弟 -修道士カドフェルシリーズ(16)/E・ピーターズ
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2010-01-30 19:57:57

『ヤマタイカ』

テーマ:冒険・アクション

何度再読しても、そのたびに、胸の奥からこみあげてくるものがある。
日本中の火山が次々に爆発していき、日本人全ての「無意識」を集める「よりしろ」としての、戦艦大和が海底からよみがえる。
日本の「体制側」は沸き返る日本人(そのなかの、火の民としての意識)を抑えることができず、大和は単艦であっても、アメリカの第7艦隊に、負けない。
敗戦後、70年余にもわたって日本の心は折れたままだった。
しかし、心は折れ続けたままでいる事はできない。
いつかはそのまま息絶えるか、あるいは再び立ち上がるか。
本作はたとえ架空の物語ではあっても、日本人の心を鼓舞する物語だと思う。
そして、一時期ブームとなった架空戦記ものよりも、さらに奥底から日本人を揺さぶるものだとも思う。
それは、日の民族に永らく頭をおさえられてきた縄文の火の民と、戦後の日本人を二重に重ねあわせているせいかもしれない。

それにしても、日本人の巨大なもの好きは、どこに根ざしているのだろう?
同じ疑問を、作者は宗像教授のシリーズでも提示しているが、こればかりは、確たる理由をみつける事はできないのではなかろうか。
しかし、確かに、それは事実なのだ。
古墳も、大仏も、戦艦も。
いやいや、そこで終わりではない。
ビルもそうだ。
そして、架空の世界のこととはいえ、ウルトラマンも、怪獣も、巨大ロボットも、他国ではヒーローだって悪役だっておおむね等身大、せいぜい、B級SFやB級パニック映画で巨大生物ものがあるくらいだが、日本人は巨大なものばっかり送り出してきた。

その、無意識に巨大なものを求める気持ちが、「火の民」に通じるというのは、やはり面白い。

もしもこの物語のように、日本中の火山が次々爆発し、列島じゅうが地震に揺れ始めたら、日本がこうむる経済的な打撃はおそろしく深刻であるはずだ。
だが、この物語は直接触れていないが、関東大震災からも、敗戦からも、日本は劇的に復興してみせた。
それを、作中では、日本人が破壊し、再生する民族であると語っている。
火山国である日本は、たしかに、地震も多いし津波の被害もこうむってきた。
それが、いわば、日本にとっての「あたりまえ」なのだ。
あたりまえである事が、火の民の感覚なのだ。
山が火を噴き、大地が揺れるならば、大いに自分たちも踊って、そのパワーに共振するのだ。
ほんとにそれができたら凄い事だが、日本人の中には、必ず、それができる「火の民の血」が流れているのだ。
物語のラストは、その事を指し示している。
不思議と、そう示されるだけで、心が躍る事だと思う。

『ヤマタイカ』は語る。
たとえどれほどひどく打ちのめされようとも、何もかも吹き飛ばして立ち上がる、いや、それどころか、踊れるだけの力が日本人には、ある。
あるのだ。


ヤマタイカ (第1巻) (潮ビジュアル文庫)/星野 之宣
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2010-01-29 20:27:08

『ハルイン修道士の告白』〈修道士カドフェル15〉

テーマ:ミステリ

日本では、本州日本海側のいわゆる豪雪地帯では、たいてい、雪が水分を含んで重く、東北の北部と北海道はお会うダースノーだと言われる。
イギリス諸島はどうなんだろう。
しかし、シュルーズベリ修道院は、老朽化した屋根がまさしく雪の重みで屋根が壊れてしまったのだ。
そのままにしておけば建物はどんどんいたむ道理だから、冬のさなかにもかかわらず、屋根の補修が行われる事となるのだが、屋根は鉛のかわらで葺かれているとあって、これが大変。
寒い中、滑りやすい場所で、金属のかわらを使って作業をしてみたまえよ。

……落とすな。うん、落とす。

そして、そのようにして落ちたやつが、芸術的手腕を誇る筆耕の脚をむざんに打ち砕いてしまったのだった!

まあ、高所から落ちたものにあたったら当然の話。

このため、死ぬような目にあったその筆耕(修道士)が、世を捨てるきっかけとなった事件に思いをいたし、それに終止符をうつために、徒歩で(!)巡礼に出るというのが本巻の内容だ。

その事件というのは、若者にはありがちというか、結婚したかった娘と引き離されてしまったというものだったのだけど、その後、彼が娘にひそかに渡した堕胎薬がもとで、娘は死んだと知らされていたのだ。
その墓に詣でることが、巡礼の目的というわけ。

ところが、なぜかその墓参りはことごとに邪魔され、娘の死そのものが、怪しくなってくる。

今回の面白味は、まさしくこれ。
死んだとされている娘はほんとうに死んでいるのか?
普通、ミステリは、まず死体ありきで、どのようにその死が行われたかを検証していくわけだけれど、死体の存在からして疑わしくなり、死が行われなかったかもしれないことを追求してくのは、普通とまるで逆だ。
娘は死んでいるのか?
それとも、実は生きているのか……?

まだまだ、歩くにはムリがある修道士ハルインを支えながら、カドフェルがその謎を解いていくのは、いつもと違うスリリングさだ。


ハルイン修道士の告白 -修道士カドフェルシリーズ(15) 光文社文庫/エリス・ピーターズ
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2010-01-28 21:18:57

『いさましいちびの駆け出し魔法使い』〈駆け出し魔法使い3〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

いさましいちびの……
……トースターでもなく、仕立屋でもなく、駆け出し魔法使いなのだ。
つまり、ニータの妹、デリーンが、とうとう魔法使いとしてデビューするわけだ。
向こうっ気の強い天才少女、しかしまだ幼い。
彼女はどのようにして魔法使いになるのだろう?

もちろん、「指南の書」は、たやすく想像できるとおり、ニータのものをデリーンが盗み見るという形でデリーンの前に登場するのだけれども、これって複数の人間が共有できるものではないのは、すでに前2作で照明されている。
なんと、デリーンの指南の書は、パソコンという形で再登場するのだ。
うぉ(笑)。

但し、本作がもともとアメリカで売り出されたのは、1990年のことだ。
20年前ですよ。
作者がこれを書くにあたって「お世話になった」のは、Compu-Serveの幾つかのフォーラムだそうだ。
そうそう、この頃はパソコン通信の時代だったのだ。
インターネットは、まだ(ほとんど)なかった。

デリーンが占有する事になるのも、当時最先端のMACだ。
そうそう、この時代、まだウィンドウズ・マシンは夢にも登場していなかった。
パソコンは、プロンプト(>記号)のあとにコマンドやファイルのあり場所などを文字列で指定する事で動作したのだった。
そういや、最近、「プログラムを走らせる」なんて言い回しは死語になってしまったようだが、この当時、何かを実行させようとするなら、Enterキーの一押しではなく、これだったね。
 >RUN
 (プログラムよ走れ~)
なんというか、懐かしすぎる……。

そう考えると、彼女が有る時、テラバイトクラスのメモリを使用した魔法がひとつあるのだけれど、それは、当時の人たちにとって、夢想だにできない巨大サイズだったはずだ。
今や、テラバイトって手が届くところにある単位だけれども、ね。

デリーンがMACにやらせているような事は、今ですらとんでもない作業なのだが、まあ、彼女のマシンは魔法のマシンであるからして、そのあたりのことにあまり突っ込んではいけない。
なまじっか、レトロになる一歩手前の技術が登場するだけに、ファンタジイとしてもSFとしても、どうも馴染みにくくなってしまっている気がするが、くそ生意気な天才少女が、意気揚々と魔法使いになる宣誓をしてしまったために、どういう経験をしなくちゃならないかというのは、やはり成長ドラマとして興味深いし、面白い。

いじめられっ子だった姉のニータがどんな風に変わったかに比べると、もちろん、性格が真逆であるデリーンの成長プロセスは全く違うものだ。
しかし、天才といえども彼女はいたいけな少女なのであり、その事にまず自分自身が気づくというのが、成長への門となるわけだ。

ニータのあとのデリーンであるだけに、この成長物語は、なかなか面白いと思う。


いさましいちびの駆け出し魔法使い (創元推理文庫)/ダイアン・デュエイン
209年9月25日初版
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2010-01-27 21:12:27

『サム・ホーソーンの事件簿 VI』

テーマ:ミステリ

ホーソーン医師のシリーズは、探偵兼語り手である医師の思いでという形をとっているが、年代順に並べられており、本巻が最終巻。
表紙でわかるとおり、とうとうホーソーン医師ことサムは、獣医師であるアナベルと結婚し、本巻の中程で子供も生まれるのだけれど、時代はまさしく第二次世界大戦の最中。
田舎町ノースモントは、戦場からは遠いけれども、その影響は着実にのしかかっていて、日本人としてはちょっと複雑な気持ちになる事もある(かもしれない)。
うん、まさしく、本巻が始まるころに戦争が勃発し、真珠湾攻撃があり、ドイツとイタリアに宣戦され(そして宣戦し)、巻末あたりではヒトラーの暗殺計画が未遂に終わるという事件がヨーロッパで発生し、何年も続いた戦争の終わりを予感させる事件がある。

サムがかかわる事件も、戦争の影響によるものが幾つかある。
たとえば、徴兵忌避者が登場したり、銃後の活動としてくず鉄集めだの、戦時公債集めのための集会が行われていたり、若者はみな徴兵されるか志願して戦争にいき、ノースモントに残っているのはその年齢からはずれた者ばかり。
ガソリンは厳しい配給制となっているため、サムを含め、住人は遠出をする事もできないのだ。

作者が2008年に亡くなってしまったため、その後のサムの活躍を知る事はできないけれど、幸いにも、シリーズが回顧録というスタイルであるため、少なくとも、サムの一家が幸せを築き上げ、サムとアナベルには孫もできて、長生きした事がわかる。
なので、シリーズ全体はハッピーエンドと言えるんじゃないかな。

さて、収録作品のうち、どれが一番面白かったとは言えないのだが、それは逆に、どれをとってもはずれがないという事でもある。
一応、インデックスをあげておこう。

----------
幽霊が出る病院の謎
旅人の話の謎
巨大ノスリの謎
中断された降霊会の謎
黒修道院の謎
秘密の通路の謎
悪魔の果樹園の謎
羊飼いの指輪の謎
自殺者が好む別送の謎
夏の雪だるまの謎
秘密の患者の謎
----------


サム・ホーソーンの事件簿VI (創元推理文庫)/エドワード・D・ホック
2009年11月27日初版
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2010-01-26 21:59:13

『天体戦士サンレッド (2) 』

テーマ:その他

本巻は後半1/3程度が、『気象戦士ウェザー3』となっている。
すでになくなった雑誌に掲載された、いわば本作の前身にあたるもの、「らしい」のだが……。
う~ん、つまり、敵の組織はフロシャイムで、指揮官はヴァンプ将軍。
戦うウェザー3は、リーダー(?)のレッドがサンレッドで、他にブルーとイエローがいる。
ブルーもイエローも、『天体戦士サンレッド』に、かつての仲間として顔を見せるので、もうここまでいうと、前身というより過去の話じゃねえの、と言いたくなる。
実際、フロシャイムとヴァンプは、記憶も履歴もちゃんとつながった共通のキャラらしいのだ。

しかし、気象戦士サンレッドと天体戦士サンレッドが同一人物であるかは、限りなく同一っぽいが確証がないという事になっているのだ!(笑)

いや、それはどうなんだ。
性格だって言動だってそっくりだぞ。
いさぎよく言っちゃえよ。
同一人物なんだって。

でも、言わない。
ヴァンプには確信がないらしく、レッドは口をすべらせそうになるようなのだが、はっきりうんと言わない。
この、「あえて同一人物だ」と言わないあたりが、本作らしいところなのかもしれない。
あいまいで、いい加減。
そのユルさは、サンレッドにもフロシャイムにも共通した要素のようにも思える。

ただ、な。
仮面のヒーローはあくまでも仮面をかぶっていなくてはならないのだ。
決して正体をさらしてはいけない。
ちゃらんぽらんなように見えて、その大原則に、本作は従っているのだとも言える。


天体戦士サンレッド 2 (ヤングガンガンコミックス)/くぼた まこと
2006年2月25日初版
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2010-01-25 21:24:47

『天体戦士サンレッド (10) 』

テーマ:その他

かつて、子供心に不思議に思っていた事がある。
正義のヒーローは、給料をもらっているのだろうか?

ちょっと考えてみればわかる事だが、正義のヒーローが職業でない限り、給料がもらえる事はありえない。

それゆえ、クラーク・ケントは新聞記者という表の顔を持っているわけだし、
聖少女バフィーは気の毒にもハンバーガーショップでのアルバイトに甘んじた。
科学特装隊とか警官、探偵といった、ヒーローが表の顔にしやすい職業についていればいいが、「正義のヒーロー」という使命があるために、彼らは「9時5時」の勤務をフルタイムでするわけにはいかないのだ。
ゆえに、職業運のないヒーローは、バフィーのような運命になるわけで、その最悪の形が本作のヒーロー、サンレッドになるのかも。

何しろ、彼は、保険会社で営業をしている彼女に養ってもらっている「ヒモ」なのだ。
昼間は主にパチンコをしている……「だけ」。
ヒーローとしては、凄く強いらしいんだけどね。

一方、サンレッドと戦っている悪の秘密結社フロシャイムは、本部に支部が所属する組織構造を持っており、支部にはそれぞれ複数の怪人が配属されているらしい。
とはいえ、世界征服というのも生業とは違うから、なんと怪人たちはそれぞれアルバイトをして生活のたしにしている、らしい。
なかなか凄い事だが、特撮ドラマに出てくる、あのいかにもな姿の怪人が、ごくごくふつう~に、コンビニなどでバイトしているのだ。ラーメン屋になっちゃった奴とかもいるし。

このように、ヒーローと、世界征服をたくらむ悪の組織という、本来大変非日常的なはずの存在が、ここでは思い切り日常になってしまっているというのが、作品のコンセプトと言える。
それはもう、凄いほどの日常性なのだ。

なぜって、支部を率いるヴァンプ将軍は、主夫で、ぬかみそ命で、ご近所つきあいをすご~く大切にしているほどなのだ。
家事は熟達の域に達しているが、年齢的には50以上なのかなあ。
目は老眼気味らしいし、携帯などは使いこなせない。

おまけに、彼らが活躍するのは、南武線沿線のどうという事もないベッドタウンなのだ。

いやはや。

特撮ドラマ好きが、随所で思わず笑ってしまうような、ホームドラマ的コメディ。
面白いよ。
特撮が好きな人で、シャレがわかるならね(うんうん)。


天体戦士サンレッド 10 (ヤングガンガンコミックス)/くぼた まこと
2010年1月25日初版
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2010-01-24 19:13:40

『アイトン・フォレストの隠者』〈修道士カドフェル14〉

テーマ:ミステリ

本巻は、前巻に引き続いて、このシリーズにしては珍しく、内乱も十字軍も大きくかかわってはこない物語だ。
それはもちろん、時代の流れに沿って動いていくシリーズなので、内乱がおそろそろ終熄に向かう、そういう時期にあたっているからなのかもしれない。

事件のテーマは、遺産相続だ。

領主である親が亡くなって、幼い子供が残された場合、洋の東西を問わず、しゃしゃり出てくるのが親戚というやつだ。
そして、しゃしゃり出てくるようなタイプは、必ず、自分の牽制とか欲が理由と決まっている。
今回も、祖母が自分の欲を満足させるために残された孫息子を手中にしようとしているのだけれど、当の少年は修道院の学校に在学中であり、父親の遺言によって、修道院長ラドルファスがその後見人に指定されているというわけ。

今や少年が相続した荘園は修道院の土地と境目を接しているのだけれど、その修道院側の土地が、なぜかいろいろ、うまくいかなくなってしまう。
おりしも、不思議な隠者が森に住み着き、少年の祖母の力になっていくという展開。

まだ大人になっていない相続人が、後見人の思惑で政略結婚させられそうになる話は前の巻にもあったけれど(死の婚礼)、今回は男女が逆転しているだけでなく、政略結婚の相手も、年寄りではない。
それだけに、若者たちの思惑もいろいろとからんで、ちょっと面白い事になる。

とはいえ、全体としては、シリーズの他の巻にまで大きく影響するようn物語ではなく、1巻のみでおさまる小品的な立ち位置だろうか。


アイトン・フォレストの隠者 -修道士カドフェルシリーズ(14) 光文社文庫/エリス・ピーターズ
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2010-01-23 21:51:27

『冬の薔薇』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

たとえば、真夏、踏み分け道すらない雑木林をのぞきこむ。
木漏れ日がさしていたら、そいこはちょっと不思議な空間で、他に人の姿がなければ、何か「人ではないもの」が気の陰から歩み出してきそうに思えたりする。
木漏れ日に対して、木の下闇が暗くなるほど、今度はだんだん、怖くなってくるかもしれない。

日本でも、野山、とくに山は元来異界として扱われていた。
ヨーロッパにおいては森が異界だったと言われている。
なにしろ、近世以前のヨーロッパというのは、まさしく、「森の国」だったからだ。

要するに、人が生活していないところというのは、人以外のなにかが棲んでいるところ、すなわち異界なのだ。

本作は、森という名の異界に棲む者(妖精のような者)と、人間との交わりを描いたものだ。
ふたつの世界の境界に住むならば、自分が属するのとは別の世界のものと接する機会はしばしばある事だろう。
それが良い結果をもたらすか、悪い結果をもたらすかはわからないが、お互いに属する文化が違うならば、ささいな事ひとつとっても、それに対するとらえかたが違うものだ。
そのような心理的な塀をこえて相手をつかんではなさないようにするのは、大変な事だ。

民話や、民話をもとにした童話では、それが、しばしば、カエルや怪物のような不快な外見のものにキスしたり、それあを伴侶として迎えるという形であらわされる。

また、このような婚姻はしばしば不幸な結果に終わるのだが、それにもかかわらず、異界のものというのは(たぶんお互いに)大変魅力的なものに見えるのだ。
相手がほしくなる。
けれども、属する世界(思考法)が違うために、不幸になってしまうのだよな。

本差kは、生贄にされる運命にある妖精の恋人を人間の乙女が大いなる愛をもって救うという、タム・リンの伝説をベースにしているのだそうだが、物語の紡ぎ手はなんといってもマキリップだ。
彼女おとくいの手法と言うべきか、世界の境界をこえた絆についても、その結果についても、重層的に、結果の異なるものが重なり合った物語として綴られていく。
同じテーマがヴァリエーションをつけて同時に重ねられていくため、その分、物語は奥行きの深いものとなっていると思う。


冬の薔薇 (創元推理文庫)/パトリシア・A・マキリップ<
2009年10月23日初版
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2010-01-22 20:36:54

『代価はバラ一輪』〈修道士カドフェル13〉

テーマ:ミステリ

愛する人と最愛の時を過ごした一軒の家。
では、もし、その人に先立たれたら、その家をどうしたいか?

うん、普通は経済的な面とか仕事の都合があるから、引っ越す事はできないが、亡くなった人の生活のにおいが濃厚に漂っている場所は、やはりつらいものだ。
もしも可能なら、住むところを変えたいと思う人はいるかもしれない。

本巻で事件に巻き込まれる女性もそういう人物だ。
幸いにして、彼女にはそれなりの財産もあり、また、打ち込める仕事もあったため、想い出の家は修道院に貸与する事にして、代価としては、毎年、その庭に咲く想い出の薔薇を一輪届けてくれるように、と契約した。

うぅん、ロマンティックだ。

しかし、その家自体が財産であり、
また、彼女自身にそれなりの事業と持参があるとなれば、
欲深い者がそれを狙ったとしても不思議ではない。
しかし、それはいったい、誰なのか?

まず、薔薇を届ける役目を負っていた修道士が庭で殺され、薔薇が焼かれようとする。
他にも襲われた者が出る。
そして、彼女は誘拐されてしまう!

誰が、どういう動機でやったのか、まさしくフーダニットというわけ。

事件の展開や運びは、いつもの本シリーズだが、他の感ではどちらかというと、若者のロマンスがからむ事が多いのに対して、本巻ではもっと大人の恋愛が描かれているのも、ちょっと面白い。


代価はバラ一輪 ―修道士カドフェルシリーズ(13)/エリス・ピーターズ
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