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2009-12-31 21:49:47

『鋼の錬金術師 (24)  

テーマ:日本SF・ファンタジイ

キング・ブラッドリー帰還す!
べらぼうに強いというのは既に周知の事であり、
ホムンクルスだから!
賢者の石を挿入するため、長年特殊な訓練を受けてきたから!
と、まあ理由は複数にわたるのだが、それにしても、強い。

ほとんど中央を制圧していたブリッグスが、この男の登場で足下をみごとにぐらつかされている。
かのガンダムシリーズには、単身(生身)でモビルスーツを叩き潰す御仁がいたが、
この男は単身、刀一本で戦車を倒してみせた。
戦車というのh、現代でも存在する兵器なので、ある意味、よけいにリアルだと言える。

しかし、基本的に敵役というやつは、強ければ津よほど、それを倒すヒーローの強さを証拠立てるという役回りなのだ。
がんばれエルリック兄弟、
がんばれムスタング一党、
がんばれアームストロング姉弟!

む?
こうしてみると、ヒーロー側も突出するのはしのぎを削る争いになりそうだが。
「主人公は俺!」
と、エドが主張するには、ますますいっそう、がんばらなくてはいけない事になる。

がんばれエドワード・エルリック!

それにしても、今回、、イズミさんはおいしいとこさらってるな。


鋼の錬金術師 24 (ガンガンコミックス)/荒川 弘
2009年12月22日初版
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2009-12-30 21:35:22

『宿命の囁き』〈ヴァルデマールの風1〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

エルスペスよ、おお、エルスペス!
彼女はなんと成長したのだろう。
タリアが初めてであった頃の暴君的わがまま少女は立派に若い女性となった。

しかし、ラッキーの描く主人公はぢたい、家族関係に恵まれないし、大変虐げられる事になっているのだが、エルスペスの場合は、どうなのだろう?
彼女は幼い頃から、母親の愛を一身に受けているし、タリアやスキッフなど、彼女を愛してくれる人々も周囲にたくさんいた。
危機の象徴であるハルダはタリアの王城とほとんど同じくして退場した。

ゆえに、彼女の危難は、他の主人公に比べて、いささか変則的なものとなる。
つまり、それは「かまわれすぎ」あるいは「過保護」という形で訪れるのだ!
もうっ もうっ もうっ これ以上私にかまうのはやめてよっ
というのが、彼女の心からの叫びなのだ。

一方、鷹の兄弟の一部族、ク=シェイイナの暗き風は、ラッキーの典型的な主人公と言える。
彼は天才的な魔法使いで、今は、境界の「見張り」の長という重要な地位にあるが、父親とは徹底的な冷戦状態にあるし、恋人との仲もいまいちうまくいっておらず、なにより、一族の中途半端な状態や、父のおかしな言動に、日々傷つけられている。

そう、これは珍しくも主人公がふたりという形で展開し、章ごとに視点をうつして、いわばパートごとに語られている。

後にこのふたりはパートナーとなるので、本巻のラストで二人が遭遇するまでは、そういう語りかtになるのは自然だが、そのようなスタイルをとる事で、読者にとっては昔なじみのキャラクターであるエルスペスと、全く新登場の暗き風をのちのち組みあわせる前段階として、大変適当なやりかたにも思える。

しかも、エルスペスの個人的窮状が前半は主要な焦点となっているのに対して、後半は暗き風とその父親氷の刃の対決がクライマックスをむかえ、また、その裏に隠されたドラマが段階的に明らかになるので、二度美味しい感じもする。

そして、最初はケスリーの、次はケロウィンの剣として活躍した魔法の剣「もとめ」の正体が、本シリーズではいよいよ明らかになるのも、嬉しいおまけのひとつだろう。


宿命の囁き〈上〉―ヴァルデマールの風・第1部 (創元推理文庫)/マーセデス ラッキー
宿命の囁き〈下〉―ヴァルデマールの風・第1部 (創元推理文庫)/マーセデス ラッキー
2003年11月28日初版
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2009-12-29 21:42:28

『死者の身代金』〈修道士カドフェル9〉

テーマ:ミステリ

歴史ミステリを読む楽しみのひとつは、現代とは全く違う文化や感性を疑似体験できるという事ではないかと思う。
本シリーズもまさしく、現代の一般的な人には無縁な、王、貴族、地方代官、自治都市、職人、農夫、修道院といった世界を手に取るように体験できるのだ。

さて、本巻では、何年もシュルーズベリの執行長官であったプレストコートが、王と女帝との間の戦いにおいて、捕虜となってしまった、という事に端を発する。
この「身代金」というのが、アジアのこちら側には、いささか馴染みのない習慣だ。

つまり、ヨーロッパにおいては、騎士以上の身分ある者の身柄は、財産とみなされたのだ。
交渉によっておりあった額、または等価値の他のもの(敵方の捕虜を含む)と、交換可能という意味で。
それゆえある程度の待遇は保証された。
最悪でも、コロされたり不具にされる事はまずなかった。
そのかわり、捕虜は名誉にかけて身代金を親族から届けさせなくてはならなかったというわけ。
それが、捕虜にとって、名誉を守る事にもつながっていた。
なんと、場合によるかもしれないが、捕虜は「逃げ出さない」と誓うことも、その名誉には含まれていたのだ。
一方、交渉がまとまった場合、身代金が届くまで、その捕虜は客のようなものであって、つかまえた側は丁重に扱う事が名誉につながった。

この、人質と名誉にかかわる複雑な問題が、本巻のあちこちに顔を出す。
また、いかに名誉の問題とはいえ、いろいろなかけひきも当然行われるので、プレストコートのかわりにシュルーズベリ城にとらわれたウェールズの若者の言動も、プレストコートの扱われ方も、そういう習慣が歴史的にない日本人には、新鮮にうつると思う。

ところで、本シリーズ、しばしば、いろいろな陣営やら国やら、立場を違えた男女のロマンスが登場して物語を彩るわけだが、今回はとらわれの若者と、父を奪われた佳人との間のロマンスという点で、「身代金」というテーマもあり、面白いほど騎士物語的な要素に満ちている。

うん、考えてみれば、まさしくこの時代は、騎士の時代でもあったわけだ。


死者の身代金 ―修道士カドフェルシリーズ(9)/エリス・ピーターズ
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2009-12-28 23:04:13

『失われし一族』〈ヴァルデマールの風2〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

本巻の原題は Winds of Change というのだが、邦題の『失われし一族』は、うまくつけたなあ、と思う。
なぜなら、ヴァルデマールにとって、鷹の兄弟たちが失われた伝説の一族であったように、鷹の兄弟たちにとってもヴァルデマールは失われた伝説の一族であり、さらに、鷲獅子たちはもっと伝説的な、失われた一族なのだから。

エルスペスらがク=シェイイナに加わる時に見せられる魔法戦争当時の映像は、興味深い。
シン=エイ=インと鷹の兄弟たちの起こりを描いているだけでなく、魔法戦争に深く関係する出来事だからだ。
その戦争がどのようなものであったのかは、まだまだ明らかではないが、一方に、鷲獅子たちをつくりだした、アーゾウと呼ばれる魔法使いがおり、それと敵対していたマ=アルがおり、いわば三つの失われた一族は、その対立の影響を長くこうむっているという事になる。

さて、暗き風の最初の恋人である暁の炎は、ダイヘリやティレドゥラスなど、心話が通じる生きものたちと親しくしている、という話があった。
それらの種族が、のちにどういう風に拘わってくるかを考えると、暁の炎の履歴は改めて興味深いものに思える。
暗き風は、幼少時から鷲獅子に馴れていたわけだが、それ以外の種族を受け容れ、大切にする言動には、彼女の影響も大きかったのではないかと思うからだ。

ファンタジイでは、人間と、いろいろな亜人間族(たとえば、エルフとか、ドワーフとか)が、それぞれの偏見があるにせよ、ないにせよ、おおむね台頭のかかわりを持ってくらしているというシチュエーションは、よくある。
しかし、本作のように、四足獣や鳥、蜥蜴など、普通なら動物とされそうな種族が対等な一員として扱われる物語は珍しい。
もっとも、エルスペスの〈共に歩むもの〉グウェナに言わせると、ヴァルデマールの国内ですら、彼らがただの馬と同様に見られる事もあるらしいのだが……(笑)。


失われし一族 (上) <ヴァルデマールの風 第二部> (創元推理文庫)/マーセデス・ラッキー
失われし一族 (下) <ヴァルデマールの風 第二部> (創元推理文庫)/マーセデス・ラッキー
2006年1月31日初版
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2009-12-27 19:32:00

『伝説の森』〈ヴァルデマールの風3〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ



〈ヴァルデマールの風〉邦訳版が完結してから、既に2年。
ようやく、ヴァニエルの物語が始まったが、いやーもう〈ヴァルデマールの風〉よく憶えてないよ、という人は、正直にしっぽ……じゃない、手をあげること。

面白いから何度でも再読しましょう。うんうん。

そして、もし今再読するならば、ヴァニエルと、炎の歌の面白い類似に気づくkかもしれない。
え。炎の歌って誰?
凄い美貌と才能に恵まれたク=トレヴァの癒しの達人、その人だ。
彼は自分がヴァニエルの遠い子孫であること、そしてエルスペスもまたヴァニエルの子孫である事を知っていた。
この人は、美しさも能力も、あの性癖も、ヴァニエルにほんとによく似ている。
違うところがあるとするあんら、炎の歌は、ヴァニエルと違い、幼い頃からその才能を正しく評価されて英才教育を受け、常に注目と賞賛の的であった、という事だろうか。

ヴァニエルの叔母である使者サヴィルがどのようにしてク=トレヴァと出会い、その翼の姉妹となったのかはよくわからないが、彼女の導きによって翼の兄弟となったヴァニエルは、非常に深い関係をその地で結ぶ事になり、(なにしろ子孫まで残したわけだから)、そのために、隼殺しモーンライズと対決する時、シン=エイ=イン、鷹の兄弟(ティレドゥラス)、鷲獅子たち(カレド=エイ=イン)、そしてヴァルデマールが、ある意味ひとつの民として行動する事になったのかもしれない。

もっとも、ヴァルデマール建国の時、ヴァルデマール王が〈共に歩むもの〉を得たいきさつや、かつてタルマがヴァルデマールで経験した出来事などを重うと、より深いつながりが、ヴァルデマールとこの地には、あるのかもしれないが。

そして、本巻を注意深く読むと、モーンライズ(または魔法戦争の時に、マ=アルと名乗っていた邪悪な魔法使い)が、何度も転生えみた事を繰り返し、そのつど違う名前を名乗っていた履歴に、ヴァニエルの仇敵となる魔王リアレスの名前もきっちり入っているではないか。(おーっ)。

しかし、こうなってくると、ヴァルデマール年代記上では古代にあたる、魔法戦争の頃の物語というのも、できれば読んでみたいものだね。

伝説の森〈上〉―ヴァルデマールの風・第3部 (創元推理文庫)/マーセデス ラッキー
伝説の森〈下〉―ヴァルデマールの風・第3部 (創元推理文庫)/マーセデス ラッキー
2007年10月26日初版
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2009-12-26 19:48:01

『悪魔の見習い修道士』〈修道士カドフェル8〉

テーマ:ミステリ


悪魔は、天使のふりをする事ができる……と、言われている。
フォークを手にした、尖ったしっぽの黒い悪魔というステレオタイプな画像を思い浮かべた場合は、「えー?」な感じだが、そもそも、地獄の悪魔は、天から投げ落とされた天使なのであるとするなら、なるほど、天使のふりをして人を惑わす事は、できるのかもしれない。

また、実際に、中世ヨーロッパでは、そのように信じられていたらしい。

世俗から遮断された修道院で、同性だけと閉鎖的に暮らしている人たちの間では、そのために起こる精神的な「なにか」があったようで、たとえば「夢魔」の出現は、世俗よりむしろ修道士や修道尼の間で多かったともいう。
性的に抑圧されていたからだ、と結論づけるのは現代人にとっては簡単な事だが、まあ、ともかくも、信仰というものに一心不乱に励んでいた人々が、さまざまな「不思議な現象」に苦しめられた事は多くの記録に残されている。

しかし、それが実際に聖的な啓示であるのか、それとも悪魔の惑わしによるものなのか、判断するのは大変難しいとされていて、ゆえに、カトリックでは奇跡の認定というものに、非常に慎重なのだろう。

そういう環境があればこそ、本作のように、悪夢に悩まされる見習い修道士が、「悪魔に取り憑かれている!」と即座に噂されてしまうわけだ。

実際には、それがとある失踪事件に大きなかかわりを持っているのだが、カドフェルや、見習い修道士を始動するポール修道士たちは、冷静に、彼がなぜうなされるのか、原因を探る事から始める。
一見、彼らのこういう冷静な態度は、現代人的に思えてしまうけれど、舞台が修道院であるという事は、心しておかなくてはならない。

ほとんどの場合、修道士(そして修道尼)は、聖なる労働者と言われるごとく、ただ祈ったり神学を研究するのではなく、もっと実際的な目的を持っているものだからだ。
(どういう目的かは、修道会の設立趣旨によって違う)。
彼らは、世俗と隔絶されているように見えながら、その反面、人々のために、実際的な何かをする事を使命としているので、そのため、実際的な態度やものの考え方も必要になってくるというわけ。

事件そのものは、内乱を背景にした政治的なにおいの強いもので、探偵役が修道士であるいもかかわらず、むしろ政治ミステリに近いものだが、ここはあえて、悩める見習い修道士に修道院的見地からスポットをあてて、キリスト教というものの面白さを楽しんでみるのも、ありかもしれない。


悪魔の見習い修道士―修道士カドフェルシリーズ〈8〉/エリス・ピーターズ
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2009-12-25 20:54:08

『浮寝岸』〈深川鞘番所5〉

テーマ:歴史・時代小説
江戸時代の日本が、他国と違っていた点はいろいろあるが、「荷車の規制が厳しかった」という事もあげられるように思う。
江戸市内では、大八車もいろいろと制限されていたそうだし、何よりかにより、京都で公家が使う牛車をのぞけば、家畜の牽く車がなかった。
発明されなかったのではなく、実はこれも、いろいろな事情から、禁止されていたのだそうだ。
つまり、陸上輸送にあたっては、人がかつぐか、馬や牛の背に積むか、よくて荷車に載せて人が牽くしかないわけで、これでは大がかりな商売など、望めない。

ゆえに、大量輸送の中心は、船。
鎖国されていたから、日本人は自ら海をこえて他国へいかなかった、島に閉鎖的に閉じこもっていた陸上の人々だったなどと言われたりもするが、いやいや、沿岸航路は存分に使われていたし、川も輸送に使われていた。
そして、いやしくもある程度の大きさの船があるならば……。

日本が鎖国をしていようと、諸外国は自由に船で海を渡っているのだから、当然の結果として、密輸は行われるという事になる。
江戸時代の言葉でいうと、「抜け荷」だな。

さて、本シリーズの舞台となっている深川は、海にのぞむ土地柄であり、しかも無法の街なのだから、この条件がそろっていれば、抜け荷の一味が暗躍していても、おかしくはない。
もちろん、抜け荷なんていうようなものは、個人ではできないんだから、ある程度組織だったものが必要になってくるのだろう。
また、それを常に利益のあがる状態とするためには、それなりの設備投資も必要で、必要なポイントはおさえていかなくてはならない。

今回は、密輸商人の、そういう戦略が動き出した結果、深川にもとから住む人々(もちろん、違法な事をしている者たちを大勢含む)が困った事になり、そこに溝口の昔馴染みがからんできて、鞘番所の面々は「公私」ともに、忙しくなってしまうのだ。

表の筋はこの密輸問題なのだが、裏の筋は、溝口と昔馴染みの家族を中心に展開される。
大滝は相変わらず、部下の勝手な振る舞いに足をひっぱられる形だが、これは、部下との人間関係に悩む中間管理職(おそらく、本文庫のメインターゲット層に重なる)の、共感を呼ぶのではないかと思われる。

もちろん、部下たちも、全く箸にも棒にもかからないというわけではなく、それぞれに、鞘番所へとばされた事情もあるし、まるで使い物にならないわけでもないが、いろいろな意味で歪んでしまった彼らを使いこなすのは、ほんとうに大変なようだ。


浮寝岸(深川鞘番所) (祥伝社文庫 よ 4-7)/吉田 雄亮
2009年12月20日初版
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2009-12-24 20:34:20

『魔法の使徒 (下)』〈ヴァルデマール・最後の魔法使者1〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

タリアとヴァニエルの類似については、昨日述べた。
しかし、大きく違う点もある。
たとえば、魔法の天恵(そしつ)についてだ。
ヴァニエルは、治癒の力を除く全ての天恵を持つ、とんでもない存在なのだから。

この場合、前世紀にはSFでわりと一般的なテーマだった、超能力と比較するのがわかりやすいと思う。
まあ、ヴァルデマールの心理魔法って超能力みたいなものだしな。
それは、人間にとって通常の能力とはみなされない。
すなわち、異常なものであり、また、たいていはある程度成長したところで(かつ、生物的に成長しきる前に)発現する。

つまり、精神的に不安定な年頃に、馴染みのない、そして他人に抜きんでた、時に危険な能力をいやおうなく手にしてしまうわけで、これは大変なストレスになる、と考えられる。
複数の能力があれば、その混乱は当然大きくなる。

ヴァニエルもまさしく、突然いやおうなく複数の天恵を得てしまうのだが、更に不幸なことに、それはとてつもない悲劇と喪失に伴って発現したものであるから、層倍、本人にとっては受け容れがたい箏だったかと思われる。
それに、いきなり通常に倍する感覚が与えられたようなものなのだから、混乱や恐怖も、相当あったんじゃないかな。
肉体的にも瀕死の状態だったし、大惨事を引き起こしたのがヴァニエルだと誤解される状況ときているのだから、始末におえない。
いやもうほんと、マーセデス・ラッキーは、容赦ない。

このような、絶望的な状況をなんとかするために使徒サヴィルが考えたのは、ヴァニエルを連れて、ク=トレヴァへ赴くという箏だった。

こうして、エルスペスの物語である〈ヴァルデマールの風〉ラスト近くで、驚くほどヴァニエルがかの地につながりを持っていた理由が明らかにされる。
すなわち、ヴァニエルは魔法使者としての天恵を得た時、一度、ヴァルデマールで死に、ク=トレヴァで再生したのだ。

次巻は、十年くらい後の話になるらしいが、だとすれば、それこそが、ヴァニエルにとってようやく迎えた青年期にあたるのかもしれない。


魔法の使徒下 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)/マーセデス・ラッキー
2009年11月20日初版
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2009-12-23 19:28:50

『魔法の使徒 (上)』〈ヴァルデマール・最後の魔法使徒1〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ

ヴァニエルといえば、日本で最初に紹介されたラッキーのヴァルデマールものである、『女王の矢』で、冒頭、少女タリアがロマンティックな夢想をいだく物語の主人公だ。
う~ん、なんだろうなあ……。
我々でいうなら、(美化された)織田信長の物語に胸躍らせるとか、そんな感じだろうか。
というのは、ヴァニエルは、架空の人物でも、伝説上の人物でもなく、ヴァルデマールの史実に実在する人物だからだ。

タリアの読んでいたヴァニエルの物語そのものが、どんなものだったのか、ちょっと興味があるが、ともあれ。
これは、伝説的な魔法使徒ヴァニエルの、素顔を物語っている。
私は個人的な好みでいうと、タルマ&ケスリーが一番好きだし、次がケロウィンの物語なんだけれども、タリア登場の頃から、ヴァニエルの物語が読みたくてしかたのなかった人も、かなりいるんじゃなかろうか。

美貌と、豊かな「天恵」(そしつ)に恵まれたと伝えられる、ヴァニエル。
誰からも植毛される、才能豊かな少年として、その前には大きく道がひらけていたのだろうか?

……まさかね。
なぜって、彼もいまやマーセデス・ラッキーの主人公じゃないか!

そう。
ラッキーの主人公は、ともかく、悲惨な生い立ちをする。
その多くは、自分が望んでいること、あるいは本来向いていることについて見向きもされず、親とか、そういった立場にある人に無理矢理別の型へはめこまれようとするか、
あるいは、なんらかの暴力的な物事によって、人生を百八十度ねじまげられてしまう。
彼らの持つ豊かな才能は、無視されるか、ひどい形で奪われてしまう。

もちろん、ヴァニエルもそのような境遇にあるのだ。
そして、親による虐待、周囲の理解を得られない状態が、第1巻の半分以上を費やして継続する事を考えると、偶然かどうかは知らないが、ヴァニエルの歩む道は、なかなか、タリアと共通点が多そうだ。
そして、そのありあまる天恵のコントロールに先々苦労しそうなところも、タリアと似ている。
タイプは全然違うけれども。
(おっと、もうひっとう、音楽の才能があるところも共通点だろうか?)

いやもう、ヴァニエルの寄る辺のなさには、ほんとうに胸が痛む。
タリアとの共通点を幾つかあげたけれど、実は大きな違いもある。
それは、ヘイヴンに来てからも、タリアのようにはヴァニエルに味方ができないという事だ。

「(周囲の)望むようにはなれない」
「誰からも必要とされていない邪魔もの」
「自分を愛してくれる人はほとんどおらず、わずかにいるそういう人も奪い去られてしまう」

冷淡に考えれば、大なり小なり、こういった心の暗黒は、思春期にかかえるものなんだ、と言うことはできるだろう。
けれども、その状態が幼少時からずっと続いていて、全く改善されなかったのだとするなら、ヴァニエルがかかえる暗黒というのは、そんな単純なものではなく、彼がやむなく築き上げてしまった心の壁の奥を突き通して見ない限り、ヴァニエル自身は、一見、ひどく傲慢で誰とも隔てを作ったり、上から目線になったりする、イヤなやつに見えてしまうのだ!
(その結果どうなるか……これは悪循環としか言いようがないだろう)。

幸い、こうした苦しみは、いわばラッキーの常套手段であって、どの主人公も、最後には己れの道を切り開くのだと思えば、ちゃんと救いはあるのだけれども、いやもうほんっとに、ヴァニエル可哀想!


魔法の使徒上 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫)/マーセデス・ラッキー
2009年11月20日初版
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2009-12-22 22:35:24

『妖精の女王』 Wicked Lovely (メリッサ・マール)

テーマ:海外SF・ファンタジイ

本日は、冬至。
日本全国、実に真冬らしく、凍えつくような寒さらしい。
日照時間も一年で一番、短い。

しかしこの日照時間というやつ、温帯に位置する日本では、それほど重要視されているようには思えない。
だが、ヨーロッパに行くと、あちらは日本よりだいぶ北に位置するものだから、これがとっても重要になるのだ。
季節も、四季というより、むしろ「夏」と「冬」のふたつに近く、古くはそのように数えられている地域もあった。
そうなれば、もう、簡単にいって、夏=生命 であり、冬=死 ということになる。

キリスト教以前の異教時代は、まさにそういう気候が一年の宗教行事にダイレクトに投影されていたようだ。
そして、異教時代の名残とも言われる妖精の物語にも、それが色濃く残っている。

本作の舞台はいちおうアメリカという事になっているみたいなのだが(しかし、ことさらアメリカらしい部分があるとは思えないので、べつだんアメリカだと思わなくてもいいのかも)、
そのようなヨーロッパ的文化がストレートに継承されていて、冬の女王に拘束されている夏の王が、苦労して夏の女王を手に入れ、邪悪な冬が滅びるという内容になっている。

ただし、その物語は、手に入れられるべく狙われている夏の女王候補の目から語られていて、彼女自身は健全な現代の少女(高校生!)。
この彼女のキャラクターが、ある意味古色蒼然とした夏と冬の戦いに、大変な新鮮味を与えているのだ。

なぜって、昔なら、なんのかんの言っても「そしてふたりは楽しく暮らしました」で終わりそうな夏の王と夏の女王であるのに、彼女ってば人間である事にこだわっているし、人間の彼氏がいて、夏の女王に選ばれても彼氏を諦める気なんか、これっぽちtもない。

じゃあ、
「あたしはそんなものにならないから!」
とつっぱねればすみそうなところ、
実は、夏の女王候補に選ばれたとたん、その娘は、フェアリーになっていってしまい、その進行を止める事はできないという事になっているので、大変だ。

主人公アッシュリンは、いかにしてその危険を切り抜けるのだろうか。
そして、彼女を手に入れなければ夏の妖精はおろか、地球が寒冷化して、人間も死に絶えてしまうかもという危機を背負っている夏の王はどうするのか。

このほか、冬の女王の企みの犠牲になった、かつての夏の女王候補など、魅力的な脇役もあって、物語に色を添えている。


妖精の女王 (創元推理文庫)/メリッサ・マール
2009年12月11日初版
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