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2009-10-31 21:33:16

『クリスタル・レイン』

テーマ:海外SF・ファンタジイ

カリブというと、何を思い浮かべるだろう。
暑い陽射し、葉巻に珈琲?
強いラム酒?
レゲエ?

いやいや、やっぱり、海賊だろう。
カリブ海といえば海賊、決まってる。

待て、ヴードゥーというのはどうかな?
ヴードゥーとゾンビのメッカじゃないか。

ふむ、ふむ、ふむ。
じゃあ、SFは、どう?
そう、SF。

うぅ~ん。
ちょっとミスマッチな感じがするか。

しかし、本作はまさしく、カリブの物語であり、かつ、SFなのだ。
それも、宇宙といいますか、「遠い遠い未来、宇宙のどこかで」展開される物語なのだ。

うん、従って、ほんとのカリブとはちょっと違う。
人類の植民地であるのは確かだが、どうやら過去にちょっとしたトラブルらしきものがあったようで、そこには、人間と共にエイリアンも暮らしているのだ。
神(ロア)、あるいは邪神(テトル)として。

その地に降り立ってから400年近い時が過ぎていて、人間もまた一枚岩とは言い難く、ある山脈を境に、カリブ的な文化のもと、暮らしている人々と、テトル(またはテオトル)の支配下にある「アステカ人」とに大別される。
その中には、体内のナノによる修復効果のため、入植から「今」に至るまで生き続けている少数者もいるが、ほとんどは生まれては死んで代を重ねてきた普通の人々だ。

そういう世界を背景に、記憶も、片腕も失ったまま、妻子とともに住む男を中心に、アステカの大襲来の影で、もっと怖ろしい事が続けさまに起ころうとしている。

銃と戦闘用棍棒がぶつかりあう。
森林兵であるマングース隊員と、アステカのジャガー斥候兵。
神官戦士はとらえた捕虜の心臓をえぐって神々に捧げ、
避難民は蒸気機関車に詰めかけ、
探検隊は蒸気船で北をめざす。

ちょっとスチームパンクで、
スペオペの予感で、
これは今までにない、とっても素敵な、
カリブSFなのだ。


クリスタル・レイン (ハヤカワ文庫SF)/トバイアス S バッケル
2009年10月15日初版
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2009-10-30 21:37:50

『舞姫 テレプシコーラ 第2部 (3) 』

テーマ:音楽・舞踊

一人前の社会人であるならば、自分の体調を管理できるのが当たり前、と言われる。
一般のサラリーマンでも、あまりにこれがだめだと、ボーナスの査定に響いたり、リストラの候補になっちゃったりするかもしれないのだが、自由業だと、ダイレクトに、収入や今後の仕事とりにさしつかえてしまいやすい。
そして、さらにそれが舞台芸術にかかわるパフォーマーであるならば、仕事がとれなくなるどころか、ファンがはなれてしまうだろうし、そもそも、ステージに穴をあけた時に違約金が大変だ。

しかし、それらの理由を全て超えたところで、芸術家であるならば、たとえどんな事情や体調であろうとも、
「この時だけはやらなくてはならない!」
という瞬間がある。
まこと、表現する者は、一期一会であって、音楽であろうと舞踊であろうと、演じるそのたびごとに内容は変わってしまう。
だからこその「この時」なのだ。

さて、主人公の六花が風邪にかかってしまうだろうことは、第2部の冒頭から予測がついていた。
経済的な事を考えても、一勝に一度しかない、ローザンヌ。
「一勝に一度の賭け」に、最悪の体調で挑まなくてはならないという、そこが実に山岸作品らしいドラマだと思うけれども、なんといっても、
「いま、この時だけ!」
という芸術家的な気負いが、六花だけでなく、他の登場人物からも伝わってくるのは実にいい。

また、その一方で、おそろしく才能のあるバレリーナ、ローラ・チャンのミステリ。
とんでもない人物とつながっていきそうな彼女だが、それがあたるにせよ、あたらないにせよ、六花の今後に大きく関わっていきそうなので、登場人物それぞれを見た時、彼女からも全く目がはなせない。


テレプシコーラ/舞姫 第2部3 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)/山岸 凉子
2009年10月26日初版
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2009-10-29 21:52:46

『世界名探偵倶楽部』

テーマ:ミステリ

名探偵、というと、どんな人物を想像するだろう?
ホームズ? 明智小五郎? ポアロ……?

もちろん、現代だって名探偵はいるさ、と考える人もいるだろう。
しかし、科学技術が進歩すればするほど、典型的な名探偵が活躍する場はなくなっていく。
極論するなら、ポアロの言うごとく、虫眼鏡を使って証拠を集めるなんて愚の骨頂、灰色の脳細胞、これが重要! というタイプの名探偵だ。
もちろん、証拠は必要だけれど、何よりも、冴えた頭脳と「論理」、そして実証主義に基づいて活躍する名探偵だ。

どうです? どうです?

さて、ホームズにしろ、ポアロにしろ、日本の明智小五郎にせよ、19世紀末~20世紀前半を舞台としているわけだ。
もうちょっと限定的に言うと、第二次世界大戦前、というところだろうか。
なにしろ、大戦を契機に、科学技術はぐぐっと大きく進歩してしまったのだから。

ゆえに、探偵小説を愛する人は、寂寥感をこめて、現代はこう言ってもいいと思う。
「もはや、名探偵の時代は、過去のものなのだ」、と。

さて、科学技術が大きく注目を浴びたのは、戦争もそうだが、万国博覧会というのもあって、この物語は、まさしく、パリの万国博覧会を機に、クラブを結成している世界各地で活躍する12人の名探偵にまつわるものなのだ。
といっても、特定のシリーズや作家へのオマージュではない。
12人の探偵は、いずれも、本作オリジナルのものだと思う。

普通、探偵物語にあっては、探偵=ヒーローとなるわけだから、複数の探偵が一緒に行動したりはしないものだ。
探偵とペアを組むのは必ず、その助手というか、探偵のそばにいて、その活躍を記録する立場の人物だ。
ホームズに対するワトスンのような、ああいう人物だよ。
本作の中えは、助手または側近、と呼ばれている。

有名な探偵の助手に、いや、できることなら探偵になりたいと願っている、アルゼンチンの若者を主人公に、舞台は万博直前のパリ、滅多にないこのチャンスに初の会合(今まで手紙でやりとりするだけだった彼らにとって初のオフライン集会!)が開かれ、探偵とその助手たちが集まるのだけれど、なぜか、探偵の一人が殺され、不可解な形で二件の殺人がそれぞれ続く。
探偵はそれぞれがヒーローなのだから、当然のように、12人の中でも対立が頻々と起こるし、派閥などもあるようなのだが、実は全くの新参者である主人公は、その中を手探り状態で、師匠である探偵の代理として参加していかなくてはならないのだ。

面白いのは、いろいろな形で、探偵と助手について語られるところ。
助手は探偵になれるのか?
そもそも、助手の役割とは何なのか?
探偵が12人いるのなら、助手も同じ数だけ存在しているはずで、探偵よりも、むしろこの助手たちの方にユニークな顔ぶれがそろっているほどだ。

クラブの規則として、助手が探偵になれる条件が定められているという話も途中から持ち上がり、4つある条件のうち、最も秘密めいた第4のものだけが、ラストまで明らかにされない。

こちらが表のテーマであるとすると、裏のテーマは、探偵自身と、犯罪の関係だろうか。
主人公が直接体験すること、クラブ内でのあてこすりや争いから感じとることなど、探偵と犯罪の関係も、実はさまざまだと描写される。

探偵がそれぞれの解決手法やそのための小道具を(万博らしく)披露したり、それを補強するための武勇譚を話したりというのも、それはそれで面白く、よくまあこれだけの種類を並べていったなあ、と感じいる。

実に複雑妙味な物語であり、内容が濃いために、一気に読み通すのはちょっとしんどいかもしれないけれども、最終ページに到達する頃には、魅了されていると思う。

こんな小説を送り出すなんて、アルゼンチン侮りがたし!


世界名探偵倶楽部 (ハヤカワ・ミステリ文庫)/パブロ・デ サンティス
2009年10月15日初版
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2009-10-28 21:41:32

『ST 警視庁科学特捜班 毒物殺人』

テーマ:ミステリ

このシリーズ、他の警察小説のシリーズと違うところがもうひとつあって、ともかく作者が遊んでいるのだ。
そもそも、特捜班のメンバーが、赤、青、緑、黄、黒と各色そrでぞれを名前に持っていて、あたかも戦隊モノの様相。
(解説でその事を詩的しながら、戦隊モノの原点である、ゴレンジャーを引き合いに出しているのがあったけれど、ゴレンジャーなら黒じゃなくて桃でしょう。まあ、どうでもいい事だけど)。
そもそも、5人編成のうち、1人だけ女性というのが戦隊モノくさい編成だし。
しかも、「司令」にあたるキャップの百合根、これも見ようによっては「白」で、「司令」が白い戦士になる戦隊も確かあったな。

なら、背内ものらしく、爽快にかっこつけているのかといえば全然そうじゃなくて、5人のそれぞれがほんとに癖がある。
ひとりひとりがそれぞれ違う恐怖症をかかえているし、一見、いかにも「自分勝手」だ。
もちろん、そこらへんはシリーズが進んでいくにつれて変化していくわけなのだけど、あまりにも癖があるために、もちろん、百合根は、彼らにふりまわされるのが当初の役どころだし、連絡係の菊川は、とりあえず、反発する警視庁の人々の代表として登場する。

しかし、遊びはそれだけではない。
たとえば、本巻で殺人に使われるのが、なんとテトロドトキシンなのだ。
……そう。
フグ毒だ。

うーんそうだなー、ふぐ料理を使って殺人、なんて絵が即座に浮かぶが、この本のどこを探しても、誰かがふぐ料理を食べるシーンは出てこないのだ。
さて。
ふぐ毒はどっから舵得れ画どうやって調達して、どのように使うのでしょう?
これだけで、ミステリのファンならきっと、かーなーり、興味が湧くはず。

そこに、テレビの花形女子アナと、自己啓発セミナーが絡む。
ふぐ毒。花形女子アナ。自己啓発セミナー。
これだけ並べてもぜんぜんつながらない!(笑)
しかも、その謎の挑戦するのが、戦隊モノならぬ、一癖×5で五癖ある、科学特捜班「ST」になるのだ。
普通なら、もう、完璧に、カオス状態だと思うんだけどね。

だからこそ、作者がどう料理しているかが面白いというわけだ。


ST警視庁科学特捜班―毒物殺人 (講談社文庫)/今野 敏
2002年9月15日初版
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2009-10-27 22:03:29

『ST 警視庁科学特捜班』〈ST1〉

テーマ:ミステリ

国内の警察小説といえば、もはや今野敏が第一人者と言ってもいいだろう。
実際、人気のある警察小説のシリーズを、幾つも、あちこちに書いているのだし。
しかし、その中でも本シリーズはちょっと毛色が変わっている。
なぜなら、主役は、警察官ではなく、「技術吏員」である、研究所の研究員たち、だからだ。

といっても、ひたすら鑑識的な仕事に、所内ではげむというのではない。
なんと、「特捜班」という肩書きをもって、事件の現場に出動……というか、派遣される。
このため、キャリアの警部が班長として彼らを率いているし、叩き上げの捜査一課の刑事が、本庁との連絡役としてつけられている。

なんと、ここで既に三つ巴!
理系の研究員たちであるメンバーと、「キャリアの」警部と、「叩き上げの」刑事。
それぞれがそれぞれに対して、かーなーり、相容れない存在となってしまっているのだ。
なんといっても、メンバーそれぞれが、「己の道」を持っているのだから、始末におえない。

さて、彼らは、警察官ではないので、当然の事だけど、拳銃も携帯しないし、捜査権や逮捕権もなく、もちろん、警察手帳だって持ってはいないのだ。
なのに捜査にどうやって関わるのか、というあたりから、面白さが発生しちゃうんだ。
うん。まあ、最初からスムーズにいっている人間関係など、物語として面白くないからな。


ST警視庁科学特捜班 (講談社文庫)/今野 敏
2001年6月15日初版
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2009-10-26 20:34:26

『BLACK LAGOON (9) 』

テーマ:冒険・アクション

混沌とした戦いが、ようやく幕を下ろす時がきた。
もっとも、「戦い」と名のつくものなら、どういうものであれ、大なり小なり混沌としているものなのかもしれないが。
そこに集う者たちの動機はさまざまであって、わかりやすく色とかカネとか権力といったものから、なんらかの理想までよりどりみどりだ。

しかし、それが思想とか理念である場合は、まことに難しい。
なぜなら、そういう理由で戦っている場合、決して、引く事ができないから。

ならば、やむを得ぬ理由で、そのような理念が折られてしまった者はどうなるだろう?

個人的なレベルでいうと、武道とか武術とかいうものは、己の持つ力を磨くとともに、それをうまくコントロールする事を身につける。
力の事を知り、コントロールできるようになれば、不思議と、「暴力」はふるわなくなるものだが、その反面、自分の身につけた技や力を試してみたいという欲望も生じる。

同じ事は、軍隊にも言えるかもしれない。
どれほどうまくシビリアンコントロールされていたとしても、いつ、どこで、それを「使いたい」と望む者が出るかは、わからない事なのだ。

あまりにも多様なキャラクターが混戦状態にあるため、本巻ではそこからはっきりとしたメッセージを読み取る事は難しいが、表面的に結論を出す、少年と例のメイド、ロベルタのラスト「だけ」ではない、と思う人はきっと多いだろう。
混沌状態であるがために、それぞれが興味を持った、それぞれのキャラクターの絃道から、それぞれが十人十色の結論を得る事が可能だからだ。

ともあれ、「力」は決して悪いものではないし、必要なものだと私は思う。
ただ、その扱いには慎重の上にも慎重を要するのだが。


ブラック・ラグーン 9 (サンデーGXコミックス)/広江 礼威
2009年10月24日初版
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2009-10-25 19:59:15

『花水木』〈東京湾臨海署安積班〉

テーマ:ミステリ

花水木、というと……。
かなり現代的な木という印象がある。
そう、街路樹とか公園とかで見るような木なんだよな。

その、花水木の匂いがしました、とある人物画証言した事から、須田がおかしいと感じ始めるのが表題作。

桜や梅、椿というような生活に馴染んだ木と違って、たしかに、花水木がいつごろ咲くかなんて、ちょっとすぐには出てきそうにない。
ましてやどんな匂いかなんて、ねえ?

ちなみに、私は花水木の匂いを嗅いだ事はある。
甘くていい香りだったけれど、再び匂いだけ嗅いだ時に、「あ、これ花水木」と言えるかといえば……多分無理だ。
もちろん、花水木の花の匂いを嗅いだすぐ後でなら、話は別だと思うけれども。

本巻は、なぜか、ミステリというよりはファンタスティックな短篇が多い。
たとえばラストの「聖夜」などは、きわめて現実的な生き方を仕事上強いられる刑事たちにさえ、ふと、奇跡を感じさせるような、ちょっと不思議な話だし、それは「月齢」も同じこと。

また、意図的にそう構成しているのかどうかわからないが、本巻にも事件と関係のない、ハートフルな短篇が1本含まれている。
「薔薇の色」がそうだ。
安積たちが心地よい時間をすごすとあるバーが舞台となっているが、そういえば、時々、今野敏作品には、素晴らしいバーテンダーのいるバーが登場する。
「大人のいい時間」を感じさせてくれる、いい一瞬だ。


花水木―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)/今野 敏
2009年4月18日初版
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2009-10-24 20:00:41

『最前線』〈東京湾臨海署安積班〉

テーマ:ミステリ

これは私感だが探偵小説編となると、どうしても、「事件」そのものがまず最優先事項となるように思える。
もちろん、人間個々の描写も行われるし、その心理面が大きく影響する事だって確かなのだが、まず、事件がそれに優先してしまい、人間のことはそれに付随する描写となってはいないだろうか。

しかし、不思議と、警察小説の場合は、違った様相を見せる。
それは、個人ではなく組織が主体であるために、かえって個人個人が際だつからなのかもしれない。

おおざっぱに見た時、個人が主役であれば、ある程度その個人は自由に動けてしまうのだ。
つまり、作者は、個人が持っているはずのしがらみを、自由に裁量して、はずす事が可能だ。
けれども、組織が主役だと、そうはいかない。
小説のキャラクターといえども、その組織に縛られてしまうからだ。

どんな組織にも、いいやつがいればいやなやつもおり、大切な仲間だったのに、一枚の辞令ではなればなれになる事もある。
そういう制限がかかっているからこそ、人間のドラマが生まれやすいと思うのだ。

さらに言うと、日本人的な「イエ」の感覚というのも影響していそうだ。
日本人にとっての「イエ」とか「ミウチ」というのは、必ずしも血縁関係を意味しない。
組織そのもの、あるいは、組織内のチームにおける人間関係が、擬似的な「家」を構成し、家族的連帯感を生み出すのが特徴かと思う。

ゆえにこそ、安積班は、マクベインの87分署よりずっと、ウェットであり、心情的な結びつきが強く感じられる。
まあ、安積と村雨が、ややぎくしゃくしているのだけれど、それも、結局のところは「いい感じ」におさまっていて、いささか読んでいてものたりないほど、波風が立たない。
もっとも、そのかわりに、安積班「以外」のところで摩擦や波風があるわけなんだけどね。

本巻もスタイルはオムニバス形式であり、ベイエリアのいろいろな表情や特徴をいかしたものがほとんどだが、「最前線」だけは主な舞台が竹の塚署に移る。
なんとここでは、安積班が神南署に移った時、ひとり、他の署へ異動となっていた大橋が再登場する。

一時は大橋と競い合うような仲だった桜井の視点で、大橋が語られるのが、面白い。
また、大橋の目から、安積班というものが語られるところも、面白い。


最前線―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)/今野 敏
2007年8月18日初版
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2009-10-23 21:24:52

『陽炎』〈東京湾臨海署安積班〉

テーマ:ミステリ

安積警部補シリーズは、ここから第3部に入った、と言えるだろう。
最初のベイエリア分署、その後神南署に移ってからが第2部、そしてベイエリアに戻ってきて第3部という分け方になる。
このうち、神南署時代の物語が、ベイエリア分署当時とはスタンスもスタイルも違うという話をすでにしたが、ベイエリアに戻ってきたからといって、ベイエリア分署時代と同じスタイルに戻ったというわけではない。

たとえば、最初のベイエリア分署ものは3冊とも長編だったわけだが、ここでは、神南署時代と同様にオムニバスの体裁をとっていたりする。

さて、この安積警部補もの、作者がエド・マクベインの〈87分署〉を意識している事はあからさまと言っても良いほどで、そこに触れている解説は多い。

しかし、警察組織の違いだけでなく、そもそも、アメリカと日本では社会事情も文化も全く違う。
同じように警察小説を群像ドラマで描いたとしても、大きな違いが出てしまい、実は、喧伝されるほど87分署的ではない、と私は思う。
それは、オムニバスという形式でさらに強く浮き彫りにされている。

というのは、日本には、このような短篇を連ねた方式で組織が犯罪捜査をするシリーズが既に存在するからだ。
何をかくそう、池波正太郎の〈鬼平犯科帳〉だ。
表舞台である南北の江戸町奉行に対して、イレギュラーな火付盗賊改が主役であり、
鬼平を中心に、様々な同心や密偵たちの活躍を描いているところ、
これによっていろいろな「人間」を描いているところ。
どうだろう、かなり共通点があるように見えないだろうか?


陽炎 (ハルキ文庫―東京湾臨海署安積班 (こ3-16))/今野 敏
2006年1月18日初版
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2009-10-22 20:05:19

『残照』〈安積警部補シリーズ〉

テーマ:ミステリ

本作はミステリというか、警察小説であるのかもしれないが、カーアクション小説というもう一つの麺を持っている。
これは、凄い事だ。

カーアクション(バイクなども含む)を描くのに最も適した媒体は、漫画ではないかと私は思う。
実写では、現実以上の事を撮るわけにはいかないし、リアルすぎて想像がうくらみにくい。
アニメはかなりましだが、質感がなさすぎる。
漫画は、デフォルメ可能な単色の絵によって演出・表現していく媒体であるため、適度なリアルさの上に、映画のようにコマ割りで演出できるという利点、しかも小説のようにテキストで状況説明や心情描写をする事ができるという特徴があり、これがカーアクションに適していると思うのだ。

じゃあ、小説はどうか?
絵ならば1コマで表現できるところも、ずらずらと文章で書かなければいけないかもしれない。
しかも、アクションというものは、ただ視覚的な描写のみならず、五官をフルに利用した表現(音のこと、においのこと、触感のことなど)が必要になるのだが、カーアクションは、アクションに直接人間の肉体を使うわけではないので、そこをテキストでなんとかするのが、余計に難しいのではないだろうか。

ゆえに、カーアクションを小説で書くのは不可能ではないが、とても難しい……。
それを、今野敏は本作でみごとにやってのけている。
安積警部補の悪友である、速水を準主役にすえることでだ。

不良グループどうしの喧嘩で殺人事件が発生し、そこに、伝説的な走り屋が絡んでいるという事がわかる。
いや、絡んでいるどころか、彼は殺人の容疑者なのだ。
相手は孤高の走り屋であり、その世界では伝説的なヒーローだが、誰ともつるんではいない。
しかも、速水の隊ですら補足できない走りを見せるのだという。

このため、安積が速水を捜査本部に巻き込み、速水の運転でそいつを追跡していくわけだが、
カーチェイスを文章で表現する事の巧みさもさることながら、それを常に、助手席でヒドイめにあう安積の視点から語っていること、
一連のカーチェイスで、追う側が警察であって、それゆえ、パトカーどうしの無線連絡などが臨場的に使用されていること、
その二点が大きくものを言っている。

また、犯人や事件にかかわる人々が、どれほどかっこいい容姿や職業などを持っていたとしても、常にとても人間くささを見せている今野作品としては、例外的に、この走り屋、風間智也のキャラクターが、ほんとうにかっこいい、というのもいい。
いまだ少年の域にありながら、風間はクールで、タフで、潔い。
まあ、そうでなくては、速水と張り合えはしないだろうけれどもな。

そんな風間と速水が、走りの種類とテクニックを存分に見せつけてくれるのだ。
燃える。
これは凄く燃えるぞ!

また、読後感も、現時点でシリーズのベスト3に入るんじゃないかと思う。
この物語のラストにあっては、お台場は確かに人工的でドライな街だけれど、そこに見える一瞬の表情がたまらなくいいのだ。


残照 (ハルキ文庫)/今野 敏
2003年11月18日初版
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