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2008-05-31 22:54:27

『異形の大国中国』

テーマ:人文・社会・ノンフィクション
日本は外交下手だと言われる。
たとえば、この春大きな国際問題になった毒ギョウザ事件も、結局、うやむやなままに終わろうとしている。
胡錦涛氏が訪日した時も、事もあろうに、パンダのレンタルに話題の焦点がいってしまい、沸騰していたチベット問題も、その前に国内で騒然としていた毒ギョウザ事件も、国民の目からすると、何の成果もあがらなかったではないか、そういう印象があったかと思う。

なんでパンダ。
しかも、レンタル。
いい加減にしろ。
ネット上では、そういう意見は、罵倒的なものを含め、相当見られたのだが……。

実際、近年ますます、日本の外交、日本のマスコミ、これらの対中スタンスと、世論とが、乖離してきているように思える。
単純に考えれば、昔ほど簡単に、国民が騙されなくなってきているとも言える。
しかし、世論が黙っていなくとも、政治家や外交が黙ってしまえば、結局のところ、どうにもならない。

しかし、何故そんな事になってるんだろうな?

さて、本書は歯に衣着せぬジャーナリスト、櫻井よしこによる、日本の政治家や外交の対中スタンスに関する評論となっている。
文藝春秋誌上に連載されたものに、一部、付記をつけて一巻にまとめたものだ。

著者にそのつもりはない……と思うが、読み進めると、中国に対する悪感情が、高まってしまうかもしれない。
それほどずばずばと、今の中国がいかに異様であり、醜い事をなしているかが、書き連ねてあるからだ。
しかし、本書の趣旨はそこにあるのではない。
現在の日本を巡るアジア情勢がどのようになっているかを描き出すところに、目的があると思う。

日本が脳天気にも、日中関係でしか物事をとらえていないという事を指摘しつつ、
このままでいくと、冷戦時代の米ソという両陣営のかわりに、来たる未来、米中がそのかわりになるという展望が示されているのだ。

また、日本のマスコミが、ほとんど嬉々として、と言ってもいいほど、熱意を込めて報道する、「世界の」反日的な事件の数々が、どのような工作の結果であるかも、語られている。
そこらへんも、日本の外交下手に含まれる事ではあるのだが、逆に、中国は昔からロビー活動を含む、対外宣伝に長けているのだ。
その実例についても、本書の中では、幾つか触れられており、過酷な現実を知るためには、まさに必読と言えるだろう。

正直、櫻井よしこが示す展望は、戦慄すべきものだが、今現在も、日本が絶対に避けて通れないケースについて、多々言及されている。
今の日本(そして中国)に、なんらかの疑問を持っているならば、本書はきっと、その解決の一助になると思う。


異形の大国 中国―彼らに心を許してはならない/櫻井 よしこ
2008年4月20日初版
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2008-05-30 22:27:23

『流想十郎蝴蝶剣』

テーマ:歴史・時代小説
このところ佐伯泰英が、エンタテイメント時代小説作家としては、人気の上で突出している感じがするが、本書の作者、鳥羽亮も、かなり高い人気を誇っている、らしい。
どれもシリーズになっているので、手を出しにくかったのだが、今回は、「新シリーズ」と銘を打たれていたので、試してみる事にした。
私にとっては、初の、鳥羽亮作品だ。

さて、主人公は、なかなか不幸な生い立ちを持つニヒルな剣士。
その手のキャラのアーキタイプとも言えるだろう眠狂四郎を思わせるところもあるが、流想十郎は、よりストイックだ。
まあ、ストイックといっても、自ら律してというのではなく、
「なにもやる気が起こらない」
という意味でのネガティヴさ。
おそらくこの男、面倒な事は極力避けて通るだろう。

一作だけしか読んでいない現状で即断するのはなんだが、どうも鳥羽亮の文章は、語彙が豊富で情景描写も過不足がないにもかかわらず、いまひとつ色彩感がない。
ほんとは総天然色(古っ)のはずだが、なにか一色、フィルターを入れて見ているかのようなもどかしさがある。
表現に同じ繰り返しが見られ、言葉のリズムがたまにぎこちないという明白なマイナス点もあるのだけど、どうも、登場人物がみな、感情の表現の点で、起伏に乏しいのだ。

しかし、考えようによっては、無気力でニヒルな主人公は、周囲の人物の感情の動きに、さほど気を止めていないはずで、また、周囲の情景にもそれほど感動しないと思われる。
その主人公の視点で、物語が動いているのだと考えると、キャラクターと文体が、みごとにマッチしていると言える。

個人的な好みとしては、やはり、もうちょっとダイナミズムがほしいんだけどね。


流想十郎蝴蝶剣 (角川文庫 と 7-1)/鳥羽 亮
2008年5月25日初版
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2008-05-29 21:50:41

『魔法塾、はじめました!』〈マジカルランド16〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ
思えば長い道を来たものだ。
最初は、魔術師ガルキンのへなへなの弟子で、蝋燭に火をつける事すらまともに出来なかったスキーヴなのに、
「一時引退して再び魔法修行」
とは言っても、小学生と大学生くらいの内容の差があって、しかもいきなり、6人も弟子を取る事になってしまった。
それだって、マッシャの時みたいな、有名無実に近いものではない。
ほんとのほんとに、スキーヴが、実践的な魔術を教えるのだ。
弟子だって、ほとんどずぶの素人から、パーヴで魔法の高等教育を受けたエリートまで、さまざま。

……な?

なんだか、隔世の感があるというものじゃないか。
かつては、これまた板についていなかった、〈偉大なるスキーヴ〉という称号も、いまやまさしく、当人にふさわしいものになってきているようだ。
そういや、例のヤクザのボス、彼はもともと、スキーヴ贔屓だけれど、今回、彼がスキーヴを形容するところの、
「奴は本当の紳士だ」
というその表現が、全然、誇大に聞こえないくらいだ。

それもこれも、ヒヨッコから一目おかれる社長の立場に、
気負って社長業をやり通そうとした後、
反動がきて、なんとアル中にまで!
……という、スキーヴなりに長い道のりがあったんだよなあ。

また、その間、仲間ともいろいろあったわけで、まさしくその経験が、今回は弟子たちにとってスキーヴを良い先生にしているのだ。

なんつうか、異次元異世界ファンタジイだし、当然、アスプリンらしいコミカルな物語だけれど、一本、びぃんと、アメリカ青春ものの筋が一本、通っちゃってる。
ラストもきれいに大団円だし。
ああ、久しぶりに、マジカルランドを読んだよなあ、そういう感じ。


魔法塾、はじめました! 〔マジカルランド〕 (ハヤカワ文庫 FT ア 3-16 マジカルランド)/ロバート アスプリン
2008年5月25日初版

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2008-05-28 19:57:16

『ハナシにならん!』〈笑酔亭梅寿謎解噺2〉

テーマ:ミステリ
パツキンでトサカ頭の笑酔亭梅駆こと星祭竜二、快調に飛ばして単行本はつい先日最新巻の第3巻、『ハナシがはずむ!』が出たばかり、それに伴って2巻にあたる本巻が文庫化。
いや、めでたい。

これは、大阪に住むとんでもない落語家のもとで内弟子修行に励む竜二を主人公とする、落語とライトミステリだ。
あ、この場合、関西落語ではなくあくまでも上方落語。
関西という、より広く適用されるちと漠然とした地域ではなく、あくまでも、「上方」。
ちなみに、上方に対する言葉は「江戸」。
落語は上方落語と江戸落語に二分されるようで、今回は、そんな東西対決の話も入っている。

ミステリとしてはほんとにライトで、なかには、どこがミステリというようなものもあるが、主人公と周囲が落語家であるだけに、連作短編的スタイルである本シリーズ、各エピソードがそれぞれ上方落語にひっかけてあるようだ。
え。
それじゃネタがわからなくてだめ?
いやいや、だいじょぶ。
なぜなら、ちゃんと、エピソードの冒頭に、月亭八天 による解説がつけられているからね。
これがまた、コラムになっててけっこう面白い。

東西対決の部では、たとえば、首都圏でしか生活した事のない私は、「そばの羽織」のストーリーは知っていたけれども、この話が上方にいくと、そばじゃなくて餅になるというのは知らなかった。
もちろん、本作では、竜二(梅駆)が、これを演じる事になるわけだ。
しかも東京に行って演じるので、江戸勢から、上方落語は粋(いき)じゃない、などとけちょんけちょんにやられ、トラウマになるのだけど、いや、上方落語の真髄はそうじゃないんだ、と師匠が最後に教えてくれるところなどはなかなか良い。
もうね、とんでもないダメ人間の師匠だけれども、どこかよくわからん深みで、弟子の事はちゃんと案じているし上方落語へのプライドも高い。
それをストレートに出さないところが実にいい。

ちなみに、SFという切り口からしか田中啓文を知らない人は、この師匠、『UMAハンター馬子』のタイプと言えば、ピンとくるかな。
……ライトノベルでしか知らない?
……すみません、だまされたと思ってこっちも読んでみてください。
あ、いや、これ上方の話だから「かんにんしとくなはれ」と言う方がいいんだろうか。

もうひとつ、本巻の勘所となっているのは、落語そのものに対する思い入れだろうな。
もう今は落語なんか古い、漫才ですよ、コントですよ、そっちのがうける。
落語なんか、古くさくてわからないじゃん!
そういう主張をするキャラが、今回、何人か登場するのだ。

えーっと。
確かに、あまり新作の落語というのは聞かない。
ないのではなくて、聞くチャンスがないんだと思うんだけどね。
で、古典落語は、どうしたって江戸時代の話だから、今ではもう通じない言葉なんかもたくさんあって、落語家は、それを現代の人にもわかるように話すのに、けっこう苦労をするんだそうだ。
また、登場するメディアによっては話せない噺なんてのもあるそうだよ(下ネタの出てくるやつなんか、そうかも)。
しかし、落語はほんとに古典芸能なのか。
古くてわからなくてつまらないのか。

そこらあたりを、「芸の真髄」ってやつで感動させちゃうパターンは、いささか、料理漫画風の定型パターンっぽくて、鼻につくと言えば鼻につくのだけど、でもなー、聞きもしないで「落語なんて」と言う人は実際にいるし、聞いてみなければ、落語がほんとにつまらないか、それとも面白いかは、わからないと思うんだよな。
そこのとこは、作者に大いに賛成する。

また、この物語を読むと、ほんとに、落語を聞きに行きたくなるのだ。
なぜって、面白そうだから!


ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺2 (集英社文庫 た 59-3)/田中 啓文
2008年5月25日初版
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2008-05-27 20:25:14

『ガーディアン・エンジェル』〈V・I・ウォーショースキー8〉

テーマ:ミステリ
とらの最近読んだ本


ヴィクは、時として……いや、しばしば、ヤマアラシのように付き合いにくい女性になってしまう。
ことに、誰かが(彼女にとっては過剰に)自分のことを心配してくれる時が、そうだ。
まあ、そうでなくとも、かなり自分本位なところのある彼女なのだが、このヤマアラシ的な反応が、余計にそう見せているという事もある。

しかし、彼女は相当にお人好しでもあり、今回は、そのお人好しさ加減が、ヴィクを重大な危機におとしいれるのだ。
とある工場で大立ち回りを演じたり、激しいカーチェイスのあげくトレーラーにひき殺されかけたり、まさしく、ヴィク版ダイ・ハードだ。

しかも、あれほど親密だったロティとの仲にヒビが入ったり、ミスタ・コントレーラスが驚くべき告白をしたり、ロティのところで働いていたキャロルがびっくりするような転身をしてみたり。
彼女が日頃親しくしている人々との関係に良くも悪くも波風がたち、さらにヴィクの前夫で、何かというと互いにいがみあっているディック・ヤーボローが、ヴィクの巻き込まれた事件に大きく関わっていくというおまけつきだ。

そんな中、ヴィクとミスタ・コントレーラスの愛犬、ペピが子犬を産み落としたり、
近所で嫌われものになっている犬好きの老婦人の面倒をヴィクが見ることになってしまったり、
微笑ましいような、呆れて笑っちゃうようなエピソードもはさまるのだが……。

なんと、その犬の話まで全てふくめて、最後はみごと、ひとつの大きな絵になるのだから、今回の筋立ては見事というほかない。
勿論、長いシリーズのこととて、幾つかの人間関係は、後へ尾を曳く事になるが、それはそれ。
全てがまるくおさまってしまったら、シリーズもこれで終了かと思ってしまうところだからね。
ちょうどいいのだろう。

メインとなる事件の骨組みは、債券飛ばしという手法を使ったもので、またまた、これまでにないタイプの問題となっている。
ここらへんも、二度と同じ金融事件にならないというのが、作者の腕のみせどころで、感心させられる。

こうまでうまくできた、シリーズ中でも指を折るにたる作品なのに、残念、現時点では手に入りにくい様子。
シリーズは今も訳出が続いているということなので、本巻も、すみやかに入手できるようになってもらいたいものだ。


『ガーディアン・エンジェル』(サラ・パレッキー作/山本やよい訳) ハヤカワ文庫HM104-10
1996年4月30日初版
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2008-05-26 20:51:04

『名探偵コナン 防犯テクニック』

テーマ:その他
昔から、ドラえもんの小学生向け学参みたいなやつはあって、いや、あれは今でもシリーズの品揃えが良く、版を重ねているらしいけど、それ以外の子供に人気のキャラクターでも、類書がいろいろ作られているらしい。
両さんとか、まることか、クレヨンしんちゃんとか。
なかでも、名探偵コナンはドラえもんにつぐ人気なのか、行きつけの本屋に積んであったりするのだが、本日見た、この本にはちょっと目が点。

むむむ。
防犯テクニックですか(汗)。

内容的には、子供を的にした犯罪が増えている昨今、子供の防犯意識を高めようという目的のようだ。
まあ確かに、子供の姿で犯罪と対決するコナンは、そういうガイドにうってつけかもしれない。

現実に危険が大きくなっているなら、子供の防犯意識は絶対に高めないといけない。
「チョコレートをくれるといったり、車に乗せてあげると言われたからといって、知らないおじさんについていってはいけません」
では、もはや足りないのだ。

だからこそ……!
と、いうわけだよな。

もちろん、危険度がたとえ低かったとしても、啓蒙しておくにしくはない。
でも、なんとなく寒くなってしまったのは、気のせいでしょうかね。
これが「寒い時代」ってやつなのかなあ。
おっと、これは番組が違ったな。


名探偵コナン防犯テクニック (キッズ・ポケット・ブックス)/黒木 昭雄
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2008-05-25 20:35:46

『コドク・エクスペリメント (3) 』

テーマ:日本SF・ファンタジイ
最強の兵器を作ろうという実験は、ここに終了する。
実験に冠された「コドク」という名前は、おそらく、蠱毒と孤独に通じる。
最強のものは、最強であるがゆえに孤独である。
また、ここに登場する幾つかの「兵器」は、古代中国に発する呪術、蠱毒と同じような方法によって作られた。
(その仇敵となったサイボーグ女性も、ある意味、軍隊という名の容器の中から作られた蠱毒であったと考える事もできる)。

片方は潰え、片方は去る。
いずれにせよ、両者の運命は最後まで孤独なものであっただろう。

しかし、物語の主人公は、まさしくアダムとイヴのように、新たな世界へ踏み出す事になる。
あるいは、彼等から、別の人類が生まれる事になるのかもしれないが、その時、「祖」であるカップルが受けた、コドクからの影響は、残るのだろうか。
そのあたりが曖昧なまま、うっすらと示唆されているような、いないようなラストは、ややホラー味の残るものだ。
(そう、SFとホラーは、もともと同じ土壌から出てきたいとこのような関係にあるサブジャンルだ)。
去ったもの、そして潰えたものが、それぞれ、過酷で哀切な運命を背負っていたからこそ、カップルの子孫がどうなるか、読者はいかようにも想像する事ができる。

はたして、その未来は悲惨な運命を繰り返すのか。
それとも、希望のある道を歩き得るのだろうか。
そういう、想像の余地が大いに残るラストとなる事によって、物語は、「読者に考えさせる」という効果を発している。(あえて、何が良いという示唆は一切ないからこそ、余計に)。


コドク・エクスペリメント 3 (3) (幻冬舎コミックス漫画文庫 ほ 1-3)/星野 之宣
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2008-05-24 22:46:20

『ヴィク・ストーリーズ』〈V・I・ウォーショースキー7〉

テーマ:ミステリ
シリーズ7巻目は、様相を変えて、短編集。
さすがに、短編とあっては、ヴィクが危険な目にあう事もほとんどなく、軽快にストーリーが進む。
そういや、派手な喧嘩も、それほどはないし<皆無ではない。ヴィクだけに。

ハヤカワ文庫で読んでいくと、このシリーズは、正しくヴィクの年齢に準じて巻を重ねているわけだが、本巻のみは、短編集という体裁から、やや、さかのぼったところからスタート。
しかし、長編の間の、どこらへんにはさまるエピソードなのかは、(長編で扱う)事件への言及ではなく、彼女が乗り回す車の種類でわかるというのが、微笑ましい。

シエヴィのイメージが最初の方は強くて(この車はいちおう、2台目だと思ったが)、そのあと、鮮やかな赤いトランザム(!)に切り替わってるのが、いいわけだ。
なにせ、ヴィクがすごく喜んでた車だからね。
これは、彼女がまさしく、「アメリカの、男勝りの女」だという証拠であるような気がする。

ほら、トランザムといえば、『ナイトライダー』ですよ。
良くも悪くも、アメリカを代表するスポーツカーとして有名なんじゃないかな?
実際、あの車を乗り回すには、それなりのキャラクターである必要があると思うんだけど、ヴィクはまさしく、そこにぴったり、はまっている。
なにせ派手なイメージの車なので、その車に張り合えるだけの華が必要なのだ。
うん、ヴィクに拍手。

車の他、ペット(というより、四つ足の友)でも、シリーズのなかの時の経過が感じられる。
ペピがまだいない時期にヴィクが出会っていたリトリヴァーとか。
ペピがいるのに、子猫をもらっちゃうはめになりそうな事件とか。

この、猫の事件なんかまさしくそうなのだけど、ヴィクは、あれだけアグレッシヴな性格をしているのに、ほんとにお人好しなのだ。
センチメンタルではないから、それがきっと、同じ世界の同じ目線では、気づかれにくそうだけれど……。


ヴィク・ストーリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)/サラ パレツキー
1994年9月30日初版
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2008-05-23 22:51:18

『バーニング・シーズン』〈V・I・ウォーショースキー6〉

テーマ:ミステリ
バーニング・シーズンなんていうと、咄嗟に炎暑の頃を思い浮かべて、そういやシカゴの季節は8月と冬だけとかヴィクの親父さんが言ってたんだっけ? なーんて思ってしまうわけだが……。

今回は文字通り、火が燃え上がる方の意味で、すなわち、ヴィクは放火犯を追いかけるはめになるのだ。
つっても、このシリーズのこと。
放火事件の裏には、さらにでかい、不動産関係の利権と、選挙に関する裏取引が絡んでいる。
う~ん、どこの国でも、この手のパワーゲームには、この手の業界が深い関わりをもっちゃうものなのかな。

こういう、一見派手な暴力的事件と、高度に知的な能力が要求されそうな「権力の世界」へのアプローチは、ヴィクのシリーズの特徴なのだが、同時に、ヴィクという人物そのものでもあると思う。
彼女は法学で博士号を持ち、現在も正式な弁護士の資格を持っている高度に知的な女性で、実際、探偵とはいっても、専門は金融関係の調査だ。
ところが、その一方で、銃も撃てば殴り合いの喧嘩もできる、マッチョな人物でもある。
そう考えると、かなりのワンダーウーマンなのだが、家事に対するあまりのだめさ加減が、大きな欠点なので、彼女をあり得べきワンダーウーマン像から大きく突き放しているわけだ。

とはいえ、どうしようもない幼なじみとか、どうしようもない親戚に癇癪を起こしながらも、結局、手を貸さずにはいられないお人好しさ加減が、ぎすぎすしがちな、彼女のマッチョさ加減を和らげていたりもして、そこらへんを総合すると、ヴィクというのは、アメリカのミステリ界が生み出した、ニュータイプのハードボイルド探偵の一人であるのは、間違いないところなのだろう。

それにつけても、酒は強いクセに、胃腸が弱いのは困りもの。
なんとかして彼女仁ものを食べさせようという、ロティや、(とくに)愛すべきミスタ・コントレーラスの気持ちには、凄く共感できる。
ちゃんと食べなきゃヴィクが望むような活動はできないぞ!
なのに彼女は毎回、ピーナツバターだけですませようとしたり、出来上がった(または出来上がる途中の)料理を無駄にしちゃたtり、なんとか食べれば食べたで、食べたものを無駄にしたりするからなあ。

毎度毎度、いろんな奴が、いろんな方法でヴィクの命を狙ってくるけれど、別に、鈍器で殴ったり、火をつけたり、銃で撃ったりしなくてもいい。
彼女を際限なく忙しくさせておけば、早晩、ヴィクは飢え死にしてしまうはず。
しかし、悪巧みをするヤツらは、えてして、こういう簡単な事実に気がつかないものなのだ。


バーニング・シーズン (ハヤカワ・ミステリ文庫)/サラ パレツキー
1991年4月30日初版
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2008-05-22 21:18:21

『ゆきのはなふる』

テーマ:日本SF・ファンタジイ
おそらくこれは、「ラブコメ」として描かれ始めたものなのだろう、と思う。
実際、本巻前半の物語は、全て、「ちょっと笑えて」、「ちょっと心温まる」、そんなタイプの恋愛を扱っている。
ただし、舞台はいささか変わっている。

日本の民間信仰をベースにしているのだ。

……日本神話ではなく、民間信仰、な?

すなわち、なんとか彦とかなんとか媛とかなんとかの命(みこと)ではなく、あちらこちらの山にそれぞれ「主(ぬし)」がいて、
雨や雪を降らす事を仕事にしている精霊がいて、
そんな感じの世界観。
主たちは自分の山と密接につながっており、かといって、その力をもってまわりを変えようとしているのではない。
その力はあくまでも、世界の維持と調和に向けられているようなのだが、それも、ことさら特別な事というより、日常のさりげない事として描かれているのが、非常に、「日本的」で好感が持てる。

しかし、本巻そのもののタイトルとなっている、後半の中編は、少し印象が違う。
あまりにもリアルに作られた生き人形は、リアルすぎるがゆえに、彼女に命を与えている「玉の緒」を半ば断たれている。
そのため、生きているのと死んでいるのと、その中間のような感じで、何かの刺激で動く事はできるのだけれども、まわりがそれを見て、期待するほどではない。
まさしく、魂があるような、ないような、そんな不思議な存在なのだ。

これは非常に興味深い。

はたして彼女は、人形なのだろうか。
それとも、生きているのか。
そう書くと、非常に哲学的だけれど、その命題をあえて突き詰めることなく、淡々と彼女の世界をまわりの目を通じて描いているのが、非常に幻想的で、良いのだ。
この中編だけで、上質なファンタジイであると思うが、しかしその世界観に入っていくためには、前半に収録された、軽い恋愛もの風の複数の短編がどうしても必要。

あえて言うなら、室内楽のように、コンパクトであるからこそ、心地よい物語となっているのが、本作ではないかと思う。


ゆきのはなふる/わかつき めぐみ
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