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2008-01-31 20:27:02

『五家狩り』〈狩り7〉

テーマ:歴史・時代小説
五家と言われてもそうそうピンとは来ないのだが、作中物語られているところによれば、将軍家の後継を出すいわゆる御三家に、本家から、お目付役として送りこまれた家老職の家柄なのだそうだ。

万事いろいろな決まり事がある大名旗本に比べると、同じ石高でも、大名の家来でいた方が、経済的にはだいぶん、楽なのだそうな。
しかしそれは、庶民的な考えというもので、面目を重んじる武士の世界では、たとえ喰うには苦しくとも、同じ石高なら、将軍家じきじきの家臣である方が良い。
実際、旗本御家人から見て、大名の家来を意味する事がある「陪臣」は、一段低く見られがちだったりもする。

そういう背景を考えると……。
本来、旗本であったはずの五家、御三家の家老とはいえ、「陪臣」に成り下がったように感じるところもあるわけで、その不満が、長年の間に鬱積した……というのが、本巻の背景だ。
これに関わり、五家のうちのある人物が、大々的かつ大胆な、横領事件を起こすのだ。
それも、単に小判を盗むというのではない。
ある物産をそっくり横取りしてしまうという仕組みが、勘定奉行から大目付に出世した影次郎の父の、「守備範囲」を思わせる。

スリリングな筏の川下りというアクションもあり、毎度ながら、読者を飽きさせない趣向だ。
しかし、本巻もっとも華やかなのは、浅草の水芸人でもあるおこまの、五色の水による水芸と、尾張のくのいち達による空中の曲芸だろう。
また、このくのいちとその実の父の間に通う、ひそかな父娘の情は、ともすると派手なシーンの連続となる佐伯作品を裏から支える、人情味の役割を果たしている。

とはいえ、五家の始末そのものは、さすがに、影次郎が切り捨てて終わりというわけにもいかず、なんとなく曖昧なままになっていて、シリーズ全体の流れの中でも、いささか番外編的な味わいがある。
その点、ちと印象が薄く感じられるのは、残念。


五家狩り (光文社時代小説文庫)/佐伯 泰英
2003年6月20日初版
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2008-01-30 21:50:33

『下忍狩り』〈狩り6〉

テーマ:歴史・時代小説
本シリーズの主人公、夏目影次郎は、スペインの闘牛士さながら、赤い裏地を持つ黒マントを華麗にさばき、悪いやつらをやっつけるという、佐伯泰英のエンタテイメント時代小説の中でも、おそらく最もけれん味の強い主人公なのだが、
本巻は、シリーズ中、最も怪奇幻想味の強い作品となっている。

タイトルに『下忍狩り』とあるように、相争う二つの藩が操る、身分の低い「忍者」が最初から最後までぶつかりあい、大変活躍するのだが、
そのいずれもが、イタコだったり、行者だったり、宗教というよりは、ぐっと「オカルト」なグループに属する連中なんだな。
ゆえに、片方の殿様を呪ってみたり、
なんだかわけわからん結界というか、異界のようなところにまぎれてみたり、
あるいはまた、とうに死んだはずの存在が現世に影響を及ぼしてみたり……。

さらに、両藩の争いに、「なんかようかい」鳥居耀蔵が絡むにあたって、なんと沈没したロシアの船に積まれた多額のフランス金貨の存在があるというと……!

本巻に限り、時代小説というより、むしろ、ファンタジイに近い。
ものは光文社時代小説文庫の書き下ろし作品ではあるが、テイストとしては、角川映画みたいな感じ。

その点、時代小説が純粋に好きという人には、かえって、好き嫌いが出る作品のように思う。

とはいえ、影次郎が津軽路で知り合う馬方の少年三吉が、良い具合に最後まで雰囲気を和らげる働きをしているのは、佐伯泰英のバランスというものなのだろうか。
また、金貨や、金貨とともに沈んだロシア皇女の魂は、世界が西欧社会を中心に騒然としてきている事を匂わせ、それと同時に、影次郎が生きている時代が、いやおうなく幕末に向かって突き進んでいる事をうかがわせている。


下忍狩り (光文社文庫)/佐伯 泰英
2002年11月20日初版
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2008-01-29 21:39:33

『百鬼狩り』〈狩り5〉

テーマ:歴史・時代小説
本巻は、シリーズの中でも、ちょっと特別なポジションにある。
なにかといえば、ここで初めて、影次郎は父の公職を影から助けるために働くのではなく、
父の上役にあたる、水野老中の「私事」のために働く事になるからだ。

さて、このシリーズ、他のシリーズより歴史の動きに沿ったストーリーが多く、実在の人物もたくさん登場するわけだが、そのためにか、キャラクターの色合いが白黒はっきりしておらず、この水野老中にしても、白なんだか黒なんだか判然としない、灰色の濃淡でできたキャラになっているのな。
今回、「雲の上の人」ではなく、自分の過去にまつわる後始末を影次郎に命じてきたという事で、ぐっと生臭さが増している。

出世するために恋人を捨て、上司や重要な取引先の娘と結婚した、なんてのはクサいテレビドラマなどの定番なわけだが、ここに登場する水野老中が、まさしく、それ。
老中の座を手にするために、いろいろ運動して唐津へ転封を成功させたかと思えば、
唐津という領国を絞りつくし、子をみごもった女まで捨てて、今度は老中獲得へ……。
ワルい、ワルいよ、水野ー!
大人なんてみんな大っt嫌いだあっ!
しかもこの時に捨てた隠し子を、今度は部下の隠し子に始末させようというのだから、今も昔も、
あーもー、政治屋のおじさんてばよぅっ。
じったんばったん。
しかし、そういうところを全て飲み込んで、唐津に赴く影次郎も、ただ者ではない。

そんな前提での事件だから、唐津~長崎を舞台とする本巻の物語、全体にどことなく、ほろ苦い味わいだ。
とはいえ、エンタテイメントな佐伯時代劇のこと、始末される側のはずの「隠し子」とその「母親」も、一筋縄ではいかない。
長崎という土地を地盤に、阿漕な商売をいろいろやっていて、そういう意味では、彼らが退治されても、読者はなんの痛痒もおぼえなくて、すむのだ。

ただ、同じ「隠し子」という素性ながら、敵味方になった年下の相手に、やはり影次郎は心を動かされてしまう。
ラストのラストで、その点、読んでいても少しほっとするシーンがある。

とはいえ、全体に苦味のきいた本巻、どちらかというと、マイペース/天真爛漫な主人公が多い佐伯作品の中でも、格別に屈託のある物語となっていて、ユニークだ。
さらに、これをもって、影次郎、父の上役の「弱み」を握った事になり、それが、あとあと影次郎の言動に、影響を与えていくようだ。


百鬼狩り (光文社時代小説文庫)/佐伯 泰英
2002年5月20日初版
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2008-01-28 20:15:03

『夢の守り人』

テーマ:日本SF・ファンタジイ
眠りというものは、小さな死である、という考え方がある。
たとえば、ギリシアでは、眠りの神と夢の神は、ともに冥府の神(つまり、死を司る神)の息子にあたる、とされている。

もしも、眠りがほんとうに死に準ずるようなものだとするなら、夢は何なのだろう?
荘子が語ったように、夢を見ている本人がリアルであるのか、それとも夢の中で遊んだ蝶がリアルなのか。

思うに、眠りが、死と生のはざまにあるものだとするなら、夢はそのはざまに通じる扉なのかもしれない。

さて、ものごとの「はざま」は、洋の東西を問わず、「魔」の入り込む口でもある。
日付のかわる深夜十二時の鐘が鳴る時、西洋の悪魔はあわせ鏡の間から飛び出すし、
旧年が新年に変わる時に、日本の歳神は道を歩いていくのだ。

この物語は、まさしく、多重の世界が重なり合うという世界観のなかで、それらのあわいにある、「眠り」の世界にまつわる物語であり、そこに至る人々は、夢を通じて至る。
人間の世界や精霊の世界が重なり合うという世界観にとって、まことに正統的な手法であり、
しかし、あくまでも精霊界などではなく、界と界の間で展開されるというユニークさもある。
そこに、「花」を持ってきたのも、実にうまいなあ、と思うのだ。
というのは、プロセルピナの神話に代表されるように、植物は、しばしば、死と生、ふたつの世界をつなぐものとされるからだ。

もちろん、植物は、芽生え、花をさかせ、実り、枯れて地に還って、次の年に再び芽生える。
その循環性が重要なわけで、物語の中でも、夢の花は、同じようなサイクルを持っている。
花のサイクルは、花に独自のものであるけれども、物語的には、トロガイやタンダなど、登場する人々の世代にも投影されているように思う。

トロガイの経験した事は、一部は、一の妃が、別の一部はタンダが、さらにまた別の一部は歌い手のユグノが、再び歩んでいく(あるいは歩んできた)道となっている。
また、そいの霊妙なサイクルを、星読み博士シュガらは、彼らなりの神学によって、理解するのも面白い。

こうして、サイクルとはいっても、全く同じわだちをたどるのではなく、
それを理解する道もひととおりでないという多様性は、まさしく、この物語が「アジア的」な部分なのだろうな。
キリスト教的な一元論でもなく、かといって中近東に見られるような二元論でもなく、さりとて小アジアから古代ヨーロッパに広く見られたような三元論でもない、不特定な多元論の世界がこの物語の世界だ。
真実はひとつではなく、真実に至る道もひとつではない。
それを解き明かす方法も、おそらく、登場人物の数だけ、さらには読む人の数だけ、用意されているのかもしれない。


夢の守り人 (新潮文庫 う 18-4)/上橋 菜穂子
2008年1月1日初版
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2008-01-27 21:31:07

『朧夜ノ桜』〈居眠り磐音江戸双紙〉

テーマ:歴史・時代小説


磐音の最新刊は、待ちに待った、磐音とおこんの婚礼だ!
しかも、その前に桂川国瑞と櫻子の婚礼もあるし、金沢で磐音が出会った三味線師の鶴吉も江戸に舞い戻ってくるので、実にめでたいことづくめ。

桜子のお輿入れも、早春の白梅屋敷で婚礼が執り行われ、国瑞の祖父が即興の謡を披露するなどという一幕もあり、なかなか風趣に富んでいるのだけれども、磐音とおこんの婚礼は、いわばシリーズの半分以上をかけて待ち望まれていたものだけに、
おこんが速水家に、養女として入る時の様子、
そして速水家から佐々木家へ輿入れする時の様子、
どちらも趣向がこらされ、なんだか花嫁行列を2回(櫻子の時のも入れると3回)、見ているようだ。
う~ん豪華。

いわゆる「花嫁の父」を演じるのは、当然、実の父である金兵衛さんだけでなく、
長年、今津屋でおこんを見守ってきた老分番頭の由蔵もいるわけだ。
おこんが速水家へ向かう道中(実際には舟の中だが)、由蔵が語る、おこんとの出逢いは、短編として、同時刊行された読本の中におさめられている。
なので、ぜひ、あわせて読んでおきたいところ。
(あの人、この人の若い頃や、今登場しているキャラの先代が出てきて、なかなかおとくでもある)。

しかし、こういった、華やかで風情のある趣向だけで終わるのではなく、ちゃんとアクションもあり、磐音をとりまく人々それぞれの「成長」も描かれているのが、佐伯作品、わけてもこのシリーズの良いところだ。
たとえば、女ながらに縫箔職人を一途にめざすおそめ。
生まれた在所を顧みる暇もはいほど仕事に熱中する、というか、しすぎる彼女を心配するまわりの人々、
おそめと藪入りの日に会えない事を残念がっているはずなのに、おそめを信じてへいきな顔をしてみせる幸吉、
在所が気にならないわけではないが、どうしても今は仕事にしか目を向ける事ができないと悩むおそめ。
このシーンは、『中学生日記』のノリに近いものを感じてしまう。

そしてアクションの方はというと、またしても、田沼陣営から刺客が送りこまれてくるのな。
今度は、西国中心に集められたという事で、タイ捨流など、九州定番の流派が並ぶだけでなく、琉球古武術まで……!(おおーっ)。
今回は、3人顔見せするのだが、どの武芸者もそれぞれに、侮れない。
なんでこんな凄い人が刺客に、と思うような、錚々たる顔ぶれらしく、磐音がどうやって全員倒していくか、興味津々だ。


朧夜ノ桜 (双葉文庫 さ 19-25 居眠り磐音江戸双紙 24)/佐伯 泰英
「居眠り磐音江戸双紙」読本―収録特別書き下ろし中編時代小説居眠り磐音江戸双紙番外編跡継ぎ (双葉文庫 さ 19-26)/佐伯 泰英
2008年1月20日初版
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2008-01-27 21:10:40

『妖怪狩り』〈狩り4〉

テーマ:歴史・時代小説
脱税をする、というのは、今でもあまり罪悪感を犯人が感じていない犯罪らしい。
そして、法の網の目をかいくぐり、あの手この手で行われようとしている。
法律と脱税のいたちごっこであって、だからよけいに、
「みつからなけりゃおっけー!」
と感じられるのかもな。

確かに、人を殺すというような、古今東西誰が見ても悪い事とは違う、というのはある……。
とくに、今現在どうにも生活がたちゆかず、脱税しなければ飢え死にしていくかもしれない!
というような状況だったら、どうだろうか?
脱税。
やりますか……?

さて、主人公は勘定奉行である父の仕事を裏から助ける立場なので、当然、こういった、経済的犯罪にも関わっていく事になるわけだ。
江戸時代だからって、こういう脱税的犯罪がなかったわけではない。
つか、税をごまかすというのは、役人側でも、徴収される側でも、いわば虚々実々のかけひきだったのかもしれない。

しかも、舞台は、国境の山奥というびみょ~な場所。
ここでとれる漆は、天領の時は幕府に、隣接する藩の領地となっていた時はその藩に、おさめなくてはならないものなのだけど、入り組んだ山の中のこと、漆畑を隠そうと思えば、できない話じゃない。
そのうえ、山奥ということは、作物が育たない土地という事なので、そこに住む人が生きていくためには、いざという時のための隠し漆がないとだめな事もある。

まあ、いわば、
「違法だけど、民が生き延びるためにはなくてはならない隠し漆」、
民の生命線!
違法というところが、決定的な弱点なわけだ。

そして、そういうとこに目をつけるのが、本物のワルというわけで、タイトルの妖怪は、まさしくそこに、ぎらん、と目をつけたのだ。
いやー。
目のつけどころがシャープですね。
なんて言ってる場合か!

江戸で、国定忠治が押しこみを働いたという、「ありえねーっ」話を追って、この山の中に入った夏目影次郎、喜十郎におこま。
いやおうなく、漆畑をめぐる争いに巻き込まれる事になってしまった。
ほんとうなら、影次郎たちは、むしろ漆畑を摘発しなければならない立場なのだが、事情を知るにつれ、また、そこの手をのばすワルの企みがわかってくるにつけ、ワルの一味と対決せざるを得なくなっていくのな。
漆をめぐっての戦いは、ほとんど戦争に近い。
武士として武器の扱いに慣れ、修羅場を経て肝も据わっている影次郎や喜十郎の助けを得て、老人から子供まで、弓を手にして漆を守るために戦う。
その情景は、勇壮というよりは、むしろせつない。

さて、タイトルにある妖怪は、もちろん、漆に手をのばしているワルのこと。
鳥居甲斐守耀蔵、「かい」のかみ、「よう」ぞう、なので「ようかい」なのだという。
実在の人物で、時代劇的には、たいてい、遠山の金さんの敵役として登場する。
となれば、このあたりでシリーズに登場する重要人物が誰か、推察できるだろう。
戦国時代や幕末の話ならいざしらず、江戸時代中期~後期の時代小説で、これだけ実在の人物がばしばしと出まくるものも珍しいと思う。
しかも、全然、「シリアスな歴史小説」ではなく、エンタテイメントな時代小説なのだものなあ。
作者に拍手。


佐伯 泰英
妖怪狩り (光文社時代小説文庫)
2001年11月20日初版
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2008-01-26 20:00:43

『破牢狩り』〈狩り3〉

テーマ:歴史・時代小説
狩りシリーズが光文社時代小説文庫に移り、書き下ろし第1弾となったのが、シリーズ3巻にあたる『破牢狩り』。
そのためか、冒頭には、主人公夏目影次郎の「これまで」を説明する、プロフィールが添えられているが、語り出しは、いきなり、伝馬町の牢屋敷が付け火で炎上し、囚人たちが切り離しになるところから始まる。
これは、必ずしも死刑になるわけではない囚人たちの命を守るために行われるもので、
所定の日に出頭すれば、殊勝な態度であるとして、減刑になる約束があるそうだ。
しかし、極悪人も多数いること、佐伯泰英は、囚人たちが町を徘徊する間、町人たちは戦々恐々……と、その様子を描く。
そんなさなか、実家である料理屋の様子を見に、人の姿の失せた町中を行く影次郎は、はたして騒ぎに便乗した無頼の者どもに遭遇し、さっそく、その南蛮外衣が、空を舞う事になる。

このくだりは、時代劇というより、むしろマカロニウェスタンでも見ているかのようだ。
さながらゴーストタウンという背景も影響しているのだろうけど、何しろかっこいい。
ここで、新しい読者のハートをつかもうという作者の意気込みまんまんだ。

さて、ツカミは万全、となったところで、この破牢騒ぎの裏に、大規模な公金横領事件が関わっている事がわかってくる。
まあ、影次郎が仕事を助けて影働きをする、その父が勘定奉行なのだから、横領事件は「さもありなん」だ。
横領といえば、時代劇では、
「藩のカネを高位の家臣が横領し、その罪を下っ端の勘定方にきせる」
というのが、定番として用いられるのだが、佐伯泰英が描く公金横領は、もっと大がかりで複雑だ。

佐伯作品では、時代小説の主人公が剣豪であるのに、その裏で、藩や幕府の財政が悪化している事から生じる経済的な問題が絡んでくるというのがパターンなのだが、その「経済的な事件」が、毎度、うまく工夫されていると思う。
下手をすれば、江戸時代の金融経済小説になりそうなネタを、あくまでも背景に置き、主人公には、けれん味もうまく乗せたアクションを、きっちりとさせているからだ。
本巻も、その例にもれない。

影次郎の愛犬、あかは勿論、父の配下である菱沼父娘も、今回は最初から、影次郎とともに行動しており、実に本巻をもって、シリーズの中心的キャラクターが顔をそろえた事になる。
シリーズ中でも、とくに力の入った一作と言えそう。


佐伯 泰英
破牢狩り (光文社時代小説文庫)
2001年5月20日初版
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2008-01-25 21:42:27

『絹の変容』

テーマ:ホラー
本作は、裏表紙のライナーでは「本格SF」と謳っているが、巻末の解説では、星敬が、
「バイオ・テクノロジーをモチーフとした動物パニック小説。報われぬ恋を描いた暗黒のラブ・ロマンス。八王子という特定の地域を舞台としたご当地小説。」と連ねているように、いろいろな要素を兼ね備えており、ひとくちに、どのジャンルの小説というのは、ちょっと難しいかもしれない。

しかし、私にとっては、これはホラー小説と思える。
なぜならば、この物語には、たくさんの「恨み」が込められており、
その恨みから生じたものは、撲滅されるように見えて、(もしかすると……)という一抹の不安を残すような、ホラー小説では定番のエピローグを持っているからだ。

さて。
本作の中心となっているのは「絹」だ。
絹というのは、いろいろな意味で、罪深い織物であると言える。
もちろん、その美しさや、絹を使って作られた着物の素晴らしさに、古今の女性を悩ませるという事もあるし、
『野麦峠』に描かれたような、絹を紡ぎ、織る工場で働く女工の悲惨な暮らしに支えられたものでもあり、
そもそも成虫となる前の繭をぐつぐつと煮て糸をとりだす、当然多くの蚕が、蛾にならずに殺されているという避け得ない事実もある。

もうちょっと近年にスポットをあてるなら、繊維業の低迷とともに、養蚕や絹織物で栄えた土地は、経済的に大打撃をこうむった。
たとえば、本作の舞台となっている八王子もそうだ。
養蚕が盛んで、織物も隆盛し、水がきれいで豊かなことから、染色業も発展し、かつ南関東の生糸や絹織物を外国へ輸出するため、横浜へ運ぶための中継点としても発展した町だ。
逆に言えば、それだけ、絹に依存した土地柄だったと言える。

いまだに、繊維関係では数多くの中小企業があるのだが、繁栄を極めた頃に比べれば、おそらく、見る影もないのだろう。
主人公は、まさしくその八王子で、繊維業を営む小会社、長谷包帯の後継だが、先々代まで絹織物を生産していた時代を覚えているだけに、現在の零細な包帯製造には、ひどく幻滅を感じている。
それが生き残る道だったとはいっても、華やかな絹織物と、包帯とでは、月とすっぽんもいいとこだものな。

後に彼の夢に投資する、同じ八王子の若い企業家も、先代まではやはり絹織物を扱っていた、とある。

彼らが、主人公の発見した、思いもかけぬ美しい絹を前にした時、思ったのは何か。
今現在彼らが営んでいる包帯製造や、スーパーは、彼らにとって、「仮の姿」であって、本業はやっぱり絹織物、どうしても美しい絹織物で勝負したいのだ……。
それがあっただろう。
しかも、虹色にきらめく不思議な絹は、もしかすると、絹の生産地といっても、逆立ちしたって「京都」にはかなわなかった、八王子という土地柄の歴史的な恨みもあったのかもしれない。
この絹さえあれば、再び八王子を絹織物の中心にし、京都だって見返せるかもしれない……!

だが、彼らが夢を賭けた絹を生み出したのは、すでにダムの底となってしまった主人公の祖母の村からもたらされた蚕であり、
その蚕は、家族の愛情を知ることなく、人間関係をうまく築く事のできない、マッドサイエンティスト的な女性研究者の手で、作り替えられていくのだ。

水没した村の恨み、
絹のために殺される蛾の恨み、
普段着以上のものを送り出す事が許されなかったかつての絹生産地の恨み、
今は絹織物で勝負する事ができず、二次的な……不本意な仕事をしなければならない男たちの恨み。

さらには、首都圏のベッドタウンとなっても、地方都市であるような、でもやっぱり東京であるような、都心とは非常に微妙な距離にある八王子の、地理的な恨みものっかっているかもしれない。

まるで、それらの恨みを全て飲み込んで、変異した蚕が、八王子に溢れたかのようだ。

そこに至る物語の流れは、まさしく、恨みの水がダムをだんだんと満水にし、ついには決壊させていくかのようだが、グロテスクであり、残酷でもあるそれらのシーンには、必ず、さまざまな「哀切さ」がまとわりつく。
怖ろしい存在となってゆく蚕はもとより、
それに立ち向かう人、
それに破れる人、
そして、蚕を送り出す事になった主人公以下3人の男女にも……。

どれほど恨みを連ねても、
どれほど夢をかけたとしても、
結局、彼らは勝利を手にする事はできないのだろうか?
絶望的な状況に抗すべくもないと知りつつ、あがくものたちの哀切さが、終わりへ近づけば近づくほど、濃厚になっていく。

解説の中で、星敬は、本作が遺憾ながらコンパクトすぎるきらいがあり、この恐怖が八王子にとどまらず、全日本的、あるいは世界的な規模にまで広がる事を考えていたら、と述べているのだが、私はそこに異論がある。
もちろん、バイオハザード小説として考える時は、ローカルではなく、グローバルな危機になっていく方が面白いに決まっている。
しかし、それでは、本作の底流に蠢く「恨み」が薄れてしまうのでは?
蚕を送り出す3人それぞれのルサンチマンの意味がなくなってしまうのでは。
たとえ、ご当地小説と呼ばれる事があったとしても、本作は、八王子という土地の性格を遺憾なく利用しつくした小説なのであり、最後まで八王子を中心としているところが、秀逸なのだと思う。


絹の変容 (集英社文庫)/篠田 節子
1993年8月25日初版

!とても面白い小説だが、虫が苦手な人は絶対読んではだめです。!
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2008-01-24 20:24:28

『銀河北極』〈レヴェレーション・スペース2〉

テーマ:海外SF・ファンタジイ
レナルズの宇宙は、過酷であり、
人間となにか他のものが融合する世界であり、
かつ、人間がそれに反発する社会だ。

人間は、物語の力に推し進められて、いやおうなく、機械や、パターンジャグラーと呼ばれる不思議な記憶アーカイヴ生命体と融合し続ける。
融合疫なんていうとんでもない疫病まであるくらいだ。
しかし、常に、登場人物は、それらに抵抗しようとする。
抵抗しようとしてしきれない事も多々ある。

前巻、『火星の長城』に引き続き、本巻はレナルズの宇宙史をいろどる、短編集なのだが、この1~2巻を通じて、繰り返し登場する印象的なキャラクターが、外科医ドクター・トランティニャンだろう。
マッドなサイボーグ医というのは、比較的いろんな作家が描いていると思うが、
自分の肉体を含め、これほど過激に、肉体の機械化にこだわる前衛的な人物は、なかなかいないと思われる。
前巻において登場し、かつ劇的な退場をしたかに見えたトランティニャンは、本巻でも劇的に再登場する。
レナルズの宇宙では、人間の体が他のものと融合するだけでなく、切り離されたりくっつけられたりというのも、ひたすら繰り返す感じがするが、そういう世界にあっては、当然、この男は一種のヒーローにならざるを得ないだろう。
物語が続く限り、トランティニャンは不滅かもしれない……!

しかし、本巻で印象的なのは、パターンジャグラーを題材にした『ターコイズの日々』だ。
他の短編に比べて、機械と融合する話ではなく、異星の生物と人間が融合する話なのだが、(いや、融合においてなんらかの有機的にグロテスクな美が描かれるのは、『カズムシティ』にもある通りではあるが)、
知性体の記憶を多数飲み込む海、しかもそれが銀河のあちこちに存在するという不思議。
残念ながら、物語の中では、そこにとんでもない政治的横やりが入ってしまうのだけど、
レナルズ宇宙としては、例外的に、「機械化」が遅れている星の物語は、
相変わらずのグロテスクさを残しつつも、人間が海にいだく憧れと恐怖感を、エキゾチックに描いている。

最後を飾る『銀河北極』は、なんと4万年にもわたる復讐-追跡劇で、最もスペースオペラ的な冒険SFだ。
初の任務についた女船長が主人公なのだけど、豚の顔を持つ宇宙海賊と敵対する事になったのが因縁の始まり、彼女を裏切った副長、逆に海賊と袂を分かった元女海賊など、キャラクターもカラフル。
レナルズらしい、「人体のぎったんばったん」もあり、しかも宇宙飛行による時間のからくりによって、どんどん、船外と時間のズレが生じていった結果、彼女のなした事績はどんどん伝説的になり、伝説にうたわれた彼女が、実在の彼女と同一である事が信じてもらえないなどという珍事も発生しちゃうのだ。
このあたりはレナルズらしく、皮肉っぽいテイスト満載。
とはいえ、たいていのレナルズ作品ほどグロテスクではない(と思う)ので、ちょっとレナルズを試してみたいという人は、この話から読むのがおすすめだ。

あ。
でも。
本巻のまんなからへんに収録されている短編、『グラーフェンワルダーの奇獣園』と『ナイチンゲール』は、申し分なくグロテスクなので、そのつもりで!


銀河北極 (ハヤカワ文庫 SF レ 4-4 レヴェレーション・スペース 2) (ハヤカワ文庫 SF レ 4-4 レヴェレーション・スペース 2)/アレステア・レナルズ
2007年12月15日初版
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2008-01-23 20:46:36

『代官狩り』〈狩り2〉

テーマ:歴史・時代小説
時代劇で「お代官さま」と言えば、
「越後屋、そちもワルよのぅ」
「いえいえ、お代官さまにはかないませぬ」
「ふっふっふっ」
「ひっひっひっ」
というのに始まり、
「いやでございますぅ」
「良いではないか良いではないか」
「あーれ~~~~」
と、いたいけな娘の帯をとって独楽回しするという、典型的な悪代官ぶりが目に浮かぶ、という人、わりかしいるかな。

しかし、これって、どちらかといえば、昭和の、テレビ時代劇全盛期に作り上げられた典型的なイメージであろうと思う。

それを、小説として可能な限り、エンタテイメント時代劇で悪役に採用しちゃったのが、これだ。
夏目影次郎、八州回りの腐敗を粛正した次は、悪代官退治に向かう事になったのだ。
……さすがに、独楽回しはないけど、そのかわりに、影次郎の南蛮外衣が、華々しく舞うのだ。

さて、佐伯時代劇では、巻が進むに連れて、主人公の周囲を固めるキャラクターがだんだんと増えていくのが通例だが、シリーズ2巻目にあtる本巻でも、今後重要な役割をしめるキャラクターが登場する。

また、2巻目にしていきなり、敵にやたらと怪しげな団体が出現!
主人公がけれんが強いので、敵方もただ者では追いつかないという事なのだろうか。
あわせて、なかなか派手な演出になっている。

しかし、江戸の悪所と地方に出現した不夜城のつながりは、本巻の終わりで、必ずしも明確にはなっておらず、ただ、幕閣内部の闇が、ほのめかされるだけで、真の敵役は、もちろん、まだまだ姿を見せてはくれない。


代官狩り (光文社文庫)/佐伯 泰英
2004年4月20日初版(2000年9月ケイブンシャ刊)
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