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2005-11-30 23:25:11

『クトゥルー(12)』 水の中に潜む恐怖

テーマ:ホラー
クトゥルー神話といえば、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって世に送り出された、最も有名な「人工の」神話であり、 いまだに世界中で人気のホラー作品群だ。
本国であるアメリカ合衆国を別とすれば、おそらく、日本が、群を抜いて「クトゥルー神話好き」なのではないか。
なんたって、今でもクトゥルーものを書いている日本人作家は何人もいるし、アンソロジーだって売れている。またアンソロジーにしてからが、1種類じゃないんだよなー。

もちろん、非常に多数の作家が書いているものなのだから、それらを単純に「クトゥルー神話」でくくってしまうと、玉石混淆になってしまう。
ゆえに、ふつうは、その中からラヴクラフト自身によるもの、ラヴクラフトのいわば直弟子である数名の作品を中心にアンソロジーを編むわけだが、青心社の「暗黒神話大系」は、ちと違う。
それよりだいぶん、裾野を広げて、全13巻も出してしまったのだ。

これはすごい(笑)。

で、最終巻であるらしい13巻が出たよ、という話をかなり前に耳にした時、12巻も未入手であった事に気づいたのだった。おおーぅ、あぶねえ。なくならないうちに買わなくちゃ、と思ってみたら、なんとこれ、文庫だと1巻から全て、今でも入手できるみたいだな?

すばらしい。

それもこれも、日本人のクトゥルー・ファンがいかに多いかという証左であろう。

さて、12巻におさめられている物語は、不思議と、水に潜む恐怖を選んだものが多いようだ。
海のなか、
湖のなか、
ちと変形だが、雪の中というのもある。

そういや、この「神話群」、クトゥルー以外にもいろいろとキャラがいるのだが、なぜかクトゥルーが一番人気である。そしてクトゥルーというのが、ちょっとばかり、イカに似ているかもしれないやつで、深海にねむっており、こいつに仕える半魚人もどきみたいなやつらも、海の中で生活をしている、という設定。

なぜ。
その理由を、ラヴクラフトの「ウロコ嫌い」に求める人もいる。
そう、ラヴクラフトは、ウロコものだ大嫌いだったのだそうだ。
とくに、魚なんか、いけないわけですね。

しかし、それだけではなく、さまざまな原初的恐怖を並べてみると、最もダイレクトに命をおびやかしそうで、おそろしく、凶暴なのが、「水」なのかもしれない。
なぜなら、人間は、深い森の中とか、闇の中でも生きる事は可能だが、水の中では、だめだからだ。
息ができないからね。

実際、感じたことはないか?
海水浴へいって、沖の方へ出た時……。
足の下に触れる「地面」がない、という感覚。
何が潜んでいるかわからない、分厚い水の層。
もしかすると、暗く深い海の底には、なにかとても怖く、危険なものが、水面をうかがっている……の……かも……。

目次--------------------------
アルハザードの発狂(D・R・スミス)
サタムプラ・ゼイロスの物語(C・A・スミス)
ヒュプノス(H・P・ラヴクラフト)
イタカ(オーガスト・ダーレス)
首切り入り江の恐怖(ロバート・ブロック)
湖底の恐怖(ダーレス&スコラー)
モスケンの大渦巻き(ダーレス&スコラー)
墳丘の怪(ゼリア・ビショップ)
------------------------------

常に異色であり、きらびやかな超古代を舞台とするC・A・スミス作品への好みは別格として
(常に美しく、グロテスクで、おそろしい)、

本巻で私が佳作と思うのは、ブロックの『首切り入り江の恐怖』だ。
海の深みに対する人間の根源的恐怖に、クトゥルーの眷属によるコズミック・ホラーが混じり合い、そこに、超越的かつ邪悪な存在に染められた人間というサイキックな怖さもまじえて、なかなか読ませる短編なのだ。

また、ダーレスによる短編が本巻は3本も収録されているのも特徴かな。
ダーレスといえば、クトゥルー神話群の書き手の中では、ちとユニーク。
なぜかというと、この御仁だけが、クトゥルーら、古きものどもに対抗する存在としての「旧神」を前面に押し出してくるからだ。
この、”旧神のしるし”である五芒星を刻んだ石というアイテムを常に持ち出すのも、おおむね、ダーレスのみと言って良い。
こいつを持ち出すと、ラヴクラフトがめざした「コズミック・ホラー」、宇宙的恐怖という、いわば絶対的な恐怖感が薄れ、古きものどもと旧神という二元的な関係ができあがってしまうので、
それはそれで面白いとしても、クトゥルー神話としては本流ではなく、支流。
そんなイメージがある。
嫌いな人は嫌いだし、それをも楽しむ人は楽しむというところか。

まあ、ほとんど唯一のアイテムだよなあ。
クトゥルー側のもの(但し手下の小物だけか?)にきく品物っていえば。

と思ったら、なんと本巻のトリを飾る『墳丘の怪』では、もうひとつ別のものが登場する。
いや、ダーレスのほど通俗じゃあなく、もちっと仕掛けが凝っているんだけどね(笑)。
こちらは、水とは関係なく、また、現代のクトゥルー神話の書き手が好むクン・ヤン(なぜってラヴクラフトらはクン・ヤンについてあまり詳しく書いていないからだろうが)を使っているのだが、基本的な雰囲気は、きっちり、ラヴクラフトの直弟子たちに近いものがあると思う。


H.P. ラヴクラフト, 大瀧 啓裕, Howard Phillips Lovecraft
クトゥルー〈12〉
青心社文庫
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2005-11-29 23:02:21

『鋼の錬金術師(12)』

テーマ:冒険・アクション
なんつか、バトルバトルバトル、全巻通して戦っております。
傷跡男が、
大総統が、
東の煉丹士が、
あるいは皇子が、
皇子に使える女忍者(?)が、
鋼の錬金術師とその弟が、
鎧師の少女が、
大佐と少佐が、
その他の人々が。

そして話はなかなか進んでいないように思えるが、
それでも一応、ちょっとずつ、露見してきている事もある。

たとえば、いよいよ、大総統のホムンクルス疑惑が(笑)。
エドの親父は銃弾なんぞじゃ死なないということが。

(肉屋と筋肉少佐の登場がない事が惜しまれる)

こうしてちょっとずつ、ネタは出ているにもかかわらず、ストーリーが動いているように見えないのは、結局、バトルのせいなんだよなー(笑)。
興味深い事に、このバトルシーンというやつ、漫画においては、
漫画のいわば本質である誇張表現が多用でき、派手に演出できるため、それが過剰となる傾向があると思う。
そして、それらに紙数が費やされ、読者の目もそういったところに釘付けとなるので、たとえその影で少しずつストーリーが動いていても、止まっているように見えてしまうのだ。
本巻も、まさしくそういうスポットに陥っていると思われる。

いや、戦闘の表現そのものは、楽しいんだけどね。


荒川 弘
鋼の錬金術師 12 (12)
2005年12月22日新刊(発売中)
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2005-11-29 21:59:15

『龍の黙示録』 ユダヤの色で日本を彩る伝奇ホラー

テーマ:ホラー
篠田真由美は、この本を貸してくれた友人によると、
「ハマる人はハマる」
そういう作家だそうだ。
逆に言うと、ハマれなければ、それまで、ということだな。

で、こういうタイトルで、表紙もなんだかケレン味たっぷりなのだが、そこはそれ、NON掲載作品だからなー。(そのわりに、エロくないのは、作者が女性だからかな?)
でも何で十字架?
それは、この物語が、ユダヤの伝説および聖書にある言い伝えを、現代の東京にぶちこんだものだからだ!

おー(笑)。

ユダヤとか聖書とかいうと、妙に特別な感じだが、早い話が、系統としては西アジアのもの。
実際、タイトルにある「龍」は、当初から「ラハブ」と呼ばれている。旧約聖書にみえるモンスターの名前なんだけど、バビロニアのティアマトなどと同じ、混沌の竜と呼ばれるタイプのモンスターなのだな。
どういうものかといいますと、
世界が光と闇(または善と悪)などの二つに分かれるにあたり、まず、何らかの争いというやつがあるのだな。で、たいていは、「光(善)」となる側が、それ以前にあった神(または神々)に対して、クーデターをおこす。その結果、
巨大なる竜は、
水(あるいは塩水)の上にとぐろをまき、
混沌を代表し、あるいは魔物をつぎつぎに戦に送り出した……
と、される。

ここであえてメジャーなティアマトではなく、マイナーなラハブを持ってきてるのは、ある意味マニアックだが、実は、主軸が「聖書」というか、イエスにまつわる説話であるため、旧約聖書に出てくるものを用いたのだろうな。と、思う。

うん、このラハブの件をはじめ、随所にマニアックなものが出てくる。
しかし、出てくるだけで、いまひとつ、「あっ」とびっくりするような展開はないのだ。
そこが、私の好みからは、はずれるかなあ。
作者は、かなりよく、調べているな、とは思うんだけど(笑)。
また、この手の混沌の竜は(とくに、アジアでも西へ行けば行くほど)、性的には「女性」なんだよなー。
(ティアマトも、女性です。神々の母、なのです)。
だから、この物語のラハブが男であるのが、ちと違和感。

さて、ここまでは物語の背景だ(笑)。

主人公は、女性である。
口をきいて自ら主張しなければ、誰からも、「男?」と思われてしまうような。
彼女は生まれ育ちがいささか不幸であって、父親が残した巨額の借金を、自ら返済しようと決意している。
だから、がめつく働き、夜のアルバイト(といっても、バーテン)をしている。
それだけに、物質主義的というか、夢まぼろしのようなものに信を置かないし、宗教も嫌いだし、
ついでに、他人の手助けもとっさにふりはらっちゃう、というような、実にかわいげのない女だ。
反面、非常ながんばりやさんでもあるし、行動的でもあるわけ。

クセの強いキャラクターで、まずここで好みがわかれそうな気がするなあ。
しかし、ハリウッドの昨今のヒロインみたく、男顔負けにバトルしちゃう、というわけでもない。
そこらへんは、やっぱ、それなりに女性だし、限界もあるというのは、作者に節度がある感じで好印象。

ただ、そこまで演出した彼女の「現況」が、いまいち活かされていない。
もちろん、借金借金きんきんきん、というのが物語を縛りすぎるのは面白くない話だが、それにしては、その「借金」をクローズアップしすぎちゃってる。
アピールしたわりにその扱いが竜頭蛇尾なのだ。残念。

てなわけで、背景、主人公とも、
「作者ちょっと力みすぎ」
というのが私の読後感かな。
もっとも、これ、シリーズになって何冊も出ているようなので、先の展開は、また別の面白味があるのかもしれない。


篠田 真由美
龍の黙示録
NON NOVEL
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2005-11-28 20:03:30

『ロマンシング・サガ ミンストレル・ソング外伝~皇帝の華』

テーマ:ゲーム
ロマンシング・サガ。あー、そういやPS2の「ミンストレル・ソング」はプレイしてないや(‥
と、思っても、この作品を読むのになんら問題はない。
格別ロマンシング・サガの世界観を知らなくても読めるようになっているから。

母后と皇叔という権力者に命をつけねらわれながら育った若き皇帝の半生記を、
皇帝自身と、その親衛隊長である女性ローザ、ローザの部下である女戦士たちの姿を描いた、吟遊詩人の歌を通じ、物語る。
なかなか良い構成だろ?

なぜ、この皇帝の親衛隊が全て女性なのかという理由付けも面白い。
常に暗殺者に命を狙われている為、親衛隊そのものは必要。
だが、あまり「力」を感じさせるものだと、逆に敵に全力を注がせる箏になってしまうかもしれない。
だから、「それほどの力は持たない」風に見えるように、女性だけで構成する。

もちろん、皇帝のまわりにいるのは、これらの女性だけではなく、
数少ないとはいえ、男の友人も何人か登場する。
そして、心を通わせあった獣も。

それら色とりどりのキャラクターとの関わりを吟遊詩人に語らせながら、
各キャラクターの視点を「鏡」として、様々な角度から主人公を再度描く。
半生記であるから、少年時代から「現在」まで。

また、何人もの登場人物がいるといっても、あくまでも主軸は皇帝レリアと親衛隊長ローザの関わりにおいているというところも、わかりやすい。
レリアの成長とともに、ローザとの関わり方も変わる。
また、ローザ自身のおいたちに関する謎も、少しずつあらわになっていくのが良い。

しかも、レリアの精神的な成長という、内面をうまくつづっていきながらも、
暗殺者に狙われる皇帝とそれをまもる親衛隊という図式があるわけだから、アクションがふんだんに盛り込まれ、またそれが女性たちによるものなのだから、殺伐としていそうで、そうではない。
「華」と呼ばれる彼女らの真価が、ストーリーの演出の上でも、遺憾なく発揮されている。


妹尾 ゆふ子, 小林 智美
小説 ロマンシング サガ -ミンストレルソング- 皇帝の華
スクウェア・エニックス GAME NOVELS
2005年10月21日新刊
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2005-11-28 17:22:51

『キリス=キリン1』 森と太陽と歌の魔法

テーマ:海外SF・ファンタジイ
本読みの間では「ジャケ買い」なんて言葉があって、これは、表紙絵がきれいで気に入ったから思わず買っちゃったぜい、という事を意味するのだが、逆のシチュエーションも、当然、あり得る。
表紙絵の印象で、
「……けっ」
と立ち去ってしまう場合だ(笑)。

本作は、私の場合、この「逆ケース」に相当した。
美青年の横顔と、やけになよっとした、少女とも少年ともつかぬ人物。
これだけ置いておいたら、BLかと思ってしまいそうな表紙。
うーん。なんかなー。だめ。俺、パス。
タイトルには惹かれたんだけどね。

と、思っていたところ、たまたま友人が、
「とらも読む?」
とまわしてくれたので、読む事ができたのだ。

いや。表紙絵に惑わされて損した(爆)。

これ、C-NOVELSが始めた、海外ファンタジイのシリーズに含まれるものなのだが、C-NOVELSは海外のものでも、かなりライトなやつをセレクトしているので、この『キリス=キリン』も、かなりライトな味わいだ。
てか、児童書として出ていても、不思議じゃないなあ、という気もするテイストだった。

かつて、王と女王が交互に支配していた国。
青の女王は、その権力を、次の王に引き渡す事を拒んで、長年圧政を敷いている。
何にもかににも税金がかけられ、人々は苦しんでいる。
青の女王にかわるべき王は、森の奥に潜んでいるというけれども、姿を見た者はいないし、民は、その森に入る事を禁じられている。

さて、主人公のジェセックスは、比較的ゆたかな(といっても重税にあえいでいるのは他と同じ)農場で生まれ育った。もちろん、将来はそのまま、農夫になると自分でも思っていたところ、14歳で成人した時、永らく行方不明になっていた伯父が現れるのだ。
しかも、みたこともないような、立派な駿馬を連れて。
この馬の背にまたがって走る事ができるかどうか。それが最初の試練というわけだ。

実は、この叔父さんは、森に潜む王に仕える兵士であり、
聖堂に仕える者として予見された甥を迎えにきた、という展開。
少年は伯父と一緒に森へ行き、王とめぐりあい、聖堂に仕えながら、不思議な女たちから魔法の手ほどきまでも、受ける事になるのだ。

少年といっても、やんちゃなところはほとんどなく、かなり受け身で流されるまま、というのが、
「男の子らしくないぞおまえ!」
と言いたくはなる。
とはいえ、耳に快い異世界の名前のかずかず、
描かれる少年の歌の美しさ、
森と魔法の湖の奥深さなど、
なかなか、物語の世界は美しい。

けっこうな長編とみえ、1巻はまだまだ話のとばくちなのだが、向かうところは、青の女王と赤の王の政治的・軍事的対決に、魔法合戦がからむ感じで、これは楽しませてもらえそうかなあ、という予感。


ジム・グリムズリー, 澤田 澄江
キリス=キリン1 - 森の王
C-NOVELS
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2005-11-27 20:04:10

『宗像教授伝奇考 第七集』 蛇か、竜か、海蛇か?

テーマ:歴史・時代小説
日本人は、本来、竜神ではなく、蛇神を進行していたのだそうな。
しかし、それって、どんな蛇だろう?
神社によっては、「白蛇」を神使としているところもあるけど、それはそれとして。
白い蛇はたいていアルビノ(白子)だと思うので……なぜって日本には、種族として真っ白な蛇はいないんだから。
てことで、神様になっていた蛇は、なにもん?

日本で蛇といえば、たいていは、ヤマカガシかマムシだな。
南方へ行けば、ハブが普通か。
蛇の姿をしている神様として、一番メジャーなのは、三輪山さんだろうけど(あの円錐形は、蛇のとぐろまいたところだそうだよ)、その三輪山さんは何蛇?

いやー、ぜんっぜん、考えたことがなかった(笑)。
漠然と、毒蛇じゃなさそうだからヤマカガシですかねえ?
ところがだな。
海蛇なんだって(‥

というわけで、宗像教授最後の事件(?)は、古代日本人が崇めた蛇神の正体に迫る!
これに壬申の乱とか、大津京、藤原京など、古代の都造営に関する謎が絡んでくるのだ。

ここに、宗像教授と、スキャンダルに巻き込まれた大学の学長が、去就をかけて対決するというスリルも味付けとなり、なかなか壮大かつ爽快な展開となっている。

もっとも、これでシリーズがほんとに終わりなのかは、なんとも言えない。べつだん、宗像教授がいなくなるわけではないので、作者がその気なら、まだ続きが書けそうだからだ。
なんなら、宗像教授に国外で活躍してもらっても、面白そうだと思うのだが、どうだろう。


星野 之宣
宗像教授伝奇考 (第7集)
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2005-11-27 17:49:19

『宗像教授伝奇考 第六集』 義経は何者だったか?

テーマ:歴史・時代小説
第六集の圧巻は、なんといっても「流星剣」だろう。
これは、義経伝説を扱ったものなのだ。

そう、今度はいよいよ、
「義経は衣川で死んだのか?」
について推考しようというのだ。

しかし、これに挑むのは、宗像教授ではない。
この巻から登場する、竜胆経清という若手の歴史学者なのだ(笑)。
もちろん、それにからんで宗像教授も、義経の謎にアプローチしていく事にはなるのだが。

さて、ここで着目されるのは、まず、義経と東北文化のかかわり、そして「山の民」とのかかわりだ。
格別目新しい事でもなく、他の作家もあちこちでネタにしていると思う。
しかし、タイトルの「流星剣」にあるように、日本刀のなりたちをからめてきているのが、なかなか面白いのだ。

日本刀だが、おおむね今のような姿になったのは、平安中期とか言われてるね。
では、その前は、どんな刀剣が使われていたのでしょう?
それは、中国大陸などと同じ、両刃の剣。
柄頭は丸い。
材質は、もともと、銅。

日本刀とは、全然、違う形だ。

で、こいつと日本刀の間に位置するものとして、蕨手刀というものがあるのだが、実はこれが、東北文化が発祥の地だという事から推考が始まる。
宗像教授のライフワークである、鉄器の伝播にからみ、日本の文化を形成/刺激する源となった、
「外国からの文化の流入経路」
について、重要な視点がもたらされる。

それは、従来、常にクローズアップされてきた、中国→(朝鮮半島)→九州→本州 ではなく、中国→北陸→本州、及び中国・ロシア→北海道南部→東北 というコース。

我々は、たいてい、歴史の教科書に惑わされているけれども、文化が日本に入ってきたコースは、決して、ひとつではないというわけだ。

そして、このコースがあればこそ、
「衣川では、義経は死ななかったのではないか?」
という、従来の「衣川で死んだんだってばよ!」という定説をくつがえすかもしれない、歴史上の可能性が出現するというわけだ。

さらに、東北のエミシ、彼らが飼育していた良馬、蕨手刀を鍛造する事のできた鍛治師らが、朝廷の政策によって、日本各地に強制的に移住せしめられたことも踏まえ、非常に魅力的な考察を重ねていくのだ。

そういえば、以前友人から聞いた話なのだが、古事記と日本書紀を比べると、その違いに愕然とするそうだ。
簡単に説明すると、古事記は、日本書紀のダイジェスト版。ていうか、日本書紀では述べられている「越の国」関連の記事が、古事記からはバッサリと削られているんだそうんな。
まるで、意図的に、北陸ルート、東北文化については、
「あれはない。ありません。なかったこと!」
としたいかのようだ。

なぜ、なかったことにしたかったのだろう?
あわせて考えてみると、非常に興味深い。

目次---------------
氷の微笑
桃太郎連説
夢と知りせば
流星剣
-------------------


星野 之宣
宗像教授伝奇考 (第6集)
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2005-11-27 14:30:37

『宗像教授伝奇考 第五集』

テーマ:ミステリ
伝奇ものというのは面白いサブジャンルで、ホラーにもSFにもミステリにもなり得る。
第五集は、かなりミステリよりの作品が多いように思う。
また、どういうわけか、ここに収録された話は、他の巻に比べ、非常に「キャラクター死亡率」が高い。
いや、ばたばた人が死ぬというわけではないのだけれど、1作品にひとりは、死人が出ているようだ。

さて、ここで一番面白かったのは、まずなんといっても、「西遊将門伝」。
将門を利用した天海僧正の呪術的符陣については、荒俣宏の『帝都物語』を代表として、この作品以前にも書いている人がいると思うが、それらとはまったく別の方向性を示して、星野之宣は面白い「解答」を与えてくれる。
それは、将門にまつわる伝説と、西遊記を結びつけているところだ。
更にそこへ七福神が加わったりするだけでなく、最後に「あっ」と驚くオチまで用意されているのだ。
それだけでもう充分面白いよ、というのに、更に殺人事件まで関わってくるのだから、サーヴィス満点。

そしてもうひとつ、面白かったのが「菊理媛は何を告げたか」。
菊理媛って、知ってる?
……きっと、ふつーは知らないと思う。
なんつっても、この女神は、日本書紀にちらっとしか出てこない。
台詞もないキャラなのだ。
なのに、全国の白山神社に祀られているのであります(‥

非常に謎めいた女神なのだが、この女神の正体を深く洞察している。
ほんとにそうかも、と信じちゃいそうだ。
日本の古い名前(神名、人名、地名)を読み解くのに、そこにあてられた漢字を利用してはいけない、というのは柳田国男以来のメソッドだと思うが、だとすると、菊理媛とて、なんら「菊」とは関係がないはず(そもそも菊が日本に入ってくるのはずっと後だろう)。
てことは、キクリヒメ。
ヒメは高貴な女性をあらわす言葉だとして、ならキクリはなに?

日本書紀に菊理媛があらわれる、まさにそのシーンと、この名前をもとに宗像教授が推考した内容は、他の話に比べて地味かもしれないが、ほんと、面白いのだ。

目次-------------------
西遊将門伝
菊理媛は何を告げたか
冬の兎
水天の都
-----------------------


星野 之宣
宗像教授伝奇考 (第5集)
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2005-11-27 14:10:16

『宗像教授伝奇考 第三集』 現代に伝説は存在するか

テーマ:冒険・アクション


伝奇ものというか、民俗ネタを扱った漫画として、諸星大二郎はよりホラー的であり、星野之宣はSFよりだという話は、前にも述べたと思う。
あくまでも理詰めでいろいろな角度から一つのネタを推考し、とてつもない結論にたどりつく。
宗像教授シリーズは、そこが面白い。

その点、第三集では『彗星王』が話の盛り上がり方、突拍子もなさという点で白眉なのだが、視点が面白いのは、むしろ、「佐用姫の河」だろう。
これは、日本でも昔から行われていた人柱という形での、水への供儀を扱いながら、もうひとつ、重要な問いかけを行っている。それは、
「現代にも、伝説は存在するのか?」
ということだ。

都市伝説があるじゃないか、という答もあるだろうが、実はあれって、本質的には民話なんだな。
それは、松谷みよ子の『現代民話考』あるいはブルンヴァンの著作を読めば、すぐにわかる。

この場合の「伝説」は、あくまでも、語り継がれていくヒーローあるいはヒロインを中心とした話という意味だ。
しかも、それらのヒーロー、ヒロインには、何かしら神的な力が添えられていなくてはならない。
そんな条件を備えた、「現代の伝説」が発生し得るかどうか、「佐用姫の河」ではみごとに可能性を示している。それが非常に興味深く面白い。

目次----------------
佐用姫の河
彗星王
牛王(ごおう)の訪来
瓜子姫殺人事件
酒呑童子異聞
--------------------


星野 之宣
宗像教授伝奇考 (第3集)
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2005-11-26 21:59:12

『世界の涯の物語』 または、驚異の書

テーマ:海外SF・ファンタジイ
ダンセイニ。
思えば、なんと不思議な語感であることか。
Dunsany とつづるこの名前は、アイルランドの地名であるそうだ。
すなわち、Lord Dunsany は、その地の、世襲の領主というわけだ。

実際、ダンセイニ卿の物語は、どこかアイルランド風(または、ケルト風)の色彩が感じられる。それはときとして、『ペガーナの神々』のように、冷たい黄昏光の中を跳ね動く影絵のようなイメージでもあるけれど、一方、人間と親しむ類の妖精のように、意地悪さと剽軽さが半々の、不思議な物語であることもある。

本書におさめられた短編は、いずれも、後者に近いものだ。

世間を、日の当たるところと日陰の二つにわけたとするなら、体の2/3を日陰に置いているような、「罪のない」盗賊や、ロマンスの中の海賊、あるいは不思議な運命に見舞われた水夫、これら「さまようものたち」が、聞き手のもとに、ちらり、ちらりと「不思議」の断片を放って寄越す。

それは、世界一のチェス名人をものともしない水晶球であるかと思えば、
海の上も陸の上も走る船(しかも牡牛の群れにひかれて疾走する)かもしれないし、
蜘蛛の神が膝に抱いた、人間の頭くらいもあるダイヤモンドであることもあり、
あるいはまた、アメリカ原住民に襲われた謎の都の神官がしたためた呪いの文言なのかも。

自らも旅行家であったダンセイニ卿が、見聞きしたこと、
聞き知ったこと、
あるいは想像の翼をはためかせたことなどから、
気ままに紡ぎ出した幻想的な「ホラ話」。

どれも、とても短いので、気軽にぽつぽつ読むもよし。
最初から一心不乱に読みふけるのも良いだろう。
しかも、この河出文庫版は、シームによる幻想的な挿絵がもとのまま全て収録されているということなので、挿絵の方もたっぷりと楽しむ事ができる。

いやあ、ダンセイニといえばシームだからねえ……!


ロード・ダンセイニ, 中野 善夫, 中村 融, 安野 玲, 吉村 満美子
世界の涯の物語
河出文庫
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