ハリスおばさんシリーズ三作目。

働き者のお手伝いさんがなんと国会議員に?!というお話。

 

この本の帯は「陰謀うずまく国会を、ほうきとはたきで大掃除?!」

 

お手伝いさんならではの着想で、市井の人々に寄り添う政策の数々を打ち出し、最初は周りから猛反発を喰らうものの決して諦めず、その姿を見て老獪な政治家達も若き日に抱いた理想を思い出し、一人また一人と味方が増え始め、ゆっくりと、だが確実に社会が変わり始めるのであった。めでたしめでたし。

 

帯を読んだだけで、一気にここまで想像できました。こういう胸のすく話が嫌いな人はいないのでは?

 

そうそう。大統領のそっくりさんがひょんなことから影武者を演じる羽目になり、その善良な心根に本物より人気が出て支持率はうなぎ登り…という名作映画「デーヴ」を思い出しました。

チャップリンの「独裁者」やディカプリオの「仮面の男」も然り。政治で最も大切なのは正しいことをしたいと願う真っ直ぐな想いなのだ、というメッセージは心を揺さぶるものがあります。

 

でも、今作はそういう話ではないのです。

庶民から共感されそうな候補者を出すことで票を割れさせて保守党の議席数を獲得し…という大物政治家の思惑があり、その駆け引きに利用されただけなのに、そんなこととは露知らず、無邪気に世の中を良くしようと意気込むハリスおばさん。これを知った友人達があの手この手でハリスおばさんを当選させようと奮闘するというのが大筋です。この友人達の活躍ぶりは読んでいて燃えました。テレビに出演させたり、フランスの新聞でわざと攻撃してイギリス国民がおばさんの味方になるように仕向けたり。

 

結論を言うとおばさんは当選します。他の候補者に大差をつけた大勝利。

 

でも政治家になったところで、「法律ってどうやって作るんだい?」「さあね、まず演説なんかをするんだと思うよ。」くらいの知識しか持たないハリスおばさんに活躍する場は与えられません。

 

国民のことを考えない馬鹿な政治家共を正してやる!と息巻いていたのに、いざその中に入ってみると何も出来ず只周りに圧倒されるハリスおばさん。自分には政治の知識も、人脈も、法案を通す力も、何もない。何も持たないのに、自分の手で世の中を変えるだなんて、思い上がりもいいところだったとぺしゃんこにされてしまいます。

 

伊坂幸太郎の「モダンタイムス」を思い出しました。誰か一人の思想なんかが入り込む余地などない。全てはシステムなんだ。という世の中の儘ならなさ。

 

結局「自分では役に立てない」と、当選から3週間でハリスおばさんは議員を辞職してしまいます。この出来事は他の議員の心に自責の念という小さなさざ波を立たせますが、だからと言って何かが変わるわけではありません。まさしくそういうシステムなのです。

 

そういえばチャップリンは「一人一人は良い人達だけど、集団になると頭のない怪物だ。」という言葉を残していましたね。

 

このほろ苦くも現実的な着地点に私は寧ろ感動しました。児童文学にこういうオチを持ってくるとは…!!大団円とはいきませんが読後感は不思議と悪くありません。理想に燃えても実現出来ないこともある。それでも自分に出来る最良のことをするべきだ、と力が湧いてきます。

 

この物語からどんなメッセージを受け取るのか、読んだ人と語り合いたいなと思いました。

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