「じゃあ、どこにいるんだ?」
 ハルトが訊いた。しかし金髪は黙ったまま答えない。ただ荒い呼吸を繰り返している。
「答えろ」ハルトが右手に力を込める。激痛に金髪の顔が歪む。
「わかった、いうよ……。いうからやめて……。み、港……岡崎埠頭に明日船が着く。その船で外国に運ぶっていってた……」
「外国に運んでどうするんだ?」
「詳しくは知らない、でも多分子供は殺して内蔵をとられる、女は外国の変態に売り飛ばされるらしい」
 横で聞いているマスターの顔から血の気が引いていくのがわかる。
「ここには仲間が何人いるんだ?」
「今は多分……十人くらい……」
「あいつは?サングラスのデカイやつは何処にいるんだ?」
「……ヒラヤマさんは、自分の部屋にいると思う……。あとのメンバーは中央の建物に集まってるはずだ」
 ハルトが力任せに右手を捻る。ハルトの親指がずっぽりと根元まで傷口に差し込まれ金髪の左大腿神経を直接圧迫する。
 金髪の左足が解剖実験のカエルの足のように激しく痙攣を始めた。
「やめてくれ!」絶叫した後、金髪はあまりの激痛で気を失った。

「まあいいか、聞きたいことは全部聞き出した」
 ハルトは金髪を床に転がすと腰を上げてマスターにいった。
「ああ……」マスターは呆けたように答えた。
「じゃあ、返すよ」
 ハルトはダガーナイフをマスターに差し出した。
「いや……、やっぱりハルが持ってたほうがいいようだ」
 そういうとマスターはベルトに装着していたナイフケースをハルトに投げ渡した。
「じゃあ、行こうか!少し急がないと時間がないね、マスター」
 ナイフを自分の腰に装着しながらハルトがいった。

最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
AD
「この建物のうちのどれかにレイコ達も監禁されてるのか……」
 不規則に建ち並ぶ大小の棟群を見ながらマスターがいった。
「さあ、別の場所に連れ去られた可能性も高いね」
「そうだな……」
「取りあえず、隣から見ていくか」
「いや、アイツから訊き出したほうがはやい」
 ハルトは倒れている金髪の方に視線を向けていう。


「おい、起きろ!」
 マスターが金髪の体を揺さぶるが金髪は目を覚ます気配はない。
「どいてマスター」
 ハルトがそういうと水の入ったバケツを持ってきた。
「そんなもんどこにあった?ハル」
「表に置いてあった」
 そういうとハルトは勢いよく金髪にバケツの水を浴びせかけた。

「ううぅ……畜生、お前ら……」
 苦しそうに唸るような声を出して金髪の意識が戻った。
「おい!しっかりしろ」
 マスターが金髪の襟首をつかんで揺さぶる。
「おい、レイコと子供たちはどこだ?」
「しらねーよ」
 顔を背けて金髪が投げやりに答える。
「ふざけやがってテメー!」
 マスターは勢い込んで金髪の襟首を締め上げる。

 ハルトはマスターの背後に回って腰に挿しているナイフを抜いた。
「おい! ハル、なにするんだ!」
 驚いたマスターが振り返る。
「だめだよ、マスター。こいつはそんなんじゃあ」
 そういうとハルトは手に持ったダガーナイフでいきなり金髪の左太腿の内側を突いた。
 金髪の絶叫が響く。
「ここは防音が効いてるから仲間にも聞こえないって」
 ハルトが肩をすくめ金髪に向かっていう。そしてナイフを苦しげに呻く金髪の首筋に近づける。
「やめろ、やめてくれ……」
 金髪が脂汗を飛ばしハルトに懇願する。ハルトはナイフを左手に持ち替えて右手で傷口を親指でえぐるように金髪の太腿をつかむ。のけぞり悲鳴をあげる金髪。
「ちくしょう、痛ぇよ……痛い。放してくれ、頼むから……」
 それでもハルトは表情も変えずに尚も金髪の太腿を締め上げる。じわじわとハルトの右手が傷口から溢れ出す鮮血に染まっていく。
「わかった、わかったから、いうからもうやめて下さい。……。ここにはいない、もうこのアジトにはいない!」
 ハルトが頷くと金髪の恐怖でくすんだ目が忙しく瞬いた。

続きを読む
最初から読む


↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
AD
「心配ないよ、マスター。これが本当の僕さ」
 ハルトは無表情のままそういった。

「……」
 マスターは口ごもった。確かにハルトは変わってしまった。しかし現状ではどうすることも出来そうにない。
「そうか、今は……とにかくここを出ないとな」
 マスターはハルトの急激な変化に混乱していた。憑依現象が起きたかのようにようにハルトはまるで別人だ。だが事の真相を追求するには後回しにして、兎に角今はレイコと子供たちを探し出す事に集中しようと努めた。

 マスターは金属製のドアを開いた。マスターの目に映るのは山の稜線をシルエットにして広がっている星空。真夏だというのに湿度を帯びた冷気がマスターの首筋を通り抜けた。気温の低さと澄んだ空気が標高の高さを伺わせた。辺りを見渡すと常夜灯の明かりに照らされて同じようなプレハブの建物が点在しているのが見える。

「マスター、そのナイフ僕に渡してくれない?」
 マスターの背中に向かってハルトがいう。
「え?」
 マスターは振り返ってハルトを見る。
「僕が持ってたほうがいい」
 ハルトがそういいマスターを見つめた。
「ダメだ。ナイフは渡せない」
 ハルトは黙っている。しかし視線はそらさない。
「ナイフはオレが持ってる、いいな、ハル!」
 マスターは思いの外興奮の混じった強い口調になってしまい自分でも驚いた。
「わかったよ」
 ハルトは不満げに短くそういうとそっぽ向いて深く息を吸い込んだ。


続きを読む
最初から読む


↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
AD
 ノセは玄関ドアから上半身を出しドアノブに手をかけ表の様子を伺っている。その時ノセの背後、キッチンシンク下の収納扉が内側から開いてヤオ・ミンが姿を現した。そしてノセの背中に向かって素早くナイフを突き立てた。ナイフはノセの肝臓を的確に貫いた。鋭い痛みを感じノセが振り返る。血走った目を見開いてノセがヤオ・ミンを睨みつける。
 ヤオ・ミンも切れ長の目に酷薄な笑みを浮かべてノセの目を覗き込んでいる。「てめぇ……」ノセが呻く。ヤオ・ミンがナイフを捻るように引き抜くとノセの傷口から熱い血が吹き出した。ノセが苦悶の表情を浮かべながらもヤオ・ミンに銃口を向ける。ヤオ・ミンは手に持ったナイフでノセの銃を握った手の甲を切りつけた。ノセがあまりの疼痛に言葉にならない叫び声を上げて銃を取り落とす。「痛てえじゃねえかこの野郎……」それでもノセはヤオ・ミンに掴みかかる。ヤオ・ミンはノセの左頬を何のためらいもなく切り裂いた。ヤオ・ミンは人の顔面を切り裂く事が何よりも好きだった。ナイフの切っ先から伝わってくる薄い顔の皮膚と表情筋が裂ける感触、恐怖に慄く眼差し。ヤオ・ミンの性的感情はその徹底した加虐行為で至福の境地に達していた。ヤオ・ミンの陶酔した表情を見てようやくその狂気に怖気付いたノセは表に逃げようとしてヤオ・ミンに背を向けた。その場にしゃがみ込むヤオ・ミン。次の瞬間ヤオ・ミンの凶悪な刃は、ノセのアキレス腱をすっぱりと切り裂いた。絶叫しながらノセは倒れこんだ。その時、通報で駆けつける黒服隊のパトロールカーのサイレンが聞こえてくる。ヤオ・ミンは残念そうな様子でノセの後頭部に向けて至近距離で銃弾八発全てを発射した。ノセの頭蓋骨と脳漿と血液とが一緒くたになり、割れた西瓜のように辺りにそれらをまき散らした。


 組織から追われたヤオ・ミンは貧しさから逃れようと国を捨てた人々に混じり小さな漁船でC国を後にした。出航の夜、ヤオ・ミンは船の上から街の灯を眺めた。祖国を捨てる事に何の感慨も無かった。思い出も皆無だった。ただ生まれて今まで生きてきたというだけの国だった。殺した人間の顔を思い出そうとしたが直ぐに無駄なことだと思い直した。
 船内の環境は劣悪だった。乏しい水と食糧の奪い合い、死体にも齧り付く有様。海賊による略奪、襲撃にあったりもした。数週間後、ヤオ・ミンはこの国にたどり着いた。放射能汚染により世界から見捨てられた国。世界地図の上に存在するだけのこの国に……。

続きを読む
最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
 六畳程のワンルームに小さなキッチンが付いた安アパートの二階の角部屋。流し台の上にある小さな窓がこじ開けられている。
 シンクは汚れ放題で投げ込まれた鍋や食器にはカビが生えていてひどい悪臭が漂っている。足元には空になった発泡酒のアルミ缶が散乱して足の踏み場も無い。
 小窓から侵入したヤオ・ミンは暗闇で息を殺して立っている。手には消音装置が取り付けられた三十口径の自動拳銃が握られている。
 このR国製の軍用銃には極寒地における使用で部品の凍結などで動かないという事態を回避するため、どうしても構造が複雑になる安全装置の類が一切付いていない。
 それは僅かな誤操作でも弾が飛び出す可能性があるのだった。しかしその危険性を差し引いても弾を込めた後はとにかく引き金を引けば弾が飛び出す単純さが小気味良く、ヤオ・ミンはこの銃が気に入っていた。暗闇に目が慣れるまでの数分間、キッチンの壁にもたれじっと息をひそめて佇立するヤオ・ミン。やがて暗闇に慣れてくるとヤオ・ミンはポケットからマガジンを取り出し銃に八発の弾丸を静かに装填した。

「遅かったじゃねえか、ボートピープル!」
 奥の部屋、ノセがベッドの上で上半身を起こしてキッチンに向かって言った。
「人の寝込みを襲うなんざ、やっぱりチャンコロらしいぜ」
 キッチンに向かってノセは続けざまに数発発砲した。銃弾は暗闇に火柱を放ち、1Kのキッチンを仕切っているガラス引き戸を粉々に砕くと激しい音を上げた。
「出てきやがれ、ぶっ殺してやる!」
 ノセは覚醒剤使用による過剰な興奮状態の中にいた。予想はしていた事とはいえ自分を裏切り刺客を放ったヨシオカに対しての怒りはノセを極限まで凶暴化させていた。
 ベッドから跳ね起き銃を片手にキッチンへと移動するノセ。割れて散乱したガラスがノセの足の裏に突き刺さる。しかし今は痛みを感じない、頭髪を逆立たせ野獣のように闘争本能をむき出しにしたノセの頭にはヤオ・ミンを倒す事以外余念はなかった。
 狭いキッチンにヤオ・ミンの気配はない。壁のスイッチに手を伸ばしノセは明かりを付けた。天井の蛍光管がチラつきながら惨状となったキッチンを白々と照らし出す。やはりヤオ・ミンはいない。玄関のドアが開け放されている。辺りには硝煙の臭いと生ゴミの腐臭が混ざり合い立ち込めている。
「畜生、逃げやがったかチャンコロ……」

続きを読む
最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
 見張りの男を惨殺したヤオ・ミンはその後も生存者を見つけてはつるはしで殺害して回った。一緒に強制労働させられていた仲間も殺した。その数は十数人にも及んだ。
 皆殺しが終わるとヤオ・ミンは山を降りた。途中の畑でトウモロコシをかじった。山村に出没するとニワトリ小屋の鶏卵をすすった。
 村人に見つかると惨殺して回った。ヤオ・ミンは人語を話さぬ大量殺戮者となった。

 都会に出たヤオ・ミンは犯罪組織の一員となった。そして相当数の犯罪組織が暗躍している街で冷酷な殺し屋として名を上げてゆく。積年の恨みを晴らすべくヤオ・ミンは殺しまくった。例外なく現場に残されるのはむごたらしい惨殺体。凶悪極まりないヤオ・ミンの仕業。その蛮行の限りを尽くした仕事ぶりでヤオ・ミンはマフィアのボス達からも恐れられる存在になっていった。しかしヤオ・ミンはやり過ぎた。危険すぎるヤオ・ミン。遂には組織を追われる羽目に。
 ───ヤオ・ミンを殺せ、奴を吊るせ!
 ヤオ・ミンに懸賞金が掛けられた。



続きを読む
最初から読む


↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
 ───そのつるはしでオレを掘り起こしてくれ。
 と口頭でだけでなく身振り手振りを含めて必死で助けを求める男。その姿をじっと無表情で見つめているヤオ・ミン。数十分が経過した。ヤオ・ミンは相変わらず何もせず立っている。
 男は喋り疲れて黙り込み、立ち尽くすヤオ・ミンをただ見上げているだけだった。

 ───オレを助けたらお前を自由にしてやる。
 男が沈黙を破ってそういった。ヤオ・ミンの片足が一歩動いた。

 ───そうだ、お前は自由になるんだ。何処でも好きな所にいけるんだぞ!
 男が活気づいて喋る。その様を見てヤオ・ミンが冷たい笑みを浮かべる。

 ───こいつは馬鹿か、オレはもう自由だ。
 ヤオ・ミンは頭の中でそう考えた。

 ためらいなくヤオ・ミンはつるはしを振り下ろした。鉄製の先端、尖った部分が男の脳天にぐさりと突き刺さった。頭蓋骨が粉砕され、血しぶきがあがった。白い脳漿が露出し骨片と毛髪のついた肉片が辺りに飛び散った。ヤオ・ミンは言葉にならない雄たけびをあげながら何度もつるはしを男の頭部に叩き付けた。男の頭部はもう原型をとどめていない、ただの赤黒い肉塊となった。それでもヤオ・ミンはつるはしを振り下ろし続けた。男の死体を損壊し続けるヤオ・ミンはその行為に性的な興奮を感じていた。


続きを読む
最初から読む


↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
 この闇工場には各地から人身売買や誘拐で集められた子供達が過酷な強制労働に就かされていた。ヤオ・ミンはここで一日十二時間以上、粘土堀りと掘った粘土の運搬作業に就かされた。もちろん全くの無給である。一日三回の食事は小麦粉だけで作った饅頭か蒸しパンだけでそれは餓死しない程度であり、食事時間は十五分以内とされた。労働時間以外は小さな小屋に数十人が押し込められ地面にゴザを敷いてごろ寝させられた。子供達の着衣はボロボロで厳寒の真冬も暖房は一切無かった。労働者達は工場経営者の手下である五人の男達と凶暴な番犬十匹によって常時監視され逃げ出す事は不可能であった。悲惨極まりない生活、過酷な労働の日々。仕事中少しでも気を抜くと作業が遅いと言われ監視の男からスコップで殴られた。それによって多くの子供達が死んでいった。ここで働く労働者の命の価値など無いに等しかった。

 ヤオ・ミンがこの工場に来て四年が過ぎた夏、大型の台風がこの地方を襲った。集中豪雨による大規模な土石流が夜半に発生し、山間の工場はあっけなく土石にのまれた。工場は濁流に押し流され、ヤオ・ミンの小屋は崩壊した。ヤオ・ミンは暴れ狂う鉄砲水の恐怖に慄きながらも何とか逃げ出して山の斜面に這い上り難を逃れた。
 夜が明けて雨は止んだ。高台から周囲を見渡すヤオ・ミンの目に映ったのは一晩にして変わり果てた風景だった。工場敷地にあった建物は跡形も無く崩壊して瓦礫と化している。数カ所の瓦礫から火災が発生し白い煙が上がっている。消火しようとする者など誰もいなかった。
 しかし生存者はいた。土砂に下半身を埋もれさせた見張り役の男が助けを求めている。ヤオ・ミンは側に落ちていたつるはしを拾った。半身埋もれて身動きが取れずにいる男の側に歩いていくとヤオ・ミンは男と向き合った。

続きを読む
最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
$音楽と小説~時計じかけのグランジ~



 この国の隣国であるC国は爆発的な人口増加に歯止めをかける為、三十年前より『一人っ子政策』という人口抑制政策を行っている。これにより国民は夫婦一組に対し子供は一人しか持てない。この政策によりC国は四億人の人口抑制に成功した。しかし、その一方でこの政策は多くの問題を抱えている。最大の問題点は、一人っ子政策に反して生まれた二人目以降の子供、国籍も戸籍も持たない子供達の出現である。そうした子供達は戸籍が無いために何の社会保障も受けられず、学校に行くこともなく、当然真っ当な職につくこともできない。戸籍の無い子供達、それはこの世に存在を認められないこと、人間として認められないことを意味する。このような闇の子供達を人々は黒核子(ヘイハイズ)と呼んだ。

 ヤオ・ミンはC国内陸部の貧しい農村で二人目の男児として生まれた。労働力の確保として男児を望むこの村では、女児が産まれると売られるか殺されるか食べられるかのいずれかである。実際ヤオ・ミンの両親は二人の女児を儲けたが、いずれも生まれてすぐに近くの町のレストランに売られた。レストランの女主人は女児の肉を剥ぎ取り角切りにするとアオザメの背ビレと一緒に鍋で煮込んだとろみのあるスープを作って客に出した。この地方では古くから乳幼児のスープは万病を治すと云う言い伝えがあり、赤子のスープは常連客に喜ばれすぐに完売した。

 ヤオ・ミンは六歳になった時に村に来た人身売買のブローカーに売られた。父親はまるで収穫した白菜を売るようにヤオ・ミンを売った。その金で父親は中古の冷蔵庫とテレビを買った。
 ヤオ・ミンは近隣都市移送されるとすぐに元締めの男に舌を切られた。それは言葉によって出身地が発覚するのを隠すためであった。ヤオ・ミンは言葉と味覚を失った。
 元締めの男はこの村で買い取った子供の内、少女は手か足を切断して物乞いにした。『世の中は無慈悲な人ばかりではないと知っています。どうぞ哀れな私たちにお金をお恵みください』と書かれた紙を路上に置き少女達は全裸で街角に座らせられた。
 ヤオ・ミンはしばらく物乞いの手伝いのような事をさせられたが、元締めの男はヤオ・ミンが七歳になる頃、山間部にある非合法の煉瓦工場に売り飛ばした。


続きを読む
最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


 意識の中、目のない女、あの化け物が現れた。

 お前の母親はお前が殺したんだ───嘘だ!───お前は知ってるはずだ───嘘だ!母さんは生きてる!───忘れる訳にはいかないぞ、お前は人殺しだ
 コロシタ、オマエガ───嘘だ!───ウソデハナイ

 ハルトは頭を抱え倒れたままで呻き声を上げる。

 電気コード───母さんが倒れて、首のコード───死んでる───誰が殺した───雪が降っている───ああ、僕が、殺した……金魚───雪が降っている
 殺した、母さんを殺した───誰が───母さんを殺した───僕が、殺した、金魚を殺した───母さんの金魚殺した───母さんに殺される
 殺した、母さんを殺した───誰が───殺した───僕が───母さんを殺した、そう僕が……殺した。

 ───ソウダ、オマエガコロシタ

 絶叫するハルト。過去の意識が流れ込む、受け続けた虐待の数々、雪の積もった校庭の事件、施設での生活、暴虐の日々……
 ハルトの封印されていた忌まわしい記憶が今よみがえる。







 ───僕が母さんを殺したんだった。







「大丈夫か! ハル! おい!」

 その時、あれだけハルトを苦しめた偏頭痛が嘘のように消えた。ハルトがゆっくりと身体を起こす。

「ハル……」
 ハルトの放つ気配、その荒涼としたたたずまいにマスターは圧倒されていた。
 ハルトの目。その瞳は悲しい色をたたえている。ハルトの表情、そこにはもう今までの少年らしさはない。

 全ての記憶が戻った。通常だったら受け入れる事が出来なかったかもしれない。
 しかし現在置かれてる状況が奇しくもハルトの精神の崩壊を防いだといえた。

「酷く苦しんでたけど大丈夫か?」
「頭痛はおさまったよ、子供達とレイコさんを探そう」
 ハルトがマスターに淡々という。

「ああ、でも……」
 すっかり変わってしまったハルト、まるで感情を切り捨てたような面持ち。ぞっとした。マスターの背筋に冷たいものが走る。
 ハルトの変化にマスターは戸惑いを隠しきれない。

「なあハル、いったい何が起きたんだ、ハルがまるで別人に見えるんだが……」
 心配げにマスターがいう。

「心配ないよ、マスター。これが本当の僕さ」
 ハルトは無表情のままそういった。


続きを読む
最初から読む

↓↓↓宜しければ、クリックお願い致します↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキング
人気ブログランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村