相手の無意識の反応を観察できなければ催眠療法はできない

今日は前回のつづきです。

前回は、相手のポーズを観ただけで深層心理まで読み取ったように解釈するのは危険だというお話をしました。

とくに、心理カウンセリングなどを行う人が相手を理解しようとするとき、できるだけ思い込みを関与させないようにしないといけません。

以前、何かの本に、「成人した男性がほっぺを膨らます行為を繰り返していたらロリコンである可能性が高く、その男性は甘えたがっている」と書いていました。

そういった文章は頭の隅に残るもので、私が友人と居酒屋で酒を飲んでいるときです。

友人がやたらと右のほっぺを膨らますんです。

「お前、ロリコンか…？（笑）」

「いや、俺はどちらかというと腰の区切れたおねーさんのほうがいいな（笑）…なんで？」

「ほっぺた膨らます男はロリコンだって本に書いてあったんよ…（笑）」

でも、そのとき私の友人は疲労が原因で口の中に口内炎がいくつかできていたらしく、治りかけの口内炎の違和感から、ときどきほっぺを膨らませていたんです。

相手が友人なので、このように言葉に出して言い合えるから誤解も生じませんが、これが合コンなどに行く前の女性がその本を読んでいて、男性陣の中に口内炎ができている人がいたら気の毒ですよね…（笑）

つまり、仕草やポーズはどんな理由でそれをしているのかまったくわかりません。

だから、相手の深層心理を読み取りたいのなら、とっさの行為（無意識の反応）を観察するのです。

内心を読み取る具体的な方法は前回のブログ記事「女性の浮気を見抜くミルトン・エリクソン」で書きましたが、外見だけで判断するのではなく、何らかのアクセスを試みて、その反応を観るのです。

催眠をするものは、この『無意識の反応』を観察しなければいけません。

催眠にかかりやすいかどうかという話も、外見だけで判断するような行為は催眠術師の思い込みに過ぎないのです。

ある行為を仕掛けてみて、その反応でそのときその瞬間にかかるかどうかを判断します。

「本を読むのが好きな人はかかりやすい」とか、「霊を信じている人はかかりやすい」などと言っている人は、自分の思い込みを人に教えているだけです。

催眠をかける前の面接も、こちらのアクセスにどう反応するかでかけ方を変えていきます。

催眠導入の際も、最初に与えた暗示に対し、どう反応するかで次に与える暗示のタイミングも変わってきます。

催眠導入を成功させるためには、その瞬間の心の状態が重要なのであって、その瞬間を観ないと意味がないんです。

また、前世療法を教えている外国の団体などは、スクリプト（暗示文の台本）で催眠をかけたりしますが、相手の心の動きを無視した誘導で本当の催眠状態に誘導するのは無理があるでしょう。

そのようなところで作成された暗示文は、立証不可能な要素しか入れていません。

たとえば、「OKサインをした親指と人差し指が離れなくなる」と暗示した場合は、自分が催眠にかかったかどうかを立証できます。

指が離れるかどうか試してみればいいわけです。

でも、「これからイメージの世界に入っていきましょう…あなたは階段を下に降りていきます…」とか「あなたはいま雲の上を歩いています…」と言われたら、それが催眠のイメージなのか、ただの想像なのか立証不可能です。

暗示文が全部終わって、クライアントが「なんか想像しているだけのような気がするのですが…」と言ったら、「それが催眠療法なんですよ…テレビでやっているのは催眠術です…」といって終了です。

まあ、年齢退行のような慎重にやらなければならない催眠を、あんなに安易にやってもトラブルが起きないのはクライアントが本当の催眠に入っていないお陰なんですけどね…

また、催眠術をかけ始めても、相手はたくさんの反応を見せてくれています。

YouTubeで催眠の動画などを観ていると、若い方が手慣れた感じでよそ見をしながら催眠をかけていたりしますが、被験者が催眠に入った兆候を見せてくれているときに、あさってのほうを見ている人もいます。

それから、催眠療法士を目指している人に多いのですが、「症状別に分けた催眠療法のやり方を教えて欲しい」と言ってきたりします。

でも、症状別に分けたやり方なんてありません。

同じような失声症（しっせいしょう＝何らかの原因で声が出なくなる）の症状を持つクライアントがいて、あるクライアントはメンタル・リハーサルで劇的に治っていき、あるクライアントはメンタル・リハーサルではまったく効果がなかったのに、年齢退行で年齢を遡り、15歳に到達したところで声が出るようになって、それがきっかけで治っていったという例があります。

失声症は、多くの場合、適応障害として対応していかなければならないので、ドラマテックな治り方をすることは少ないのですが、ごく稀に先ほどのような例もあります。

心理カウンセリングの世界では、同じ症状が別の手法で治っていくという話は珍しくありません。

つまり、催眠療法も、催眠前の面接や催眠誘導の作業と同じように、相手の反応を観て、臨機応変に手法を変えていかなくてはいけないのです。

だから症状別に分けた催眠療法をやっている人がいるとしたら、それは根本的に違っているわけです。

催眠にとって何よりも大切なことは、相手の『無意識の反応』に対する観察です。

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