衝撃!ビールのプライベート・ブランド
テーマ:時事評論先日、イオンとセブン&アイ・ホールディングスは、プライベート・ブランド(PB)としてビール系飲料(第3のビール)を単価100円で発売すると発表し、ビール業界に衝撃をもたらしました。今回は、なぜこれが衝撃なのかを通じて、PB戦争とも言える現在の状況について考えてみましょう。
そもそも、PBはナショナル・ブランド(NB)に対置される概念です。NBは、例えばキリンのラガーやアサヒのスパードライという具合に、メーカーが自社のブランドを冠して販売する一般的な商品です。これに対し、PBは、小売り側が自らのブランドを冠して販売する商品です。イオンのトップバリュやセブンのセブンプレミアム等が有名です。
PBは1960年代以前の古い時からの歴史があると言われますが、一昨年くらい前から急速に勢力を増し、NBを圧倒するようになりました。皆さんも覚えていらっしゃるだろうと思いますが、リーマン・ショック以前の時期、原油や商品市況が高騰して、小麦やトウモロコシなどの価格が一斉に上がってしまったために、久方ぶりに食品の大幅値上げが社会問題になりました。消費者が生活防衛のため財布のひもを締めるなか、小売業が打開戦略として推進したのが、販売価格を安く押さえ込めるPBの大幅拡大戦略でした。
PBは、小売店が自らのブランド力を活かして販売するため、次のような効果を持っています。①中間流通の中抜きによるコスト・ダウンが可能、②広告宣伝費の節約によるコスト・ダウンが可能、③小売業の信用力を背景とした食の安心を消費者に訴求しやすい、④PBの価格設定を通じてNBとの仕入れ価格交渉力等を高めることができる。
このような背景から、現在は、小売店舗のなかで密かなPBとNBの激突が繰り返されており、注意深く棚割り(各商品の陳列棚に占める面積や配置など)を観察すると、皆さんの近所のスーパーやCVSでも、この戦争とも言える状況を見て取ることができます。数回前の私のブログでもグリコの決算発表の話題について触れましたが、まさにグリコも、こうしたPBの台頭によって売上の伸びが抑えられてきており、メーカーの業績に及ぼす影響は甚大です。
しかしながら、ビール系飲料など寡占化が進む業界は、PB戦争が及ばない聖域のように暗黙のうちに思われていたので、今回のPBの登場が衝撃をもって受け止められたわけです。今回のPB誕生のポイントは、サントリーの戦略転換にあったようです。ではなぜサントリーが、NBを守りながらPB生産にかじを切ったかという理由が重要になります。本来はPBに徹底的に対抗したいNBメーカーの側にも、PBに屈せざるを得ない複雑な経済的事情があるのです。
PB生産をすることによるNBメーカー側のメリットは、次のようなものです。①小売りブランドを冠し他店への転売がきかないため、PBは基本的には小売り側の買取り、返品なしとなり、メーカー側では在庫リスクを大幅に軽減できる、②NBで売る場合、自社で負担しなくてはならない広告宣伝費が不要となる、③自社が踏み切る前に他社が決断してしまうと、競争上圧倒的な劣位となってしまうリスクがある。今回、サントリーに大きく戦略転換を迫った最大の理由は、③ではないかと推測しています。食品業界では現在、まさに戦国時代の武将の決断さながらの下克上劇が、あちこちで起こってきていると言えましょう。
それにしても、大昔の日本の商品流通は生産者側が主導権を握り、それに対抗してダイエーやセブンイレブンなど無数の小売業が反旗を翻しながら消費側優位の競争構造を構築してきた歴史があります。現時点からあらためて振り返るとき、生産者と小売りの競争優位性は圧倒的に逆転してしまいました。その象徴とも言えるひとつの事件が、今回のPB登場ではないかと考えています。
聖域なきPB競争は今後も続いていくことでしょう。




