2014-03-10 15:58:53

STAP細胞の論文捏造疑惑であらためて考える研究者のモラル-論文捏造・研究不正の背景にあるもの

テーマ:その他(雑感等)
 理研・小保方晴子氏のSTAP細胞論文の捏造疑惑が取り沙汰されています。下記のリンク先にあるように、STAP細胞の真偽はともかく論文の捏造についてはほぼ確定的なようです。

 小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑
 http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/nature-article.html


 まだ疑惑段階ですので確定的なことは言えませんが、あらためて研究者のモラルについて考える機会でもありますので、私が事務局を担当してつくばで開催した科学技術政策シンポジウム(国公労連と学研労協の主催)の中で、当時、毎日新聞科学環境部「理系白書」取材班記者の永山悦子さんから、「ジャーナリストからみた研究者のモラル」をテーマに報告いただきました。これは、2007年3月17日に行われたもので少々古い報告ではありますが、論文捏造問題をあらためて考える一助として紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)

科学技術政策シンポジウム(2007年3月17日、つくば国際会議場)
 ジャーナリストからみた研究者のモラル
 ――理系白書の取材現場から

  毎日新聞科学環境部「理系白書」取材班・永山悦子記者


 最初にお話するのは、世界を揺るがせた韓国・ソウル大学の黄兎錫教授(当時)のES細胞論文捏造事件です。私は現地で取材をしたのですが、そこから見えてきたのは、科学者に対する過大な期待ということでした。そして、国内の研究者倫理の問題や、不正への対応の問題があるということです。

 こうした捏造事件が発生すると、一般の市民は科学が信じられなくなってくるという危機的状況に陥ってきます。科学が信頼を失ってしまったら、社会的な基盤から深刻な影響があるのではないかということをお伝えしたいと思います。

 世界を揺るがせたES細胞捏造事件の背景

 2006年1月10日、私はソウルにいました。この日、ソウル大学の調査委員会が黄・元教授の論文の成果について、「ヒトクローン胚由来のES細胞を作成した事実はなかった」と捏造を断定し、黄・元教授の研究の中核部分がほぼすべて捏造であったと、記者発表した日でした。

 毎日新聞は、ヒトクローン胚からES細胞作製に世界で初めて成功したとの論文が発表されたとき、一面トップで報じましたが(2004.2/12付)、当時の記事は疑問をはさむ内容にはなっていません。続いて同年5月20日付の紙面は、実際に難病患者の体細胞を使ってES細胞を作った、大変な勢いでこの研究が進んでいるという論文の内容の記事です。再生医療そのものに対する懸念として、臨床応用はなかなか難しいのではないかということは書いていますが、04年発表の研究では176個のヒトクローン胚から1個しかES細胞ができなかったのが、05年には185個のヒトクローン胚から11個のES細胞をつくり、非常に効率が上がったうえ、実際に難病患者の体細胞を使っていたため、大変なインパクトがある研究だと書いています。このときも毎日新聞だけでなく日本の新聞は皆一面で紹介しました。

 そして、2006年1月10日付の毎日新聞は、研究成果がすべて捏造であったことが分かったと伝え、研究成果が捏造だっただけではなくて、研究費についても不透明な使い方をしていたとか、研究材料に使った卵子の入手方法にも問題があったということも明らかになりました。最終的には、2,000個を超える卵子をかき集めて、それでも一つもES細胞ができていなかったという状況でした。

 翌日11日付の毎日新聞は、「論文審査 検証なく」、「不正防止 良心頼り」の見出しで、「研究者は悪いことをする人ではないという常識がもう通じなくなっている」という点と、日本の研究者がこの論文捏造によってどんな影響を受けるのか、実際に黄・元教授を知る方たちのエピソードで構成し、このとんでもない論文捏造事件の背景に何があったのかということをまとめました。

 まず、韓国では業績が研究費獲得に直結している面がありました。黄・元教授の研究チームには、毎年4億円近く、合計80億円を超えるという多額の研究費が政府から投入されていました。論文の著者の中には政府の役人まで入っていました。韓国では、自然科学系のノーベル賞受賞者がまだ出ていないという点もあり、日本と同じように天然資源に乏しく、国の政策で科学技術振興が大きな比重を占めていますから、「ぜひノーベル賞がほしい」という韓国政府、国民の期待が高かったという背景もありました。韓国政府は「最高科学者」、つまり韓国のノーベル賞にあたる称号をつくり、その第1号に黄・元教授を選んでいました。これは捏造発覚後に剥奪されています。

 さらに、従来の論文の審査や評価の方法が、「科学者は悪いことをしない」という性善説に立って実施されているという問題もありました。このため、黄・元教授のような計画的な嘘を見抜くのが非常に難しいシステムになっているという背景がありました。

 各国は、ヒトクローン胚研究をきびしく規制しています。日本は少し規制を緩めて研究に門戸を開こうとしていますが、世界で見ると韓国が一番積極的に推進していたので、その独走状態を確固たるものにしよう、一刻も早くきちんとした成果を上げよう、ということを目指していた面があったようです。さらに卵子や体細胞を提供してくれた患者の期待に応えたい、韓国では「民族主義」という表現をすることがあるようですが、ヒーローを望む国民性も背景にあったと思われます。

 このように見てきますと、韓国の研究者は研究費のためならどんなズルでもするようだと受け取られるかもしれませんが、私の取材の中で印象に残った動きを2つご紹介したいと思います。

 若手研究者が警鐘を鳴らし
 研究者コミュニティから問題指摘


 黄・元教授の事件がなぜ明るみなったのか。黄・元教授の研究室にいた若手研究者が「どうもこの研究データおかしい」という疑問を持ち、地元のテレビ局に告発したことがきっかけでした。それが2005年秋でしたが、そのとき韓国国民が大変なバッシングを始めました。このテレビ局に対するバッシングと告発した若手研究者へのバッシングです。若手研究者は韓国内にいられなくなり、アメリカに逃げる事態となりました。それを助けたのが、韓国南部にある浦項工科大学生物学研究情報センターが開設するホームページの中の若手研究者が集う掲示板でした。ここに次々と決定的な証拠と見られる写真やデータが掲載されました。すべて匿名でしたが、「不正がある」「おかしい」と気づいた研究者たちからの内部告発でした。コミュニティの外からの指摘ではなく、研究者たちからの指摘で問題が明るみなったのです。

 このような動きを「心ある」というべきかどうか悩むところですが、他にも、黄・元教授一色になっている政府の研究費の投入方針、そして黄・元教授に都合よく整っていく研究環境整備に警鐘を鳴らしていたベテラン研究者たちもいました。生命倫理、哲学、生命科学の研究者が1997年に作った韓国生命倫理学会です。この学会は、黄・元教授に質問状を送り続けていました。「卵子の入手方法に問題があるのではないか」「研究費の流れが外からは不透明なので公開すべきではないか」「倫理委員会を通さないのはおかしい」などの内容だったそうです。このような彼らの動きを、なぜ私たちは知ることができなかったのか。それは、すべて韓国のメディアが握りつぶしていたからです。韓国のメディアは彼らの主張を無視し、もし紹介するとしても、必ず黄・元教授の反論と一緒でした。つまり、黄・元教授をいかに守るかという方向で、メディアまで動いてしまったという面もあったのです。

 質問状の内容は、現在読んでみれば、「確かにそこが問題だ」という点ばかりで、韓国国内でも、きちんと問題が把握されていたということになります。

 一方、黄・元教授の論文が捏造と判明した後にソウル市内では集会が開かれていました。集会に参加者のゼッケンには「プライドオブコリア」(韓国のプライド)と書かれ、笑顔の黄・元教授の写真が付いています。黄・元教授を支援するグループが500人から1000人ほど集まり、私が韓国にいる間だけでも、4回ほど、このような集会を開いていました。

 韓国の新聞では黄・本教授を擁護する論調が続いていました。捏造をソウル大学が発表した日、韓国内で一番発行部数の多い新聞である「朝鮮日報」では、いきなり黄・元教授が「無菌豚の開発に成功」という記事を掲載し、調査委員会が捏造を認定したとの見出しと同じくらいの大きさで扱いました。それだけ黄・元教授を信じたいという思いが韓国内で強かったのだと思います。

 なぜ、韓国国民がここまで科学に期待するのかというと、2004年に科学技術担当大臣を副総理に昇格させるなど、韓国では科学技術振興を非常に重視しており、黄・元教授はその象徴だったのです。国としての生き残り策として科学技術が欠かせず、そのため黄・元教授のようなスター性のある研究者が必要で、「黄・元教授のような研究者だったら望む成果を上げてくれるだろう」という思い込みや誤解、過信がどんどん膨らんでいたと言えます。

 韓国と同じ状況にある日本
 一部の研究者に多額の研究費を投入


 この取材をしながら私が感じたのは、科学技術創造立国を標榜している日本と似ているところがあるのではないか、日本にも第二の黄・元教授が生まれかねないのではないか、という危機感です。

 2000年11月に、石器捏造事件がありました。毎日新聞のスクープでした。北海道に拠点を持つ記者たちが考古学研究家の藤村新一さんのそれまでの成果に疑問があるということで、取材班を組んで半年近く彼を追いかけました。新聞社の持っているビデオはホームビデオのようなもので、鮮明な映像が撮れませんので、テレビ局でも使えるような高性能なカメラを購入し、藤村さんが行く先を追いかけ、その結果、石器を埋めている決定的なシーンをビデオで撮影することに成功しました。このスクープで毎日新聞は新聞協会賞を受賞しました。

 このときのいわゆる科学界の反応は、「人文科学」だから起きるのではないかとか、この人は科学者ではないからとか、科学の世界では「真実は一つ」しかないのでピアレビューシステムが機能すれば不正などは起きないという、「ムラ内の論理」に基づく判断をしていました。それが間違いだと分かったのは、間もなくのことでした。

 まず一つは、2005年の多比良和誠東大教授の問題です。東京大学の調査結果がまとまりましたが、本当に捏造だったのかというところまでは突き詰められませんでした。ただ実際、明らかになった事実として、きちんとした実験の記録が残っていないとか、追試ができないとか、これは科学界の常識から見てもちょっと外れた形だったわけです。それが、RNA(リボ核酸)研究という最先端の研究分野で代表的な研究者のチームで起きていたという事実が浮き彫りになりました。

 そして、次が2006年に判明した早稲田大学の松本和子教授の2億円以上の研究費不正受給の問題です。これは松本教授が国の科学技術の司令塔である総合科学技術会議の議員であり、そこで研究費の割り振りや研究成果の評価をしていた本人が研究費を不正に得ていたという、これまでの「常識」をくつがえす出来事でした。科学界の「本丸」でこういった不正が起きていたわけです。

 つまり、日本も韓国と同じような状況に陥っている可能性が高いということです。少し古いデータですが、総合科学技術会議が05年にまとめた資料によると、競争的研究資金を受けている日本の大半の研究代表者には、年間500万円もお金がいっていない。一方、0.08%には1人7,000万円、そして0.4%の人に6,800万円近い研究費が出ていて、一部の研究者に研究費が片寄っている。このことについて、ある政府の中枢にいた人は「一部の研究者がジャブジャブな状況はどうにかしなければいけないね」と言っていたというエピソードもあります。

 この一握りの研究者は、誰が見ても間違いなく成果を上げてくれるという分かりやすい研究者だったのでしょうし、そういった成果を上げることを否定するわけではありません。ただ、結局は韓国政府が黄・元教授に多額の研究費を投入していた構造とあまり変わらないのではないかという気がしました。

 倫理的な問題が判明しても半分以上は研究を続ける

 ネイチャーに掲載されたNIH(米国の国立衛生研究所)の研究費を受けている若手・中堅研究者に対して行ったアンケート調査の結果(3,247人から回答)によると、約40%の研究者が何らかの疑わしい体験をしていました。また少し古いデータですが、文部科学省「我が国の研究活動の実態に関する調査」(2003年度)では、研究途中に倫理的に問題がある可能性が分かったらどうしますかという問いに、即座に中止する、可能性を公表する、などきちんと対応すると回答した方は半分しかいませんでした。そのまま研究を続けるというほうが逆に多いことが分かりました。

 また、2006年に日本学術会議が実施した大規模調査では、「過去10年間に不正行為の疑いがあった」と回答した研究機関などが12.4%(164機関)、不正の疑い236件(うち不正認定150件)となっています。これは、一般社会から考えたら、とても信じられないことです。さらに、論文の多重投稿が52件、研究資金の不正使用が33件、研究の盗用が31件、データ改ざんが5件、プライバシー侵害が4件、データ捏造が3件あったことが判明しています。

 つまり、不正行為が日本でもあって、レアケースではないということです。これを見て私たちが思ったのは、科学界では不正行為に対して、「きっとこれぐらいなら問題ない」という受け止めをされてきたのだろうということです。科学界がそう思うことは、市民から見れば少しおかしいと感じる感覚であり、「ムラ内」の勝手な判断や論理で動いているのではないか、という現実が垣間見えてきたのです。

 日本学術会議がまとめた「科学者の行動規範」に並んでいる項目は、私たちから見ますと、今さらこんなことを言わなければならないのか、という内容ばかりです。最近は、企業の不祥事も多く、企業に置き換えても通じます。少し厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、一般市民とはちょっと違う感覚で動いているコミュニティが科学界にもあったのかということになります。つまり、研究者には社会で当たり前と思っている行動規範が十分備わっておらず、それを「今から実行していきましょう」と呼び掛けているのが、現実であるということなのです。

 納豆事件に見る専門家への信頼度

 「理系白書」は今年のシリーズで「社会における科学」をメーンテーマにして取材に取り組んでいます。それは、科学と社会の乖離とか、社会の科学に対する理解の少なさ、そういったことを問題提起したいと考えたからです。

 今年の連載では、第1部として「科学と非科学」というテーマを取り上げました。非科学は、似非科学とか疑似科学といったものを指します。このテーマを取り上げた理由は、最近、科学と非科学・疑似科学とのはざまで、さまざまな問題が出てきていると感じたからです。たとえば、物理学の「波動方程式」という用語を利用して商品の販売に使われている「波動効果」のウソ、血液型を決定する「糖鎖」が神経系へ影響することはあるのか、マイナスイオンは存在するか否か、科学的成果と健康情報の関係、地震予知研究は科学か否か、などです。

 「科学の衣」をまとっていながら、科学的には問題があるとか、認められていないとか、まだ途上にあるというテーマについて、それぞれ科学に詳しいと思われる、一般的にみれば科学者、研究者、技術者たち(場合によっては専門家のように見える人)が関与しているという事例を取り上げました。どの問題についても、科学者が大きな役割を果たしていることが分かりました。科学者が入ることによって「科学の衣」がより確固たるものとして市民の目に映るようになっていました。次に、特に最近の社会を騒がせた事例をご紹介します。

 関西テレビ制作の健康情報番組「あるある大事典」で納豆がダイエットにきくと伝えられた直後のスーパーで納豆が売り切れるということが起こりました。この会場にも思わず納豆を買ってしまった人とか、納豆を多く食べてしまった人とか、家に帰ったら納豆がいっぱいあったという方がおられるのではないでしょうか。番組の中で実験データの捏造や研究者のコメントの差し替えが行われていたことが分かり、番組は打ち切られました。実際、番組打ち切りだけではなくて、これから幹部の責任問題にも発展するような根の深い問題になっています。視聴率を確保するために「科学の衣」をまとって都合よくデータを集めてきて、それに研究者、専門家たちが知ってか知らずか協力するという構図が出来上がっていたわけです。

 この捏造問題判明後の2007年2月中旬、未来工学研究所が実施したネット調査の結果によると、「テレビの健康情報番組を月1回以上見る」73%、「番組で紹介された食品などを実際に買ったことがある」67%、「番組を見て(内容を聞いて)普段は食べない納豆を買いに行った(多く買った)」15%となりました。テレビの健康情報番組の影響力の大きさが分かります。実際に皆さんの家に納豆があったとしてもおかしくなく、番組を見てとか内容を聞いて納豆を買いに行った人は15%、100人に15人もいるということです。

 また、同じ調査で、どうしてこのような番組を信じてしまうのかを聞いています。「専門家が登場して解説する」と答えた人が半数近い47%いました。さらに「効果がない例も紹介している」39%とか「新聞記事などで紹介されている」34%、「人を使った実験をしている」27%と続きますが、やはり専門家の登場が信頼感を増しているということが分かりました。

 今回の納豆の番組に協力した研究者に、理系白書取材班から取材をお願いしました。その研究者は番組が捏造であると判明してから、一切メディアには出ず、すべて文書で回答することにしていたそうですが、私たちの「科学の信頼を取り戻すために」との申し込みに対応していただくことができました。なぜこの番組に協力したのかという質問に対して、その研究者は「無味乾燥に教科書のような知識を並べても一般の人は振り向いてくれないでしょう。健康や食べ物、栄養に関心を持ってもらうきっかけになればいいのではないかと考えました。たとえ、論文のような正確さがなくても、大雑把でもいいから理解してもらうという方法も必要だし、意味があると思った」と話されました。

 ある意味、うなずけます。実際に世間では理科嫌いが増えていますし、理科離れも深刻です。科学技術は今、ブラックボックス化していて、一般の方がすべて理解するのは不可能です。それが科学への無関心も生んでいます。ですから、分かりやすく面白く科学的な情報を伝えるという必要性が高まっていると思います。一方で、この研究者は放送内容について、「少しオーバーかなと思う表現はあった」とか、「食品が売り切れたという報道には違和感を覚えた」とか、「一つだけで全部うまくいくなんていううまい話はない」と話していました。

 つまり、ここにギャップがあるわけです。納豆の番組は「納豆食べれば痩せる」と受け止めるのが自然な内容だったと思いますし、それが「オーバー」と思うのだったら、なぜ止められなかったのか、との違和感を私たちは持ちました。

 アスベスト被害が問いかけるもの


 科学は人の生活を豊かにするために発展してきたといえます。ただ、使い方によって人に大きな被害を及ぼしてしまうことも確かです。一方で、一般の市民はそれをきちんと理解できていなくて、科学のブラックボックス化が進むこともあって「理解できないこと」がどんどん増えてしまっています。ですから、今、科学に詳しい科学者、研究者、専門家の方はその点をきちんと踏まえたうえで情報を発信していただきたいと思うのです。作ったら終わり、提供したら終わりということではなくて、科学のもたらす結果まで責任を負わなければいけない時代になっていると思います。

 1つの例です。アスベストによる中皮腫被害のことです。このアスベスト報道でも毎日新聞は大きく世論をリードしてきました。

 アスベストが人体に悪いということは海外のデータでは1950年代から明らかでした。日本でも環境庁が1970年代に大規模な調査をして、健康被害が間違いなくあるというデータを出しています。それにもかかわらず徹底した対策がとられず、1980年代後半の学校パニック、1995年の阪神大震災の際の倒壊した建物の処理時の騒動、そして今回のアスベスト使用施設外での健康被害に広がっていったわけです。

 マスコミもそのたびに騒いでは収まり、騒いでは収まりということを続けてきたわけですが、最近明らかになったアスベストを使っている施設外の健康被害については、毎日新聞の大阪本社科学環境部の記者が阪神大震災以来ずっと追いかけて、その結果分かった事実でした。この報道や事象を見ていて思うのは、マスコミや行政が何をしていたのか、という問題だけではなく、実は、科学者たちも一体何をしていたのかと疑問が投げかけられているのです。

 順天堂大学の樋野興夫教授は癌の病理の研究者です。癌が体内でどのように巣くっていくのか、そういったナチュラルヒストリーについて研究している人です。この方は今回のアスベスト被害の騒動を受けて、「化学物質によって癌がつくられるということは日本人研究者の吉田富三が解明していたはずだ。それにもかかわらず、なぜ日本人はこの問題にきちんと向き合ってこなかったのか」と、自戒を込めて呼びかけています。

 その結果、2005年にアスベスト被害の専門外来が日本で初めて順天堂大学に開設され、今年2月から一般の方を対象にした中皮腫の大規模検診を始めました。都内の労働者4万人を対象に、5年継続して経過を観察するというものです。さらに樋野教授は最近、医療者であり科学者であるという立場から、30年後の医療はどうあるべきかを考えようという活動を始めています。30年後というと、だいたい予想してもはずれるという世界ですが、それぐらい長いスパンで考えなければ、そして医療だけではなくて福祉、行政などさまざまな人たちで考えていくことが求められているのではないか、ということを提起されています。医療者、科学者としての責任を果たそうとしているわけです。具体的には、順天堂大学がある東京・お茶の水に医療機関が集中している点に注目し、そこの関係者が集まって「30年後のお茶の水メディカルタウンの青写真をつくろう」という活動を始めています。

 科学が信頼されるために何が必要か
 「科学者は社会のカナリヤたれ」


 私たちが「理系白書」の取材でお会いした方たちに「科学が信頼されるには何が必要か」というお話をうかがいました。

 まず、総合研究大学院大学の池内了教授です。池内教授は「昔、炭坑ではカナリヤを持って坑道に入った。カナリヤは有毒な物質に反応して鳴き声を上げ、人を危険から救った。科学者は疑似科学が持ついかがわしさを見抜く目を持っているはずだ。だから、科学者は炭坑のカナリヤのようにいち早く鳴き声を上げて、社会に警告を発してほしい」と話されました。「科学者は社会のカナリヤたれ」という呼びかけです。

 続いて、市民に向けたメッセージです。「市民は答えだけを求めるな」と話されたのは、京都女子大学の小波秀雄教授です。「最近の人は簡単な答えだけを求めてしまい、その結果として非科学的内容に簡単に騙されてしまう。世の中には嘘やごまかしがたくさんあるという社会的な常識を身につけていない市民が多いのではないか」と指摘し、市民に自ら考えて行動することを呼びかけています。つまり、市民も無条件になんでも受け入れるのではなく、「それは大丈夫かな」「ここには嘘がないのかな」「ごまかしは入っていないかな」「商売に利用されていないかな」ということを考えようということです。

 最後に、これまでの取材から学んだ科学と市民の間の信頼を取り戻し、信用を醸成するためのキーワードを考えてみたいと思います。

 まず、科学者の方は「社会の一員である」ということを忘れずに、ということです。科学は社会の中にあっての科学です。自分が行っていることがどんな影響力を持つのか、そして社会から何が求められているのか、という「想像力」を持ってほしいと感じました。そして池内さんの話にも出ましたが、傍観して見ているのではなく「行動」しましょう、動きましょう。この3つのキーワードが重要ではないかと思いました。

 そして、市民です。市民の側は、科学は自分の生活には無関係だと考えるのではなく、科学がなければ自分たちの生活が立ち行かないということを自覚して「関心」を持ち、与えられる条件をそのまま鵜呑みにするのではなく多少「疑って」みて、その上で自分で判断して「理解」する、そういうことが求められているのだと思います。

 ここまでいうと、悲観的になって、「科学はもう終わりなのではないか。両者が歩み寄るのは困難なのではないか」という、非常に危機的な印象になってしまうかもしれませんが、まだ遅くないと思います。

 私たちも研究者の皆さんの現状や悩み、研究環境の課題などを取材させていただきつつ、市民の皆さんにそれらを分かりやすく伝え、理解していただけるようなメッセージをこれからも積極的に発信していきたいと考えています。
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コメント

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3 ■Re:無題

>ピッコロ大魔王さん

関係ない話題を持ち出してきていますね…。

それは横に置いて、捏造することによって日本への信頼性に関わるのは確かです。
真相の解明が待たれます。行き過ぎた競争主義が学問の世界にも蔓延している事態を深刻に受け止め改善を図っていく必要があると思います。

2 ■科学の世界で歴史修正主義は黙ってろ!

この場に似つかわしくない慰安婦の問題を持ってくるとは(呆)。
吉田証言など河野談話のはるか前、四半世紀も前から証拠としては採用されていない。その後に有力な証言がいくつも出てきているのは無視かね?

科学に例えれば、「仮説を唱えたが実証できなかった。その後に実証がなされた」という展開に似ているのだよ。

1 ■無題

STAP細胞については詳しくないので何も言えないが吉田清治やそれに加担した朝日新聞のようにお国に迷惑をかける諸悪の根源的な捏造はやめていただきたいものだ。

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