秋田書店にブラックジャックのメスを - ブラック企業とたたかう首都圏青年ユニオン山田真吾事務局長 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「秋田書店」と言えば私自身『週刊少年チャンピオン』を愛読していた時期がありました。なかでも手塚治虫の『ブラック・ジャック』や『七色いんこ』は、毎週欠かさず読むだけでなくコミック全巻揃えてのヘビーローテーションな作品でした。


 『ブラック・ジャック』も『七色いんこ』も、ストレートな勧善懲悪ものではありませんでしたが、基本、弱い者に寄り添い、弱い者いじめをする大金持ちや権力者とは徹底してたたかうストーリーでした。


 そんな名作マンガを世に送り出してきた「秋田書店」が、じつは「逆ギレブラック企業のチャンピオン」であり、その病巣にブラック・ジャックのメスを入れる必要があることが判明しました。


 ブラック企業「秋田書店」の病巣にメスを入れる現代のブラック・ジャックは首都圏青年ユニオン です。今回の事件のあらましは、首都圏青年ユニオンのホームページに「秋田書店:景品水増し、不当解雇事件」としてアップ されていますので、ぜひお読みください。


 いま秋田書店のホームページには、ブラック・ジャックならぬ「ブラック社告」がアップ されていて、あきれ果てますが、一方で、「企業情報」のところには、「秋田書店は創立者故秋田貞夫が、戦後間もない世情騒然とした昭和23年に『日本の子どもたちに正義の精神と夢の世界を取り戻し、希望を与えよう』と出版を志して、月刊誌『冒険王』を創刊して以来、少年・少女漫画誌を中心に創立の志を忘れず、出版社の使命と責任を果たすべく、努力しております。」 などと今でも書かれています。それならば今回の「景品水増し、不当解雇事件」についても、「創立の志を忘れず」に一刻も早く「正義の精神と夢の世界を取り戻し、希望を与え」る出版社にあらためてもらいたいものです。


 それで、私、首都圏青年ユニオン事務局長の山田真吾さんにインタビューしたことがありますので、そのインタビューの一部を以下紹介させていただきます。(※このインタビューは、今年の2月13日に収録したものです。byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


ブラック企業の濃度見極め働くほかない若者
――雇用劣化とたたかう首都圏青年ユニオン
首都圏青年ユニオン 山田真吾事務局長インタビュー


 ブラック企業が広がり、「違法の3点セット」などが横行する職場で苦しむ若者からの労働相談を受け、社会的な労働運動を進める首都圏青年ユニオン事務局長の山田真吾さんにお話をうかがいました。(※本文中のゴシック体は私の設問です)


 ――首都圏青年ユニオンに寄せられる労働相談にはどういった特徴があるのでしょうか。


 私たちに寄せられる労働相談はそもそも法律が守られていない、労働基準法がまったく守られていないものが大半です。


 今日も昼間に労働相談があったのは、女性の方で、ハローワークで仕事を紹介されて就職したけれど、パワーハラスメントの被害にあって、そのことを訴えたら、会社から「3月末で雇い止めだ。3月末までまだ間があるが、出社したくなかったら会社から休業補償はするから出勤しなくてもいい」と言われたというものでした。パワハラや暴力の被害にあう若者が多くなっていて、夜中の12時に来るメール相談などもよくあります。


 「違法の3点セット」と乱暴な解雇


 首都圏青年ユニオンに寄せられる労働相談の特徴を「違法の3点セット」と言っています。「違法の3点セット」というのは、1つは残業代や深夜割り増しが払われていないこと、2つは社会保険や雇用保険に加入できるのに入れてもらえないこと、3つは有給休暇を使うことができないということです。この「違法の3点セット」に加えて、「もう明日から来なくていい」とか、「来月で雇い止めだ」などという乱暴な解雇や雇い止めの相談が増えているのが特徴です。


 アルバイト1万人超の残業代未払いを是正


 ――それぞれの具体的な事例はどういったものがあるのでしょうか。


 残業代・深夜割り増し未払いでの大きな事件は、牛丼チェーンのすき家です。すき家のアルバイトは変形労働時間制というシステムが違法に運用されていて残業代がきちんと払われない中で働かされていました。シフトを入れてもそのシフトが大きく変更されたり、労働時間がそもそも1カ月固定的ではなくて、お店の売上が悪かったら途中で労働時間が変更されたりするなどで、残業代が未払いになっていたのです。首都圏青年ユニオンによる団体交渉などによって残業代の未払いを是正させ、変形労働時間制をすき家から撤廃させることができました。その結果、1万人以上のアルバイトの残業代を適法なものに変えさせることができたのです。


 残業代の未払いというのは本当に大きな問題だと思います。たとえば私が街を歩いている人の財布からお金を盗んだら、私はすぐに警察に捕まりますが、残業代の未払いは、労働者の財布から経営者がお金を盗むことと同じであるのに、職場の中ではそれが窃盗という認識がないまま恒常的に行われているわけです。市民社会ではあり得ないような違法な状態が、職場では常に横行しているのです。サービス残業ももちろん違法ですが、そもそも正当な対価を払わないということにものすごく憤りを感じますね。


 社会保険・雇用保険に加入させない


 それから、社会保険は標準的な労働者の4分の3以上、雇用保険は週20時間以上働いていれば加入できることになっているのに、それをアルバイトだから入れないとか、パートだから入れないとか、働き方の名称で勝手に決めつけて社会保険・雇用保険に加入させないという事例が多くあります。


 いま寄せられている労働相談は、「社会保険に入れてください」と言ったら「その分、あなたの給料から保険料が天引きされるから、いまも低い給料なのに保険料を払うのがきつくないですか」「給料から保険料が天引きされるから、あなたは入らないほうが得なんじゃないですか」などと会社に言われたというものです。本当だったら社会保険に加入させなければいけないのを分かっているにもかかわらず、そういう言い方をしてくる会社が増えています。


 また、労働者が「社会保険と雇用保険に入れてください」と言うと、「いまはあなたの働き方を見極めているところだからまだ入れられません」とか、「正社員じゃないと入れない」などと会社に言われて、労働者の方も法律を知らないのでそれを信用してしまってそのまま働いているケースも多いのです。


 一方で、「社会保険も雇用保険も自分は健康だから病院に行かないし保険料を払うのはもったいない」とか、「年金なんてそもそも自分の世代でもらえるかどうかわからないから払うだけ無駄でしょ」という声もあるなど、社会保障の位置づけがきちんと広まっていない中で、若者が社会保険・雇用保険に入ることのメリットをなかなか感じられないという問題もあります。


 「有給休暇を使いたい」と言ったら解雇


 有給休暇の未取得の問題については、そもそも有給休暇の使い方がわからないといった相談から、「学生アルバイトの私が有給休暇を使えるのでしょうか?」というものもありますし、「有給休暇を使いたい」と会社に言ったら、「そんなに休みたいなら会社を辞めろ」と言われて解雇されてしまったという相談なども多く寄せられています。


 会社が余裕のある人員配置をしないために、1人でも抜けたら職場が回らないような状態になっていて、有給休暇は労働者がからだを休めるためにある制度ですが、「有給休暇を使いたい」と言った途端に、「あの人は私たちが忙しいのに勝手に休む人間なんだ」という扱われ方を同僚からもされてしまうような状況も広がっています。


 「義務を果たしていないのに権利だけ主張するな」という言い方をする経営者もいて、有給休暇は義務を果たすとか何かをしなければ使えない制度ではまったくないにもかかわらず、有給休暇を使わせない事例が多くあります。休みたくても休めないというのは本当に深刻なもので、からだが悲鳴をあげているにもかかわらず、それを無視して働かせるということは、結果的にはからだを壊す、心を壊す、ひどくなると過労死・過労自死(自殺)というような状況になるわけです。労働力を再生産するために休暇を取ることが必要なのに、それをさせない会社が増えているのです。


 こうした「違法の3点セット」をすべて行っていない会社を探す方がむずかしいような状況が広がってきています。


 すき家の団体交渉拒否問題


 ――先ほどすき家の残業代未払いを是正させた事例がありましたが、団体交渉拒否の問題についてもお聞かせください。


 すき家で変形労働時間制を適法にさせたことで会社は残業代を払いましたが、残業代は過去2年までさかのぼって請求することができるので、マスコミ報道を見た全国のすき家の労働者が首都圏青年ユニオンに加入して、すき家に対し団体交渉を申し入れました。そうすると、それまでは団体交渉を行ってきたすき家が掌を返して「首都圏青年ユニオンのような合同労組は労働組合ではない」「組合員の全員の名簿を出せ」「出席者を限定しろ」など理不尽なことを言って団体交渉を拒否してきたのです。


 この団体交渉拒否をめぐっては2つの闘いがありました。1つは、団体交渉拒否は労働組合法違反ですから、私たちは不当労働行為の救済申し立てを東京都の労働委員会に行いました。東京都の労働委員会では当然、すき家の団体交渉は違法だという扱いで命令が下ったわけです。中央労働委員会でもすき家は断罪されたのですが命令取り消し訴訟をすき家は東京地裁に起こします。しかし、東京地裁・東京高裁でもすき家の主張は認められず、私たちが完全勝利して、最高裁に移ったわけですが、昨年12月にすき家が上告を取り下げたという行政訴訟の団体交渉拒否事件が1つです。


 もう1つが、私たちの団体交渉を拒否していることで組合員の組織拡大ができない、組合員の要求が通らないということでユニオンからすき家に対して損害賠償請求の裁判を起こしていました。この件も団体交渉拒否の解決と同時に私たちが勝つことができました。


 現在は、すき家に対して団体交渉を申し入れていますが、すき家がのらりくらりとした対応をしていて、今の時点ではまだ団体交渉は開かれていませんが、これを機に全国のすき家のアルバイトの労働条件を改善しくていくことと同時に、すき家は一時期「すき家強盗」といわれるぐらい深夜帯の強盗が多かったので、こうした問題に対しても深夜帯に働く人たちの適正な人員配置をせよということを盛り込んで要求書をつくっています。


 「私は燃料のように働かされた」


 ――正規労働者の問題ではSHOP99の事例がありますね。


 ローソンが経営している24時間営業の生鮮食品を扱うコンビニチェーンの店長として働いていた清水さんの事例ですね。ちなみにSHOP99は、いまはローソンストア100という名前に変わっています。


 清水さんは高校を卒業して8年間は非正規で働いていたのですが、自分もそろそろ20代半ばに差しかかるので親に正社員で働いている姿を見てもらいたいということもあってハローワークを通じてSHOP99に入社します。入社して4カ月で店長になった清水さんは、1年2カ月の間、店長として働いたところでうつ状態という診断をされ働けない状態になってしまい、いまも労災で休業補償を受けて休んでいる状態です。


 SHOP99は365日24時間営業ですので、誰かしらお店に人がいないと当然お店が開かないわけですね。この時間帯だけは人がいないからといってシャッターを閉めることはできないわけで、お店に働く人がいなかったら店長が呼び出しを受けるのです。「夜のシフトに入ることになっていた人が入れなくなったので来てくれ」という電話がくると、電車が動いていない真夜中でも自転車でお店に駆けつけるということを清水さんはしていたんですね。


 清水さんがユニオンに相談に来たときはもう働けないからだになっていて、彼が持っていたタイムシートを見ると1日に23時間労働をした日が4日間もありましたし、20日以上の連続勤務などもありました。


 清水さんは、「私は正社員で働ける姿を親に見てもらいたかったし、正社員で働けることを誇りに思って生きたかったけど、でもいま自分は働けません。自分には妹もいてみんな働いているけれども自分だけは働けない。働きたくても働けない」「コンビニエンスストアは生鮮食品を扱う。生鮮食品の温度管理は大事だけれども、それよりもまず人間の労働条件を管理することが一番大事だ。商品は腐ってしまったら捨てることができるけど、人間は働き過ぎると死んでしまう。物の温度管理と同じぐらいに人間の管理もきちんとして欲しい」と訴えました。


 清水さんは、「SHOP99で私は燃料のように働かされた」という表現をしています。「会社の歯車として働く」という表現をする人は多くいると思うのですが、彼の場合は「燃料」と表現しました。つまり会社が走るために自分はガソリンのようにくべられ燃やされて、燃えかすになってしまった状態がいまの自分だということを言っていて、「何も残らなかった。からだが悪くなってしまった。それしか残らないからだになってしまった」と会社に対して労働者のからだのことを考えて欲しいと裁判の中で訴えました。


 非正規で働く人も正規で働く人も、どちらも労働基準法や労働安全衛生法が守られていません。正規が安定していて非正規が不安定という表現はもう通用しなくて、どちらも不安定でどちらも先行きが見えない「一寸先は闇」という働き方が増えていると、私たちは労働相談活動を通じて感じています。


 高校に「偽装請負」の「派遣教師」


 ――最近では私立高校の派遣教師の問題にとりくまれていますね。


 埼玉県私立学校教職員組合連合(埼玉私教連)といっしょにとりくんでいるのですが、深谷市にある正智深谷高校における「派遣教師」の問題としてマスコミでも報道されています。


 以前は専任の教師と非常勤の教師という言い方がされていましたが、最近はそれに加えて授業の1コマごとに請け負いで教えるという間接雇用の教師がいるのです。塾の講師を派遣するイストという派遣会社から正智深谷高校に派遣されていた女性が、週にいくつかのコマ数で教えるわけですけど、その授業のコマが終わったら帰れるというわけではなくて、専任の教師や校長や教頭から「これをしてくれ、あれをしてくれ」と頼まれるのです。その仕事をすると当然、偽装請負になるわけです。私たちは東京労働局の需給調整事業部に告発して、正智深谷高校と派遣会社のイストは偽装請負をしていたということで労働者派遣法違反の是正指導が入りました。


 実際、今も正智深谷高校には何人も非正規や派遣で働く先生がいます。こうした教育現場において、子どもたちにコマ切れでしか教えることができない先生が、私教連の調査だけでもものすごく増えているのです。


 学校現場での働き方についていろいろな問題があると思うのですが、子どもたちにとってよりよい教育はどういうものなのか? コマ切れで先生がすぐいなくなってしまう教育現場でいいのか? 一人ひとりの生徒に教師が寄り添った環境をどうつくることができるのか?ということを考えていく必要があります。教育分野の労働組合は、教え子の今後を見据えた教育を学校側に提案するというようなことも必要になってくるのではないでしょうか。


 青年ユニオンが高校で労働法を教える


 首都圏青年ユニオンは依頼されて高校で労働法の講演を行うことがあります。私立高校や公立高校、大学も含めて年間10校ほどに呼ばれて、私たちが労働法を教えるわけです。どこの学校でもアルバイトをしている生徒は多いのですが、その生徒たちの労働条件もユニオンにくる相談と同じように労働基準法がまったく守られていません。


 つい先日、埼玉の県立高校に講演に行きました。その高校では生徒のアルバイトは学校の許可制だったので、先生に「アルバイトをしている生徒の労働契約書や雇用契約書、給与明細を先生方は見ていますか?」と聞くと、「そこまではしていない」とのことでした。つまり、生徒たちがどこでアルバイトをしているかは知っているけれども、生徒たちの労働条件が守られているか、埼玉県の最低賃金が守られているか、夜10時以降に18歳未満の生徒たちが働くことはないかなどの確認までは、先生はされていないのですね。


 実際、先生たちに余裕がないのもわかりますし、教える先生自身も派遣教師のような状況にもなっていますから、生徒たちを守ることがむずかしい状況にあります。先生も生徒も労働法を知らないし、知らされていません。多くの人が労働法を学ぶ機会もないまま学校を卒業して、社会に出て行っていることも大きな問題だと実感しています。


 若者の生活困窮問題を含めトータルに解決していく


 ――貧困が広がっているなか、労働相談だけで問題を解決していけるものでしょうか。


 それはむずかしいですね。首都圏青年ユニオンには労働相談票があるのですが、そこでは「持ち家か借家か」「手持ちの現金や借金の有無はあるか」という項目があって相談の中で必ず聞いています。なぜ聞くかというと、労働問題を解決しても、その人の貧困状態が必ずしも解決されるわけではないからです。


 たとえば、残業代の未払いがあってそれを会社にきちんと払ってもらいたいという相談があったとします。その人に20万円の残業代の未払いがあったとして、ユニオンで交渉して解決し会社から20万円が払われるまでたとえば2カ月ぐらい要するとします。そうしたときに、20万円を取り戻す間にアパートの家賃を滞納していて住む所を失ってしまっては大変なことになります。そうした状況にならないように労働問題だけでなく、その人のトータルな生活の困窮状態を解決していく必要があるのです。たとえば借金があれば顧問弁護団を通じて債務整理をするとか、住む所がない状態のときにはいっしょに生活保護の申請をするというように、労働問題だけでなく生活の困窮問題も含めてトータルに解決していくことが重要なのです。


 そもそも働き方が崩れている中で、今の多くの若者は新卒で入社して定年まで1つの企業で安定的に働けるような状況にありません。仕事が変わることは当然になっていて、その上、先ほど話したように「違法の3点セット」などが横行しているため仕事が変わるたびに貧困な状態を引きずったまま働かなければいけない若者が多くいます。


 青年ユニオンに来る相談者の多くは仕事を何回も変えた経験があるわけです。一般的な企業別労働組合は、そこの会社に所属している間は労働者を守りますが、その会社から出てしまって別の会社に転職したときに、新しく勤めたところに労働組合があればいいですけれど、大手ではない限り、転職先に労働組合がないことが今はほとんどなので、企業別労働組合の場合には自分の労働問題を相談する場所がなくなってしまうわけですね。青年ユニオンの場合は、たとえば先月まではガソリンスタンドで働いていたけど今月は仕事を変えてコンビニエンスストアで働いているという形の人でも継続して加入することができるので、その人のライフスタイル、人生設計を考える上で労働組合がいっしょに何かあったときにはサポートできる態勢として青年ユニオンは動くことができるので、1つの会社で働きづらくなったとしても、そこを辞めて別の職場へ移ってもユニオンで支援することができるという形で、生活問題、労働問題をいっしょになって考えています。


 反貧困の運動と連携しながら


 ――生活保護申請などを首都圏青年ユニオンで行うという場合、ほかの反貧困運動との連携などはあるのでしょうか。


 首都圏青年ユニオンは、反貧困ネットワークや反貧困たすけあいネットワークのとりくみなどと連携しています。生活保護の問題は労働問題と密接に結びついています。今、生活保護の改悪がねらわれていますが、きょうも生活保護改悪反対の国会議員要請などに青年ユニオンの組合員も参加しています。そうした形で青年ユニオンだけの運動で終わらせずに、さまざまな反貧困の運動や困窮している方といっしょになって貧困のない社会に変えていくための運動をユニオンとしてとりくんでいます。


 改正労働契約法悪用の「パート4年使い捨て」


 ――この4月から改正労働契約法が施行されますが、その先取りで悪用する事例が首都圏青年ユニオンに寄せられているようですね。


 いま青年ユニオンが交渉している相手に、カフェ・ベローチェを経営しているシャノアールという会社があります。ここで働いているパート・アルバイトは全国で5,000人ほどいるのですが、彼ら・彼女らが4年以上働けなくなるという制度を会社は導入しようとしています。どういう制度かというと、ベローチェでは労働契約は3カ月契約を繰り返して更新していく形になっているのですが、3カ月契約を15回更新したらそこで上限になって4年働いたら会社としてはもう雇わないということを3月から導入しようとしているわけです。今年の4月から施行される改正労働契約法では、5年以上働いた場合に労働者から申し出れば会社は無期雇用に転換しなければならないとしているところを、そもそも5年を迎えさせないということをカフェ・ベローチェではやってきています。


 会社が言っているのは、ベローチェで働くパート・アルバイト労働者は学生が中心だから「大学は4年で卒業して4年経ったら違うところで働くわけだから4年有期でもかまわない」「4年と上限が決まっていることによって自分の人生設計を考えるいいきっかけになる」「4年以上は働けないことを前提として働いて欲しい」「人生設計の上で4年で区切りをつけて欲しい」などということです。


 しかし、ベローチェで働いているのは学生だけではありませんし、いちばん大きな問題は、有期雇用というものを労働者自身が望んでいるわけではないということです。長く働きたかったら長く働きますし、そうじゃなかったら次の更新で辞めるということを労働者側から選択することができるわけです。それにもかかわらず会社は長く働きたい人を会社の都合で長く働かせないわけです。改正労働契約法の先取り・悪用のケースになりますが、長く働かせないことを前提として雇うということは、この会社で働くのは損だということになりますので、ユニオンとしてはベローチェに対して「15回更新限度は撤回しろ」と要求していきますし、それと同時に「長く働かせろ」ということも言っていきたいと思っています。


 おかしいことをおかしいままにしない


 ――いま就職難が続いていますし、正社員で働けることになってもブラック企業に若者が使い捨てられる状況も広がっています。若者のこうした状況をどう改善していけばいいと考えていますか。


 特効薬はすぐに見つからないかもしれませんが、若者の劣悪な労働を改善していく1つの大事な点は、どんな会社に入っても法律違反になったときにはそれを正すことができるということです。1人で悩んでいてもそれを解決することはできませんが、労働組合に加入して会社に団体交渉を申し入れる、声をあげるということを考えて欲しいと思います。


 「声をあげる」とか「たたかう」ということは実際にはハードルが高いように感じるわけですが、でも言い方を変えると、「おかしいことをおかしいままにしない」ということです。本当に会社に対して言いたいことはありませんか? 「おかしいことはおかしい」と労働組合がいっしょになって言うことができますので、それをいっしょにやっていきませんか?と若者に呼びかけていくことが労働組合の1つの役割だと思います。


 声をあげづらい人たちの声を代弁して会社や社会を変えていくというポジションで、若者に対して青年ユニオンは訴えていきたいですし、職場の悩みを「1人で悩まず労働組合に相談しませんか」ということはずっと言っていきたいと思っています。


 就職説明会の前でも宣伝したい


 今後の予定でいうと、リクナビやマイナビといった大規模な就職説明会の前で宣伝をしていきたいと思っています。青年ユニオンにも30人以上の大学生・院生の組合員がいるのですが、就職活動で悩む学生はものすごく多いわけです。働き方を考える上で、自分はブラック企業に就職をしちゃうんじゃないかという不安を抱えている学生がものすごく多くなっています。ブラック企業という言い方をすると何となくよくわからないモンスターみたいな感じにもなってしまうのですが、労働基準法違反の企業であればそれは労働組合が正すことができますし、パワーハラスメントをするようなことがあれば、労働組合として申し入れることや顧問弁護士を使って解決することができるということを就職する前に知っておくことはとても大事です。学生のうちから労働組合に加入して、労働法をいっしょに学んで何かあったときはいつでも声をあげることができるという準備ができます。保険的な役割になるかもしれませんが、そういったかたちでも青年ユニオンへどんどん学生にも入って欲しいですし、学生の声をもとに就職活動とはどうあるべきか、働き方とはどうあるべきかも考えていきたいと思っています。


 自己責任だけ強調するのはおかしい


 若者に自己責任を迫る人がいますが、多くの若者が労働法も教えられない中で自己責任だけ強調されていくのは問題です。いまでも長時間残業でからだを壊したのは自分が会社にとっての必要なスキルを身につけられなかったせいじゃないかと思わされている若者はものすごく多いのです。残業代を請求したら、会社から「スキルがないせいで仕事が終わらなくて残って働いているあなたに対し、なぜ残業代を払わなければいけないのか」などという言い方を若者はされているわけです。


 そもそも守られなければいけない法律が100%守られた上で働いて、それで若者が失敗をしてしまったのならまだしも、守られなければいけない法律すら守られていない中で苦しみながら働いている若者に対して、さらに追い打ちをかけるように自己責任だと言われるわけですね。


 ひとりで悩まずいっしょに声をあげよう


 そうした若者の状況をふまえた労働組合の対応がとても大事になっていると思います。首都圏青年ユニオンでは、若者から労働相談があると、若者が苦しんだことについて相談者が追い打ちをかけるようなことのないように、まずは「あなたが働いて苦しんだことについては労働組合がいっしょになって解決できるし、あなたが持っている労働者の権利はこういうものがあるので、これでいっしょに解決していきましょう」と話しています。


 ユニオンの団体交渉は組合員参加型にしていて、たとえ会社の中に組合員が1人しかいなくても、ユニオンの組合員が何人でも何回でも参加することができます。団体交渉に参加すると自分が知らなかった人がユニオンの組合員というだけで団体交渉に参加してくれるんですね。


 団体交渉を行った組合員は、「1人で入れる労働組合だから会社と交渉するときも1人かと思っていたけれど、団体交渉には何人も組合員が来てくれた。自分は1人だと思ったけど1人じゃなかった」「会社の中ではひとりぼっちだったけど、いっしょにがんばろうと言ってくれる仲間が労働組合にはいる」「またつらいことがあるかもしれないけれど、労働組合でもらった元気をもとに働いていきたい」という感想が寄せられています。


 「ブラック企業の濃度」を見極めながら働かざるを得ない若者


 いまブラック企業と呼ばれるような労働基準法違反の会社が広がっています。


 いまの若者たちは、言ってしまえば「ブラック企業の濃度」を見極めながら働かざるを得ないのです。自分が我慢できる濃度のブラックなのか、それともすぐに辞めたほうがいいようなブラックなのか、その濃度を見極めながら働かざるを得ないというのが現実なのです。


 労働法が100%守られている会社というのがほとんどないような状況にあるわけですから、若者は「ブラック企業の濃度」を見極めながら働かざるを得ません。その濃度を薄める役割として労働組合があるわけですし、もし自分の会社のブラックが濃くなってきたと思ったら、労働組合にいっしょに加入して団体交渉していきながらブラックの濃度を薄める必要があります。


 また、ブラックの濃度を薄める作業が1人ではむずかしかったら、会社の中で仲間を増やしていって会社に「これ以上は僕らは働けません。長く働ける環境を労働組合といっしょにつくっていってください」と要求していく。ユニオンで団体交渉するとき必ず会社に言うのは、ユニオンは会社に対して何か恨みつらみがあって交渉しているわけではなくて、人間らしい労働条件をいっしょに考えていきたいし、労働基準法の第1条には「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と書いてあるわけですから、「私たちは人間らしく働ける環境をともに提案していきたい立場で今日は交渉に来ているので、社長も経営者の方もいっしょに長く働ける環境をつくっていきませんか」と言っています。


 会社にしてみても、人がどんどん辞めていくことはそれだけで大変なことです。事業を継続する上でも、新たに人を雇うために面接をして見極めなければいけないわけで、そういうコストをかけるよりは長く働ける環境をつくることが組合員にとっても会社にとってもいいことなので「それをいっしょに考える立場で団体交渉をしませんか」と言うのです。


 労働組合というのを見たことも聞いたこともない経営者が、個人加盟の労働組合が乗り込んできたというだけで、それを商売にする社会保険労務士や弁護士などブラック士業を使ってくる中で、そうではなくて、労働組合というものは会社に必ずしも敵対するものではないという立場で交渉するわけです。その中で組合員も会社に対して恨みつらみがあったけど、それが改善することができて少しは会社に対する見方も変わっていったし、労働組合に入って良かったということで自分の交渉が終わっても組合にずっと入っていろんな活動をする人もいるし、組合に自分の交渉で得た経験をほかの組合員に伝えるために団体交渉に積極的に参加している組合員もいるわけです。


 「助けられた輪」と「助けていく輪」と「改善していく輪」を広げる


 そういった形で「助けられた輪」と「助けていく輪」と「改善していく輪」を広げていくことが労働組合の役割の1つだと思っています。


 今年の10月20日には、全国青年大集会を明治公園で開催する予定です。それに向けて若者の実態調査をやっていこうと考えていて、「ネットカフェ難民調査」を2007年に実施したのですが、いままた「マック難民」という言葉が出てきたので、深夜帯にマックなどにいる人たちの実態調査も考えていきたいと思っています。


★このインタビューの全文は、『国公労調査調査時報』2013年4月号(第604号) に掲載しています。また、インタビュー動画はネットで視聴することができます。


▼いまの若者はどんな世界で働いているか:首都圏青年ユニオン山田真吾事務局長インタビュー①
http://youtu.be/lvbKv91gisU


▼「ブラック」の濃度を薄めるために労働組合がある:首都圏青年ユニオン山田真吾事務局長インタビュー②
http://youtu.be/myMpjvRlf_U


▼一人ひとりが「自分の言葉」で伝えよう:首都圏青年ユニオン山田真吾事務局長インタビュー③
http://youtu.be/Uc0-r0C31jw