2012-03-18 17:16:10

福島原発から海洋に放出されたセシウムは20~30年で日本沿岸に戻る-放射能汚染は長期観測が不可欠

テーマ:原発問題

 先日、気象研究所で放射能観測についてのお話をうかがいました。気象研究所は、半世紀以上に渡る世界最長の放射能観測を継続しているのですが、放射能観測を始めたきっかけは、1954年3月1日にアメリカが南太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験によって、静岡の漁船・第五福竜丸が被曝したことにありました。このとき、第五福竜丸の乗組員が被曝しただけでなく、海洋も大気も放射能で広く汚染され、日本列島にも「放射能雨」が降り注ぎました。このビキニ事件を契機にして気象研究所は1957年から海洋と大気の放射能観測研究をスタートさせたのです。ビキニ事件の当時、気象研究所にいた故三宅泰雄氏や故猿橋勝子氏をはじめとする研究者たちが、ねばり強く放射能汚染の実態を調査した結果によって、核実験による環境汚染の問題が広く認知されるようになったのです。


 ビキニ事件のときアメリカ側は今の東京電力と同じように放射能汚染は海中で希釈されるかのように主張し「安全神話」を振りまいていました。それに対し、猿橋勝子氏らはアメリカの研究者が海洋中から検出したセシウム濃度より50倍も高い数値を日本近海で正確に検出。アメリカ側も核実験による広範な海洋の放射能汚染を認めざるをえなくなったのです。


 「科学者は、人類のしあわせに、積極的につくす義務がある。科学者の責任は重いが一方、人類への貢献の大きいことを思えば、私は科学者になったことによろこびと誇りを感じないわけにはゆかない」、「(放射能汚染は)今すぐ実害を示さなくても、その実態をつかむことをないがしろにしてはいけない。それは、人類の安全を守るための至上命令だ」(猿橋勝子著『女性として科学者として』新日本出版社)と猿橋勝子氏は語っています。福島原発事故における政府の放射能対策の遅れを厳しく指摘してきた東京大学アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授は、いまこそ「われわれは、猿橋博士に学ぶ必要がある」と力説しています。


 気象研究所は、「(放射能汚染は)今すぐ実害を示さなくても、その実態をつかむことをないがしろにしてはいけない。それは、人類の安全を守るための至上命令だ」という猿橋勝子氏の志を引き継いできたのです。


 そもそもなぜ1957年以来54年間にも渡って途切れることなく海洋と大気の放射能観測を行い、今後も継続していくことが重要かというと、1つは、核実験やチェルノブイリ事故、福島原発事故などで放出された人工放射能が海洋においてどうなっているかを観測することは、放射能が長期に渡って地球規模の汚染をもたらしますから、観測自体も長期間継続的に実施する必要があるということです。


 2つめは、長期に渡る観測を分析・研究して、海洋の放射能汚染がどう広がるのか循環モデルなどをつくり再現計算を行うことです。1950年代や60年代の核実験での海洋の放射能汚染が30~40年でどう動いてきたかを分析すると、海洋の放射能がどう挙動するのかが分かります。地球環境が激変しない限りは同じ挙動をするので放射能汚染の予測モデルをつくることができます。実際に原発事故が起きてから危険地域を計算していたのでは住民の避難には間に合いません。あらかじめ原発事故を常に想定した上で風のパターンなど気象状況による予測モデルを動かしておかなければ実際には役立たないのです。


 岩波書店の雑誌『科学』1999年1月号に「動燃東海事故による放射性セシウムの関東平野への広がり」と題した論文を気象研究所の青山道夫氏が中心になって発表しています。現在、岩波書店のホームページで、福島原発事故の問題に関連する資料として特別公開されており、無料で読むことができます。(※アドレスは、http://www.iwanami.co.jp/kagaku/  )


 この論文の中で「今回も示されたように観測データはしばしば人間が予測できないことを教えてくれるので、切れ目のない試料採取と観測・計測は事故時の評価とともに、事後の評価をおこなう上でも重要である」と述べるとともに、「事故が発生してから予測モデルを動かすのではなく、あらかじめ典型的な気象条件と放出条件を想定して、拡散予測をおこなっておくことも必要」と指摘しています。


 また、アメリカや旧ソ連などが1945年から1980年にかけて実施した大気圏内核実験で降り注いだ放射性セシウム137の海中濃度が、日本近海で最近約10年間、ほとんど減らず横ばいのままであることが2010年10月に気象研究所の分析で分かっています。約30年の半減期のセシウム137の放射線が減少し続ける一方で、南から来る黒潮に乗ったセシウム137が再び流れ込み濃度が維持されているのです。


 核爆発で成層圏に上った後ジェット気流などに乗り、日本列島の太平洋側とアメリカ東海岸に最も多く降下し、中国が最後に大気圏内核実験を実施した1980年以降は、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故を除き、新たに発生する原因はありません。


 ところが、海水を採取したところ2000年から2010年にかけて、日本列島の近くでは、黒潮に沿った深さ約400メートルの海中で海水1立方メートル当たり2.0~2.5ベクレルのセシウム137が検出され続けました。


 過去の核実験で日本列島の太平洋側に降下したセシウム137は海中に沈み、太平洋を東に移動します。途中で西に方向を変えた後、フィリピン沖で折り返し赤道に沿って東方向に進んでいるのですが、この折り返し地点で一部が黒潮に乗っていることが判明したのです。


 こうした放射性物質の移動状況を参考にして、原発事故が起きたときの被害の広がりを予測することができるのです。


 福島原発からつくば市にある気象研究所は約170キロ離れていますが、3月15日以降は大気中の放射線量は高過ぎて通常の測り方では無理になり観測の方法を工夫しながら計測する状態が続きました。


 そうしたなか、原発事故からまだ1カ月も経過していない3月31日に突然、放射能観測の予算が凍結され、半世紀以上も継続してきた観測が途切れる危機に直面しました。財務省が予算を緊急の放射線モニタリングに回したいとしたのが観測予算凍結の根本的な原因でした。


 放射能による地球環境の変化は長年にわたって観測し続けることでとらえることが可能となります。まして福島原発事故という重大局面のなか、今もっとも必要とされている放射能観測をやめるわけにはいかないと気象研究所の研究者たちは考えました。そして、予算がストップされてもお金を使わなくてもいいよう知恵を出し合い、分析は後回しにしてもサンプルだけは取り続けることにしました。


 不幸中の幸いでしたが、海水採取を委託していた日本郵船の船は、予算凍結を連絡する前にすでに出航していました。


 予算凍結の原因だった緊急モニタリングに対して補正予算が付くことになり、8月から予算修正されて、気象研究所の放射能観測は続けられことになりました。


 こうした事態を乗り越えることができたのは、猿橋勝子氏の「(放射能汚染は)今すぐ実害を示さなくても、その実態をつかむことをないがしろにしてはいけない。それは、人類の安全を守るための至上命令だ」という言葉が気象研究所の研究者の中に息づいていたからではないでしょうか。


 福島原発のセシウム137は20~30年で
 太平洋を循環し日本沿岸に戻ってくる


すくらむ-18


 気象研究所は、福島原発事故で大気中に放出された放射性セシウムは、3万~4万テラベクレル(テラは1兆)に上ると2月29日時点で試算。大気中に放出されたセシウムは10日間で地球一周し4月までに海に7~8割、陸に2~3割降下。これまでに福島原発事故で海に流出されたセシウム137は、黒潮に乗って東へ拡散した後、北太平洋を時計回りに循環し、20~30年かけて日本沿岸に戻ると気象研究所は予測しています。


 海に直接出たセシウム137は、5月末までに3,500テラベクレル(テラは1兆)と試算し、ほかに大気中へ放出された後に海に落ちた量が1万2,000~1万5,000テラベクレル程度あるとみており、総量は1万5,500~1万8,500テラベクレルで、過去の核実験で北太平洋に残留している量の十数%に当たります。


 気象研究所は、核実験後に検出された放射性物質のデータなどを基に、今回の事故で出たセシウム137の海洋での拡散状況を分析しました。福島県沖から北太平洋へ水深200メートル以下の比較的浅い部分で東へ流れ、日付変更線の東側から南西方向に水深400メートルで運ばれることになります。フィリピン付近から一部は黒潮に乗って北上し日本沿岸に戻ります。


 フィリピン付近からはインドネシアを通過してインド洋、さらに40年後には大西洋に到達する流れのほか、赤道に沿って東に進み太平洋の東端で赤道を越えた後、赤道南側で西向きに流れるルートもあります。


 海への流出量は、東京電力が作業用の穴の割れ目などから約1,000テラベクレルが出たと当初発表していましたが、海水で検出された濃度などから流出量を試算したところ、東電発表の3倍以上となっています。


 福島原発事故で放出されたセシウム137の全体像を把握するには、太平洋全域での高精度の測定が必要になっているのです。


 気象研究所の研究者らは東海村臨界事故のときに、当時放射線医学総合研究所にいた木村真三氏と共同で放射能汚染調査を実施しています。その木村真三氏は、NHKETV特集取材班著『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(講談社)の中で次のように語っています。


 「本来は住民のためにあるはずの汚染地図が、政府や行政の都合で見捨てられることがあってはならないのです」


 「マクロの調査、ミクロの調査にはそれぞれ異なる意味があり、住民の対応が異なるのです。そしてそれを住民にきちんと提示することこそが、住民を放射能汚染から守ることになります。それが、国への信頼へとつながっていくのです」


 「この国で起きていることは、国や行政だけが悪いのではなく、研究者が政府の言いなりになることを条件に論文として発表することで、自己の地位や名誉を研究業績という形で評価されるシステムに甘んじていることが問題なんです。研究者である前に人としてあるべき姿を見誤ってきたシステムを金科玉条とする習わしが招いた人災なんです。あまりにも愚かな行為です。多くの研究者がその過ちにすら気づいていないか、気づいていても、その呪縛を自己の意志で断ち切ることができないでいるのが問題なんです」


(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)

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