「同一労働・差別待遇」を固定化する労働者派遣法政府改正案の虚構と欺瞞 | すくらむ

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 昨日、国会で労働者派遣法「改正」法案の審議がスタートしました。そしてその夜、非正規労働者の権利実現全国会議が「どうなっているの!?民主党政権~派遣法改正案を斬る」集会を都内で開きましたので参加しました。(次回は仙台で開催するそうで残念ながら参加できません)


 集会で、龍谷大学教授・脇田滋さんが、「労働者派遣法『改正』案の問題点と抜本改正の課題」と題して講演を行いました。脇田さんの講演の前半部分「労働者派遣法2010年改正案の主な内容」の要旨を紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 いま労働者派遣法の改正が行われるという大きな局面を迎えています。1985年に派遣法ができて、これまで何度か大きな「改正」がありました。1996年には16業務が26業務に拡大しました。これは単に業務が拡大したというだけではありません。当時、日経連の雇用の3分割という考え方が出され、正社員は少なくして、これからは派遣労働とか有期雇用などの多様な雇用形態を多く使っていくとしました。この財界の考え方の中での派遣業務の拡大という点に、非常に大きな狙いがあったのです。


 そして、財界の狙い通り、わずか3年後の1999年に派遣業務は原則自由にされ、例外として禁止業務があるとされました。原則と例外が入れ替わってしまったのです。


 さらに小泉内閣のもとで、2003年に製造業派遣の解禁がなされ、2004年3月から製造業にまで派遣が可能となりました。このように規制緩和一辺倒の派遣法の「改正」が続いてきました。


 しかし、こうした派遣労働の拡大がいかにひどい雇用の破壊をもたらしたのかが徐々に明らかになってくるなかで、2007年の参議院選挙で与野党が逆転し、むしろ派遣は規制すべきであるという方向へ潮目が変わるという状況になり、2008年には自公政権も日雇い派遣など形だけは派遣労働の規制を強める法案をつくらざるを得なくなりました。


 2009年6月には規制強化の方向で、当時の野党3党である民主党・社民党・国民新党が今思えばかなり前向きな改正案を示し、その流れの中で政権交代となりました。ですから本来ならば、いま議論されるべき派遣法の改正案は、この3党案をもとに行われるべきだったのです。ところが、3党案から大きく後退した政府法案をもとに、きょうから国会で審議されることになってしまっています。


 政府の派遣法「改正」法案は、ひとことで評価すると“羊頭狗肉”です。法案には、「抜本的見直し」とか「事業規制の強化」のために、「登録型派遣の原則禁止」や「製造業派遣の原則禁止」と書かれていますが、実際は改悪も含まれた“虚構”の法案、“欺瞞”の法案です。


 政府法案は登録型派遣を原則禁止するとしています。しかし、例外を幅広く認めてしまっています。専門26業務を例外にしてしまっているのです。政府統計でも100万人を超える派遣労働者がこの専門26業務に該当しています。ですから、この政府法案が成立したとしても、依然として100万人の派遣労働者が登録型で残るということになります。


 製造業派遣は、「派遣切り」や「偽装請負」などで大きな社会問題になったところですが、これも建前では原則禁止としているのですが、「常時雇用=1年を超える雇用」を例外にしています。派遣労働者に契約期間を短く設定してもそれを何回も繰り返し1年を超えれば「常時雇用」なので例外だと言うわけです。「製造業派遣は禁止」としながら、実際は「常時雇用」なら製造業派遣も認めてしまうということです。この間の「派遣切り」の問題を思い出していただければいいのですが、この間実際に「派遣切り」された製造業派遣の労働者は常時雇用された派遣労働者だったのです。この間の実際の「派遣切り」は、派遣先が勝手な都合で「常時雇用」の派遣労働者を切ったら、そのまま派遣元は8割の「常時雇用」の派遣労働者を中途解雇したことが大きな問題だったのです。派遣元で「常時雇用」されるということに対して、非常に強い意味を与えるというのが今回の政府法案の立場ですが、これは私は虚構というか欺瞞であると思います。「原則」が虚構でしかなく、「例外」が非常に大きな問題となってしまっているのです。


 日雇派遣を原則禁止としていますが、これも「専門業務など支障のないと認められる政令指定業務は例外」とされています。建前では社会問題化した派遣の禁止を言いながら、幅広い例外を認めているところに、政府案の特徴があります。


 グループ企業内派遣の8割規制ということで、いわゆる系列派遣については、8割を超えてはいけないとしています。グループ企業内派遣は、派遣先のいわば子会社、第2人事部です。派遣先―派遣元―労働者という3面関係で、派遣元が一応労働者を守るという派遣の建前にも反するものです。派遣先イコール派遣元となり、そもそもこんなものを認めている国は日本以外にありません。


 政府法案の「十七」にある「期間を定めないで雇用される労働者に係る派遣先の労働協約申込義務」には、改悪が盛り込まれています。26業務で期間制限がないと3年を超えて継続している場合、新しい人をその人に替わって雇うという場合には、その人にまず雇用の申込みをしないといけないとされているのですが、その派遣労働者が派遣元で期間の定めのない雇用であれば、雇用の申込みをしなくてもいいとされてしまっています。これは改悪です。つまり派遣元でずっと雇用されて生涯ずっと派遣労働者であれば弊害はないのだとされているのです。派遣元でしっかり雇われているのだから、わざわざ派遣先は雇用しなくてもいいんだとしているわけです。これは現行の派遣法よりも改悪されているところです。じつは2008年の自公政権による政府案に事前面接とこの改悪部分が盛り込まれていて、問題だと指摘されていたのです。それがそのまま残ってしまっているのです。事前面接は削除されましたが、これは残っており大きな問題です。


 それから、派遣元事業主に対して一定の有期雇用の労働者を無期雇用へと転換することを求めています。派遣元にずっと雇われることを追求する考え方になっています。派遣労働者の無期雇用化で期間の定めのない雇用にさえすれば弊害がなくなるんだとし、派遣先でなく派遣元にそれを求めればいいんだとしています。


 派遣労働者の賃金決定にあたっては、同種の業務に従事する派遣先の労働者との「均衡を考慮」するとあります。派遣労働者の賃金・労働条件と、派遣先で同じ仕事をしている労働者の賃金・労働条件が違ってもいいとしている国は日本だけです。「同一労働・差別待遇」、これを認めている国は日本だけなのです。正社員がやめた後、その人件費で派遣社員だったら3人雇用できると派遣会社が宣伝できる国は日本だけです。こんなひどいことが、まかりとおる国は日本だけです。韓国も2006年改正で差別禁止を明記しました。派遣法を持っている国で「均等待遇」を定めていないのは日本だけです。それを3党案では「均等待遇」を明記していたのに、「均衡を考慮」という曖昧な言い方になっていて、「均等待遇」という言葉を意識して避けています。


 違法派遣については、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなすとしています。これは派遣先が違法であることは知らなかったと言い逃れすればいいだけの話になってしまっています。


 さらに労働契約申込みみなし制度には、「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」としています。つまり、違法派遣ということが明らかになって派遣先に直接雇用される場合に、韓国の場合には派遣先で同じ仕事をしている正規社員の労働条件が直接雇用される派遣労働者に適用されるのですが、日本では、派遣元の労働条件をそのまま持って派遣先に直接雇用されるというのです。トヨタやパナソニックの正社員の平均年収は800万円です。ところが派遣労働者の年収は200万円です。政府法案では、この年収200万円のまま直接雇用されることになるのです。みなし雇用制度は、プラスだと評価されることがありますが、本当にそうでしょうか。派遣労働者の劣悪な待遇の固定化に過ぎないのではないでしょうか。