「若者危機」未来に希望を描けない - 派遣切り・名ばかり正社員、追い込まれる若者たち | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 昨年末で解雇された。会社の寮で住居は保証されていたが、手取り10万円の賃金だったから貯金もない。実家に帰る交通費さえ工面できない。1月中に寮も出なくてはならず、どこに行けばいいのか。キヤノンの担当者は、「人減らしではなく生産調整だ」と言った。つまり、僕らは人として見られていなかったということだ。(27歳、元大分キヤノン請負社員)


 派遣会社からトヨタ自動車九州に派遣され、「頑張れば正社員になることができる」と力説され、ずっとその言葉を信じて働いてきた。エンジン部品の組み立て作業は、長時間続けると腕の感覚がマヒするほどの重労働。つらくて辞めたいと思ったことは何度もある。「頑張れば正社員」--仕事を終えて寮に戻り、疲れた体を支給品の布団に横たえながら、派遣会社の言葉を頭の中で反復した。クビ切り宣告された日のことは、今でも忘れない。職長と呼ばれる現場責任者(トヨタ社員)に呼び出され、こう告げられた。「言いにくいことだが、真っ先に辞めてもらわなければならないのは、派遣の人たちなんだ」。怒りではなく、絶望で体が震えた。どんなに頑張ってもどうにもならない。世の中の不条理を感じた。結婚を約束した彼女がいる。早く一緒に暮らしたい。しかしその夢は当分、実現しそうにない。きちんとした仕事を見つけなければ、彼女の両親に会うこともできない。トヨタの寮も追い出され、今は自分でアパートを借り、求人誌で見つけたパチンコ店で働く。ホールで立ちっぱなしの仕事で、正社員だが基本給10万円で休みもない。焦りもいらだちも憤りも、しかし結局は自分の中に内向し、沈殿する。自分は無力だなあと思う。(23歳、トヨタ自動車九州の元派遣社員)


 20代半ばから派遣社員として働くBさん(34歳)。2008年春から、派遣先企業の正社員になることが前提の「紹介予定派遣」として働き出した。だが派遣先で待っていたのは、正社員希望に付け込んだ残業の強制だった。夜10時前に会社を出た記憶がない。結局、契約1カ月更新の派遣になり、「これからのことは考えられない」。


 Kさん(35歳)は、都内の中堅私立大学を99年に卒業し総合住宅メーカーに就職。親会社は誰もが知る一流企業。安心して働くことができるだろうと思っていたが、入社以来、サービズ残業は当たり前で、帰宅するのは毎日、深夜1~2時。体を壊さないことが不思議なくらいで、十数人いた同期の営業職のほとんどが入社1~2年で辞めていった。Kさんの残業代は1円も支払われていない。そればかりか、昨年末に派遣社員と嘱託社員が全員リストラ。経営側は「正社員でも数字を上げない営業職はクビを切れ」と、成績の振るわない社員をリストアップ。「失業」という言葉が他人事ではなくなった。「1歳の娘のためにも、コツコツ営業するしかない」。Kさんの果てしなき長時間労働とサービス残業は続く。


 入社1年目で居酒屋チェーンの店長になったTさん(28歳)。ランチタイムから早朝まで1日16~18時間労働。平均睡眠時間は3~4時間。店長手当がつくわけでもなく、残業代も支払われない。急にアルバイトが休めば、自分が穴埋めをし、休みなく働いて約10年、一度もボーナスが出たことはない。給与は上がらず、年収400万円のまま。


 『週刊東洋経済』(1/10)の特集「若者危機/未来に希望を描けない!」に登場する若者たちの現実です。(※思い切り短く要約していますので、詳しくは本誌をご覧ください)


 「想像以上のスピードで若者の中に下層が形成されている」(首都圏青年ユニオン・河添誠書記長)--背景は1999年から始まった労働者派遣法の規制緩和。派遣社員など低収入の非正規労働者が若者を中心に急増。2007年の20~24歳の非正規社員比率は43%に達しています。


 多くの若者は、日々の生活を送ることで精一杯になっていて、食事や住まいを確保するため、日雇いでも働くしかなくなっているのが現実です。


 「非正規切り」の嵐が吹き荒れるなか、失業時の社会保障である雇用保険は、「1年以上の雇用見込み」(09年改正で6カ月以上へ短縮される見通し)が加入要件となっていて、非正社員の60%しか雇用保険制度の適用を受けていません。さらに雇用期間が1カ月以内の臨時的雇用者の場合は30%しか雇用保険制度の適用を受けていません。


 雇用保険へ加入していない若者が「非正規切り」で失業すると、“親への依存”“家族への依存”しかありません。日本という国は、非正規労働者のセーフティーネットを家族に任せているのです。親が亡くなっているなど、家族に頼れない若者は、ネットカフェ難民や路上生活に陥ってしまう危険が高くなっています。


 特集の「自己責任でなく構造問題~若者にセーフティーネットを」の中で、首都圏青年ユニオンの組合員に対する無料の簿記講座が紹介されています。「非正規で働く若者は、これまで何のトレーニングも受けていないケースが多い。このままでは次の展開がまったく見えない」と河添書記長は語っています。公共職業安定所、ハローワークを通じても、簿記やパソコン講座などを無料で受講することができますが、その間の生活給付がないため、活用が進んでいません。イギリスでは低所得者への社会保障給付が充実しており、職業訓練を受けている期間も生活給付を受けられ、逆に職業訓練を受けないと生活給付をもらえなくなるようになっています。日本も最低限のセーフティーネットを職業訓練と組み合わせる形で充実させていくべきだと今回の特集で提起しています。


 また、オランダでは1996年にパートタイム労働者とフルタイム労働者の均等待遇を労働法に規定。賃金はもちろん、手当、福利厚生、職業訓練、企業年金など、労働条件のすべてで同等の権利が保障されていることなどを紹介しています。


 さらに特集では、労働経済ジャーナリストの小林美希さんが「正社員になれたものの…月平均150時間の残業~極限の『名ばかり正社員』」と題して、若者は、正社員になれたとしても、前述のKさんやTさんのように、「名ばかり正社員」とされている実態をルポ。迫り来る「正社員切り」という新たな危機で、今後、一層の長時間労働、サービス残業が襲いかかろうとしていることを告発しています。
(byノックオン)