「嫡出推定の及ばない子」の判断基準とDNA検査ー最判平26・7・17について② | 彼の西山に登り

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今日は朝からCSS中央大前校にいます。

祝日なのになんでこんなに多摩モノレールが混むんだろう、とスタッフNさんと語ったのですが、現役学生はそろそろ前期試験が頭に引っかかってくる頃ですな。今単位を取りこぼすと、後々就職活動やら公務員試験やらで時間が貴重な時期に足を引っ張りますから、しっかり確保しておきましょう。

 

 

さて、

 

 

 

今回は、前回の続きです。「嫡出推定が及ばない子」の判断基準に関する最近の判例(最判平26・7・17)に関する解説です。

 

 

【純粋な私見ではない解説】

 

そもそも、「生物学上の親子関係」(血縁関係)と、「法律上の親子関係」が基本的には関連しながらも、民法がそれらがずれる場合を認容しているということに疑問を感じる方は少なくないと思います。もちろん、「養親子関係」を念頭におけば理解はできるでしょうが、「実親子関係」にまで及ぼさんでも、と思われないではありません。これは、親子関係を早期に確定し、法律上の父を確保することが子の福祉に資すると解されているからでしょう。※1

 

一方で、「父子間の血縁の存否を明らかにし、それを戸籍の上にも反映させたいと願う人としての心情」(白木裁判官反対意見)も強固であり、従来の判例・多数説も、ある程度それに応答するために、嫡出推定の及ばない場合を例外的に認め、この場合は父が子の出生を知って1年以上放置しておいても、親子関係不存在確認の訴えにより父子関係を争うことができるとして、ある程度のバランスをとってきました。

 

 

その上で、嫡出推定が及ばない要件については、従来、以下のような学説の対立があるとされてきました。※2

 

1 外観説

 夫婦の同棲の欠如という外観的に明白な事実があれば、民法772条の適用が排除されるとする説。

 外観を重視するという観点から、①夫が失踪宣告を受けて失踪中の場合、②夫が出征・在監・外国滞在中の場合、③事実上の離婚の場合には推定が及ばないが、これに反し、①夫が生殖不能の場合、②血液型の検査の結果父子関係があり得ないとされた場合には、推定が及ぶとされます。

2 血縁説

 行方不明、別居、生殖不能等、受胎可能性が完全に存在しない場合には、民法772条の適用が排除されるとする説。

3 中間説

 家庭の平和という観点から、血縁説によることもあり、そうでない場合もあり得るとする説。

 

従来の判例は外観説に立つとされています(最判昭44・5・29、最判平12・3・14等)。本件判決の挙げる「妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情」は、上記1の「夫婦の同棲の欠如」(我妻栄の表現)と同一視してもいいでしょう。

 

本件のように、「外観的に明白な事実」を欠くが、DNA検査により生物学上の父との父子関係が確実視され、一方で(元)夫と子との生物学上の父子関係が否定されている場合は、外観説によれば嫡出推定が及ぶとされ、血縁説によれば嫡出推定は及ばないとされるでしょう。


ただ、父を確保して子の福祉を重視するという嫡出推定等の制度趣旨からすると、単に「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかで」あるだけでなく、「子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」がある場合には、いわば「新たに父を確保する当てがある」ともいえる訳で、親子関係不存在確認の訴えを認めてもよいのではないかとも思われます。

 

この点につき、法廷意見は、そのような事情があっても、「子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから」、嫡出推定が及ばなくなるものとはいえない、と述べるに止まっています。

しかし、山浦裁判官の補足意見4では詳細に敷衍されており、①DNA検査の結果科学的証拠により生物学上の父子関係の不存在が明らかになったことに加え、②法律上の父との家庭が既に破綻して子の出生の秘密が露わになっている場合や、さらにこれに加えて③生物学上の父との新しい家庭が形成されていること又は生物学上の父との間で法律上の親子関係を確保できる状況にある場合に、親子関係不存在確認の訴えを認める見解を挙げ、これを批判的に紹介しています。そして、特に③の場合に訴えを認めると、事情の変動により子の身分関係を不安定にするなどの大きな問題があり、DNA検査の結果を過大に重視しているように思われると批判しています。


結局、まずもって本件は、「法律上の父子関係の確定において血縁をどう位置づけるか」(金築裁判官反対意見)という問題であると思われます。

この点について、従来より血縁をより重視すべき方向へ、解釈論としても歩を進めるべきであるという主張に対し、本件判決は、外観説に基づく従来の判例の態度を踏襲したと解していいでしょう。

本件だけを見れば、子を養育監護すべき父の確保に問題はない訳ですが、生物学上の父が不明であったり、子の養育監護を拒否したりする事例も少なくないであろうことを考慮すると、解釈論として従来の判例を変更することには躊躇を覚えたということでしょう。

 

 

またまた長くなりましたので、私見を含むコメントは次回以降とします。

 

 

 

 

※1(私見です。) このように説明すると(本文は一般的な説明と思いますが)、根本的な思考をしているつもりで「(片)親のいない子を差別するのか」などと言い出す方がいないとも限りませんが、できるだけ貧困者が出ないように努める貧困防止施策が必ずしも貧乏人差別ではないように、できるだけ(片)親のいない子が出ないように努める制度設計も必ずしも差別とは言えないでしょう。できるだけ好条件下に誘導することや、できるだけ悪条件下に陥らないように誘導することが、悪条件下にある人を差別することになるなら、行き着くところ放置行政しかないでしょうからね。

 

 

 

※2 川井健 『民法概論⑤親族・相続』 有斐閣 2007年 P59

 

 

 

 

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