▼△キミは誰の天使〔中学生〕△▼ | チョロ助を追いかけろ

チョロ助を追いかけろ

子育て奮闘記とHQとCCさくらな日々


※オリキャラ出てます。





「『帰宅部喫茶』?」
そう書かれた企画書を読み怪訝そうな顔をして、小狼はそれを持ってきた山崎を見る。
「そう、今度行われる『送別祭』の企画書。李くん部活入ってないでしょ?だから、重田くんと一緒に参加しないかなぁと思って。」
(そういえば重田も部活には入っていなかったな。)
山崎に言われてそんな事を思い出していた小狼。
小狼に説明していた山崎がクルッと『あなた』に向き直り人差し指を立てる。

「『送別祭』っていうのはねぇ…。」
元々はある部活が始めた『卒業する部活の先輩のための送別会』だった。他の部活の生徒も真似をし始めて学校全体に広がった。学校側は生徒が自発的に始めた素晴らしきイベントとして特に禁止をしているものではないが、公認の学校行事ではない。毎年二月の最終土曜日に校舎、体育館など『送別祭』のために解放してくれる。
なので予算も部活内で収めなければならないし、準備も放課後や土日に学校が解放している時間のみ。それでも毎年、クラスも学年も関係なく有志で集まった生徒たちの参加もある学校の伝統行事になっていた。ということもあり一般の人も来客する大きなイベントなのだ。

「ね、面白いでしょ?」
そう言うと山崎は小狼に笑顔で「参加しようよ」と勧める。
「俺は二月の土日は家の仕事で香港に行くことが多いから、準備とか手伝えない。それに部活じゃないなら予算とかどうなっているんだ?」
香港での仕事はもちろん、日本にいても書類の束がどっさり郵送されてきているので、平日もそれの処理に追われている。書類の残量を思い浮かべながら小狼は、軽く握った手を顎に当て、企画書にもう一度視線を落とす。

「あ、それは大丈夫。ほらここにも書いてあるけど、サッカー部、バレー部、バスケ部…あと交渉中が、テニス部と他幾つか。これらは毎年的当てゲームで景品がもらえる出し物だったんだけど、景品をこの『帰宅部喫茶』のお茶とお菓子にしようと思ってね。予算はそこから出すんだよ。」
ニコニコしたまま山崎が答えた。

「タメの他にも二年の生徒にも声かけた。中には李が参加確定なら、参加するって女子もいたぞ。」
小狼と山崎の間に入ってきた重田はニッと笑って小狼を肘でつつく。それを見向きもせず手で払う小狼。
「バスケ部は何人か『帰宅部喫茶』(こっち)の手伝いに人を出せるぞ。俺は当日コートの方だけどな。」
重田の後に水木もやってきて、小狼の持つ企画書を指で弾く。

この春友枝中学校に入学して同じクラスのこの四人は、良く連んでいるのだ。
「みんな、結構やる気なんだな。」
学校行事は嫌いじゃない小狼。参加しないのはちょっと惜しいな。と思っていた。

そこへ千春とさくらもやって来た。
「山崎くん、チア部もそれに参加するよ。今、先輩に確認取ってきたら、去年は水泳部と一緒にやったんだけど、それって仲良い人がいたらなんだって。今年は繋がりがないから…ね?さくらちゃん。」
千春の言葉にさくらが頷く。
「本当!?千春ちゃん達がいてくれると助かるよ!…うーん、そうなるとやっぱり名前変えた方がいいかなぁ。『よろず喫茶』とか?」
千春の言葉に喜びながら何やら考え込む山崎。

「さくらちゃんも説得してくれない?コイツ悩んでんだよ。」
重田がさくらの隣に移動して肩に手を乗せる。

パシッ!!!

その手を叩く小狼。人の彼女に勝手に触れるな。と言わんばかりに。というか言わずにはいられない。
「名前で呼ぶなっ!(ガビッ)馴れ馴れしく触るなっ!!!(ガビガビ)」
「なんだよ。いーじゃんケチ。お前がサッサと決めないからだろ。」
と言ってもこう返って来くることは解っていることで、重田にとってある意味ご挨拶なのだ。小狼はどう思っているのかは定かではないが。

「小狼くんも一緒にやろうよ。」
さくらが少し首を傾げて小狼を見上げる。学年の中でも小さい方のさくらは成長期でどんどん背の伸びて行く小狼をこうして見上げる。小狼はそんなさくらを優しく見下ろす。

皆が誘ってくれるのもうれしい、それにクラス関係なく参加となればさくらとだって一緒に出来る、絶対に楽しいに決まっている。それは解っている。小狼はそう思っていた。

「李は忙しいからなぁ。当日だけでも参加しろよ、むしろ参加すべきだ。準備は任せとけって。」
そんな小狼の気持ちを悟ったのか、重田は小狼の両肩にポンと手を乗せ、ウンウンと一人で納得したように頷く。そういうところが重田の良いところでもある。小狼も重田のそういうところを解っていたりする。

小狼は珍しくその手を外そうとせず、片手を顎にもう片方の手には企画書を持ち、それを見たまま2月の予定表を頭に思い浮かべる。仕事は入っていない。香港に行く予定もない。

「本当に、当日だけでもいいのか?」
「「「「「勿論っ!!!」」」」」
その場にいる全員が答えた。こうして小狼の参加が決定したのだった。


※ ※ ※ ※ ※


こうして始まった『送別祭』の準備。廊下の隅や教室のロッカーの上、部室などに準備の道具が立てかけてあり、校内はお祭りの雰囲気が混ざった空間へと変わっていく。それを横目にバレンタインが過ぎ、定期テストも終了。いよいよ『送別祭』が明日に迫った金曜日の放課後のこと。

「『送別祭』は明日なのに、すまないな。」
今日中に香港宛に送らなければならない書類の処理が残っているので『送別祭』の準備には参加出来ない小狼は申し訳なさそうに、準備に勤しむ仲間を見ていた。
「お仕事だもん。みんなで準備終わらせるから、だいじょうぶだよ。」
小狼の隣に立つさくらは幾つもの絵の具の筆を持っていた。それに気が付いた小狼が指を差す。
「今日は何をするんだ?」
「えっとね…。入口の看板の色塗りだよ。小狼くんの分まで私が塗るからね。」
さくらは筆で色を塗るような仕草を見せた。

そんな二人のやりとりを見ていた重田と山崎。
「そっちの方はどうなってる?」
「大道寺さんが裁縫が得意でね、ユニフォーム…あ、彼女風にいうと『コスチューム』は皆の分も着々と完成しているみたいだよ。」
「なんて言ったって、代々受け継がれる喫茶店なんだからな。失敗は許されない…。」
「勿論だよっ!重田くんっ!!伝統は絶やしちゃいけない。」
二人は固い握手を交わした。

そんな二人の固い握手姿に首を傾げつつ、小狼が二人に声を掛ける。
「すまない。結局準備に参加できなかった。」
「準備は任しておいてよ。」
にこやかに山崎が答える。
「お前は、本番で頑張ってくれりゃいいからさ。」
重田もニッと笑う。
「ああ。準備を手伝えない分、明日はしっかりやるから。」
そう言って、軽く片手を上げ小狼は帰って行った。



※ ※ ※ ※ ※


そして当日。

「さくらちゃん可愛いですわ~!!!!!」
最新の高性能ビデオカメラを構えた知世がいろいろな角度からさくらを撮りまくっていた。
「//////と、知世ちゃん…。」
真っ赤な顔で俯いたさくらはワインレッドのベロア生地で出来た膝丈ワンピースに白いふわふわのペチコートと白のタイツ、フリルをふんだんに使用した白のエプロン、レースたっぷりの白のヘッドドレスのメイドさん姿だった。

「可愛いよ、さくらちゃん。」
「素敵~。」
「さすが木之本…チョー似合ってる。」
その場にいる誰もが見惚れていた。

「ど、どうかな////。」
さくらは小狼の前にやってくると、頬を染めたまま俯き加減に上目遣いで尋ねた。
「に、似合ってる…//。」
さくらのあまりの可愛さに小狼のやっと言えた一言だった。
それでもさくらにはちゃんと伝わっているようで、嬉しさと恥ずかしさが混ざった微笑みで、
「ありがとう///。」
と答えた。

勿論、この『帰宅部喫茶』…山崎によって変更された『よろず喫茶』はさくらだけでなく他のチアリーディング部のメンバー、小狼目当ての女子たちもメイドさんの姿なのだが、さくらが一番似合っていた。

「俺らもそろそろ着替えないとな。」
重田が小狼の肩をポンと叩く。
「ああ…。」
そう言って小狼は重田と共に男子の更衣室のスペースとして仕切られたカーテンをくぐり抜け入っていく。

「どういうことだっ!!!?聞いてないぞっ!!!!!」
更衣室から聞こえた小狼の怒りともいえる声に皆が「何?」という顔をした。一部を除いて。
「喫茶店だよ。言っただろ。」
「これは、聞いてないっ!!!!」
「当日はしっかりやってくれる約束だろっ!」
「…っ!!!!だけどっ!!!」

そんな二人の声だけを聞き不安になったさくらと千春が山崎に尋ねる。
「ねぇ、あの二人、大丈夫なの?」
「なんか…小狼くん…怒ってるような…。」
さくらは心配で更衣室の方を見る。
「ん?大丈夫だと…思うよ。」
慌てもせずに看板を固定するためにガムテープを張り付ける手を止めようとしない山崎。

程なくして、重田がカーテンから顔だけ出した。
「大道寺、頼む。」
「はい。」
呼ばれることが解っていたのか、知世はメイクアップボックスを持ってカーテンをくぐって行った。

「こ、これだけは勘弁してくれっ!!!」
「ここまで来たら俺はやるよ。」
「まぁ…重田くんはやる気のようですけど…。」
「…む、無理…。」

小狼と重田、知世の怪しい会話だけが教室に響く。
「ねぇ…なにやってるんだろう…小狼くん、だいじょうぶかな…。」
不安げなさくら。

するとカーテンが開き重田に押されるようにして小狼が出てくる。
「しゃ、小狼く…ん…//。」
そこに現れた小狼の姿を見てさくらは固まった。

その姿はワインレッドのベロア生地で出来た膝丈ワンピースに白いふわふわのペチコートと白のタイツ、フリルをふんだんに使用した白のエプロン、肩にかかる位のブラウンのウィッグにレースたっぷりの白のヘッドドレスを着けたメイドさん。
そう、さくらと他の女子達と同じ格好をした小狼。とその後ろに重田。ちなみに重田は化粧をバッチリしている。

「「「おお…。」」」
その場にいた男子誰もが声を出した。そして誰もが思う。
(李ヤバイ…//。)
(…可愛い…//。)
「なっ!俺の言った通りだろっ?」
小狼の後ろから、重田が満足そうに山崎に言う。
「重田くん一押しだったもんね~。」
あははは~。と山崎が楽しそうに笑う。

「////////////。…なんで…俺が…/////。」
真っ赤になって俯く小狼。さくらはその傍に寄り添い心配そうに顔を覗き込む。けれども。
(…ごめんね。小狼くん…とっても可愛いよぅ…。)

「お化粧もする予定だったのですが…李くんどうしても出来ないとおっしゃいまして…。」
知世は頬に手を当て残念そうに呟く。
「スッピンなんだよね…。そう見えないくらい…。」
「綺麗だよ~。」
「可愛い~。」
他の女子も小狼の姿の可愛さに口々に褒める。もともと端正な顔立ちな小狼。それに中学一年生というお年頃は、完全に男子というよりまだ何処か幼さが見え隠れするそんな事も重なったのだろう。
しかし本人はこの世の終わりが来たような顔をしていた。



こうして始まった『送別祭』の『よろず喫茶』は「可愛いメイドさんがいる」という噂が一気に広まる。客の目当ては『木之本 桜』と『李 小狼』大行列ができた。

約束してしまったこともあり、真面目な性分の小狼は渋々仕事をこなす。笑顔はなかったがそれがまた『ツンデレメイド』となって違う意味でも人気を増す。しかも「『小さい狼』っていうより『シャオニャン』だな」などと重田が言ったものだから人々は口々に「シャオニャン」と声を掛け、その度に「ガビガビ」する小狼だった。

「シャオニャンちゃん、こっちのオーダーも頼むよ。」
通り過ぎたテーブルの客が声を掛けるとスタスタ歩いていた足を止め、小狼がクルッと振り返る。するとワインレッドのスカートとエプロンのフリルがふわりと広がってペチコートがチラリと見える。ブラウンの髪(ウィッグ)もふわり。
「少々お待ちくださいっ!!(ガビ)」
そして小狼はまた踵を返して歩いて行った。
(か、可愛い///。)
「なぁ、後で李と写真撮ろうぜ…。」
そんな事を話す客の男子生徒達。

「李くんのあのスカートふんわり感。さくらちゃんに負けず、可愛いですわ~。」
「と、知世ちゃん…。」
ビデオカメラを手に知世はうっとりしていた。



大繁盛で幕を閉じた『送別祭』。片付けも終わり、元の教室に戻った頃には太陽も沈み終わった頃だった。そんな教室には何時もの制服に身を包み、帰り支度の済んだ何時もの仲間。
「『帰宅部喫茶』はね~、伝統なんだよぉ。」
山崎はあはは~と笑いながら言い、
「そうそ、俺の兄貴の代から始まった伝統。」
重田は胸を張って、
「俺も部活の先輩から話を聞いてた。…すまん李。」
水木は申し訳なさそうに、
「あっ!それって…お姉ちゃんが言ってたやつかなぁ。」
千春はポンと両手を合わせて何かを思い出し、
「千春ちゃん知ってるの?」
さくらは首を傾げて千春に尋ね
「…皆、知っていたのか…。」
小狼はうなだれた。

『帰宅部喫茶』……重田の兄の代の人気がある男子数名がふざけて始めた女装のメイド喫茶。それから毎年のように、その喫茶店は何処かしらがやっているという人気の出し物。
言い出しの重田は兄から。山崎は生徒会関係から。千春も二つ上の姉から、水木も本人が言うように部活の先輩から…。このように知る人ぞ知る伝統なのだ。

「来年もやるか?」
「ぜっったいに、やらないっっ!!!!!!!」






END





◆◇◆◇後書き的な◇◆◇◆
小狼くんの可愛い姿…これも良く他のところでお見掛けするネタだと思います。学芸会のオーロラ姫の影響なのでしょうか。私もやってしまいました…。桃矢のシンデレラのこともあり、高校生の文化祭ネタとかあると思うのですが、可愛く表現したかったので(汗)私の中では中学生にしました。
妄想設定で、成長途中の小狼くんの身長は175cm手前くらい。と勝手に設定。このくらいの身長なら女子もいるでしょ?割愛しちゃいましたが、メイドちゃん姿で校内を歩いてて本当に女の子と間違えられる…とかそんな感じの妄想…。

※千春ちゃんのお姉さんは漫画で千春ちゃんが話しているシーンがあるのでこれは本当です。一巻参照。