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  歌うパステル画家5*SEASONの蒼いブログショー
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  5/26(金)、5/27(土)、5/30(火)、5/31(水)です。


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『稲に くちづけ』



時が過ぎ行く早さは
この地球上で生きているものに対して、
分け隔てなく平等に流れて行く。だから当然、
我が故郷の京都にも、現在 住んでいる東京にも、
先月訪れた山梨にも新潟も、
同じ太陽がのぼり、同じ間隔で月は満ち欠けを繰り返す。
時間は同じ速度で過ぎている、なのに、
東京の、特に都市部の時間は過ぎゆくのが早く、
対して田舎はゆったりとして風景に横たわる。
それは子どもが持つ時計と大人の時計が
異なる速度で進んでいるのに似てる。
子どもの頃、あんなにも長かった1ヶ月が、1年が
今や半月や半年ほどにしか思えなかったり。
都会が持っているのは大人の時計だ。

じゃあ、時計の速度は何をもって早まるのか、
たぶん時の流れを遮断する“締め切り”のせいだと私は思う。
仕事上の締め切り、友だちとの約束も締め切り、
遊びたいという計画も、恋人との待ち合わせも、
流行という短命な情報も、買い物という契約も、
そうして、達成したい目標・・・、
これらは言葉は違えど、どれも課せられた締め切り。
大人は数々の締め切りを
確実にクリアしていくのが日常で、
考えようによっては毎日毎日、何かの締め切りをこなす。
ゆえに締め切りに追い回されるはめになると、
時計の速度は一段と早くなるわけで。

そして都市の景観も“締め切り”が多い。
締め切りというか、
風景を遮断する“壁”と言った方がいいかな、
建物や広告のための看板、音、人波など、
目に映る物体が圧倒的に多い。
そう、横に広がる田舎の風景は1つのフレーム、
けれど、物が多く縦に長い都会は
風景が細かく遮断されるため、
忙しく視点を動かさねばならない。
必然的に早く早く早く、となり、
街は合理的に造られ、重視されるのはスピード。
とーぜん、時計の回転速度は田舎より早い。

では都会と田舎では、どちらが充実していて、
どちらが豊かな生活を送れるのか…となると、
手垢のついた言い方になるが各人の価値観によると思うし、
一概には言えない、が、言い回しを変えると いったい、
どちらが人間という生き物らしくて豊かなのか、
となると言わずもがな、田舎の風景、つまり
子どもの時計を持つことだと、一絵描きの私は信ずる。

子どもの頃、永遠に続くと思われた日々。
締め切りは少なく、
あったのは試験と宿題と友だちの約束と。
美しいと思ったのは、田園の緑や水辺の流れ、
そよ風のささやき、足元の虫のウゴメキ。
建物が少ないため風景が締め切られることは少なかった。
こんな私は小学校を卒業するとき、
クラスメートが たった11人だった。
間違いなく田舎の学校で、
時間は有り余るほどゆったり。卒業後、
中学・高校・専門学校・社会人 >>> 物作りという経緯で
現在は大都心に暮らす。一日は早い。
先月、育った田舎に帰ったけれど、
卒業した小学校は とうの昔に建て直され、
田畑は切り開かれ、あの頃と同じ風景はもう消えた、
今や葉上の露に似た田舎の風景は、
都会で せせこましく生きる者にはファンタジーですらある。
だから、思う。取りかえせないからこそ、愛おしく
ときとして涙が込み上げるほど、
失われた風景に胸が痛く、切なくなる。

映像を観ているだけで涙が落ちた。そんな映画を観た。
いったいどんな映画なのか、観たいぞっ! と、
切望していた映画『天然コケッコー』の舞台は
小・中学校を合わせて、たった7人という過疎の村で、
時計は 当然ゆっくり ゆっくりと進む。
おそらく、私が過ごした幼少時代よりも
主人公のそよちゃん が持つ時計はゆるやかだ。
そんな彼女にも、いざこざや不満も多少あるが、
村はいたって平穏、大事件はおこらない。
しかし、のどかな村に、
ある日、東京から転校生がやってくる。
なんという大事件! しかも
転校生はそよちゃんと同じ年で、
かなりのイケメンさん! 沸き立つ村!
ド田舎に「東京そのもの」がやってくるのだ、
これはファンタジーの中に
突如として“現実”が放り込まれたようなもの。
さてさて。田舎は現実を受け入れられるか?

そよちゃんは戸惑いながらも、ゆるやかに成長し、
やがてファンタジーから巣立つ日を迎える。
とはいえ、現実に流されることはなく
あくまでも彼女はファンタジー=田舎者。
一方、「東京者=現実」の大沢君も、
ゆっくりな時計を持つことで しなやかに変化していく…。

映画はそよちゃんと と大沢君の
ゆれうごく心を描いているが、これは恋への序章。
まだ恋とは言い切れない、ほのかな芽生えであって、
狂おしいほどの想いを募らせるには、
映画が描いている村はあまりに楽園なのだ。

この映画の中に私が好きなシーンはたくさんあって、
中でも そよちゃんが卒業する日、
黒板にくちづけをするところは ある意味、官能的。
私の過去を振り返ると、
あれほどの教室へ寄せる心情はなかったから
うらやましくも愛おしくて、泣けてきた。
で、思う。私がもしも、くちづけするのなら…?
絵描きとしてはパステル…?
いいや、田園に伸びる一筋の稲、だろうか。

この映画は私がもっとも敬愛する人、
くらもちふさこ先生の原作をお見事! に影像化。
ひと夏の思い出に相応しい2時間だった。
なんだか夏休みが今始まった気分。


★★★★★★☆ 7点満点で6点
原作がいい、脚本がいい、音楽がいい、影像がいい、
監督がいい、そよちゃん役の夏帆ちゃんがいい、
そもそも映画がものすごくいい。
ダメ出しをするなら父親役の佐藤浩市さん、かなぁ。
悪くないんだけど、あまりに東京そのもの…
田舎になりきれていない。
夏帆ちゃんや子役たちは田舎に溶け来ん込んでいるのに、
やはり大人の感性は固まっているんだろうか、
どうみても演技だ、
頑張って田舎者になろうとしているが見え見えで。痛い。

まず讃えたいのは脚本の渡辺あやさん。
私のバイブルともいえる『天然コケッコー』が映画化されるにあたり、
その脚本を担当されるのが『ジョゼと虎と魚たち』の
渡辺あやさんだと知り、この人なら大丈夫!
と胸を撫で下ろしたものだったが、その予感は的中。
渡辺あやさんは くらもちふさこ先生の世界を
充分に受け止め、敬愛している者ならではのセンスで
一本の脚本として完成させている、と思う。
台詞は原作に忠実すぎるぐらい忠実なのに、
単純に原作の筋を追うのではなく、映画を別物として
原作の流れを組み替えているところがスゴイ。
くらもちふさこ先生の きらめきを大切に思う人でなければ
このような奇跡に似た結晶はありえない。

山下敦弘監督の作品を、
私はこれまで観たことがなかったが、
映画の第一場面を観て、なんとはなしに分かった。
このお方は「映画監督」が何をすべき立場であるか、
至極 客観的に受け止めている人物なのだ。
料理でいうと「良い材料」をそろえるのが重要課題で、
あとは火加減とタイミングを逃さなければ、
極上の一品が出来上がるように、
この方は「良い人材」をそろえた後は素材が生きるよう
火加減に心血注ぐことに懸命な名シェフではないか。
なんていってしまうと、さも何もしていないようだけど、
実はたいへんな才能と潔さ…いや勇気が必要だと思う。
よって、映画『天然コケッコー』は
恋未満の「ことばに出来ない切なさ」を映像に残せた。

『天然コケッコー』はストーリーテラーではなく、
登場人物のキャラクター性が映画を構成している。
個性豊かな村のキャラクターが活き活きと動けば、
自然と物語は進行するのだ、田園時間で。
この映画はアートだ、と思う。だから、
観る度に新しい感動がやってくるだろう。

考えてみれば、くらもちふさこ先生の作品の中で
『天然コケッコー』は異質だ。そもそも、
東京をテーマに描きつづけていた くらもち先生が
地方の、しかも田舎を舞台にするだけでも異質だというのに、
それまでの先生の作品は劇的な見せ場が
必ず用意されていた。いわば日常を描きながらも
しっかり山場をおさえたハリウッド映画。なのに、
『天然コケッコー』は違う、あくまでも淡々と
変化のない日常をドラマティックへ走らず描かれる。
映画も劇画タッチではなく、少女漫画でもなく。
本来なら映画で表現するには難しい作品だけど、
全ての くらもちふさこ作品の中から三次元へ移行するなら
本作が最も“化ける余地”を秘めているという気がする、
なぜなら、原作『天然コケッコー』は詩歌なのだ。

原作は単行本全14巻で完結するが、
映画の方は そよちゃんが中学を卒業する、
6巻あたりでエンドロール。
今後、続編はあるんだろうか。
私としては観たいという気持ちが強いのだけど、
山下敦弘監督の手腕が素晴らしいので、
本作限りで打ち止めにしても良いような気もする。
ただ、脚本家の渡辺あやさんの監督による
『天然コケッコー・高校編』が実現したら面白いかも。

『天然コケッコー』は才能と才能が
良縁で結びついた傑作だと思う。
会うべくして会った運命的な映画なのだ。
つまり、自然の流れにそった自然の産物で
生命の泉だ、この映画は。
主題歌を手掛けた「くるり」の岸田クンが、
「この映画を観た後、日本の将来を考えた」そうだが、
それは私も同じだった、
自然に反する文明社会に暮らしているせいで。


*Home*

●「『天然コケッコー』映画化」の一報を得たときの私の記事
この時は不安と期待が入り交じってましたが、
どこかで信じていましたね、くらもち先生の幸運を!

●『天然コケッコー』公式サイト

●Amazon くらもちふさこ著『天然コケッコー』

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