元夫とまだ結婚前同棲していた1999年のクリスマスイブのこと。


暗くなり始めた夕方頃だっただろうか。


突然夫の携帯電話が鳴った。





着信名は「ショウコ」






ときどき元夫の携帯電話に連絡してくることがあった。


元夫は高校のときの同級生でただの友達だと言っていたので、週に一度かかってくる程度の電話は気にしていなかった。




ところが、このクリスマスイブの日は少しいつもとは違うかった。




テーブルの上で鳴っている携帯電話を元夫はなかなかとろうとはしない。




「電話でたら?」



「うん…。」




夫が電話に出ると、なんだか暗い雰囲気。




「…うん。そうやなぁ。…うん。

おい!泣くなって。そんなこと言っても無理やって。…おい!聞こえてるか???

まぁ、そういうことだから、悪いけど。」







あきらかにおかしいと思った。



不信感はたっぷり。



「何なの今の。」



「…ああ、あいつな。ちょっと頭がおかしいんや。」



「どういうこと?なんで泣いてるわけ?」



「知らん。」



「知らんわけ無いでしょ?」



「いや、だから、…花が欲しいって。」



「は?????」



「知らんがな。本人が花が欲しいって泣くんやから。」



「どういうことなの?」



「俺にもわからんわ。あいつ芸術家やから。


京都の芸大で彫刻作ってるねん。


芸術家ってのはちょっと頭のおかしいやつが多い。


ええやんか。今日はクリスマスイブやろ?


今日も明日も俺は一緒におるやんか


たかが電話の一本でそんなにムキにならんといてや。」





それ以上は何も言わなかった。


確かに私たちはずっと一緒にいるのだ。


元夫が京都にいる女に会いに行く時間など、どう考えてもない。


私は昼間仕事に行っているが、仕事をしていない元夫は私が駅に着くと必ず迎えに来る。


家に着いたらきれいに片付けてあって洗濯もしてある。ご飯の準備まで出来ている。


疑う余地は無い。






そう思うしかない。







この頃から少しずつ元夫に対する不信感が芽生えてきた。









このショウコという女。



後に結婚後も私たちの邪魔をするようになる。











無事クリスマスは過ぎ、私たちはお正月も一緒にすごした。



ただ私は家を飛び出すようにして駆け落ち同然で暮らしていたので、私の両親には私自身も少し会いにくい状況になっていた。



お正月明けに母親から電話をもらい、お父さんが話がしたいというので私たち2人は両親と共にふぐを食べに行った。



このとき元夫は、いずれは一緒になりたいという意思を両親の前で示してくれた。



2人でマンションに帰って将来のことについて話し合った。



2人でこんな家に住みたいとか、子供はどんな風に育てたいとか。



話しているうちに元夫はすやすやと寝息を立て始めた。



満月の光が降り注ぐ小さなワンルームマンションで、私を抱きしめたまま元夫はとてもやさしい寝顔だった。






幸せになれるような気がしていた。







両親も少しずつ私たちを認めてくれているようで、少しずつ2人の将来が明るい方向へ向かっているように感じていた。
















しかし…。














夫は私の両親の前でも、偽名を名乗り、嘘の家族構成、経歴を詐称。



彼が話す自分の話にはたったの一割も本当のことがなかった。
















そして、ついにその嘘が全てばれる時が来る。



結婚どころか別れに向けて一気に坂を下り始めた。







※次回に続く。