それにしても忙しい。うちの古本屋の古書目録の今月号は、「消費税増税対抗特価市」
と銘打って、全集もの半額とか、千円均一本と、従来の本を半額から7割引きまで思いきって打ち出した。世間が便乗値上げをしているときに、便乗値下げだ。その意気に感ずと、賛同するお客さんたちから、かなりのご注文がきて、いつもの古書目録より倍も忙しい。5000円の本が2000円、1万円の本が3000円と破格なので、大型本、豪華本もどんどんと出る。倉庫で眠っている過去在庫とわれわれは呼んでいるが、ネットには何年もずっと出している本ばかりだが、価格がやや高いのかなかなか売れない。それより、万がつく本はいまはそんなに動かない。そういう本を一掃するために、値下げして、入れ替える。勿体ないとは言っていられない。いい本もごろごろとあったのだと、出してきて初めて気がつく。
 中にはすでに売れているのに、データとして残っていて、いくら探しても見つからない本がある。データの消し忘れなのだ。『チボー家の人々』も何種類かあったのに、注文が来て探したら、ない。あんなにいっぱいあったのに、いつからかみんな売れていた。わたしの若いときに読んだ本だ。
 息子は、こんなに忙しく、うちは『多忙家の人々』だよと、洒落を言った。ありがとう。ブログのネタがなくて困っていたんだ。さっそくそれ、使わせてもらう。
 たまに店の女子が口走った言葉も採用することがある。するとすかさず、
「それって、ロイヤリティが発生しますよ」と、使用料を取るつもりなのだ。そんな無料のブログだ。どうしても、言葉に詰まり、書けないときもある。うんうん唸っても出てこない。トイレでしゃがんでも出ない。パソコンを前に一時間黙考。ダメだ。気分転換と、そういうときは、外に出たり、本を読んだりする。面白い話を息子や女子から聴いたときも、ヒントが飛び出す。さっそくメモする。

 今回の古書目録は嬉しかった。あれほど売れないで困っていた全集ものや大型本が、思い切った値下げでどんどんと吐けた。売場の本棚ががさがさになる。空いたところに新しく仕入れた本が入る。変わり映えしない本棚は死んでいる。お客が来ても、いつもと同じなら一巡して帰ってゆく。それが入れ替わり、新しい新入生の顔が並べば、おっと、目を輝かせる。たまに、在庫処分はしなくては。新しい風を本棚に入れないと。
 発送が大変であった。いつもより大きな本ばかりで、冊子小包よりも宅配便が多い。梱包材料が足りなくなる。重くて大きいから、体力も使う。息子は、税金の春に喜んだ。これからいろいろとまとまった金が出る。それで資金ショートするのだが、なんとか乗り越えられるようだ。足りないから、わたしの年金の虎の子まで借りた。それは来月の旅行費用だから、返せよ。利息は餞別でいいと、その額は高利貸しだ。これで、旅行の小遣いも増えるとにんまり。

 東京の息子たちもゲームを出したりすると、とても忙しく、電話も来ないし、長男なんかは年に一度しか戻ってこない。来月、東京に行くとメールしても返事もないくらいだ。会社に缶詰状態で、週に一度、土曜に家に帰っているくらい、毎日、会社で泊まりなのだとか。そこまでして、体を壊さないといいが。同じ都内で暮らして働いているのに、母ちゃんと娘は寂しがる。まるで、近距離出稼ぎだ。働きづくめでいいわけがない。休むときは休まないと。
 妹もまた忙しい。栄養士と料理の先生なのだが、調理師学校で教えて、大学で講師として教えている。それで、県の栄養士会では、あれこれと保健所の仕事を手伝ったり、新聞に書いたり、テレビに出たりと、引っ張りだこで、それでばあさんの施設には週に一度顔を出すのはわたしと同じか。前には、隣の家だったが、二週間に一度より顔を出さなかったほど忙しかった。

 東京の姉はアルミサッシの会社で長く設計をしているが、定年でも延長をお願いされたらしく、いまだに働いている。パートだったのが、正社員より長くきつい仕事を頼まれて、キャリアが見込まれ、頼みにされているようだ。帰ってから旦那の飯も作らないといけないのが、何時に帰っているのか。最近は忙しいので、デパ地下の半額値下げ弁当ばかりだとか。地方で働いている人より、都会の人は忙しい。労働時間の長さは違うだろう。青森なら、最終のバスは7時や遅くても9時にはなくなる。残業していれば、マイカーでないと、家に帰れなくなる。都会は夜中の1時近くまで電車が走っている。田舎時間と都会時間というのは明らかに違うのだ。
 青森の街に、夜7時に降り立った観光客は、まず驚くのは、商店街がすべてシャッターを下ろして、駅前のアーケードの歩道を人が歩いていないことだろう。新宿、渋谷のように真夜中でもごうごうと人が歩いている眠らない街ではない。さっさと帰ってから寝るのだ。夜は8時に寝床という家も珍しくはない。田舎は9時には電気が消えてさっさと寝てしまう。信じられないが、朝はその代わり早くて5時には起きて家事をする。外を散歩している人も早朝は目につく。

 北海道の姉も仕事はないにしても、何故かいつも家にいないし、電話にも出ない。どこに行っているのか、忙しく動いている。一人暮らしで気楽なのか、わたしのように様々なサークルに所属して、友達も多く、あちこちの家にお邪魔するのは、面白い性格だ。青森に来ても、じっとしていないで、商店街を一軒ずつ買うでもなく訪問して、主人と世間話をして、お茶をいただいてくるという、社交的で好奇心旺盛、厚顔無恥なところがある。自分で自分を忙しくさせているのは、わたしとよく似ている。以前は多趣味で、パッチワークと油絵、陶芸、短歌、国学院出だから古典文学と、いろんな会に首をつっこんで、楽しく老後をやっている。

 古本屋の息子も、週に三回は、仕事を終えてから近くのボクシングジムに通っている。高校生のときは県のチャンピオンで全国大会にも出たが、彼は、先輩たちと一緒になって、いまは後進の指導に当たり、トレーナーをしているのだ。土日はさらに競馬で忙しい。営業外収益を狙って、一パツ来いと、スマホで実況中継。

 我が家はみんな忙しい。フリーで隠居のわたしでもこんなに忙しい。年をとる暇もない。