2007年01月14日

ティエリー・エスケッシュの「赤とんぼ」

テーマ:演奏会批評

 パリのオルガニスト、ティエリー・エスケッシュ(Thierry Escaich)がシュトゥットガルトにやって来た。マテウス教会で行われているオルガンコンサートシリーズ、"Internationale Orgelkonzerte "に出演するためである。

 エスケッシュの作品はいくつか聴いたことがあるが、本人の演奏を聴くのは初めてなので楽しみにしていて、前からずっと行くつもりでいた。そうしたら今朝のホイマーデンでの礼拝の時、D牧師から招待券を2枚ももらってしまった。…というのも、D牧師はホイマーデンに来る前はマテウス教会の牧師だったので、いつもシーズン招待券をもらっていて、自分が行かない時は私にくれるのである。やった♪と喜んだものの、2枚ももらったのは初めてで、残念ながら一緒に行く人は見つけられず、1枚は無駄にしてしまった…_ _;


 1965年生まれのエスケッシュは、モーリス・デュルフレの後任としてSaint-Etienne du Mont教会でオルガニストを務め、またパリ音楽院で作曲を教えている。彼の作品は、典型的なフランスの現代ものという感じで、耳慣れない和音や音列を使っているようでいて、その響きは耳に心地良い不思議な世界である。

 作曲を教えており、フランスのオルガニストとあれば、即興の名手であろうことは容易に想像がつく。だから、このコンサートの最後、「聴衆から出された2つのテーマによる即興演奏」はもちろん楽しみだった。他にはエスケッシュ自身の曲が数曲、デュプレの前奏曲とフーガロ長調、トゥルヌミールの「過ぎ越しのいけにえに賛美を"Victimae paschali laudes"」による即興曲、私が好んで弾くレパートリーの一つであるフランクのコラールイ短調というプログラム。ロマン派のフランクを除くと、完全にフランス近現代のプログラムである。


 結論からいうと、エスケッシュはやはり近現代の曲の方が肌に合うらしい。いわば「取ってつけたように」プログラムに入っていたフランクのコラールイ短調は、ものすごく弾きにくそうに聴こえた。近現代の曲に戻るとまさに「水を得た魚」。近現代ばかりだと耳慣れなくて、困惑する聴衆がいるからフランクも入れたのであろうが、こういう人はフランクを弾いてはいけないのではないだろうか…(^^;)

 エスケッシュ自身の曲はもちろん、トゥルヌミールもデュプレも良い演奏だと思ったが、これといった個性が感じられないのが気になった。曲を上手く捉えて弾いていることに異論を挟む余地はないが、深く印象に残る演奏とはいえないのだ。エスケッシュ自身の曲も、典型的フランス現代ものできれいに作られてはいるのだが、他の作曲家のものとは違うエスケッシュの「個性」は?と問われると、答えられない。とはいえエスケッシュはまだ若い(1965年生)ので、そういう「味」はまだまだこれから出てくるのかもしれないけれど。


 そして…お待ちかねの即興演奏。聴衆から出された2つのテーマのうち一つはドイツの古い夕べの讃美歌、"Hinunter ist der Sonne Schein"(日の光は落ちて)。教会旋法の美しい讃美歌だ。そしてもう一つのテーマはなんと…「赤とんぼ」!!「♪夕焼~けこやけ~の赤と~ん~ぼ~~」なのである。

 念のため断っておくが、このテーマを出した犯人は私ではない(笑)。聴衆の中に私の他にも日本人がいて、「赤とんぼ」を出したのかと思って思わずキョロキョロしてしまったが、それらしき人は見当たらなかった。とりあえず2つのテーマを弾いてみて、ほんのちょっとだけ考える時間を取ったエスケッシュ、いきなり「赤とんぼ」の最初の音列を使ってトッカータを弾き始めた。「おお、こっちから始めるのか~」と思う間もなく、「赤とんぼ」のメロディーが提示され、そのメロディーが調や音列・リズムを変えて次々に展開される。

 いい加減「赤とんぼ」をいじくったところで、一転して曲の雰囲気が変わり、2つ目のテーマ"Hinunter ist der Sonne Schein"が提示される。この辺の技法も2つのテーマを扱う時の、フランス物の「お約束」である。そういう意味では即興のフォームとしては全く新しいとはいえなく、むしろオーソドックスといっていい。

 2つ目のテーマを展開させ終わったあと、また明るく華やかな雰囲気に戻ったと思ったら…両方のテーマを組み込んで華麗なるフィナーレへ。これはさすがとしか言いようがない。2つの雰囲気も調も全く違ったテーマを飲み込んでしまうフランスの即興スタイルというのは、ある意味恐ろしく幅が広いといえるのかもしれない。低音でとても力強く日が落ちていき、その中を赤とんぼがジェット戦闘機並みのスピードで飛び回る派手派手なフィナーレであった(爆)


 ところで今日は思いがけず、アンコールを要求する方法には2つあるということを学んでしまった…(^^;)

 トリの即興演奏をこれだけ派手にやったので、当然エスケッシュは何度も拍手で呼び返され、またアンコールに何か即興でもせねばならなくなるのだろうなぁ、と思っていたら意外や意外、拍手はエスケッシュを1度呼び返しただけで止んでしまったのだ。ただし…


 誰一人として席を立たない(笑)


 オルガン演奏台の陰から様子を伺っていたエスケッシュ、聴衆の「無言の圧力」に慌ててまたオルガンの前に座ってアンコール。そうかぁ、「まさかこれで終わりにするつもりじゃないでしょうね?」と無言で示すって方法もあったのね~(笑)


 結果として、即興演奏が最も印象に残ったコンサートだった。エスケッシュはやはり「即興の名手」と称するのが一番ぴったりなのかもしれない。ま、フランスのオルガニストは「即興が出来てナンボだから、当然と言えば当然なんだろうけれど。

 フランス風の即興技法もちゃんと勉強したいなぁ、と思いながら帰路についた私だったのであった。

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2006年06月24日

コンサートへ偵察に

テーマ:演奏会批評

 ワールドカップ・決勝トーナメントの第1戦、ドイツ対スウェーデン開催の日。だが、試合結果を見届られないまま、電車に乗って出かけた。夜7時半からの、オーケストラのコンサートを聴くためである。

 演奏するのは、メーリンゲンオーケストラ協会。地域に密着した形で活動を行っている、アマチュアのオケである。普段ならわざわざ聴きに行かないのだろうが、今回は何せ偵察である。3週間後には自分が振るオケなのだから、是が非でも聴いておかねばならない。


 会場はメーリンゲンの外れにある、大きな企業の建物の中庭だった。中庭といっても、ガラスで覆われていて、一応屋内である。Zueblin-Haus地域の人たちにとっては、サッカーの試合後家を出てくればちょうどいいぐらいの時間に開演、とあって、結構人が入っていてびっくりだった。もちろん、入場無料ということもあるだろう。

 夏のこの時期は、夜10時過ぎても明るいので、照明のいらない中庭のコンサートはとてもいい雰囲気だ。企業が地域のオーケストラに、こういうスペースを(たぶん無料で)提供するというのもドイツならではである。


 プログラムはオール・モーツァルト。10代の頃の作品(オペラの序曲やシンフォニー)が主だったが、前半のメインに「フルートとハープのための協奏曲KV299」が入っていた。もちろんソリストには、プロを呼んできている。

 メーリンゲンオーケストラ協会は弦楽器のみのオーケストラと聞いていたが、今回のプログラムには木管楽器も必要である。何人か、エキストラを呼んできているのだろう。

 もちろんかなり集中して練習したのであろうが、思ったより上手い。もちろん、微妙に音がそろっていなかったりという問題はあるが、音程もそう悪くないので、ちょっと安心した。


 職業柄、ついつい指揮者に目が行く。指揮者はがっしりした体格のロシア系の大男で、彼に代わって私が指揮台に立ったらかなり貧弱に見えそうだな_ _; と思ってしまった。だが、指揮そのものは特別にテクニックがあるという感じには見えなかった。彼もプロではないのだから、その辺は当然といえば当然なのだが、ただ非常に拍がはっきりしている。私も気をつけてしっかり拍を振らないと、と肝に銘じた。実は、合唱指揮は厳密に拍をはっきりさせなくても、手で表情を出せば通用することが多いので、ついついその調子でオーケストラを振って「拍がわからない」という苦情に悩まされる同業者が多いのだ。

 フルートとハープのための協奏曲のソリストも、なかなか息が合っていていい感じだった。テンポがゆっくりめだな、と感じただが、これはそういう解釈による演奏だったのか、それともオケがついてこれなかったので妥協テンポになったのだろうか?指揮者と二人のソリストがきっちりと合わせて演奏している感じで、それがうまく調和していてよかったように思う。


 かなり長い休憩が入って、後半はシンフォニー29番(KV201)1曲のみ。いい感じにまとめてあったが、コンサート全体を通して残念だったことが1つだけ…。サッカーでドイツが勝ったため、クラクションを鳴らしながら走る騒がしい車がしょっちゅう通りかかって、演奏の邪魔をしてくれたことだ。曲がモーツァルトのせいもあって、余計にうるさく感じられた。外の音をシャットアウトできるようなホールならいいのだろうが、やっぱり試合の日に中庭でのコンサートは避けないとね…_ _;


 終わった後で、オケのまとめ役Bさんに挨拶に行ったら、その場で指揮者のJ氏に紹介してくれた。3週間後のコンサートでは、J氏はコンサートマスターをやってくれるのだそうだ。普段の指揮者がオケにのっているというのもなんだか余計な緊張を強いられそうだが、私はオケのメンバーを全く知らないわけだから、かえっていいのかもしれない。

 にこやかに軽い挨拶を交わして、会場を後にした。さあて、3週間後はどうなるかなぁ…。

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