2008-06-07
はじめの一歩 ~25~
テーマ:はじめの一歩
公衆電話からの着信があったのは1ヶ月以上前
それからひとつも、欲しい人からの連絡は無かった
まるで、あの着信が嘘だったかのように
他人からの着信履歴に押し出され消えてしまった、公衆電話からの着信履歴
そして
タケルが私の家に転がり込んできたのも、同じ頃だった
荷物と言ってもボストンバッグひとつに
必要最低限の生活用具が詰め込まれているだけ
まるで2年前の私たちを見ているようで、懐かしく思えたのは
自分がタケルよりもまともな生活をしていて、
「可哀想だな…」と彼を哀れむ余裕があったのだろう
「ひとり暮らしなのに、何で2Kの部屋に住んでんのさ?」
「…まぁ、失恋女王とでも呼んでよ」
「あ、男と一緒だったのね」
タケルは小さく笑い、ぐるりと部屋をひとしきり見渡すと
部屋の隅っこにボストンバッグを下ろした
「俺は一畳分のスペースしか使わないから」と笑っていた
タケルと生活をするに当たって、何個かの約束事をした
・絶対にタケルの仲間や友達を部屋にあげないこと
これは当然だ
一応名目は社宅という形で借りているこのアパートに
黙って住まわせるのだから、騒ぎでも起こされたらたまったものではない
洋二の会社の社長の好意を無碍にする
こうしている時点で、もう好意は無碍にされているのだけれども
都合の悪い部分には目を背けた
・私が外出している時には、タケルも外へ出ること
一応学生であるタケルに、それほどの稼ぎがあるわけではない
日中も夜間も殆ど、外に出ている私の家の光熱費は他人と比べると
いつも大げさかと思うほど驚かれる
日中も彼を居座させ、その分、光熱費が倍にも膨れ上がったら困るのは私だ
それに彼は深夜勤のバイトをしている
毎朝同じ時間に会社に出勤する私を、
「起こしてまで泊めてもらうのは申し訳ないから」と言って自らバイトのある日は
泊まりに来ないと約束した
深夜コンビニアルバイトのシフト制の週5日勤務だったので
タケルにとっては週に2日、眠りに来る「無料の宿」であった
私のプライベートには絶対関わらないこと
合鍵も預けないこと
紛失や盗難があったら即追い出すこと
バイト代は出来るだけ貯めて、仕送りには一切手をつけないこと
そして
万一にでも洋二が帰ってくるような事があれば即座に出て行くこと
その約束を踏まえた上での共同生活
何度も何度も「ありがとー」と言って笑顔を浮かべるタケルとの
共同生活は…すぐに幕を閉じることになる
はじめこそは上手く行っているようにも見えた、タケルとの共同生活
私が会社から小岩のパチンコ屋に直行すれば
いつもタケルが居て、閉店間際までスロット台に噛り付いてプレイする
店が終わり、彼のバイトが無ければそのまま自転車を2人乗りしてアパートまで戻る
今考えても…おかしな生活だった
タケルには一切の恋愛感情を抱いていなかったせいか
まるで、女友達と部屋をシェアして暮らしているかのような生活だった
襖一枚を隔てて聞こえるタケルの寝息が聞こえない日は
少し寂しく感じた事を…タケルには言った事がない
そんな生活が続けば続く程、赤の他人の共同生活は
お互いの小さな不満が膨れ上がり、結果的に約束事が増え
雁字搦めの窮屈な生活になっていく
ある日、タケルの先輩がこう言ったことがあった
「タケル、今どこで生活してるんだよ」と…
当たり前のように、タケルは「綾ちゃんの家に居候中」だと答える
「はぁ?何で?」
「何で…って」
「付き合ってんの?」
「違いますよ~」
「じゃあ何?」
「居候、としか言えないです」
当然先輩も不思議そうな顔をしていたが、すぐに問題が起こった
3月
会社は卒入学シーズンの真っ只中で、会社は繁盛期だった
残業も多くなり、帰る時間も不規則になっていた
残業あがりで、パチンコ屋に行く気力も無かった
タケルは大抵、私が居なくともパチンコ屋に入り浸っていたり
そのままコンビニの深夜勤のバイトに行ってしまったりで不規則な生活だったし
私の会社の繁盛期に合わせて、遠慮するような素振りさえも見せ始めていた
ところが
忙しいにも関わらず珍しく定時で帰れた、とある日のこと
鍵穴に鍵を差込み、ぐるりと回せば小さくかちゃりと音がするはずだった
それが、今日に限ってはただ空回りするだけだった
「…閉め忘れたかなぁ」
寝坊した時など、時々鍵を閉め忘れることがあった
鍵を掛ける習性の無い、犯罪に対して・女の一人暮らしに対して危機感の無い
悲しい田舎者の名残が残っているのかもしれない
そんな事を考えながら、普段通りにドアノブを捻り、ドアを引く
「………」
何故か玄関に男物の靴がある
直ぐに目に飛び込んで来たのは…
いつもタケルが履いている、ボロボロの茶色の革靴だった
タケルは着る物に無頓着だ
故に、私のアパートに転がり込んできた時も、小さなボストンバッグひとつ
週に2日は同じ服を続けて着ているのを見たことがある
そんな彼がいくつも靴を持っているはずも無く
一張羅とは違うが、いつもこの靴を履いている
(何でタケルの靴があるの…?)
バイト代で新しい靴でも買ったんだろうか?
この靴、穴開いてるなんて平気で言ってたしなぁ…
特別不振にも、疑う事も無かった私
キッチンを横切り、襖に手を掛ける瞬間だった
「…お、おかえり」
「はぁ?どうしてあんたが居るの!?」
共同生活は早くも終了を知らせていた
赤の他人に親切心を押し付け、自分が救われたと思っていたけれども
当然、それは大きな間違いであった
*******************************
おまけ …前に公開していた部屋の見取り図
それからひとつも、欲しい人からの連絡は無かった
まるで、あの着信が嘘だったかのように
他人からの着信履歴に押し出され消えてしまった、公衆電話からの着信履歴
そして
タケルが私の家に転がり込んできたのも、同じ頃だった
荷物と言ってもボストンバッグひとつに
必要最低限の生活用具が詰め込まれているだけ
まるで2年前の私たちを見ているようで、懐かしく思えたのは
自分がタケルよりもまともな生活をしていて、
「可哀想だな…」と彼を哀れむ余裕があったのだろう
「ひとり暮らしなのに、何で2Kの部屋に住んでんのさ?」
「…まぁ、失恋女王とでも呼んでよ」
「あ、男と一緒だったのね」
タケルは小さく笑い、ぐるりと部屋をひとしきり見渡すと
部屋の隅っこにボストンバッグを下ろした
「俺は一畳分のスペースしか使わないから」と笑っていた
タケルと生活をするに当たって、何個かの約束事をした
・絶対にタケルの仲間や友達を部屋にあげないこと
これは当然だ
一応名目は社宅という形で借りているこのアパートに
黙って住まわせるのだから、騒ぎでも起こされたらたまったものではない
洋二の会社の社長の好意を無碍にする
こうしている時点で、もう好意は無碍にされているのだけれども
都合の悪い部分には目を背けた
・私が外出している時には、タケルも外へ出ること
一応学生であるタケルに、それほどの稼ぎがあるわけではない
日中も夜間も殆ど、外に出ている私の家の光熱費は他人と比べると
いつも大げさかと思うほど驚かれる
日中も彼を居座させ、その分、光熱費が倍にも膨れ上がったら困るのは私だ
それに彼は深夜勤のバイトをしている
毎朝同じ時間に会社に出勤する私を、
「起こしてまで泊めてもらうのは申し訳ないから」と言って自らバイトのある日は
泊まりに来ないと約束した
深夜コンビニアルバイトのシフト制の週5日勤務だったので
タケルにとっては週に2日、眠りに来る「無料の宿」であった
私のプライベートには絶対関わらないこと
合鍵も預けないこと
紛失や盗難があったら即追い出すこと
バイト代は出来るだけ貯めて、仕送りには一切手をつけないこと
そして
万一にでも洋二が帰ってくるような事があれば即座に出て行くこと
その約束を踏まえた上での共同生活
何度も何度も「ありがとー」と言って笑顔を浮かべるタケルとの
共同生活は…すぐに幕を閉じることになる
はじめこそは上手く行っているようにも見えた、タケルとの共同生活
私が会社から小岩のパチンコ屋に直行すれば
いつもタケルが居て、閉店間際までスロット台に噛り付いてプレイする
店が終わり、彼のバイトが無ければそのまま自転車を2人乗りしてアパートまで戻る
今考えても…おかしな生活だった
タケルには一切の恋愛感情を抱いていなかったせいか
まるで、女友達と部屋をシェアして暮らしているかのような生活だった
襖一枚を隔てて聞こえるタケルの寝息が聞こえない日は
少し寂しく感じた事を…タケルには言った事がない
そんな生活が続けば続く程、赤の他人の共同生活は
お互いの小さな不満が膨れ上がり、結果的に約束事が増え
雁字搦めの窮屈な生活になっていく
ある日、タケルの先輩がこう言ったことがあった
「タケル、今どこで生活してるんだよ」と…
当たり前のように、タケルは「綾ちゃんの家に居候中」だと答える
「はぁ?何で?」
「何で…って」
「付き合ってんの?」
「違いますよ~」
「じゃあ何?」
「居候、としか言えないです」
当然先輩も不思議そうな顔をしていたが、すぐに問題が起こった
3月
会社は卒入学シーズンの真っ只中で、会社は繁盛期だった
残業も多くなり、帰る時間も不規則になっていた
残業あがりで、パチンコ屋に行く気力も無かった
タケルは大抵、私が居なくともパチンコ屋に入り浸っていたり
そのままコンビニの深夜勤のバイトに行ってしまったりで不規則な生活だったし
私の会社の繁盛期に合わせて、遠慮するような素振りさえも見せ始めていた
ところが
忙しいにも関わらず珍しく定時で帰れた、とある日のこと
鍵穴に鍵を差込み、ぐるりと回せば小さくかちゃりと音がするはずだった
それが、今日に限ってはただ空回りするだけだった
「…閉め忘れたかなぁ」
寝坊した時など、時々鍵を閉め忘れることがあった
鍵を掛ける習性の無い、犯罪に対して・女の一人暮らしに対して危機感の無い
悲しい田舎者の名残が残っているのかもしれない
そんな事を考えながら、普段通りにドアノブを捻り、ドアを引く
「………」
何故か玄関に男物の靴がある
直ぐに目に飛び込んで来たのは…
いつもタケルが履いている、ボロボロの茶色の革靴だった
タケルは着る物に無頓着だ
故に、私のアパートに転がり込んできた時も、小さなボストンバッグひとつ
週に2日は同じ服を続けて着ているのを見たことがある
そんな彼がいくつも靴を持っているはずも無く
一張羅とは違うが、いつもこの靴を履いている
(何でタケルの靴があるの…?)
バイト代で新しい靴でも買ったんだろうか?
この靴、穴開いてるなんて平気で言ってたしなぁ…
特別不振にも、疑う事も無かった私
キッチンを横切り、襖に手を掛ける瞬間だった
「…お、おかえり」
「はぁ?どうしてあんたが居るの!?」
共同生活は早くも終了を知らせていた
赤の他人に親切心を押し付け、自分が救われたと思っていたけれども
当然、それは大きな間違いであった
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おまけ …前に公開していた部屋の見取り図







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