「あそこに建ってる古い家にさ、くるったババアのお化けがいるんだって!!」



誰がそう言い出したのか忘れたけど、そんな話になった。

授業が終わってすぐ、ランドセルを背負った私たちは、教室から飛びだした。

「ねー!そのおばけ、本当にいるか見に行かない??」

誰かが適当にそんな提案をした。


わたしはあまり乗り気ではなかったけど、

子供の世界はなかなか厳しく

その場から「わたし帰る」と言って、クールに立ち去った次の日の教室で

孤立した自分の姿を思い浮かべると身震いがして、

くるったババアのお化けを見る方がまだましだと判断していた。


作戦はこうだ

怪我をした妹を背負った姉が、玄関のチャイムを鳴らす。

何かしらの反応があった場合、

「妹が怪我をしているので、中に入れてくれませんか?」と言う。

そしてお化けが出て来るのを待つ。


今思えば、すごくばかばかしい作戦だ。

お化けがわざわざ玄関のチャイムを聞いて、玄関を開けに来るというのだ。

子供の発想はいつの時代も素晴らしい。。


さて、子供だった私は、そんなことを思う訳もなく

真剣にそのばかばかしい作戦を聞いていた。

メンバーは6人で、わたしは当時どちらかというと目立たない方だったので

傍観者を決め込んでいた。


「もっちゃん体小さいから、怪我した妹役ね!」


この日ほど、自分の体が小柄である事を呪った事は無かった。

思えば、小学校入学から卒業迄

わたしの前習えは 〈 | 〉 こうだった。

みんなは  =| こう。

わたしは 〈 | 〉 こう。

。。。。

さようなら、お父さんお母さん、弟、おじいちゃん、おばあちゃん、、ひいおばあちゃん、、

ちょっと気になってたユウキ君。。

気になるって言ってもみんながユウキ君の事好きだっていうから乗っかっただけだけど、、

まあ、そこそこ好きだったよ。。。でも、光GENJIのカー君の方が上かな。。

さようなら。。短い人生だったけど、モトミは太く生きました。。。


そんなことを思い、現実逃避していたら終わってたりしないかな。。なんて考えていたら、

残酷にも作戦は着々とすすめられていった。


6人の中で一番体が大きいはるみちゃんと

一番体が小さい私が、はるみちゃんにおんぶしてもらう形になって、

くるったババアのお化けがいるという家に

一歩一歩近づいていった。

その時間は永遠にも思えた。

はるみちゃんにおぶさって、びっしょりと汗をかいていた。

はるみちゃんはそんなわたしを気遣って

ぽんぽん と背中を叩いてくれた。

はるみ、なんてイイ女なんだ。。



家の前につくと、なんともいえない陰気な空気を感じた。

作戦通りチャイムを鳴らす。




ピンポーン



おねがい。。。おねがいだから出ないで!!!



。。。



額から汗がしたたりおちた。はるみちゃんはどんな顔をしていたかわからないけど

私たちはまるで本当の姉妹になったような気持ちで

しっかりと震える呼吸を合わせていた。






ガチャ




。。。。。。。。。


インターフォンを取る音がした!!

たしかにした!!

ぜったいにした!!!



きゃーーーーーーーーーーー


わたしたちはとにかく逃げた!!

くるったババアのお化けに気づかれないように

ひたすら逃げて逃げて逃げまくった!!!!




そこからは全然覚えてない。

けど、その日以来6人は、その話を一切する事はなかった。




くるったババアのお化けが本当にいたのかはわからない。


けど、そこには悲しい物語があったかもしれないなんて

幼すぎる私たちは気づくはずもなかった。


逃げさっていくとき

はるみちゃんはもう一度わたしの背中を

ぽんぽん と叩いてくれた。