深夜2時、
静まり返った宮殿は虫の音さえも聞こえてこない。
闇夜に浮かぶ青白い月が薄いカーテンの隙間から細長い明かりを部屋の中に忍び込ませている。
「迷いはないのか?」
ジルの甘く低い声がリオナの耳元で囁く。
その美声に彼女はうっとりと瞳を閉じると、小さく頷いた。
「もう、決めた事よ、ジル様こそ・・・いいの?」
「ああ、俺はリオナの傍にいるよ」
「でも」
「元々、宮殿に居座るのは向いていない。窮屈で仕方ないよ」
「ありがとう」
「だけど、マリーは残念がるだろうな、話し相手が居なくなると泣くんじゃないか?」
「あら、マリー様にはライアンが居るじゃない」
「ライアンねぇ・・・」
全幅の信頼を寄せるジルの片腕、ライアンの名前が出たところで、彼は眉に皺を寄せた。
ライアンの事は仕事をする上でも、人間的にも信用している。
最も頼りになる男だ。
しかし、一人の男として考えると・・・
「大丈夫よ、そりゃ、ライアンって少し頼りなくて、優柔不断で、押しが弱いけど、マリー様のことを心から愛しているのは彼だけよ」
「リオナ・・・なんか・・毒舌になってないか?」
「そう?ありのままのことを言っただけだけど・・・確かに身分違いの恋だから障壁は高いわ。でもそこは駆け落ちするくらいの強引さが欲しいわね、ってマリー様と話していたの」
「駆け落ちって、お前・・」
「あら、いいじゃない?それくらいの覚悟がないと男として情けないわ~」
瞳をキラキラと輝かせて微笑むリオナに、ジルが苦笑いをしたのは言うまでもない。
(完全にマリーに影響されてるじゃないか・・・!)
※
深夜までリオナと話し込んでいたジルは眠たい目をこすりながらも、兄、ジャスティンが仕事に使う部屋に向かった。
早起きにジャスティンなら、もう起きているに違いない。
コンコン・・・
「ジャス?入るよ」
「ああ、珍しく早起きだな・・・というよりは、寝てないって顔だな」
「ご名答。ジャスこそ、ラドゥーンの姫を放っといていいのか?」
「彼女は朝が弱くてね、まだ起きないさ」
「未来の皇后陛下だ。大事に扱えよ」
ジルはそう言いながら、ジャスティンが座ってる向かいの席に腰を下ろした。
「・・・どういう意味だ?」
「そういう意味だ。皇帝になるのはジャス・・兄貴に任せるよ」
「お前・・」
「俺より適任だろ?と、言うより、俺とリオナは旅に出ることにした」
「はぁ?」
「リオナがさぁ、ユリアスの形見の骨を持って世界中を回りたいって聞かないんだよ、見ることの出来なかった世界を見せてあげたい、ってさ。俺はそれに同行することにした、だから、皇帝なんかになってる暇がないんだよ」
「それは・・また、ぶっとんだ発想だな?」
ジャスティンはどう答えていいのか分からず、喉を鳴らして二三度頷いた。
「まぁ、遊び人の俺より地味で真面目なジャスの方が皇帝に向いてるってわけさ、後の事はすべて任せる。その代わり一つだけお願いがある」
「何だ?」
「ジャスが皇帝になれば、その子供たちがまた帝位継承権で争うことになる。それはやめて貰いたいんだ。余程の理由がない限り、一番初めに生まれた皇子を皇太子と決めて欲しい。俺たちのような争いはもう、たくさんだ」
血を分けた兄弟でありながら、ずっと争い続けたジャスティン・ジル・マルティキュア。
生まれながらにして大人たちの陰謀渦巻く社会で過ごした苦しさは彼らが一番知っているだろう。
弟の言葉に、ジャスティンは大きく頷いた。
「分かった、約束しよう」
ルキア帝国の皇帝はジャスティンが適任だと思いません?♪
そして、ジルとリオナちゃんは旅に出ちゃいます。
優雅だな、全く(笑)