リンディス峠へ | 歩き人ふみとあゆみの徒歩世界旅行 Fumi's trek around the world on foot

リンディス峠へ

3月最後の週末はお客さんの数が多く忙しかった。しかしいよいよ3月も終わる。
箱根で仕事を始めて3ヶ月が経った。残り一月半。長いのか短いのか。
今日は午前休みだったので昼まで寝ていて、午後久しぶりに原稿を書いてみた。その一部。

ニュージーランド徒歩縦断の旅日記(2003年、南島 クイーンズタウン→クライストチャーチ)
*******************************************
リンディス峠へ
リンディス峠を越えてオマラマにむかう。
峠を挟んでタラスからオマラマまでの80kmの間には町も村もない。タラスで4日分の食料を買い込んで
出発する。
一日目の夕方、地図に地名の出ていたリンディス谷に着くが予想通りそこには数軒の家があるばかりだった。
飲み水をもらおうと道沿いに一軒だけある家に寄ってみると一人の老人が外で作業をしていた。
何か建築中のようだがそこには彼一人しかいない。
水をもらって話をしていて、その辺でテントを張ってもいいというので庭先で張らせてもらうことにした。
親切なことに彼はキッチンとシャワーまで使わせてくれた。二人で料理を一品ずつ作って分け合う。
彼の名はフェッカで70歳。もともとオランダ出身だがニュージーランドに移り住んで50年になるそうだ。
住居はワナカにあり家族もそちらにいて孫もいる。昔は大工をやっていたが、今は国内でも名を知られる
家具運送会社を経営しているそうだ。
この小さな家は彼自身の手による別邸であり、今はその家の横に大きな車庫兼倉庫をこれもまた自分で
建てている。
「これがわしの人生で最後の大仕事だ。もっと年をとったらここで住もうかと思ってね」
誰の手を借りるでもなく自分一人で楽しみながら作っているのだろう。ただ家族はこんな辺鄙な所には
住みたくないと言っているそうだ。老後を一人静かに暮らしたいのかもしれない。
翌朝7時に目を覚ますとフェッカは既に仕事を始めていた。トラックに付いたホイストを使って壁を組み
上げている。コーヒーを入れてもらって一緒に飲んだ後、別れ際に彼はこう言った。
「私もおまえさんのような旅をしてみたいが、ちょっと歳をとり過ぎた。じゃあ元気でな」