センニチコウの咲く頃におはよう。羊目線&…… | ケロのブログ

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特に何かしようという気はない。


センニチコウの咲く頃におはよう』
  羊目線




 いつもと同じある日のこと。

 僕は蘭の咲く丘で一人、寂しくて寂しくて泣いていた。

「おや、羊さんどうしたんだい?」

 誰かが声をかけてきた。

「何でもないよ……メェメェ」

 僕はただただ泣き続けた。

 すると声の主は何故か僕の隣に座った。

「私は、ただここにいるよ」

「メェメェ、メェメェ……」

 なんなんだろう、どうしているの?

 少し考えたけれど、全然わからなかった。

「ずっと隣にいるよ」

「メェメェ……メェ」

 優しい声に僕は声の主を見た。

 だった。でもとても優しい目をしてた。

「ここにいるからね」

「メェ……。寂しかったの

 狼なのに。怖いはずなのに。でも僕はそっと手を伸ばしてた。

 狼は僕の手をきゅっと握ってくれた。あったかくて、嬉しかった。



 次の日も、狼は蘭の咲く丘にやってきた。

「おはよう」

「おはよう、メリィさん」

 狼はメリィさんという名前なのだと教えてくれた。

 また来てくれたのが何だか嬉しくなって、僕は笑った。



 それから毎日、メリィさんは僕に会いにこの丘に来てくれた。

 どうしてなんだろう? メリィさんにとって僕はどんな存在なんだろう。

「メリィさん」

「なんだい?」

「どうして、僕に優しくしてくれるの?」

 僕は少し不安で泣きそうだったかもしれない。

「私も寂しかったんだ

「え?」

「だから一緒にいたくなったんだよ」

 メリィさんも、僕と同じだったの?

「そっか……そうなんだ。メリィさんも僕と一緒だったんだね」

 寂しいのは僕だけじゃなかったんだ。

「メリィさん、ずっと仲良しでいようね?

「もちろんだよ」

 あれ? メリィさん、今一瞬目をそらした?

 どうして不安そうな目をしてたの?

 でも、今は僕をウットリと見つめてくれる。


 僕を見てる。メリィさんが。でも……なんだか、変?


「メリィさん?」

「っ!!」

「どうしたの? そんなに舐めたらくすぐったいよぅ」

「あぁ、ごめん。可愛くてつい」

「えへへ! 照れちゃうよぅ」

 メリィさんは凄く驚いたようだった。笑ってごまかそうとしてるけど。

 だから僕も気づかないことにしたんだ。

 気づいてしまったら、今のままではいられない気がして……。

 あぁ、僕も狼に生まれていたらなぁ……。

 抱きしめてくれるメリィさんのあったかさが、僕は大好きだ。

 見つめていたら、ふいにメリィさんは泣き出した。

「メリィさん!? どうしたの? どうして泣いてるの?」

「何でもないよ、何でもないんだ」

 あぁ、やっぱりそうなのかもしれない。でも、僕は……。

「僕はここにいるよ」

「!!」

「ずっと隣にいるからね」

「……うんっ」

 メリィさんは僕を強く抱きしめてたくさん泣いた。

 あぁ、きっと……きっといつか僕はメリィさんを傷つける。

 どうして僕は狼じゃないの?

 どうしてメリィさんは羊じゃないの……?


 それからもメリィさんは、毎日毎日僕に会いに来てくれだ。

 優しいメリィさんとじゃれ合って、抱きしめられて、一緒にあの丘で眠った。

 あぁ、僕の大好きなメリィさん。

 好き、大好き。ずっとこうやって一緒にいたい……たとえ食べられてしまっても

「痛っ!!」

「っ!!」


 首に流れる生暖かい液体鉄の香り驚いて息を呑むメリィさん

 ハッとして僕から離れたメリィさんは、震えながら僕の首を見ていた。

 あぁ、とうとうきてしまった。

 僕が羊だったせいでメリィさんが傷ついた。

 壊れてしまう。嫌だ。メリィさん、僕から離れないで……。

「メリィさん……?」

「……っ」

 僕の声に、メリィさんは跳ねるように走り出した。

「メリィさん!!」


 いかないで!

 メリィさんは止まってくれなかった。

 追いかけたけど、あっという間に見失ってしまった。

 メリィさん、泣いてた。僕のせいで泣かせてしまった。

 すると、耳に届いたの遠吠え

 メリィさんの声だ! メリィさん!

 僕は走った。メリィさんの泣き声を頼りに走った。

 花の咲かない崖で、メリィさんの後ろ姿を見つけた。

 メリィさんはたくさん泣いていた。泣き疲れて座り込むまで泣いていた。


 あぁ、どうしたらいいんだろう……。

 もう、戻れないのかな。もう、いつものようにメリィさんといられないのかな。

 あぁ、どうしたらメリィさんに好いていてもらえるんだろう。

 狼に生まれていたのなら、僕が狼になれたなら……。

 そう考えていると、メリィさんがフラフラと崖っぷちに向かって歩き出した。


「メリィさん!!!」
 


「え?」

 いかないで! 僕を置いていかないで!

 死にたくなるほど傷つけてしまった、僕が。

 僕は傷ついてなんかないよ!

 メリィさんになにされたって、僕は構わないんだから!

「どう……して?」

 掠れた声のメリィさんは戸惑った目で僕を見た。

「メリィさん。僕、メリィさんが大好きだよ

 僕はメリィさんの目を見てハッキリと言った。

 言わなきゃいけないんだ。

 このままメリィさんを失いたくなんか無いもん。

「メリィさん、僕を食べたい?」

「!!」

「食べたいのに、ずっと我慢してくれてたんだね」

 僕はメリィさんにぎゅっと抱きついた。

 食欲を我慢して、それでも僕と一緒にいようとしてくれてたんだ。

 餌と変わらない僕を、こんなに愛してくれているんだ。

 僕に噛み付いて、こんなに心を痛めてくれてる。

 こんなに愛してくれるメリィさんになら、僕は。

「食べても、いいんだよ……?」

「っ!?」

 僕が呟いた一言に、メリィさんは目を見開いて驚いた。

 僕はしっかりとメリィさんを見つめた。。

 この気持ちに嘘なんてないって。

 たとえ食べられたって、僕は怖くない……。

「本当はちょっと気づいてたんだ。メリィさんが僕を食べたがっていたの」

「……っ」

「いいよ、僕を食べて。メリィさんにだったら食べられたっていいんだ、僕」

 そしたらひとつになれるでしょう……?

「……そんなの、そんな事出来るわけないだろう!!

 メリィさんはそう叫ぶと、泣き叫ぶように言葉を続けた。

お前と笑っていたいだけなんだっ! お前を食べてしまったら……。

 一人になってしまうじゃないか! お前がいないなんて!

 そんなの……そんな寂しい未来なんか、私はいらない!

 こんなに愛しいのに……なのに、お前が美味しそうで、私は……っ」

 メリィさんはポロポロと大粒の涙を零した。

「……嬉しい。メリィさんがそんなに僕のことを想ってくれてるなんて」

 僕はその涙まで愛しくてペロペロと舐めた。

「僕はどうして狼じゃないんだろうって、

 メリィさんはどうして羊じゃないんだろうって思った」

 話そう、僕の気持ちを。

「僕はメリィさんとずっと一緒にいたい」

「それは、それは私だって! でも……っ」

「僕がだから、メリィさんがだから……」

 これはどうしたって変わらないんだよね。変えられない。

 僕を傷つけることで、メリィさんが傷ついてしまうなんて……。

「お前を傷つけたくないんだ……っ」

「うん、僕もメリィさんを傷つけたくないよ」

 僕は優しく、でも強くメリィさんを抱きしめた。

「無理なのかな? 傷つかずに一緒にいるのって……」

「……っ」

 もしも同じ狼だったなら、同じ羊だったのなら……。

 きっとメリィさんも同じこと考えてる。わかるよ。

「こんなに大好きなのにね」

「私も……好きだ」

 生まれ変わったら……。生まれ変わりたい。

 他の方法もあるのかもしれない。でも、これ以上メリィさんを泣かせたくない。

 僕は、メリィさんにそっとキスをした。

「ねぇ、メリィさん。一緒にさ…………僕と一緒に、眠ろう?

 僕は言いながら一歩、メリィさんの身体を押した


「っ! ………………ダメだ」

「うん、でも眠ろう?」

 また一歩

 メリィさんは静かに目を閉じた。

 うん、わかってるよ。優しいメリィさん。

「ダメだ……」

 そう言っても、メリィさんは抵抗しない。また一歩

 メリィさんがクスっと小さく笑った。

 それは幸せそうな笑みだった。

 僕も幸せなんだ。メリィさんと一緒にいけるんだから。

 僕はメリィさんに会えたことでとっくに幸せなんだから。

「おやすみ、大好きなメリィさん」

「あぁ、おやすみ。愛しい私の羊」

 ふわりと舞う風に、メリィさんは僕を強く抱きしめた。

 優しいんだから。どうか次に目覚めたときは、一緒に愛し合えますように……。






 遠吠えが響いたあの花の咲かない崖の下。

 いつの頃からか、赤い赤い花が咲くようになった。

 愛しい者を永遠に愛し続ける花が。

 朝を告げるように花が目を覚ます。


「「おはよう」」 





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あとがき
羊目線で書いてみました。
羊の気持ちを読んでから、改めて
本文のセンニチコウの咲く頃におはようを
読んでいただけると、より深く意味がわかるかと思います。

ちなみに【センニチコウ】という赤い花の花言葉は、
「変わらぬ愛」「不朽」「変わらない愛情を永遠に」
です。

そして、羊が泣いていた蘭の咲く丘。
これはLAN、ネットの意味も含ませていたつもりです。
蘭の花言葉、
「変わりやすい愛情」

ネットの世界で変わりやすい愛情に翻弄され涙を流す子に、
これまたネットで出会った子が寄り添う。

無機質なPCに向かっていても、
ネットを通して画面の向こうに心ある人がいる
心を持って接したら、応えてくれるもの

花の咲かない崖は、ネットではなく現実を表現したつもり。
辛いことの多い現実、崖っぷちで泣く狼。

つまりネットの変わりやすい愛情に傷ついても
心を持って接したら、それは変わらぬ愛にもなれるものだ。

実際ネットで知り合った恋人達を数名知っています。幸せなことですね。

花の咲かない現実にも、変わらぬ愛の花を咲かせることが出来るものだ。

だからネットだからと人付き合いを軽く扱わないでやってほしい。
そこには心ある人がいるのだから。

そういうメッセージを実は込めて作りました。
一人でも多くの人に、この気持ちが届いたら良いなぁと思います。

拙い文でしょうが、読んでいただいてありがとうございます。