鉄欠乏性貧血の治療
鉄欠乏性貧血の治療には、輸血、鉄剤の経静脈的投与、経口投与がある。
輸血は緊急性があるとき(ショック、あるいは内視鏡を安全に行うためなど)に行う。
鉄剤の投与量を計算するために必要な数字は(もちろんおおまか)
循環血液量 (標準)体重の7.5%
Hb 1g中の鉄の量 3.4mg
経口投与された鉄の吸収率 10%
フェリチン1ng/ml が 貯蔵鉄8mgに相当
(フェリチンの目標値を60ng/mlとすれば、貯蔵鉄は60×8≒500mg)
MAP 1単位 140ml 全血の200ml由来
以上。
ここで症例問題
60kgの50歳男性、慢性的な上部消化管出血(2ヶ月来の黒色便)、Hb 4.5g/dlだがvitalは何とか保たれている。
この方は全治いかほどの傷病でしょうか。
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vitalは保たれているが、内視鏡を安全に行うために輸血する。
目標Hbを7g/dlとして、MAP 1単位中のHb量を26.5gとすると、
(7-4.5)g/dl×(60×0.75)dl =112.5g
112.5g ÷ 26.5 ≒ 4単位
もちろん、さらなる輸血の準備も万端として内視鏡へ。
安全に内視鏡が終わりました。胃潰瘍が確認されたが、止血の処置は不要だった。患者のHbは計算どおり7g/dlになった。
しばらくPPIを投与し胃潰瘍を治療せねばならない。そのため、鉄剤は最初は経静脈的投与とする。
目標Hbを9g/dlとして、
(9-7)g/dl×(60×0.75)dl×3.4mg/g=306mg
306÷40≒7
40mgの鉄剤を1週間経静脈的投与し、その間に食あげし退院とした。
外来で4週後FGS施行したところ胃潰瘍は軽快しており、鉄剤の経口投与は可能と考えられた。
Hbは計算どおり9g/dlだった。
目標Hbを15g/dl、フェリチンを60ng/ml(現在2ng/ml)つまり目標貯蔵鉄を500mgとし、
(15-9)g/dl×(60×0.75)dl×3.4mg/g + 500mg ≒ 1400mg
鉄の経口投与時の吸収効率を10%とすると、1400×10=140000mgが総必要量。
1日200mg2xで内服として、予想される内服必要期間は、
14000÷200=70日間
あとは、1ヶ月毎に採血でデータを確認しながらフォローアップ、といったところか。
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このように予想すると、本症例は診断時に全治3ヶ月、うち入院加療期間1~2週間、と推定できる。
これが胃がんだったら、まず治癒切除可能かどうかを診断することになる。
経験のある医師だったら、生活習慣や服薬歴などを問診し、これぐらいはさっと予想できる。
蛇足:経過中の外来で、飲酒・喫煙ばりばりのコントロール不良の糖尿病患者が喜んでも、HbA1cは偽性低値だと教える必要あり。胃潰瘍を契機に摂生するようになれば、不幸中の幸いであり、糖尿病担当医は大喜びだ。