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2005-11-30 17:48:08

別れ(その3)

テーマ:ビリヤード
それから数ヶ月ほどたった頃,カヤヌマさんの姿を一度だけ見かけたことがある。



カヤヌマさんは道路工事の現場で,交通整理の旗をふっていた。



雨のしのつく寒い日で,カッパを着てカヤヌマさんは立っていた。


私は反対車線を車で走っていたので停止することもできず,水滴のついた窓ガラス越しに見ながら通り過ぎることしかできなかった。



カヤヌマさんが,こちらに気付く様子は全くなかった。

私は車をとめて話そうと思えばできたかもしれないが,そんなことはカヤヌマさんも望んでいないだろうし,私も何を話してよいのか分からなかった。




私は,ただただ黙って通り過ぎた。





カヤヌマさんの姿が,バックミラーの中で,小さく,小さくなっていった。

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2005-11-29 19:30:40

別れ(その2)

テーマ:ビリヤード
数日してカヤヌマさんは退職を決意し,私は最終日,カヤヌマさんに会いに行った。


「ありがとうございました」

とカヤヌマさんが言う。



「僕の方こそ色々教えてもらったのに・・・。ホントにありがとうございました」


お別れ記念に一試合,などという気分にはとてもなれなかった。





私はこんな時,ぼんやりとしてしまって,励ましの言葉とか,気の利いたセリフのひとつも言えない。




たった半年だったが,よき先輩だったカヤヌマさんが去った。

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2005-11-28 18:11:53

別れ(その1)

テーマ:ビリヤード
ある日,店員のカヤヌマさんが沈んだ顔をして言った。


「ボク,ここ辞めるかもしれません」



詳しくは知らないが,何か店側とトラブルがあったらしい。
感情的なもつれもあるらしく,悔しさと失意が表情に滲んでいる。



私は,何も言えなかった。
ただただ,ショックだった。


カヤヌマさんはまだ若いが奥さんと子供がおり,これからどうするか途方に暮れているようだった。


「どこか良い働き口,知りませんか?」


私に紹介できるところなど,あろう筈もなかった。

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2005-11-22 17:45:44

中国人プレイヤーとの対決(その9)

テーマ:ビリヤード
少年の親が姿をみせなかったところをみると,彼はひとりでプールバーにやってきたのかもしれない。
たぶん,家族で宿泊していて一人でホテルの中を探検していたのにちがいない。


少年は部屋に戻ったら,両親に興奮しながらこの話をするのだろうか。


「いまね,いまね,面白いゲームをしてきたよ」
「どんな?」
「棒で,玉を穴に落とすの」
「ああ,それはビリヤードというゲームだよ」
「ぼく,またやりたいよ」
「おまえはまだ背が届かないだろう」
「そんなことない。ちゃんと出来たよ」
「…そうか。じゃあ今度いってみるか?」





そして10年後。
彼は,台頭著しい中国ビリヤード界においてメキメキと頭角をあらわし,果ては世界チャンピオンに王手をかける存在となるのである。

熱狂した人々は,彼をこう呼ぶだろう。

「ヒー・イズ・ア・ライジング・サン・フロム・チャイナ」(中国から昇る太陽)と。





まさにそのとき,私は次のように言うのだ。


「私が,彼にビリヤードを教えたのだ」,と。









…いや,「ルールを」って意味なんですけどね。

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2005-11-21 17:45:05

中国人プレイヤーとの対決(その8)

テーマ:ビリヤード

次は,私との対戦である。



ここだけの話だが,私は,はっきりいって大人げない。


ここは勝たしてもらう。
手加減なしである。


私は,どんどんポケットしていった。


途中,メカニカル・ブリッジの使い方を教えたり,少年の玉触りに気づかないふりをするなど,細かな気配りをみせながら。



⑧番,⑨番を連続でいれたときは…やっぱ緊張しましたわ。
ちょっとね。


今度は彼も,悪さをしなかった。
たぶん,私の実力に敬意を表したのだろう。うんうん。


きっと少年は,私がビリヤードの武者修行をしたとき感じたように,



「ビリヤードをする男というのは,どうしてこうも寡黙で格好良く,そして男前なのだろう」

と思ったにちがいない。うんうん。



「もっとやる?」


と,私が玉をセットしながら聞くと,彼はペコリとお辞儀をして帰らなければならないことを伝えた。



私は彼に近寄っていくと,唯一知っている中国語を喋った。



「謝謝(シェシェ)。再見(ツァイツェン)。」



そして,手を差し出して握手をした。
彼は,少年らしい,はにかんだ笑みを浮かべ,走り去った。


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2005-11-20 19:53:45

中国人プレイヤーとの対決(その7)

テーマ:ビリヤード

少年はなんと,テーブル上から⑨番ボールを手でつかんで取り上げると,体の後ろに隠してしまったのである。



これには笑った。


私はすっかり愉快になってしまい,わざと怒ったふりをして彼を追い掛け回した。



「こら~!ルール違反だ~!!」



彼はテーブルの周りを走り回って逃げる。
きゃっきゃっと笑いながら。


でも結局,最後は彼もあきらめてボールを元にもどし,カミさんの勝利となった。


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2005-11-18 22:10:58

中国人プレイヤーとの対決(その6)

テーマ:ビリヤード

まあ,そうはいっても,おそらく彼は初めてビリヤードをしたのだろう。
簡単には入るはずもない。


ほとんどの玉はカミさんが入れた。


しかし,途中はどうでもよくて,⑨番のみが勝負を決するのがナインボールの面白いところ。


⑧番を入れたのはカミさんだったが,遠い⑨番を残してしまった。



…入れるんか?


おお~っと,外した。(やっぱり)



少年は?



これまた外した。


結局,カミさんと彼は,⑨番を互いに3回ずつ外しあった。


ある意味,手に汗にぎる展開。



だけど,最後に少年が外した後の配置は,超イージーだった。


⑨番穴前,手玉も近い。
これは楽勝で入る。


全員に「あーあ」という雰囲気が漂った。



…私は少し,少年が可哀相な気がした。


(彼が勝ったら面白かったのにな…)




ところが,彼はまだあきらめていなかったのである。


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2005-11-17 21:59:25

中国人プレイヤーとの対決(その5)

テーマ:ビリヤード

彼は背がちっちゃいので,普通のフォームでは撞けない。
台が高すぎるのである。
だけど,玉を狙う目つきは真剣だ。


全然入らないのだが,カミさんもやりにくいのか,これまた全然入らない。


すごーく展開の遅い試合なのだが,観ていてとても面白い。


少年が夢中になってやっているのと,カミさんが「負けたらどうしよう」と思っているのがわかるからである。



と,少年がファールをした。


私は,出て行って手玉を持ちながら説明をした。


「この場合は,好きなところに置けるのだ」



すると,今度はカミさんがファールをした。


彼は,しっかり学習していた。
さっきカミさんがフリーボールで始めたのを見ていたのだ。
走って手玉をとりにいくと,どこに置こうか考え始めた。



「這#個$?…刹@個&?」



さっきまでは黙って撞いていたが,調子がでてきたらしく中国語(たぶん)の独り言が出始めた。


テーブルの中央付近にある的球を,左右どちらのサイドポケットに入れるか悩んでいるのだ。

彼はせわしなく動いて,はじめに置いた側と反対側の位置に手玉を置くと,自分は走って撞く位置に移動した。



ポケットイン。



「球次何処?」



ノッてきた。
ノッてきたぞ。


やばいぞ,カミさん。


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2005-11-16 21:30:39

中国人プレイヤーとの対決(その4)

テーマ:ビリヤード

カミさんと,小さな中国人プレイヤーとの試合が始まった。



私は座って観戦である。


あ,その前にルールを説明した。
エイトボールは説明がややこしいので,ナインボール。



「まず①番で,次が②番。順番に落とす」


もちろん日本語で,手振りを交えて説明していく。



「そして⑨番をね…」


ここで,私は⑨番ボールを手で高く差し上げて,本当にポケットに落とし,ガッツポーズをした。



「入れれば勝ち。OK?」


彼は,こくこくと頷いた。



(ほんまに理解したんか?)


と思ったが,まあいい。


試合開始である。


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2005-11-15 23:15:10

中国人プレイヤーとの対決(その3)

テーマ:ビリヤード

バーとビリヤードスペースの境い目に立って,じっと私達を眺めていた人物,それは少年であった。



小学校の低学年くらいであろうか。



ビリヤードスペースにいたのは私達だけで,彼は本当にじぃっと私達をみていた。


私はちょっと思案した後,手招きして彼を呼んだ。



「一緒にやろうか?」


「…可不可以%@*√?」


(う,日本人じゃなかったのか…)



そこで私は,私のキューを少年に渡し,彼とカミさんとを交互に指差した。
カミさんが相手するよ,の意である。



少年は理解したらしく,顔を輝かせた。


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