『狼よ、故郷を見よ』 平井和正 | たまらなく孤独で、熱い街

『狼よ、故郷を見よ』 平井和正

狼よ、故郷を見よ 平井 和正
狼よ、故郷を見よ
(角川文庫)
初版:1984年5月10日
注)表紙はハルキ文庫のものです。
「地底の狼男」
「狼よ、故郷を見よ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平井和正は一時(と言ってもかなり昔)大人気でしたね。
なんつってもウルフガイ・シリーズ。
これは2パターンありまして、高校生の犬神明が主人公のヤング・ウルフガイ。
ルポライターの犬神明を主人公にしたアダルト・ウルフガイ。
触れただけで鮮血が噴き出そうなほどナイーブな高校生の犬神明も痛々しかったですが、私は女好きで飄々としている大人の犬神明が好きでした。
そうは言え、能天気ばかりではありませんがね。
トラブルに首を突っ込む、あるいはトラブルが向こうからやってくるのは共通してます。
犬神明はウルフガイというだけあって、満月になると超人的な強固な体にパワーアップします。
 
ウルフガイ・シリーズは結構版元が変わってましたが、シリーズの途中から作者の意識が変化したのか“精神世界”に入り込んでしまい、読むのがしんどくなった記憶があります。
これは“精神世界”に侵される前のアダルト・ウルフガイ・シリーズの『狼男だよ』に続く第2作です。
 
ある事件をきっかけにCIAに追われまくりの犬神明。
北海道でも容赦なく大口径ライフル弾をお見舞いして来る。
紀州、大峰山中に神聖な犬神の里があった。
そこは犬神明の母の故郷であり、犬神明本人にとっても魂の故郷であった。
しかし、里に行っても犬神衆の影はない。
彼らはどこへ去ってしまったのか。
またしても、犬神の衆は犬神明を拒絶したのか。
魂の故郷を喪失した彼の悲しみは深い。
そして、そこで運命の女“たか”に出会った。
生涯唯一“妻”と呼ぶ女に。
“たか”との逃避行と反撃、そして結末はもう涙無くして読めません。
今回、再読しましたが、またも・・・・・・。
ある意味、この作品がウルフガイ・シリーズのターニング・ポイントだったかも。
 
この“たか”の存在が大きいのでしょうか、並みのハードボイルド以上に荒っぽい内容ですが、読み終えたあとはなんていうか“静謐”なイメージに反転します。
そう、筒井康隆の『七瀬ふたたび』 にも感じたような・・・・・。
そうそう、平井和正の本は“あとがき”がやたらと長かったのも好きでしたね。