顕微授精の適応について
顕微授精は普通の体外受精で受精しない場合に用いられる方法です。どういうケースが適応になるか具体的に考えてみます。
①乏精子症
源精液を調整して、運動性良好精子を回収した後の最終運動精子濃度が20万/ml以下の場合には受精しない可能性が高いため顕微授精を選択します。
②前回の体外受精での受精障害
体外受精で全滅する可能性は10~20%と言われています。そして2回目にも再び受精障害になるケースは40%と言われています。
そのため前回の体外受精で受精率が極端に悪い場合には次回は顕微授精を選択します。
③不動精子のみ
全ての精子が動いていないケースです。(ちなみに、この全てが死滅している場合を死滅精子症と呼びます。)当然動いていなければ自然受精はできないため顕微授精を選択します。
この際に精子が生きているかどうかを判定する方法がHOSTテストと呼ばれている物です。精子を低浸透圧溶液に置き、尻尾が膨らむものが生きている精子、尻尾に変化がないものが死んでいる精子となります。
④奇形精子症
奇形精子症では受精障害になります。クルーガーテスト(精子の形態を評価するテスト)において形態が正常な精子の割合が4%未満であれば異常となり、受精率も有意に低下している事がわかっています。そのためクルーガーテストで正常形態率が4%未満の場合は顕微授精を行います。
上記のケースは全て「顕微授精の適応がある」と考えられます。
それでは以下のケースはどうでしょうか?
①「精液所見は問題ないけれど、受精するかどうか不安だから顕微授精を行う」
論文によるとこの場合は体外受精と顕微授精は同じ受精率を示しています。そのため不安という理由は顕微授精の適応にはならないと考えられます。
②「精液所見は問題ないけれど、卵が1個しかないから顕微授精にする」
「卵が1個しかないからより受精しやすい顕微授精の方が良いのでは?」、、このように考える気持ちは分からなくもないです。ただ実際に論文を見てみると、卵が1個しかない場合は体外受精でも顕微受精でも受精率はほぼ同じくなっています。そのため1個しかないから顕微授精を選ぶという根拠はありません。
③「精液所見は問題ないけれど、高齢の卵だから顕微授精にする」
女性の年齢が高齢になると卵側に受精障害の原因がありそうなので一見すると顕微授精が良さそうですが、論文によると体外受精でも顕微受精でも受精率は変わらないと報告されています。そのため女性が高齢というのは顕微授精の適応にはなりません。
以上をまとめると、顕微受精は精子側に問題がある時にはとても有効な手段と言えますが、それ以外の場合には受精率は有意差が無いため、しっかりとその適応を守る事が大切と言えます。